2024年2月21日水曜日

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積 【連載第六回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積【連載第六回】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

2024・02・23 最終更新 22:42

【はじめに】ガザ虐殺戦争弾劾! イスラエルで起こる「停戦と総選挙」を要求するデモに連帯を!

ガザ地区の保健当局は2月18日、ガザ南部のハンユニスにあるナセル病院が機能停止したと発表した。イスラエル軍は病院職員70人を逮捕。この中には集中治療を担当する医師も含まれている。重篤者の治療が不可能になったということだ。その結果、医療従事者は25人に。電気も遮断され、酸素不足で患者8人が死亡したと発表した。患者は約200人いるとされるが、イスラエル軍は病院への立ち入りを認めておらず、救急移送は無理な状態が続いている。2月17日の時点で、パレスチナ側の戦闘による死者は、2万8858人にのぼっている。

 まさに、万死に値するイスラエルのファシストの蛮行を絶対に許すな!

 こうしたガザ虐殺戦争が続く中、イスラエル国内においても、「停戦」をもとめ、「総選挙」を要求するデモが、起きている。2月17日、イスラエル各地で「人質即時解放」「ハマスによる奇襲を防げなかったネタニヤフ退陣」、そのための「総選挙」を求める集会デモが行われた。「フリー(Free) イスラエル フローム(From) ネタニヤフ」などをスローガンに、数千人の人々が参加したとの報道だ。だがこの日、記者会見でネタニヤフは「総選挙」を否認。「選挙は国を分裂させる」として、選挙のない戦争の継続を表明した。まさに独裁者の手法だ。

 こうした中で合衆国は、国連安保理において、「即時停戦」などの「停戦」決議に次々と「拒否権」を行使している。そして、イスラエルに「兵器供与」を検討しているという報道がある。ウオール・ストリート・ジャーナルが、2月16日に報道したものだ(「ARAB NEWS Japan」2024年2月18日12:12:26の記事による)。

 バイデン政権は、武器供与案に金額で数千万ドルと推定される武器を供与をけんとうしているという。その武器の中には、MK-82爆弾、KMU-572統合直接攻撃弾、FMU-139爆弾信管がふくまれるという。例えば、統合直接攻撃弾(JDam)は、無誘導の自由落下爆弾の機能を向上させるための追加キットのことだ。このキットの開発のポイントは次の様である。従来の誘導爆弾は、レーザーや赤外線画像によって外部から誘導されたものだった。だが、これは、地上の気象条件によって運用に制約があった。これに対し、爆弾の投下後、外部からの誘導を必要としない技術開発が課題となった。それに応えたのが「INS」(慣性誘導システム)と「GPS」(グローバル・ポジショニング・システム)という誘導制御ユニットだけで目標地点に落下させるようにしたものだ。(※このキットは、2023年、ウクライナにも供与されたといわれている)。 そのような爆弾の目標投下の精度をあげる兵器を、ガザ虐殺戦争に供与しようと画策しているのである。

 こうして、「2国家共存」、カタールなどを仲介者とした「停戦交渉」を唱えつつ、一方で、イスラエルのガザ虐殺戦争に加担しているのが、合衆国の権力者たちにほかならない。そして、ここには、以下にみる、莫大な経済権益をめぐるパレスチナ側、イスラエル側の両勢力を取り巻く、経済的対立があり、合衆国がそれにどのようにかかわるか、切こめるかの、分析・見通しにおける、諸勢力の力学を見通した判断があり、どちらか一方に無制限に肩入れすることが許されない、帝国主義権力の思惑が潜んでいるのだ。

■虐殺戦争の裏側で――ガザ沖合ガス田開発のこれまでの経過

 イスラエル政府・ネタニヤフは、ガザ虐殺戦争の開始と同時に、ガザ沖合の天然ガス、石油を開発する許可を、英国のBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)など6企業に許可した。これが強奪・強盗行為なのは明らかだ。

 これは、「ガザ・マリン」といわれるところで、パレスチナ支配海域だ。1999年に探査を開始し2000年に発見された。「ガザマリン1」「ガザマリン2」と二度発見され、合わせて天然ガスの埋蔵量は推定360億立法メートルとされる(これらは、初期値だ)。これが開発されれば、数千億ドルの財源を確保することになるといわれている。だが、まだ、開発は手つかずのままだ。イスラエルの反対・妨害によるものだ。例えば1999年、ブリティッシュガスグループ(BGグループ)などの間でガス探査とガス田開発のための契約(25年間)が締結されたが、2016年、BGグループは撤退するなどとなっている。この当時の状況をもう少し見て行こう。

■イスラエルによるガザマリン封鎖と対パレスチナ政策

 1999年、パレスチナ自治政府は、BGグループとアラブのCCC(Consolidated Contractors Company)に、探査と採掘の権利を与え、2000年に天然ガスが埋蔵されている地層を発見した。これ以降、BGがガス田の開発に着手するが、イスラエルが介入し、海軍などを出動させて、BGの事業を妨害しはじめる。

 2007年、ハマスのガザ統治が確固となった時期、イスラエルは、ガザマリンを軍事封鎖する。2008年にはイスラエルは「ガザマリンはイスラエル領だ」と宣言(天然ガス田の合法的な管理は国家にのみ認められた権利で、パレスチナ自治政府は主権国家ではないというのが、イスラエルの一貫した論法だ。ここにも「二国家共存」というオスロ合意での規定の否定が表明されている)。これによってBGグループは、ガザマリンから撤退し、そのあとで事業を始めたシェルも、事業に失敗した。イスラエルはガザマリンの軍事封鎖を続け、天然ガス開発を凍結する。2008年12月~2009年1月にかけてイスラエルのパレスチナに対する軍事侵攻が展開し、ガザに対するアパルトヘイト政策を始めるが、それは、このガザ沖合開発と一体のものである。

 だが2021年には、パレスチナ当局者とエジプトとの間でガス田開発の覚書が交わされている。まさにこの海域は、パレスチナ自治区の海域であり、イスラエルにこの海域を差配する権限などない。にもかかわらず、イスラエルは、今回、BPなど国際企業6社に開発許可を交付するという強盗でしかありえない、所業に出ているのである。また、イスラエルは、スエズ運河に代わる運河をガザ地区経由で建設する計画も進めているという。

 イスラエルは2023年の6月の段階では、「安全保障の観点から、パレスチナの開発を容認する」(パレスチナが潤えば、イスラエルを攻撃しないなどという言い草だ)として、共同開発を提案していた。この事態は、ロシアのウクライナ侵略戦争で、ロシアに対する経済制裁をはじめとして、世界的にエネルギー供給の不足が生じてきたことに対するべく、カイロにおいて、イスラエル、合衆国、パレスチナ自治政府、エジプトや産油国による首脳会談がおこなわれたことに、象徴される事態がバックボーンとしてある。

 実際、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の両者の間で、協議がもたれていた。エジプト、ヨルダンがこの協議には参加している。収益は、パレスチナ投資基金(PIF)ーパレスチナ自治政府、パレスチナ人経営のCCC、エジプトの天然ガスホールディング株式会社(EGAS)などで分配される計画となっていた。だがもっと本質的なことは、この共同開発は、イスラエル政府自身の「タマル」「リヴァイアサン」といったガス田との連接・イスラエルによる「ガザマリン」の管理・運営などに関わる契約だったことだ(これは例えば、前出にある、かつて21世紀初頭に成立したBGとパレスチナ自治政府との契約に介入したとき以降のイスラエル政府の「権益」の主張にほかならない)。

 この場合、最終的な計画開始のポイントは、通常の了解事項として、ガザの政府権者であるハマスの承認を得ることが前提だとなっていた。これがイスラエル権力者たちにとって障害となっていたことは間違いない。パレスチナ海域の権益を専制的に強奪・支配しようとするイスラエル国家権力は、このハマスの権力を破壊する機会をねらっていたのだ。それが今回のガザ虐殺戦争で、明白になったということだ。 

 まさにイスラエルは、ガザからパレスチナ人を追放し、パレスチナの行政権を破壊して、ガザを手に入れることで、こうした天然ガス・石油資源の主権的権益を主張することが可能となることを画策しているのだ。

(※ この東地中海の地域は、イスラエル、エジプト、米石油会社など、いろいろな利害をもつ単位での駆け引きがあり、それを前提としたガスパイプラインが、地中海諸国に走っている。だがその分析は、本論では、行わないものとする。★★ただし、イスラエルが自身のパイプライン(例えば「タマル」「リヴァイアサン」などのガス田関係)にガザのガス田などを連接したい欲望をもってきたことは、前提だ)。

■「資本蓄積」とガザ虐殺戦争

    2024年1月29日、エルサレムでは、イスラエルの極右勢力やリクードなど与党が、集会を開催。「入植が安全をもたらす」と主張するものとなった。国家安全保障相のベングビールは「10・7を繰り返させないためにはガザを支配しないといけない」と発言。リクードの指導者も入植をアピールしたという。こうして、リクードが、2005年当時のイスラエル政権が、ガザから入植者を撤退させたことを批判したそのことが、現在、再度の入植侵略策動として、行われているのだ。

 こうして、ガザを侵略し、パレスチナ人をシナイ半島に追放して、ガザを支配することでイスラエルは、自己の直接保持する領地・領域と権益を拡大しようとしている。

★★ここで、「資本蓄積」の話を介入させよう★★。

資本蓄積とは、ザックリ言って、剰余価値の一部を資本に転化して生産規模を拡大することを意味する。だが、これは「商品生産を拡大する」ことにとどまらず、まず、そもそも商品と市場を拡大再生産する、資本設備そのものを形成・拡大することでなければならない。イスラエルからの「入植」やガス田開発・石油田開発は、この資本設備に属する概念だ。

 これとは区別されたもう一つの「蓄積」概念に、「本源的蓄積(原始的蓄積)」概念がある。これは、マルクスの「資本論」では次のようにいわれているものだ。

 「資本関係は、労働者と労働実現条件の所有との分離を前提する。……すなわち一方では社会の生活手段と生産資本を資本に転化させ他方では直接生産者を賃金労働者に転化させる過程以外のなにものでもありえないのである。つまり、いわゆる本源的蓄積は、生産者と生産手段との歴史的分離過程にほかならないのである」(『資本論』第一巻第24章「いわゆる本源的蓄積」、マルクス・エンゲルス全集23bより。翻訳者・岡崎次郎)。まさにこれが、ブルジョアジーとプロレタリアートの階級的産出についての根源的な事態である。

 だがこれは、近代資本主義の発生点だけではなく、恐慌・戦争・植民地支配などの度に、どこでも、起こってきたことなのだ。つまり★★この「本源的蓄積」を「人口移動」「人口構成の質的変化」という文脈で、翻訳した場合★★、それは、近代資本主義の発生点での出来事とは言えない問題となるということだ。

 前回【連載第五回】に論述したような、パレスチナ人がシナイ半島に追放され、そこで、イスラエルの諜報省の「追放計画」にあるようなパレスチナ人の町ができ、また「避難民」を「移民」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアなどが、迎え入れるなら、それは、間違いなく、あらたな「国際プロレタリアート」が、百万人規模で、産出されたことを、★★資本主義としては★★意味するものとなるだろう。

 こうして、ガザ虐殺戦争は、その裏側で、暴力的・強盗的「資本蓄積」と、それに内包された「本源的蓄積」をともなう、ものすごい戦争事態となっているのである。

 ★★そして、合衆国の権力者たちは、この「資本蓄積」のすべての過程に対して、もっとも、自分たち、合衆国ブルジョアジーの権益が生まれるベクトルを選択ないしは創造しようとしているのだ★★。

 2月20日、合衆国はまたしても、国連安保理での「人道停戦決議」に対し、「停戦交渉を阻害する」などという詭弁をもって、「拒否権」(常任理事国権限)を行使した。賛否については理事国15か国の内、日本、フランスなど13か国は賛成、常任理事国のイギリスは「棄権」(常任理事国での権限の行使は、その提案を完全に支持することはできないが、拒否権によって阻止することまではしないという場合の権限)、反対(拒否権)は合衆国ということだ。(つづく)

★次回 ネタニヤフ「ハマス後の原則」(2024・2・22発表)について