2023年2月28日火曜日

日米安保軍の単一軍化をめざす日米IAMD構想(――「反撃能力」の概念と安保三文書)に関するノート     渋谷要

 




日米安保軍の単一軍化をめざす日米IAMD構想(——「反撃能力」の概念と安保三文書)に関するノート     渋谷要

最終更新 2023・03・02.21:25

 

はじめに

 現在(2023・03・02)、国会では安保・防衛費予算の質疑で、「反撃能力」なるものをめぐる、質疑が、交わされている。それ自体は、悪いことではない。だが、そもそも、「反撃能力」とは何なのか? それは、どういう位置づけのものなのか。誰が何のために、用いようとしているのか。そこが、中心にならなければいけない。それは、結論から言えば「日米IAMD(統合防空ミサイル防衛)」というもので、アメリカが、米のインド・太平洋軍を中心に日本をはじめ同盟国と中国包囲の単一の司令部をもつ作戦体系を作り出そうしていることに起因している問題だ。米軍はハワイの司令部に2014年「太平洋IAMDセンター」を設置している。日本が「反撃能力」を保有するという「安保三文書」の要点の一つも、この作戦体系とそのもとでの、日米軍事一体化(これまでの単なる連合化ではない)ということの象徴的一課題としてあることなのである。

(※ 「IAMD」については、今国会の質疑では、日本共産党や立憲民主党などの質疑で、記録されている)
――――

  日本帝国主義は、ウクライナ戦争から波動的に開始された、東アジアにおけるロシアの脅威に関する懸念を、中国・朝鮮と同様の脅威とみなしつつ、自国軍拡の展開を着々と進めている。それは、反戦平和・反ファシズムの観点からも、絶対に阻止しなければならないものである。

東アジアにおいては、<米日―対―中・ロ・朝鮮>の相互の軍拡競争に対する、反戦平和の国際連帯の課題が不可欠だ。とりわけ、日本においては、日本帝国主義の米軍と一体化した軍拡がすすんでいる。そして沖縄―南西諸島の軍事基地建設などが、中・台の軍事緊張を高めている。このことをストップさせなければならない。 

以下に述べるように日本政府は、東アジアの軍事緊張の方向に飛躍的にシフトしようとしている。それは、日米安保軍(連合軍)を、日米単一軍化しようとする「日米IAMD(統合防空ミサイル防衛)」の形成・構築として進められているものにほかならない。

その場合、本論が指摘する<日米安保軍の単一軍化>とは、一言で言えば、後述すように、「日米IAMD」が、単に装備の一体化だけでなく、日米両軍における情報の把握の共有と、例えば各種の攻撃指令など、攻撃方法の選定などでの、米国のミサイル防空システムなどとの機構的一体化が課題となっているからである。日米両軍の、集団的自衛権の行使を部隊間の連携——情報・通信・司令面での一体化として展開してゆこうとしているからだ。だからそれは、「集団的自衛権」の行使が、このシステムの中心にある設計思想であり、しかもそれは、単一の指揮・指令システムの下に軍が動くことを前提としたものだということにほかならない。

だから「反撃能力(敵基地攻撃能力)」それ自体は、アメリカ帝国主義の推し進めているIAMD(統合防空ミサイル防衛)戦略に対応した戦略的シフトを、日本が構築するという戦略的な態勢の構築の一部分にすぎないのだ。

そこで「安保三文書」の書き換え(202212月)と、そこにおける攻撃型軍事機能の新設、いわゆる「反撃能力」の保持等々の課題を表明しているということだ。そしてそのあらたな態勢にともなう自衛隊の部隊の新編成がめざれているのである。これらに多額の国費を投入しようとしているのだ。

同時に、まさにそのことは、2015年安保法制制定における「集団的自衛権」の確認と整備を基本としている。この「集団的自衛権」(攻守同盟)の確立(文末「資料①」参照)なくして、「日米IAMD」などの日米単一軍化などありえなかった。

また他方では、国連の「敵国条項」(文末「資料②」参照)では、「(旧)敵国」(旧枢軸国の日本・ドイツなど)が、国際連合の秩序に違反しそれを破壊しようとする軍事行動にでたときは、連合国諸国は、国連安保理の承認なしで、軍事的反撃をおこなうことができるなどの条項がある。この条項は国連の全体会議(1995年国連総会)では「死文化」といことが採決されたものの、国連の三分二の国が自国で批准しないと死文化は成立しない。その確認はいまだに確認できていない。

 だから日本が「反撃能力」の資格・権利を確保するためには、合衆国をはじめとする日本の同盟国がその「反撃能力」を承認するという段取りが必要であったと考えられる。例えば安保理常任理事国のロシアなどは、この「敵国条項」は死文化してはいないとの立場を強調している(以上について詳しくは「文末(資料②)」を参照せよ)。
 
 このため日本が、中ロ・朝鮮などとの間の軍事紛争で、交戦する場合、この「敵国条項」で、日本が安保理の決定なしに、軍事攻撃を受ける可能性がある。例えば日米の「集団的自衛権」の行使などとの関係からも、日本の「反撃能力」(交戦能力といっていい)の確認を、日本の同盟国との相互の確認として、とりつける課題があったと考えられる。

(※本論著者(渋谷)は革命的左翼の立場として、ロシアの権力者・クレムリンとは対立する立場だが、客観的事実として「死文化」はしていないと考えるものである)。

「敵国条項の死文化」ー「反撃能力」(交戦能力といっていい)の保持ー「憲法九条(戦力不保持・交戦権否認)の改定・改悪」は、相互に関連・共通した意味をもつものだ。

本論ではそういう脈絡での、以上の諸点にわたり論点を確認しつつ、日本版IAMDの方針書である安保三文書の内容を見てゆくことにしよう。

 

●第1節 安保三文書(1)――「国家安全保障戦略」における「反撃能力」の登場

 

三文書の内、当該文書の策定趣旨、位置づけと戦略的枠組みを示すものが「国家安全保障戦略」だ。次のような状況分析から始まっている。

「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた。同様の深刻な事態が、将来、インド 太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない。国際社会では、インド太平洋地域を中心に、歴史的なパワーバランスの変化が 生じている」。

「また、我が国周辺では、核・ミサイル戦力を含む軍備増強が急速に進展し、力による一方的な現状変更の圧力が高まっている。そして、領域をめぐるグレーゾーン事態、民間の重要インフラ等への国境を越えたサイバー攻撃、偽情報の拡散等を通じた情報戦等が恒常的に生起し、有事と平時の境目はますます曖昧になってきている」などとして、危機管理の在り方が変化してきていると表明している。

「我が国の平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄を含む我が国の国益を守っていかなければならない。そのために、我が国はまず、我が国に望ましい安全保障環境を能動的に創出するための力強い外交を展開する。そして、自分の国は自分で守り抜ける防衛力を持つことは、そのような外交の地歩を固める ものとなる。 こうした目標を達成するためには、地政学的競争、地球規模課題への対応等、対立と協力が複雑に絡み合う国際関係全体を俯瞰し、外交力・防衛力・ 経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を最大限活用して、国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略が必要である」。

 

 「本戦略は、外交、防衛、経済安全保障、技術、サイバー、海洋、宇宙、情報、 政府開発援助(ODA)、エネルギー等の我が国の安全保障に関連する分野 の諸政策に戦略的な指針を与えるものである」。

 

2013 年に我が国初の国家安全保障戦略(平成 25 12 17 日国家安全保 障会議決定及び閣議決定)が策定され、我が国は、国際協調を旨とする積極 的平和主義の下での平和安全法制の制定等により、安全保障上の事態に切れ 目なく対応できる枠組みを整えた。本戦略に基づく戦略的な指針と施策は、 その枠組みに基づき、我が国の安全保障に関する基本的な原則を維持しつつ、戦後の我が国の安全保障政策を実践面から大きく転換するものである。 同時に、国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」。

 として、国民が自分のこととして、「国防」に積極的にコミットすることをアピールしている。

これらを踏まえて、「⑵ 我が国の防衛体制の強化」の項目が始まる。

 

「我が国の 防衛力は、科学技術の進展等に伴う新しい戦い方にも対応できるものでなくてはならない。 このような視点に立ち、宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・ 海・空の領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により自衛隊の全体の能力を増幅させる領域横断作戦能力に加え、侵攻部隊に対し、その脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力等により、 重層的に対処する」。

※「スタンド・オフ」=「長射程」。

とくに「スタンド・オフ防衛能力」を活用した「反撃能力」が、ここでのポイントだ。

「我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、スタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力である。近年、我が国周辺では、極超音速兵器等のミサイル関連技術と飽和攻撃など実戦的なミサイル運用能力が飛躍的に向上し、質・量ともにミサイル戦力が著しく増強される中、 ミサイルの発射も繰り返されており、我が国へのミサイル攻撃が現実の脅威となっている。こうした中、今後も、変則的な軌道で飛翔する ミサイル等に対応し得る技術開発を行うなど、ミサイル防衛能力を質・量ともに不断に強化していく。 しかしながら、弾道ミサイル防衛という手段だけに依拠し続けた場合、今後、この脅威に対し、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応 することは難しくなりつつある」。

「このため、相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある」。

 

そして、「反撃能力」の位置づけを次のように述べている。

 

「この反撃能力とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう」とされるものだ。

 

(この場合の「武力の行使の三要件」とは、「①我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」(20147月閣議決定)を示している)。

 

「こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく」としている。

 

「この反撃能力については、1956 年2月 29 日に政府見解として、憲法上、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としたものの、これまで政策判断として保有 することとしてこなかった能力に当たるものである」。

「この政府見解は、2015 年の平和安全法制に際して示された武力の行使の三要件の下で行われる自衛の措置にもそのまま当てはまるものであり、今般保有することとする能力は、この考え方の下で上記三要件を満たす場合に行使し得るものである。 この反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を 変更するものではなく、武力の行使の三要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されないことはいうまでもない」。

だが、それは「専守防衛」を破壊する内実をもつものではないのか。次節では米IAMDとのかかわりで、この点を考えて行こう。

 

さらに「反撃能力」の保有においての日米連携の在り方がしめされている。

「また、日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする」。 「さらに、有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含め、 自衛隊と海上保安庁との連携・協力を不断に強化する。 また、政府横断的な連携を図る形での自衛隊のアセットを活用した 柔軟に選択される抑止措置(FDO)等を実施する」として、自衛隊外機関との連携などがかだいにあげられている。

「現下の我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえれば、我が国の防衛力の抜本的強化は、速やかに実現していく必要がある。具体的には、本戦略策定から5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する」。

また「財源についてしっかりした措置を講じ、 これを安定的に確保していく。 このように、必要とされる防衛力の内容を積み上げた上で、同盟 国・同志国等との連携を踏まえ、国際比較のための指標も考慮し、我 が国自身の判断として、2027 年度において、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組をあわせ、そのための予算水準が現在の国内総生産 (GDP)の2%に達するよう、所要の措置を講ずる」というものだ。

 

 

第2節 IAMD(統合防空ミサイル防衛)―日本における「EOR」と安保三文書―「反撃能力」の明示の意味

 

●米軍の「ミサイル迎撃」態勢とIAMD

このような「国家安全保障」の文書を内容的位置づけとした安保三文書を分析するにあたって、まずこの文書が、大きく、米のIAMD戦略に対応し、その一部となる目的をもつと言う基調をもつものであることを確認する必要がある。

IAMDは米帝がすすめる防衛構想だ。弾道ミサイルや航空機・無人機などの攻撃に対して、イージス艦・早期警戒機・地上配備レーダーなどでも情報を集約し敵の攻撃を阻止しようとするものである。ポイントは、IAMDでは「迎撃」に特化させない「攻勢作戦」を明示するところだ。そういう攻撃型の軍事同盟をつくりあげるのが、米帝の目的だ。IAMDは敵国からのミサイル攻撃を未然に防止する目的で、敵基地・軍事施設や指揮統制機能を攻撃する「攻勢作戦」(米統合作戦本部JCSの規定)として定義している。その目的は「中国包囲網」の形成であり、日米をはじめとする同盟国の指揮統制・情報処理などを中軸とした軍事一体化にほかならない。米帝はこうした態勢を2030年前後までに構築しようとしている。

 

IAMDの概念――「防衛研究所紀要」論考●

 

ここで防衛研究所の専門家の、IAMDに関する解説を聞こう。IAMDは、日本の国会では安保三文書の書き換え=「反撃能力」の賛否・位置づけなどをめぐり、初めて国会質疑の中で、登場したようだが、すでに、201712月『防衛研究所紀要』(20巻第1号)で、まとまった論文が発表されている。「米国におけるIAMD(統合防空ミサイル防衛)に関する取り組み」(有江浩一、山口尚彦)である。有江氏は「2等陸佐 理論研究部政治・法制研究室所員」、山口氏は「1等陸佐 東北方面総監部監察官」と、記されている。

 

まず、当論文の「要旨」がのべられている。

「〈要旨〉 近年の航空・ミサイル脅威の量的・質的増大に鑑み、米国は IAMD(統合防空ミサイル防衛)構想のもと、自国及び同盟国・友好国に対する航空・ミサイル攻撃を抑止 あるいはこれに対処する取組みを進めている。IAMD は、弾道ミサイル、巡航ミサイ ル、有人・無人航空機、短射程のロケット弾や野戦砲弾・迫撃砲弾による攻撃を含む あらゆる航空・ミサイル脅威に対して、攻撃作戦、積極防衛、消極防衛を C2(指揮統 制)システムによって一体化させた方策を追求するものである。ただし、IAMD 構想 には未知数な部分も多く、米軍内では同構想を巡って様々な議論がなされており、米軍が開発中の IAMD 装備体系も日進月歩の状況にある。また、IAMD を進めるに当たっては、米軍の能力を統合する必要があるのみならず、米国の同盟国・友好国との連携 が必要となる。わが国としても、米国における IAMD に関する取組みを参考としつつ、 自衛隊の防空作戦と弾道ミサイル防衛を一体化させる努力を続けていく必要があろう」。

そこで、IAMD構想の概念が紹介される。

「1.       米国の IAMD 構想 (1)IAMD の概念とその背景

ア 概念  IAMD の概念は、2017 4 月改訂の米軍統合文書 JP 3-01『対航空・ミサイル脅威』 (Countering Air and Missile Threats)において定式化されている。それによると、IAMDは「対 航空(counterair)」の諸作戦をグローバルミサイル防衛、米本土防衛、グローバル攻撃 (global strike)及びロケット弾・野戦砲弾・迫撃砲弾への対応策と同調させるアプロー チである」。

「ここで、「対航空」とは戦域レベルの基本的枠組み(foundational framework at the theater level)であり、敵の航空機やミサイルを離陸・発射の前後において無力化または破壊する攻防両面の作戦を統合した概念である。その目的は、統合部隊指揮官が 所望する程度の制空(control of the air)及び防護(protection)を達成し維持することにある」。

「「対航空」の諸作戦は攻勢対航空(offensive counterair: OCA)と防勢対航空(defensive counterair: DCA)に大きく区分され、その手段としては航空機、地対地・地対空ミサイル、 野戦砲兵、地上部隊、特殊作戦、宇宙作戦、サイバー戦、電子戦が用いられる」 。

IAMD の諸作戦は、これらの「対航空」作戦と密接に連携して行われる。まず、戦域レベルにおける IAMD 作戦は DCA を主体とし、OCA がこれを支援する形で遂行される。また、戦域レベルを超える IAMD 作戦では「対航空」作戦とグローバルミサイル防衛、本土防衛、グローバル攻撃との一体化が強調される」。

「このうち、グローバルミサイル防衛については米戦略軍司令官(Commander, United States Strategic Command: CDRUSSTRATCOM)が各地域別統合軍と協同しつつ全般の計画を調整することとされている。また、グローバルミサイル防衛を支えるシステムとして「指揮・統制・戦闘 管理及び通信(Command, Control, Battle Management and Communications: C2BMC)」がある。 JP 3-01 は、IAMD を「敵の航空・ミサイル能力から悪影響を及ぼし得る力を無効に することにより、米本土と米国の国益を防衛し、統合部隊を防護し、行動の自由を可…… 能にするために行う諸能力と重層的な諸作戦の統合」と定義している」。

「ここにいう「重層的な諸作戦」は次の3つに大きく区分される:

①敵の航空・ミサイル攻撃を未然に防止する(prevent

②攻撃発起後の敵の航空機及びミサイルを破壊する(defeat

③攻撃を受けた場合、友軍の作戦への影響を最小にする(minimize) このうち、①は敵の策源地に対する攻撃作戦であり、left of launch 作戦とも呼称される。 ②は防空作戦やミサイル防衛などの積極防衛(active defense)に相当し、right of launch作戦とも言う。③は偽装や抗たん化などによって被害を局限するための消極防衛(passive defense)を指す」。

「また、IAMD の定義にある「諸能力」は、上記の各作戦において用いられる全ての軍事能力を含むものであり、要撃戦闘機や迎撃ミサイルなどの運動性 (kinetic)兵器はもとより、サイバー戦、指向性エネルギー、電子戦などの非運動性(nonkinetic)兵器も該当する」 。

 以上で、ただ一つだけ、「安保3文書」との関連で、ポイントをとりあげるとすれば、「敵の航空・ミサイルを未然に防止する――敵の策源地に対する攻撃作戦」ということであり、それは「対航空」作戦――攻勢対航空(OCA)と防勢対空港(DCA)という攻防の両面での作戦として組織され、DCAが主力でありOCAがこれを支援する形で遂行される、これがIAMDの基本形だということである。それは「敵の航空機やミサイルを離陸・発射の前後において無力化または破壊する攻防両面の作戦を統合した概念」だということ。また、「その目的は、統合部隊指揮官が 所望する程度の制空(control of the air)及び防護(protection)を達成し維持することにある」ということだ。

以上が、考え方であるが、敵が「航空機やミサイルを発射する前後において」というところ、注目しよう。この敵が攻撃をしかけてくる「前後において」敵の攻撃を「無力化・破壊」するということ、ここに「反撃能力」のポイントがあるということだ。

 

●米軍のミサイル防衛システム●

以上を踏まえつつ、ここで米軍のミサイル防衛(迎撃)のシステムを見ていこう。

「防衛省・自衛隊」のホームページの「ミサイル防衛について」では、米帝の「ミサイル防衛」のシステムが紹介されている(20202月現在のもの)。

まず「迎撃」のシステムであるが、その迎撃の在り方が示されている。

   敵国がミサイルを発射→②米軍の早期警戒機が、発射の熱源を探知→③地上配備型・海上配備型・移動型の各種警戒レーダーが目標探知・識別・追尾→④イージス艦、イージス・アショア、及びGBIからの「ミッドコース段階」(弾道ミサイルが大気圏外を飛行している段階―引用者)での迎撃→⑤THAAD(弾道弾迎撃ミサイル)、PAC―3(地対空ミサイル)、による「ターミナル段階」(弾道ミサイルが大気圏に再突入し目標に向かって飛行している最終段階―引用者)での迎撃という流れを基本とした攻防が描かれている。

 

こうしたことを基本とした米軍の「ミサイル防衛網」は「米国や同盟国・友好国のミサイル防衛のため、米軍は14カ国に部隊を展開」しているとある。

日本では「TPY―2レーダー」(Xバンド・レーダー。弾道ミサイルの探知・追尾)を京都府京丹後市(経ケ岬)、青森県に設置。PAC―3一個大隊を沖縄(嘉手納基地)に配備、米軍横須賀基地にはSM―3(艦船発射型の弾道弾迎撃ミサイル)搭載イージス艦を配備などと紹介している。このイージス艦とは、イージス・システム(イージス武器システム:AWS)を搭載するあらゆる艦艇を指す総称だ。2021年現在で、巡洋艦・駆逐艦・フリゲートの三つの艦種に搭載されている。イージス・システムは、遠くの敵機を正確に探知できる索敵能力、迅速に状況を判断・対応できる情報処理能力、一度に多くの目標と交戦できる対空射撃能力を備えるシステムだ。イージス艦は、同時に多数の空中目標を補足し、これらと交戦できる。 

こういう戦闘態勢を基礎にしてIAMDが作動することになる。この態勢では、「敵基地攻撃応力(反撃能力)」も、米軍においてはこれまで、前提として設計されてきている。問題は日本の場合だ。

 

●日本の「ミサイル迎撃」システム——BMDからIAMDへ●

まさにこれまで日本の安保政策においては、「総合ミサイル防空」(日本版弾道ミサイル防衛BMD)という構想が推進されようとしてきた。それは「迎撃」に特化するものだった。「専守防衛」だからだ。イージス艦・地対空誘導弾・ぺトリオット(PAC3)等防空用装備を自動警戒管制システムに接合して運用する。

 

「防衛省・自衛隊」のホームページ(2021年29日更新)では「ミサイル防衛について」の項目に次のように書かれている。

我が国では、ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、2004(平成16)年度からミサイル防衛(MD)システムの整備を開始しました。

イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオット(PAC-3)の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の体制整備を着実に進めています。

自衛隊は、レーダー、人工衛星、航空機、艦艇などによって、今この瞬間も、我が国周辺の警戒監視にあたっています。我が国に飛来する弾道ミサイルに遅滞なく対応するため、JADGE(ジャッジ)と呼ばれる自動警戒管制システムが、全国各地のレーダーがとらえた情報を集約・処理しています。これにより、着弾地点の計算などを自動的に行い、はるか洋上のイージス艦などに瞬時に迎撃を命令することができます」。

 

「日本に向けて弾道ミサイルが発射された場合、これを迎撃するのは、海上自衛隊のイージス艦や航空自衛隊のPAC-3です。イージス艦は弾道ミサイルが大気圏外を飛行している段階(ミッドコース段階)で迎撃する一方で、PAC-3は大気圏に再突入した後の最終段階(ターミナル段階)で迎撃します。現在、イージス艦の能力向上増艦や、能力向上型PAC-3PAC-3MSE)の導入を進めており、さらなるMD体制の強化に取り組んでいます」。

 

さらにEOR射撃の開発ということがポイントとなる。「極超音速兵器などを始めとする新たな脅威が出現している中、防衛省では、センサーやシューターの能力を高めていくほか、(JADGEに集約される――引用者)ネットワークを通じて、ミサイル防衛用の装備品(アセット――引用者)とその他防空のための装備品を一体的に運用する「総合ミサイル防空」強化のための取組みを進めています。こうした取組みが進展すれば、例えば、自らのセンサーで目標を捕捉していなくても、他のセンサーからの情報を用いて迎撃ミサイルを誘導する(Engage on RemoteEOR射撃――引用者)ことが可能となって防護範囲が拡大するなど、防空能力の向上が期待されます」ということだ。(ミサイル防空などで、どのような兵器が増強されるのか、などについては、「安保三文書」の節において後述する)

 

●「日米IAMD」での日米連携●

だが、IAMDとの決定的な違いは、この防空システムが「迎撃」に特化するというところにあった。これに対しIAMDは敵国からのミサイル攻撃を未然に防止する目的で、敵基地・軍事施設や指揮統制機能を攻撃する「攻勢作戦」(米統合作戦本部JCSによる定義)として、敵国に対する打撃力をその位置づけとしてもつ(これが「敵基地攻撃能力」「反撃能力」というものである)。

このIAMDに対し、これまでの「総合ミサイル防空」は、そうした位置づけを含まない位置づけのもとに、設計されてきたのである。つまり、「防衛大綱の改定」などでも、これまで、議論されてきたが、「反撃能力」までは、位置づかなかった。

だが、今回の「安保三文書」では、この「反撃能力」をミサイル防衛に位置づくようにしたということだ。それが「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)といわれるものだ。

米国のIAMDは、宇宙・サイバーなどの手段をもちいた攻撃に対応する態勢をめざしている。IAMDでは、指揮統制システムをもって最適な攻撃手段を選択する。人口知能・高度コンピュータ技術も重要な開発プロジェクトとなってくるだろう。

この場合、ポイントは、「迎撃能力」の発動は、事実上、日米共同作戦となるということだ。

まさにさきに述べたようなJADGEによるネットワークで総合的な攻撃が可能となる態勢が、「反撃能力」の保持で、より強化されるとともに、それは、米軍との一体化した防空ネットワークを整備してゆくということを意味している。

米国製の巡航ミサイル「トマホーク」などの取得を検討すると同時に、単に兵器の一体化だけではなく、情報の把握・攻撃方法の選定などでの、米国のミサイル防空システム(広義)などとの機構的一体化が課題となっているのである。

そもそもこの「反撃能力」の発動は、日本が敵国から攻撃されるいわゆる「武力攻撃事態」のみならず、2015年に制定された「安保法制」において新設された、同盟国が敵国から攻撃され、日本も戦争危機に見舞われる「存立危機事態」に対する「集団的自衛権」の発動も入っている。だから、「反撃能力」は、必然的に米国・米軍と自衛隊の共同作戦を前提とした設計になっていなければならない。

 

本節冒頭で読んだ「防衛研究所紀要」の論文においては「4 防衛省・自衛隊への影響」という節で、「日米同盟においても、現在の日米弾道ミサイル防衛協力を「日米IAMD」に発展させることができれば、わが国に対する弾道ミサイル攻撃のみならず、あらゆる経空脅威の抑止に寄与するものとなることが期待される。この際、中国に日米の意図を誤解させないような配慮が必要であろう」と述べている。

 

まさに「反撃能力」の共有など、こうしたミサイル防衛体制での日米安保軍の一体化は、日米両軍の、集団的自衛権の行使を部隊間の連携や技術面での一体化として、さらに、自衛隊が米軍の一部となってゆくものとして展開してゆくものにほかならない。

2014年、米インド太平洋軍はハワイの司令部に「太平洋IAMDセンター」を設置している。これは「シームレス(切れ目のない融合)」としてアジアでの、米軍と同盟国軍隊の単一軍化をめざす(米空軍「航空宇宙作戦レビュー」(2022年夏号)では米インド太平洋軍「IAMD構想2028」など)ものだ。そして20231月の「日米2プラス2」(日米安全保障協議委員会)の共同発表では、IAMDでの協力を表明しているものである。

この「共同発表」(外務省ホームページ。令和5年1月11日配信の「2プラス2」の「概要」の記事に付されている「共同発表」文の「仮訳」とされているものからの引用―2023・2・17現在)では、次のように述べられている。

「日本は、新たな戦略の下、防衛予算の相当な増額を通じて、反撃能力を含めた防衛力を抜本的に強化するとの決意を改めて表明した。日本はまた、自国の防衛を主体的に実施し、米国や他のパートナーとの協力の下、地域の平和と安定の維持に積極的に関与する上での役割を拡大するとの決意を再確認した。米国は、日本の新たな国家安全保障政策について、同盟の抑止力を強化する重要な進化として、強い支持を表明した。 米国は、より多面的で、より強靱で、そしてより機動的な能力を前方に展開することで、日本を含むインド太平洋における戦力態勢を最適化するとの決意を表明した。日本は、米国の戦力態勢 を最適化する計画を支持し、地域における強固なプレゼンスを維持するとの米国の強いコミットメントを歓迎した」。

まさに、反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間での協力を深化させる、「米国は…日本を含むインド太平洋における戦力態勢を最適化するとの決意を表明視点…日本は、米国の戦力態勢を最適化する計画を支持」したといいうわけだ。まさに、日米IAMDのシフトを強化、米・インド太平洋軍の戦略的IAMD構想を実現してゆくことが話し合われた、ということだ。


第3節 安保三文書(2)「国家防衛戦略」における「スタンド・オフ防衛能力」と「統合防空ミサイル防衛」などの定義と解説

 ●スタンド・オフ防衛能力●

そこでは次のように書かれている。

「Ⅳ 防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力」として、スタンド・オフ防衛能力などがあげられている。

 

「 1 スタンド・オフ防衛能力 東西南北、それぞれ約 3,000 キロに及ぶ我が国領域を守り抜くため、島嶼部を含む我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化する。 まず、我が国への侵攻がどの地域で生起しても、我が国の様々な地点から、重層的にこれらの艦艇や上陸部隊等を阻止・排除できる必要かつ十分な能力を保有する。次に、各種プラットフォームから発射でき、また、高速滑空飛翔や極超音速飛翔といった多様かつ迎撃困難な能力を強化する」。

 

「このため、2027 年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含めスタンド・オフ・ ミサイルの運用可能な能力を強化する」。「おおむね 10 年後までに、航空機発射型スタンド・オフ・ミサイルを運用可能な能力を強化する」などとしている。

 

●「統合防空ミサイル防衛能力」●

 

「 2 統合防空ミサイル防衛能力 四面環海の日本は、経空脅威への対応が極めて重要である。近年、弾道ミサイ ル、巡航ミサイル、航空機等の能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速兵器や無人機等の出現により、この経空脅威は多様化・複雑化・高度化している。 このため、探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化するとともに、ネットワークを通じて各種センサー・シューターを一元的かつ最適に運用できる体制を確立し、統合防空ミサイル防衛能力を強化する」。

 

「相手からの我が国に対するミサイル攻撃については、まず、ミサイル防衛シス テムを用いて、公海及び我が国の領域の上空で、我が国に向けて飛来するミサイ ルを迎撃する。その上で、弾道ミサイル等の攻撃を防ぐためにやむを得ない必要 最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力と して、スタンド・オフ防衛能力等を活用する」。

 

「こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛による迎撃を行い易くすることで、ミサイル防衛と相まってミサイル攻撃そのものを抑止していく。 このため、2027 年度までに、警戒管制レーダーや地対空誘導弾の能力を向上させるとともに、イージス・システム搭載艦を整備する。また、指向性エネルギー兵器等により、小型無人機等に対処する能力を強化する」としている。「今後、おおむね 10 年後までに、滑空段階での極超音速兵器への対処能力の研究や、小型無人機等に対処するための非物理的な手段による迎撃能力を一層導入することにより、統合防空ミサイル防衛能力を強化する」という。

 

第4節 防衛課題の全体像と位置づけ——安保三文書(3)・「防衛力整備計画」(その1)

※「防衛力整備計画」は、こまでは「中期防衛力整備計画」といわれていたもの


●全体的見取り図●

  安保三文書のなかで、最も具体的に、読者がイメージできる文書が「防衛力整備計画」である。まず、その中から、かかる「計画」の全体が見渡せる箇所を読もう。

 「Ⅰ 計画の方針 「国家防衛戦略」(令和4年 12 16 日国家安全保障会議決定及び閣議決 定)に従い、宇宙・サイバー・電磁波領域を含む全ての領域における能力を 有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的 な活動の常時継続的な実施を可能とする多次元統合防衛力を抜本的に強化し、 相手の能力と新しい戦い方に着目して、5年後の 2027 年度までに、我が国へ の侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。おお むね 10 年後までに、防衛力の目標をより確実にするため更なる努力を行い、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する。 以上を踏まえ、以下を計画の基本として、防衛力の整備、維持及び運用を 効果的かつ効率的に行う」。

 

「1 我が国の防衛上必要な機能・能力として、まず、我が国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除できるようにする 必要がある。このため、「スタンド・オフ防衛能力」と「統合防空ミサイル防衛能力」を強化する」。   

「また、万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合には、これらの能力に加え、有人アセット、さらに無人アセットを駆使するとともに、 水中・海上・空中といった領域を横断して優越を獲得し、非対称的な優勢 を確保できるようにする必要がある。このため、「無人アセット防衛能力」、「領域横断作戦能力」、「指揮統制・情報関連機能」を強化する」。

「さらに、迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させられるようにする必要がある。このため、「機動展開能力・国民保護」、 「持続性・強靱性」を強化する。また、いわば防衛力そのものである防衛 生産・技術基盤に加え、防衛力を支える人的基盤等も重視する」ということだ。

 こうした今後獲得・形成すべき能力の中から、本論では、「スタンド・オフ防衛能力」「統合防空ミサイル防衛能力」と、指揮系統の形成、さらに、日米安保軍の課題に関する考えを見ていく。

 

●スタンド・オフ防衛能力の諸課題●

 

★「Ⅱ 自衛隊の能力等に関する主要事業 2027 年度までに、我が国への侵攻に対し、我が国が主たる責任をもって対 処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できる防衛力を構築す るため、防衛力の抜本的強化に当たって重視する主要事業を1から7までの とおり実施することとする。

 1 スタンド・オフ防衛能力 我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して、脅威圏外から対処す る能力を強化するため、12 式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型・艦艇 発射型・航空機発射型)、島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾の開 発・試作を実施・継続する。島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾を始め、各種誘導弾の長射程化を実施する。防衛力の抜本的強化を早期に実現するため、上記のスタンド・オフ・ミサイルの量産弾を取得するほか、 米国製のトマホークを始めとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実 な導入を実施・継続する。 また、発射プラットフォームの更なる多様化のための研究・開発を進めるとともに、スタンド・オフ・ミサイルの運用能力向上を目的として、潜 水艦に搭載可能な垂直ミサイル発射システム(VLS)、輸送機搭載シス テム等を開発・整備する。 スタンド・オフ防衛能力の実効性確保のため、目標情報の一層効果的な 収集を行う観点から、衛星コンステレーションを活用した画像情報等の取 得や無人機(UAV)、目標観測弾の整備等を行い、情報収集・分析機能 及び指揮統制機能を強化する。スタンド・オフ・ミサイルの運用は、目標 情報の収集、各部隊への目標の割当てを含む一連の指揮統制を一元的に行う必要があるため、統合運用を前提とした態勢を構築する。スタンド・オフ・ミサイル等を保管するための火薬庫を増設するとともに、射場利用の 確保を含め、試験・整備等に必要な施策を着実に実施することで、スタン ド・オフ・ミサイルの開発・運用に必要な一連の機能を確保する。

 

●「統合防空ミサイル防衛」の諸課題●

 

 2 統合防空ミサイル防衛能力 極超音速滑空兵器(HGV)等の探知・追尾能力を強化するため、固定 式警戒管制レーダー(FPS)等の整備及び能力向上、次期警戒管制レー ダーの換装・整備を図る。また、地対空誘導弾ペトリオット・システムを 改修し、新型レーダー(LTAMDS)を導入することで、能力向上型迎 撃ミサイル(PAC-3MSE)による極超音速滑空兵器(HGV)等へ の対処能力を向上させる。 各種事態により実効的に対応するため、航空自衛隊の高射部隊の編成及 び配置の見直しに着手するとともに、中距離地対空誘導弾部隊と合わせた 重層的な要域防空体制を構築し、平素からの展開配置のための部隊運用を 行う。また、基地防空用地対空誘導弾の能力向上を推進する。加えて、滑 空段階での極超音速滑空兵器(HGV)等への対処を行い得る誘導弾シス テムの調査及び研究を実施する。 極超音速滑空兵器(HGV)等に対処する能力を強化するため、03 式中 距離地対空誘導弾(改善型)の能力向上を図るほか、弾道ミサイル防衛用 迎撃ミサイル(SM-3ブロックⅡA)、能力向上型迎撃ミサイル(PA C-3MSE)、長距離艦対空ミサイル(SM-6)等を取得する。 ネットワーク化による効果的かつ効率的な対処の実現のため、護衛艦等 4 の間で連携した射撃を可能とするネットワークシステム(FCネットワー ク)を取得し、共同交戦能力(CEC)を保持する。また、地対空誘導弾 ペトリオット・システムの情報調整装置(ICC)を改修することで、各 種誘導弾システムをネットワークで連接する。 我が国の防空能力強化のため、主に弾道ミサイル防衛に従事するイージ ス・システム搭載艦を整備する。 高出力レーザーや高出力マイクロ波(HPM)等の指向性エネルギー技 術の組み合わせにより、小型無人機(UAV)等への非物理的な手段による対処能力を早期に整備する。 なお、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル 等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような 攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領 域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・ オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力を反撃能力として用いる。この反 撃能力の運用は、統合運用を前提とした一元的な指揮統制の下で行う」。

 

●「指揮統制・情報関連機能」に関する諸課題●

 

「5 指揮統制・情報関連機能 ⑴ 指揮統制機能の強化 迅速・確実な指揮統制を行うため、抗たん性のある通信、システム・ ネットワーク及びデータ基盤を構築し、スタンド・オフ防衛能力及び統 合防空ミサイル防衛能力を始めとする各種能力を統合的に運用するため、 リアルタイムに指揮統制を行う態勢を概成するとともに、各自衛隊の一 元的な指揮を可能とする指揮統制能力に関する検討を進め、必要な措置 を講じる。 このため、領域横断作戦に資する情報共有機能の強化を図るため、共 通基盤としてのクラウドの整備、自衛隊の指揮統制機能及び関係省庁等 との連接機能を強化する中央指揮システムの換装を行う。また、陸上自 衛隊の自律的な作戦遂行能力を強化する将来指揮統制システムの整備、 海上自衛隊の意思決定サイクルを一層高速化する指揮統制システムの換 装、航空自衛隊の指揮統制機能の抗たん性を強化する自動警戒管制シス テム(JADGE)の換装、指揮統制機能の機動性・柔軟性の強化、宇 宙関連装備品の運用を一元的に指揮統制する宇宙作戦指揮統制システム の整備及び衛星利用の抗たん性強化を行う。さらに、それらの情報を共 有するために必要な防衛情報通信基盤(DII)の強化を行う」。

 

●日米安保軍の課題●

 

★「Ⅳ 日米同盟の強化」という項目が重要だ。「1 日米防衛協力の強化 日米共同の統合的な抑止力を一層強化するため、平素からの連携を図る 態勢を構築するとともに、宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦に 係る協力、相互運用性を高めるための取組、我が国による反撃能力の行使 に係る協力、防空、対水上戦・潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作 戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)、アセット や施設の防護、後方支援等における連携を推進する。また、より高度かつ 実践的な演習・訓練を通じて同盟の即応性や相互運用性を始めとする対処 力の向上を図る。 力による一方的な現状変更やその試み、更には各種事態の生起を抑止す るため、日米共同による、事態に応じて柔軟に選択される抑止措置(FD O)、情報収集・警戒監視・偵察(ISR)等を拡大・深化させるとともに、平素から、日米双方の施設等の共同使用の増加、訓練等を通じた日米 の部隊の双方の施設等への展開等を進める。また、日米間の調整機能を一 層強化するとともに、日米同盟を中核とした同志国等との運用面における 緊密な調整を実現する。 あらゆる段階における日米共同での実効的な対処を支える基盤を強化するため、日米間の情報共有を促進するための情報保全及びサイバーセキュリティに係る取組を強化するとともに、先端技術に関する共同分析や共同 研究、装備品の共同開発・生産、相互互換性の向上、各種ネットワークの 共有及び強化、米国製装備品の国内における生産・整備能力の拡充、サプライチェーンの強化に係る取組等、装備・技術協力を一層強化する」。

2 在日米軍の駐留を支えるための施策の着実な実施 在日米軍の安定的なプレゼンスを支えるだけでなく、日米同盟の抑止 力・対処力を強化していく観点から、「同盟強靱化予算」を始めとする在 日米軍の駐留に関連する経費を安定的に確保する」。

 

第5節 各防衛能力の実際の検討——安保三文書(3)・「防衛力整備計画」(その2)

●「スタンド・オフ防衛能力」●

 以下、「防衛力整備計画」で書かれている各箇所から、以下の実際の運用課題を引用・整理する。

いずれの場合も「指揮統制」の「一元的」な実施が課題であり、「常設の統合指揮所」のもとで、任務―作戦を完遂することが課題となるものだ。(「Ⅲ 自衛隊の体制等 計画の方針に基づき、各自衛隊の体制等を1から5までのとおり整備する。 1 統合運用体制 ⑴ 各自衛隊の統合運用の実効性の強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断作戦を実現できる体制を構築するため、常設の統合司令部を創設する」)。

 

「Ⅱ 自衛隊の能力などに関する主要事業」(以下、Ⅱとする)では次のようである。

「1 スタンド・オフ防衛能力 我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して、脅威圏外から対処する能力を強化するため、12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型・艦艇 発射型・航空機発射型)、島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾の開発・試作を実施・継続する。島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾を  始め、各種誘導弾の長射程化を実施する。防衛力の抜本的強化を早期に実現するため、上記のスタンド・オフ・ミサイルの量産弾を取得するほか、 米国製のトマホークを始めとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実 な導入を実施・継続する」。

 

「また、発射プラットフォームの更なる多様化のための研究・開発を進めるとともに、スタンド・オフ・ミサイルの運用能力向上を目的として、潜水艦に搭載可能な垂直ミサイル発射システム(VLS)、輸送機搭載システム等を開発・整備する」。

 

「スタンド・オフ防衛能力の実効性確保のため、目標情報の一層効果的な収集を行う観点から、衛星コンステレーションを活用した画像情報等の取得や無人機(UAV)、目標観測弾の整備等を行い、情報収集・分析機能 及び指揮統制機能を強化する」。

 

「スタンド・オフ・ミサイルの運用は、目標 情報の収集、各部隊への目標の割当てを含む一連の指揮統制を一元的に行う必要があるため、統合運用を前提とした態勢を構築する」(Ⅱ)。

 

 

「Ⅸ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤」(以下、Ⅸとする)では次のようである。

 

「 ⑴ スタンド・オフ防衛能力」とは、「我が国に侵攻してくる艦艇、上陸部隊等に対して、脅威圏の外から対処する能力を獲得する」であると規定している。

 

※「長射程ミサイル」については、現在(2023・2)、アメリカ合衆国から「トマホーク」(射程1600キロ)が購入されようとしている。

 

「ア 12 式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型・艦艇発射型・航空機発 射型)について開発を継続し、地上発射型については 2025 年度まで、 艦艇発射型については 2026 年度まで、航空機発射型については 2028 年度までの開発完了を目指す」。

 

この「 12式地対艦ミサイル(対艦誘導弾)システム」は2012年度調達がはじまったが、旧来のものに比べて「目標情報更新能力の向上」「命中のばらつき低減」などで、技術的に向上している。このシステムは「捜索評定レーダー装置」「中継装置」「指揮統制装置」「発射機搭載車両および誘導弾」「弾薬運搬車及び誘導弾(予備団)で構成される。

 

これをベースとして「12式地対艦誘導弾能力向上型」は、陸上自衛隊が装備する12式地対艦誘導弾をベースにした巡航ミサイル。202012月の閣議において「スタンド・オフ防衛能力の強化」が閣議決定された。これをはじめとして開発がはじまった。長距離射程を実現する大型回転主翼、ジェットエンジンの開発、人工衛星経由のデータリンクの搭載などが課題とされた。

 これらをふまえ、202212月の閣議決定では、「防衛力整備計画」により、12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型、艦艇発射型、航空機発射型)に関し、以下が決定されている。

 

「イ 高い隠密性を有して行動できる潜水艦から発射可能な潜水艦発射型 スタンド・オフ防衛能力の構築を進める」。

 

「ウ 高高度・高速滑空飛しょうし、地上目標に命中する島嶼防衛用高速滑空弾の研究を継続し、早期装備型について 2025 年度までの事業完了を目指すとともに、本土等のより遠方から、島嶼部に侵攻する相手部隊等を撃破するための島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)を開発する」。

 

 この「高速空団滑空弾」は、地対地ミサイル(開発中―20232現在―引用者)。2026年から射程数百キロのブロック1を配備、さらに射程2000キロから3000キロで極超音速飛行が可能なブロック2Bの配備を開始することが目指されている(2023・2現在―引用者)。

 

 「エ 極超音速の速度域で飛行することにより迎撃を困難にする極超音速誘導弾について、研究を推進し 2031 年度までの事業完了を目指すとともに、派生型の開発についても検討する。

 

この「極超音速誘導弾」は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に代わるものと位置づけられている。マッハ5以上の速度で飛行する(開発中―2023・2—引用者)。

 

●統合防空ミサイル防衛●

 

「Ⅱ」では次のようである。

 「2 統合防空ミサイル防衛能力」  極超音速滑空兵器(HGV)(マッハ10~15程度のものが開発途上である—―引用者)等の探知・追尾能力を強化するため、固定式警戒管制レーダー(FPS)等の整備及び能力向上、次期警戒管制レー ダーの換装・整備を図る。また、地対空誘導弾ペトリオット・システムを改修し、新型レーダー(LTAMDS)を導入することで、能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)による極超音速滑空兵器(HGV)等への対処能力を向上させる」。

 

「各種事態により実効的に対応するため、航空自衛隊の高射部隊の編成及 び配置の見直しに着手するとともに、中距離地対空誘導弾部隊と合わせた 重層的な要域防空体制を構築し、平素からの展開配置のための部隊運用を行う」。

 

「また、基地防空用地対空誘導弾の能力向上を推進する。加えて、滑 空段階での極超音速滑空兵器(HGV)等への対処を行い得る誘導弾システムの調査及び研究を実施する」。

 

「極超音速滑空兵器(HGV)等に対処する能力を強化するため、03 式中距離地対空誘導弾(改善型)の能力向上を図るほか、弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル(SM-3ブロックⅡA)、能力向上型迎撃ミサイル(PA C-3MSE)、長距離艦対空ミサイル(SM-6)等を取得する」。

 

「ネットワーク化による効果的かつ効率的な対処の実現のため、護衛艦等の間で連携した射撃を可能とするネットワークシステム(FCネットワーク)を取得し、共同交戦能力(CEC)を保持する。また、地対空誘導弾 ペトリオット・システムの情報調整装置(ICC)を改修することで、各種誘導弾システムをネットワークで連接する。 我が国の防空能力強化のため、主に弾道ミサイル防衛に従事するイージス・システム搭載艦を整備する」。

 

「高出力レーザーや高出力マイクロ波(HPM)等の指向性エネルギー技術の組み合わせにより、小型無人機(UAV)等への非物理的な手段による対処能力を早期に整備する」。

 

「なお、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような 攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力を反撃能力として用いる」。

 

「Ⅸ」では次のようである。

 

「⑵ 極超音速滑空兵器(HGV)等対処能力」として、「既存装備品での探知や迎撃が困難である極超音速滑空兵器(HGV) 等に対処するための技術を獲得する。 ア 巡航ミサイル等に加えて、極超音速滑空兵器(HGV)や弾道ミサイル対処を可能とする 03 式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型 を開発する。 イ 極超音速で高高度を高い機動性を有しながら飛しょうする極超音速 滑空兵器(HGV)に対処する、極超音速滑空兵器(HGV)対処用 誘導弾システムの調査及び研究を実施する」(Ⅸ)。

 

 

●宇宙領域での日米共同対処●

 

また「Ⅱ」の4では、日米共同軍の宇宙領域での課題があげられている。

 

「4 領域横断作戦能力 ⑴ 宇宙領域における能力 スタンド・オフ・ミサイルの運用を始めとする領域横断作戦能力を向 上させるため、宇宙領域を活用した情報収集、通信等の各種能力を一層 向上させる。具体的には、米国との連携を強化するとともに、民間衛星 の利用等を始めとする各種取組によって補完しつつ、目標の探知・追尾 能力の獲得を目的とした衛星コンステレーションを構築する。また、衛 星を活用した極超音速滑空兵器(HGV)の探知・追尾等の対処能力の 向上について、米国との連携可能性を踏まえつつ、必要な技術実証を行 う。さらに、増大する衛星通信の需要に対応するため、従来のXバンド 通信に加え、より抗たん性の高い通信帯域を複層化する取組を進める。 宇宙領域の安定的利用に対する脅威が増大する中、宇宙領域への対応 として、相手方の指揮統制・情報通信等を妨げる能力を更に強化する。 また、平素からの宇宙領域把握(SDA)に関する能力を強化するため、 2026 年度に打ち上げ予定の宇宙領域把握(SDA)衛星の整備に加え、 更なる複数機での運用についての検討を含めた各種取組を推進する。さ らに、我が国の衛星を含む宇宙システムの抗たん性を強化するため、準天頂衛星を含む複数の測位信号の受信や民間衛星等の利用を推進しつつ、 衛星通信の抗たん性技術の開発実証に着手する。 諸外国との協力について、米国等と宇宙領域把握(SDA)に係る情報共有を推進するほか、高い抗たん性を有する通信波を多国間で共同使用するなどの連携強化を推進する。 宇宙領域に係る組織体制・人的基盤を強化するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の関係機関や米国等の同盟国・同志国との交流に よる人材育成を始めとした連携強化を図るほか、関係省庁間で蓄積された宇宙分野の知見等を有効に活用する仕組みを構築するなど、宇宙領域に係る人材の確保に取り組む」としている。

この場合、例えば「高い抗たん性を有する通信波を多国間で共同使用する」などと言われているように、情報・司令部機能の統一・単一化への整備を本格化することが、ポイントとなるだろう。

 

第6節 戦争国家化を許すな——実戦のシミュレーションと整備費用

 

●沖縄―南西諸島の軍事化・最前線化を想定した野戦病院態勢●

 

 「防衛力整備計画」には、次のような「課題」も書かれている。それが、「衛生機能」という表現での、以下に引用するような戦時医療態勢(「戦傷医療対処能力」)の整備、とりわけ、南西諸島の実戦での、有事野戦医療態勢だ。

 

「Ⅹ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化」の「2 衛生機能の変革」として次のように展開している。

 

「各種事態への対処や国内外における多様な任務に対応し得るよう、各自 衛隊で共通する衛生機能等を一元化して統合衛生運用を推進するとともに、 防衛医科大学校も含めた自衛隊衛生の総力を結集できる態勢を構築し、戦傷医療対処能力向上の抜本的改革を推進する」。

「有事において、危険を顧みずに任務を遂行する隊員の生命・身体を救うため、第一線から後送先までのシームレスな医療・後送態勢を確立することが必要である。このため、応急的な措置を講じる第一線、戦傷者を後送 先病院まで輸送する各自衛隊の各種アセットを有効に利用した後送間救護、 最終後送先となる病院それぞれの機能を強化していく必要がある。 まず、第一線救護については、実際に第一線で活動を行う衛生隊員に准看護師及び救急救命士の資格取得を推進するとともに、これらの養成基盤の更なる強化を図る。また、第一線救護に引き続いて実施する緊急外科手術に関して、新たに統合の教育課程を新設し、計画的な要員の育成を図る。 さらに、艦艇での洋上外科手術についても上記課程修了者に必要な教育訓 練を実施し洋上医療の強化を図る。 航空後送間救護については、新たに航空後送間救護のための訓練装置を導入し、傷病者搬送時の救護能力向上のための教育訓練環境を整備する。 これらの教育訓練の実施に当たっては、各自衛隊間での共通化、統合化を 推進し、共通の知識・技能の向上を図る」。

 

そして「南西地域における」態勢づくりが述べられる。

 

「南西地域における衛生機能の強化に当たっては、自衛隊那覇病院の機能 及び抗たん性を拡充することが有効と考えられることから、同病院の病床の増加、診療科の増設、地下化等の機能強化を図る。その他の後送先となる自衛隊病院についても、建替え等の機会を捉え、同様の機能強化を図る。 衛生機能については、各自衛隊で共通する機能が多いことから、衛生資 器材の整備について、各自衛隊間の相互運用性を考慮して共通化を推進する。また、医療・後送に際して必要となる各自衛隊員の医療情報を自衛隊 病院等において陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の隊員の区別なくタイムリーに取得できるよう、隊員の身体歴情報を電子化し、各隊員の医療 情報を速やかに検索・閲覧できる態勢を整える」。

「戦傷医療における死亡の多くは爆傷、銃創等による失血死であり、これを防ぐためには輸血に使用する血液製剤の確保が極めて重要であることから、自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢の構築について検討する。また、血液製剤と並び戦傷医療において重要な医療用酸素の確保のため、酸素濃縮装置等についても整備を行う」。

「さらに、防衛医科大学校においては、近年の医療技術等の進展が著しい中、戦傷医療対処能力向上を始めとした教育研究の強化を進めるとともに、 臨床の現場となる防衛医科大学校病院については、医官及び看護官への高度な医療教育や自衛隊の衛生隊員の技能向上を図るほか、戦傷者の受け入れに対応するため、運営の抜本的改革を図るとともに、病院の建替え等の機会を捉え、機能強化を図る。また、それを補完するものとして、医官及び看護官の部外研修についてもその確保に努める」。

 

現在(20232月)、沖縄—南西諸島では、軍事基地が住民の反対を押し切って新設されている。例えば、石垣島の「石垣駐屯地」には、「12式地対艦ミサイル」を運用する部隊と車両二百両・弾薬などが配備される計画だ(2022・2・27現在)。

その軍拡のベクトルは日本全国で、展開している。「集団的自衛権」のもと、NATO型の攻守同盟・「日米IAMD」態勢をつくろうとしている。沖縄をはじめ日本全土を、単一軍としての日米安保軍の軍事基地・策源地(前線の作戦部隊に対し物資を調達するなどする兵站を担う後方基地)にしようとしているのだ。例えばそれは、「台湾有事」などで米中の軍事衝突が起これば、前線基地となるだろう。こうした戦時体制の構築は、具体的なシミュレーションとして、この「戦傷対処能力」だけでなく、各「防衛分野」において、組まれているだろうことは、いうまでもないだろう。

 

第7節    自衛隊部隊再編と整備計画費用について

 

「防衛力整備計画」には、整備計画の規模と自衛隊部隊再編の計画が記されている。

●再編(軍拡)予算●

「ⅩⅢ 所要経費等 1 2023 年度から 2027 年度までの5年間における本計画の実施に必要な防 衛力整備の水準に係る金額は、43 兆円程度とする。 2 本計画期間の下で実施される各年度の予算の編成に伴う防衛関係費は、 以下の措置を別途とることを前提として、40 5,000 億円程度(2027 年度 は、8兆 9,000 億円程度)とする。 ⑴ 自衛隊施設等の整備の更なる加速化を事業の進捗状況等を踏まえつつ 機動的・弾力的に行うこと(1兆 6,000 億円程度)。 ⑵ 一般会計の決算剰余金が6の想定よりも増加した場合にこれを活用すること(9,000 億円程度)。 なお、格段に厳しさを増す財政事情と国民生活に関わる他の予算の重要 性等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ、防衛力整備の一層の 効率化・合理化を徹底し、重要度の低下した装備品の運用停止、費用対効 果の低いプロジェクトの見直し、徹底したコスト管理・抑制や長期契約を 含む装備品の効率的な取得等の装備調達の最適化、その他の収入の確保等 を行うこととし、上記剰余金が増加しない場合にあっては、この取組を通じて実質的な財源確保を図る。 各年度の予算編成においては、情勢の変化等の不測の事態にも対応できるよう配意するとともに、別表2に示す装備品の整備を含め、各事業の進 捗状況、実効性、実現可能性を精査し、必要に応じてその見直しを柔軟に 行う。 3 この計画を実施するために新たに必要となる事業に係る契約額(物件費) は、43 5,000 億円程度(維持整備等の事業効率化に資する契約の計画期 間外の支払相当額を除く)とし、各年度において後年度負担についても適 切に管理することとする」としている。が、今後、大きく予算額が変動してゆくことが想定される。

その場合、政府は個別何についてどれだけの予算を計上するのかには、まったく明確にしていない。国会の予算審議の経過をまちたいが、それは、明らかにされず、防衛機密として、扱われてゆくはずだ。

 本論では、自衛隊の部隊再編・部隊新設を確認することで、その事業規模——これは、「反撃能力」の形成を骨格とし、「日米IAMD」を構築してゆくための政策実現の様相を見てゆくことにしよう。

 ●自衛隊部隊の再編・新編成●

「防衛力整備計画」の別表では、「別表3(おおむね 10 年後)」の「将来体制」として次のようである(人員、部隊の個数などは、今後変動するので特に記さない)。また、部隊そのものの編成も、ここに書かれているものとは、変化する可能性がある。

 

 【共同の部隊】 としてサイバー防衛部隊(自衛隊などに対するサイバー攻撃などに対処するため2014年にサイバー防衛隊が設置された。その部隊の改編設置)、海上輸送部隊の新設があげられる。

 

【陸上自衛隊】では、 作戦基本部隊——9個師団 5個旅団 1個機甲師団——、空挺部隊、 水陸機動部隊、 空中機動部隊などにつづいて、「スタンド・オフ・ミサイル部隊」が「地対艦ミサイル連隊」「島嶼防衛用高速滑空弾大隊」「長射程誘導弾部隊」として新設する。また「地対空誘導弾部隊 高射特科群」、「電子戦部隊(うち対空電子戦部隊)」「電子作戦隊 (1個対空電子戦部隊)」「無人機部隊」「多用途無人航空機部隊」「情報戦部隊」が改編・新設される等々である。ここに書かれている「電子戦」とは、敵による電磁周波数帯域の利用情報を検知、分析した上で、妨害や逆用する活動、また、自軍の電磁波の円滑な利用を確保するための活動の総称である。 

【海上自衛隊】では 無人機部隊 情報戦部隊が新設。【航空自衛隊】では、 作戦情報部隊が新設される、などが計画されている。

 

また、「注1:上記、陸上自衛隊の15個師・旅団のうち、14個師・旅団は機動運用を基本とする。 注2:戦闘機部隊及び戦闘機数については、航空戦力の量的強化を更に進めるため、2027 年度までに必要な検討を実施し、必要な措置を講じる。この際、無人機(UAV) の活用可能性について調査を行う」などとしている。

 

 こうした大がかりな部隊の新設再編が、目論まれている。こう見てくると、「何にいくらかかる」という見通しなど立てられないのが、本当のところなのだろう。まさにこの「反撃能力」の目玉である「スタンド・オフ・ミサイル」システムの確立は、まだ、開発途上(20232月)なのであり、「日米IAMD」軍の基本的な形成はこれからの課題なのだ。

 

 こうして「防衛予算」は、これから、のっぴきならないほど上昇することが見込まれる。

 

●結語●

 

以上のような軍事開発・軍事再編の理由として、中ロ・朝鮮の脅威が宣伝されている。それらをきっかけに「国家安全保障戦略」の初めに書かれていた「国民の決意」を発揚するような舞台回しを、つくっていくことが日帝支配層の課題となっている。

 その一つの分野として、「ロシアのウクライナ侵略報道」があるとの言説がある。そのような意図で、「戦争報道」がなされている側面はたしかにある。「ない」などと言えば、それは詐欺師の言説になるだろう。だが、一方で、「ウクライナ・パルチザン」の闘いをはじめ、ロシア国内やベラルーシの「反戦パルチザン」など、人民の主体的な闘いにつながる情報を大切に発信することが求められている。それなくしては、「戦争を革命に転化する」ことはできない。そういう意味で、「戦争情報」は、利用すべきなのである。即自的に、それを信じるのではなく、分析の対象にする必要がある。この「安保三文書」もまた、一つの情報であり、これをどう分析するか、何を問題として、これと向き合うかは、主体的に創造されるべきことなのだ。◆

 

 

【資料①】安保法制と集団的自衛権――主要な項目に関するデータ

 

2015年制定された「平和安全法制整備法」によれば、以下のような、ポイントを備えたものとなっている。

以下に後述するように、例えば第一に、 国連PKOや,その他の国際的な平和協力活動へのより幅広い参加が可能になった(いわゆる安全確保業務、駆け付け警護等)。

第二に、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態や国際社会の平和及び安全を脅かす事態」において,他国軍隊に対する支援活動が可能になった。 第三に、 「集団的自衛権」の行使が容認されるのは,「新三要件」という「厳格な要件が満たされる」場合に限られるとされ、 自衛の措置としての「武力の行使」のための「新三要件」 が規定されている。

(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと,又は我が国と密接な関係 にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅か され,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な 危険があること。

 (2)これを排除し,我が国の存立を全うし,国民を守るために他に適当な 手段がないこと。

 (3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。ということである。

その場合、この「整備法」(安保法制)は、10の改正法とひとつの新設の法制から成り立っている。その中で、安保法制制定論議で、もっともポイントとなってきた、以上のポイントとして、以下の4法の「改正」ポイントを見てゆこう。

 

●安保法制の法的構成

 

まず、改正対象となった各法律の確認から始めよう。以下が「平和安全法制整備法(改正法案と新法)」の構成である。

   自衛隊法。/②国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)。/③周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(「周辺事態安全確保法」を「重要影響事態安全確保法」に変更)。/④周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律(船舶検査活動法)。/⑤武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(武力攻撃事態対処法)。/⑥武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律(米軍等行動関連措置法)。/⑦武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律(特定公共施設利用法)。/⑧武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律(海上輸送規制法)。/⑨武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律(捕虜取扱い法)。 /⑩国家安全保障会議設置法。/⑪【新設】国際平和支援法。以上の11の法制だ。この法案において、以下の4法が、改正論議で特に問題となってきたものだ。そのポイントを見ていこう。 

 

PKO法(国際平和協力法)

 

(1)PKO以外の任務OK……「第一条 この法律は、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動、人道的な国際救援活動及び国際的な選挙監視活動に対し適切かつ迅速な協力を行うため、国際平和協力業務実施計画及び国際平和協力業務実施要領の策定手続、国際平和協力隊の設置等について定めることにより、国際平和協力業務の実施体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置等を講じ、もって我が国が国際連合を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的とする」。

この場合、この文言にある「国際連携平和安全活動」というのが、ポイントだ。2015年のこの法の改定で規定されたものだ。

それは、国連平和維持活動以外のものが対象であることを示唆している。つまり、この改定で、PKO部隊を国連が直接統括する以外からの要請で派遣することが可能となったのである。国連PKO活動以外の多様な要請に対応できるようになった。国連憲章第七条で規定されている国際連合の主要機関が支持する国の、個々の要請で派遣を行えるようになったということだ。


(2)「駆けつけ警護」は命令による銃撃戦は許可するという問題……ここでこうした課題に関連し、法案審議当時、問題になった。以下がその条文である。。

「第35項ト 防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」。

 

「第35項ラ ヲからネまでに掲げる業務又はこれらの業務に類するものとしてナの政令で定める業務を行う場合であって、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(以下このラ及び第二十六条第二項において「活動関係者」という。)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護」というのがそれだ。

また、その場合の武器の使用の規定が、26条に規定されたものだ。

「第二十六条 前条第三項(同条第七項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定するもののほか、第九条第五項の規定により派遣先国において国際平和協力業務であって第三条第五号トに掲げるもの又はこれに類するものとして同号ナの政令で定めるものに従事する自衛官は、その業務を行うに際し、自己若しくは他人の生命、身体若しくは財産を防護し、又はその業務を妨害する行為を排除するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、第六条第二項第二号ホ(2)及び第四項の規定により実施計画に定める装備である武器を使用することができる。

 前条第三項(同条第七項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定するもののほか、第九条第五項の規定により派遣先国において国際平和協力業務であって第三条第五号ラに掲げるものに従事する自衛官は、その業務を行うに際し、自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体を防護するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、第六条第二項第二号ホ(2)及び第四項の規定により実施計画に定める装備である武器を使用することができる。

 前二項の規定による武器の使用に際しては、刑法第三十六条又は第三十七条の規定に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

 自衛隊法第八十九条第二項の規定は、第一項又は第二項の規定により自衛官が武器を使用する場合について準用する」。

以上、というものだ。総括していうなら、以上のような必要性において指導者が判断した場合、武器の使用つまり銃撃戦が命令されるということだ。この場合、どういう状況においてかということは、多岐にわたる。また、いろいろな混乱での銃撃戦が、事後的に、戦闘行為者の指導部(命令権者)によって、都合のいいように解釈されレポートされる可能性を有している。

 

◆重要影響事態安全確保法(周辺事態安全確保法から「我が国周辺」という地理的概念を消去した)

 

第一条 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「重要影響事態」という。)に際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

(重要影響事態への対応の基本原則)

第二条 政府は、重要影響事態に際して、適切かつ迅速に、後方支援活動、捜索救助活動、重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律(平成十二年法律第百四十五号)第二条に規定する船舶検査活動(重要影響事態に際して実施するものに限る。以下「船舶検査活動」という。)その他の重要影響事態に対応するため必要な措置(以下「対応措置」という。)を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めるものとする。

 対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。

 後方支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われている現場では実施しないものとする。ただし、第七条第六項の規定により行われる捜索救助活動については、この限りでない。

 外国の領域における対応措置については、当該対応措置が行われることについて当該外国(国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従って当該外国において施政を行う機関がある場合にあっては、当該機関)の同意がある場合に限り実施するものとする。

 内閣総理大臣は、対応措置の実施に当たり、第四条第一項に規定する基本計画に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督する。

 関係行政機関の長は、前条の目的を達成するため、対応措置の実施に関し、相互に協力するものとする。

(定義等)

第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 合衆国軍隊等 重要影響事態に対処し、日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊及びその他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織をいう。

 後方支援活動 合衆国軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、我が国が実施するものをいう。

 捜索救助活動 重要影響事態において行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、その捜索又は救助を行う活動(救助した者の輸送を含む。)であって、我が国が実施するものをいう。

 

 

◆武力攻撃事態対処法(集団的自衛権の行使を可能とする「存立危機事態」の新設。米軍に限らない同盟国などとの連携)

(定義)

第二条 この法律(第一号に掲げる用語にあっては、第四号及び第八号ハ(1)を除く。)において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。

 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。

 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。

 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。…

 存立危機事態を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置

(1) 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの(以下「存立危機武力攻撃」という。)を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動

 

第三条  武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処においては、日米安保条約に基づいてアメリカ合衆国と緊密に協力するほか、関係する外国との協力を緊密にしつつ、国際連合を始めとする国際社会の理解及び協調的行動が得られるようにしなければならない。

 

◆国際平和支援法(この法の成立まで、「特別措置法」という形で成立してきた「派兵」法を、この法に「恒久化」し、国会の承認を経て、同法にもとづいて派兵を実施するというもの)。

「(目的)第一条 この法律は、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの(以下「国際平和共同対処事態」という。)に際し、当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことにより、国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする」と規定されている。

 

 

【資料②】 国連「(旧)敵国条項」と「反撃能力」の同盟国間での共有の意味

 

 

●国連憲章「敵国条項」と「反撃能力」

 国連憲章で「敵国条項」といわれているものは、以下である。

・第53条【地域的取極(とりきめ——引用者)・機関による強制行動】1 安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の(「参考 第52条」参照」――引用者)地域的取極又は地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。

 

2本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。

 

(参考)第52条【地域的取極と地方的紛争の解決】この憲章のいかなる規定も、国際の平和及び安全の維持に関する事項で地域的行動に適当なものを処理するための地域的取極又は地域的機関が存在することを妨げるものではない。但し、この取極又は機関及びその行動が国際連合の目的及び原則と一致することを条件とする。

1 前記の取極を締結し、又は前記の機関を組織する国際連合加盟国は、地方的紛争を安全保障理事会に付託する前に、この地域的取極又は地域的機関によってこの紛争を平和的に解決するようにあらゆる努力をしなければならない。

2 安全保障理事会は、関係国の発意に基くものであるか安全保障理事会からの付託によるものであるかを問わず、前記の地域的取極又は地域的機関による地方的紛争の平和的解決の発達を奨励しなければならない」。

 

・第77条【信託統治制度の種類】1 信託統治制度は、次の種類の地域で信託統治協定によってこの制度の下におかれるものに適用する。①現に委任統治の下にある地域。②第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域、③施政について責任を負う国によって自発的にこの制度の下におかれる地域。2前期の種類のうちのいずれの地域がいかなる条件で信託統治制度の下におかれるかについては、今後の協定で定める」と規定されている。


・第107条【敵国に対してとった行動の効力】 この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

以上の三条が、「(旧)敵国条項」といわれるものだ。

 

 「敵国」とは第2次世界戦争において、「連合国」の敵国であった「枢軸国」のことでありドイツ、日本などが、それだ。その敵国が、第二次世界戦争によって確定した事項を、無効にし、または排除した場合、国際連合加盟国や地域安全保障機構は、安保理の承認がなくても、無効・排除した敵国に対して、軍事的制裁を科すことが容認され、その行為は制止できないと解釈されるものだ。現在問題になっている「反撃能力」に照らし合わせて考えるなら、「敵国条項」の存在は、「敵国」が、連合国側の国家と対等に交戦し合う資格を認めていないそこから言えることだが、だから、「敵国」の「反撃能力」は、否定されると解するのが自然だ。そこでこの「敵国条項」が「死文化」しているか、どうかが問題となる。

 この間、ロシアが日本に対してとった以下の対応も、この問題を根拠にしたものだ。例えば朝日新聞デジタル2019年2月22日2時02分配信の記事によれば次のようである。

ロシアの「ラブロフ外相は21日、ドイツ・ミュンヘンで16日に行った河野太郎外相との外相会談で、国連憲章に「(第二次大戦での)戦勝国の行いは議論の対象とはならない」との記述があると主張し、北方領土のロシアの主権を認めるよう迫ったことを明らかにした。インタファクス通信などによると、モスクワでのビジネス関係者らとの会合で述べた。ラブロフ氏は従来、「旧敵国条項」といわれる国連憲章107条には「第2次大戦の結果は変更できないと記されている」と主張している。外相会談でもこの条項に言及しつつ、河野氏にロシア側の原則的な立場を伝えたとみられる」。

まさに、これだと、2019年現在も、この「敵国条項」は「死文化」していないということになる。だから、この問題の歴史的経緯と、国連憲章における条文項目「削除」の手続きについて、確認することが大切だ。

●「敵国条項」は「死文化」したとはいえない

この場合「「国連憲章」109条【再審議のための全体会議】2 全体会議の三分の二の多数によって勧告されるこの憲章の変更は、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の三分の二によって各自の憲法上の手続きに従って批准されたときに効力を生じる」ということがポイントだ。「全体会議」(1995年国連総会)では、死文化は採決されているが、「三分の二の国の批准」という事実は2023年の今日においても、日本国家は確認できていない。従って「死文化」はしていないと見るのが妥当だ。こうした歴史的経緯に対して日米IAMD構想は「反撃能力」=交戦能力を日本に付与するという意味をもっている。◆