2024年2月21日水曜日

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積 【連載第六回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積【連載第六回】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

2024・02・23 最終更新 22:42

【はじめに】ガザ虐殺戦争弾劾! イスラエルで起こる「停戦と総選挙」を要求するデモに連帯を!

ガザ地区の保健当局は2月18日、ガザ南部のハンユニスにあるナセル病院が機能停止したと発表した。イスラエル軍は病院職員70人を逮捕。この中には集中治療を担当する医師も含まれている。重篤者の治療が不可能になったということだ。その結果、医療従事者は25人に。電気も遮断され、酸素不足で患者8人が死亡したと発表した。患者は約200人いるとされるが、イスラエル軍は病院への立ち入りを認めておらず、救急移送は無理な状態が続いている。2月17日の時点で、パレスチナ側の戦闘による死者は、2万8858人にのぼっている。

 まさに、万死に値するイスラエルのファシストの蛮行を絶対に許すな!

 こうしたガザ虐殺戦争が続く中、イスラエル国内においても、「停戦」をもとめ、「総選挙」を要求するデモが、起きている。2月17日、イスラエル各地で「人質即時解放」「ハマスによる奇襲を防げなかったネタニヤフ退陣」、そのための「総選挙」を求める集会デモが行われた。「フリー(Free) イスラエル フローム(From) ネタニヤフ」などをスローガンに、数千人の人々が参加したとの報道だ。だがこの日、記者会見でネタニヤフは「総選挙」を否認。「選挙は国を分裂させる」として、選挙のない戦争の継続を表明した。まさに独裁者の手法だ。

 こうした中で合衆国は、国連安保理において、「即時停戦」などの「停戦」決議に次々と「拒否権」を行使している。そして、イスラエルに「兵器供与」を検討しているという報道がある。ウオール・ストリート・ジャーナルが、2月16日に報道したものだ(「ARAB NEWS Japan」2024年2月18日12:12:26の記事による)。

 バイデン政権は、武器供与案に金額で数千万ドルと推定される武器を供与をけんとうしているという。その武器の中には、MK-82爆弾、KMU-572統合直接攻撃弾、FMU-139爆弾信管がふくまれるという。例えば、統合直接攻撃弾(JDam)は、無誘導の自由落下爆弾の機能を向上させるための追加キットのことだ。このキットの開発のポイントは次の様である。従来の誘導爆弾は、レーザーや赤外線画像によって外部から誘導されたものだった。だが、これは、地上の気象条件によって運用に制約があった。これに対し、爆弾の投下後、外部からの誘導を必要としない技術開発が課題となった。それに応えたのが「INS」(慣性誘導システム)と「GPS」(グローバル・ポジショニング・システム)という誘導制御ユニットだけで目標地点に落下させるようにしたものだ。(※このキットは、2023年、ウクライナにも供与されたといわれている)。 そのような爆弾の目標投下の精度をあげる兵器を、ガザ虐殺戦争に供与しようと画策しているのである。

 こうして、「2国家共存」、カタールなどを仲介者とした「停戦交渉」を唱えつつ、一方で、イスラエルのガザ虐殺戦争に加担しているのが、合衆国の権力者たちにほかならない。そして、ここには、以下にみる、莫大な経済権益をめぐるパレスチナ側、イスラエル側の両勢力を取り巻く、経済的対立があり、合衆国がそれにどのようにかかわるか、切こめるかの、分析・見通しにおける、諸勢力の力学を見通した判断があり、どちらか一方に無制限に肩入れすることが許されない、帝国主義権力の思惑が潜んでいるのだ。

■虐殺戦争の裏側で――ガザ沖合ガス田開発のこれまでの経過

 イスラエル政府・ネタニヤフは、ガザ虐殺戦争の開始と同時に、ガザ沖合の天然ガス、石油を開発する許可を、英国のBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)など6企業に許可した。これが強奪・強盗行為なのは明らかだ。

 これは、「ガザ・マリン」といわれるところで、パレスチナ支配海域だ。1999年に探査を開始し2000年に発見された。「ガザマリン1」「ガザマリン2」と二度発見され、合わせて天然ガスの埋蔵量は推定360億立法メートルとされる(これらは、初期値だ)。これが開発されれば、数千億ドルの財源を確保することになるといわれている。だが、まだ、開発は手つかずのままだ。イスラエルの反対・妨害によるものだ。例えば1999年、ブリティッシュガスグループ(BGグループ)などの間でガス探査とガス田開発のための契約(25年間)が締結されたが、2016年、BGグループは撤退するなどとなっている。この当時の状況をもう少し見て行こう。

■イスラエルによるガザマリン封鎖と対パレスチナ政策

 1999年、パレスチナ自治政府は、BGグループとアラブのCCC(Consolidated Contractors Company)に、探査と採掘の権利を与え、2000年に天然ガスが埋蔵されている地層を発見した。これ以降、BGがガス田の開発に着手するが、イスラエルが介入し、海軍などを出動させて、BGの事業を妨害しはじめる。

 2007年、ハマスのガザ統治が確固となった時期、イスラエルは、ガザマリンを軍事封鎖する。2008年にはイスラエルは「ガザマリンはイスラエル領だ」と宣言(天然ガス田の合法的な管理は国家にのみ認められた権利で、パレスチナ自治政府は主権国家ではないというのが、イスラエルの一貫した論法だ。ここにも「二国家共存」というオスロ合意での規定の否定が表明されている)。これによってBGグループは、ガザマリンから撤退し、そのあとで事業を始めたシェルも、事業に失敗した。イスラエルはガザマリンの軍事封鎖を続け、天然ガス開発を凍結する。2008年12月~2009年1月にかけてイスラエルのパレスチナに対する軍事侵攻が展開し、ガザに対するアパルトヘイト政策を始めるが、それは、このガザ沖合開発と一体のものである。

 だが2021年には、パレスチナ当局者とエジプトとの間でガス田開発の覚書が交わされている。まさにこの海域は、パレスチナ自治区の海域であり、イスラエルにこの海域を差配する権限などない。にもかかわらず、イスラエルは、今回、BPなど国際企業6社に開発許可を交付するという強盗でしかありえない、所業に出ているのである。また、イスラエルは、スエズ運河に代わる運河をガザ地区経由で建設する計画も進めているという。

 イスラエルは2023年の6月の段階では、「安全保障の観点から、パレスチナの開発を容認する」(パレスチナが潤えば、イスラエルを攻撃しないなどという言い草だ)として、共同開発を提案していた。この事態は、ロシアのウクライナ侵略戦争で、ロシアに対する経済制裁をはじめとして、世界的にエネルギー供給の不足が生じてきたことに対するべく、カイロにおいて、イスラエル、合衆国、パレスチナ自治政府、エジプトや産油国による首脳会談がおこなわれたことに、象徴される事態がバックボーンとしてある。

 実際、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の両者の間で、協議がもたれていた。エジプト、ヨルダンがこの協議には参加している。収益は、パレスチナ投資基金(PIF)ーパレスチナ自治政府、パレスチナ人経営のCCC、エジプトの天然ガスホールディング株式会社(EGAS)などで分配される計画となっていた。だがもっと本質的なことは、この共同開発は、イスラエル政府自身の「タマル」「リヴァイアサン」といったガス田との連接・イスラエルによる「ガザマリン」の管理・運営などに関わる契約だったことだ(これは例えば、前出にある、かつて21世紀初頭に成立したBGとパレスチナ自治政府との契約に介入したとき以降のイスラエル政府の「権益」の主張にほかならない)。

 この場合、最終的な計画開始のポイントは、通常の了解事項として、ガザの政府権者であるハマスの承認を得ることが前提だとなっていた。これがイスラエル権力者たちにとって障害となっていたことは間違いない。パレスチナ海域の権益を専制的に強奪・支配しようとするイスラエル国家権力は、このハマスの権力を破壊する機会をねらっていたのだ。それが今回のガザ虐殺戦争で、明白になったということだ。 

 まさにイスラエルは、ガザからパレスチナ人を追放し、パレスチナの行政権を破壊して、ガザを手に入れることで、こうした天然ガス・石油資源の主権的権益を主張することが可能となることを画策しているのだ。

(※ この東地中海の地域は、イスラエル、エジプト、米石油会社など、いろいろな利害をもつ単位での駆け引きがあり、それを前提としたガスパイプラインが、地中海諸国に走っている。だがその分析は、本論では、行わないものとする。★★ただし、イスラエルが自身のパイプライン(例えば「タマル」「リヴァイアサン」などのガス田関係)にガザのガス田などを連接したい欲望をもってきたことは、前提だ)。

■「資本蓄積」とガザ虐殺戦争

    2024年1月29日、エルサレムでは、イスラエルの極右勢力やリクードなど与党が、集会を開催。「入植が安全をもたらす」と主張するものとなった。国家安全保障相のベングビールは「10・7を繰り返させないためにはガザを支配しないといけない」と発言。リクードの指導者も入植をアピールしたという。こうして、リクードが、2005年当時のイスラエル政権が、ガザから入植者を撤退させたことを批判したそのことが、現在、再度の入植侵略策動として、行われているのだ。

 こうして、ガザを侵略し、パレスチナ人をシナイ半島に追放して、ガザを支配することでイスラエルは、自己の直接保持する領地・領域と権益を拡大しようとしている。

★★ここで、「資本蓄積」の話を介入させよう★★。

資本蓄積とは、ザックリ言って、剰余価値の一部を資本に転化して生産規模を拡大することを意味する。だが、これは「商品生産を拡大する」ことにとどまらず、まず、そもそも商品と市場を拡大再生産する、資本設備そのものを形成・拡大することでなければならない。イスラエルからの「入植」やガス田開発・石油田開発は、この資本設備に属する概念だ。

 これとは区別されたもう一つの「蓄積」概念に、「本源的蓄積(原始的蓄積)」概念がある。これは、マルクスの「資本論」では次のようにいわれているものだ。

 「資本関係は、労働者と労働実現条件の所有との分離を前提する。……すなわち一方では社会の生活手段と生産資本を資本に転化させ他方では直接生産者を賃金労働者に転化させる過程以外のなにものでもありえないのである。つまり、いわゆる本源的蓄積は、生産者と生産手段との歴史的分離過程にほかならないのである」(『資本論』第一巻第24章「いわゆる本源的蓄積」、マルクス・エンゲルス全集23bより。翻訳者・岡崎次郎)。まさにこれが、ブルジョアジーとプロレタリアートの階級的産出についての根源的な事態である。

 だがこれは、近代資本主義の発生点だけではなく、恐慌・戦争・植民地支配などの度に、どこでも、起こってきたことなのだ。つまり★★この「本源的蓄積」を「人口移動」「人口構成の質的変化」という文脈で、翻訳した場合★★、それは、近代資本主義の発生点での出来事とは言えない問題となるということだ。

 前回【連載第五回】に論述したような、パレスチナ人がシナイ半島に追放され、そこで、イスラエルの諜報省の「追放計画」にあるようなパレスチナ人の町ができ、また「避難民」を「移民」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアなどが、迎え入れるなら、それは、間違いなく、あらたな「国際プロレタリアート」が、百万人規模で、産出されたことを、★★資本主義としては★★意味するものとなるだろう。

 こうして、ガザ虐殺戦争は、その裏側で、暴力的・強盗的「資本蓄積」と、それに内包された「本源的蓄積」をともなう、ものすごい戦争事態となっているのである。

 ★★そして、合衆国の権力者たちは、この「資本蓄積」のすべての過程に対して、もっとも、自分たち、合衆国ブルジョアジーの権益が生まれるベクトルを選択ないしは創造しようとしているのだ★★。

 2月20日、合衆国はまたしても、国連安保理での「人道停戦決議」に対し、「停戦交渉を阻害する」などという詭弁をもって、「拒否権」(常任理事国権限)を行使した。賛否については理事国15か国の内、日本、フランスなど13か国は賛成、常任理事国のイギリスは「棄権」(常任理事国での権限の行使は、その提案を完全に支持することはできないが、拒否権によって阻止することまではしないという場合の権限)、反対(拒否権)は合衆国ということだ。(つづく)

★次回 ネタニヤフ「ハマス後の原則」(2024・2・22発表)について

2024年2月13日火曜日

イスラエル・「ダレット計画」(パレスチナ人追放計画)と暴力的「資本蓄積」 ——【連載第五回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 


イスラエル・「ダレット計画」(パレスチナ人追放計画)と暴力的「資本蓄積」=イスラエルによるパレスチナ人追放・民族浄化計画を許すな!

ーー【連載第五回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

最終更新 2024・02・15 13:54

●ラファ攻撃は「パレスチナ民族浄化」の攻撃だーー絶対許すな!

イスラエル首相・ネタニヤフは、2月8日の閣議で、3月11日までに、ラファ(ラファハ)への攻撃を終わらせるように軍などに指示したと報道されている。ガザ地区最南端の都市・ラファにはガザ北部などからの避難民150万人がイスラエルの攻撃を逃れて、集結しているという。その人口密集地に、空爆や地上戦などの戦闘が開始されれば、大変な大惨事がもたれされることは必至だ。今まで「イスラエルの自衛権」を擁護してきた合衆国政府でさえ、止めるように言っているのが、現実だ。しかし、イスラエル国家権力は、ラファを攻撃し「ハマスをせん滅する」としている。だが、現実に虐殺されているのは、子供を大量に含んだ一般市民だ。このファシズム戦争を絶対にゆるすな。

 しかし、こうした軍事作戦は、イスラエルが中東で戦後一貫して画策し、また実行してきた、軍事作戦の思想に淵源している。それが、ダレット計画だ。それは「パレスチナ人に対する民族浄化」の軍事計画であり、パレスチナ人のシナイ半島への追放計画だ(この計画の最近のものとしてはイスラエル諜報省の機密文書がある)。

 実際、避難民はラファからどこへ、「人道回路」(なるもの)をもって逃げろとイスラエル国家権力はいうのか。もはや、ガザ内には、安全な場所はおろか、安全かどうかはわからないが150万人もの避難民が「逃げる場所」がガザの中のどこにあるというのだろうか。

 こうして、パレスチナ人をガザから追放しようとしているのだ。「第二のナチスはネタニヤフ国家体制だ」という以外ない。以上のガザ虐殺戦争の土台となっているダレット計画をみることにしよう。

●ダレット計画

 「プラン・ダレット(ダレット計画)」は、1948年の第一次中東戦争(1948年2月~1949年3月)において、ユダヤ・シオニスト指導部と軍が1948年2月から5月の時期(つまり48年5・14イスラエル名「独立宣言」の前の時期)において、シオニスト指導部が展開した軍事作戦とその作戦計画を言う。国連による「パレスチナの2国家への分割」という決定に対し、シオニスト指導部は、「ユダヤ国家」とは別に、パレスチナ自治国家の領土を侵略し強奪する計画をつくった、それが「ダレット計画」だ。

 これは、イスラエルの初代の首相となるベングリオンによって想起され、軍事組織ハガナによって設計されたもので、48年3月に完成した作戦計画である。この作戦は上記の時期(48年2月~5月)において13作戦展開されたといわれている。その内、8作戦はアラブ国家に割り当てられた地域にアラブ正規軍が入る前に実行されたものとされている。

 この計画の基調は、国連分割計画で提案されたユダヤ人国家に割り当てられた地域の境界内と、その境界外のユダヤ人入植地、ユダヤ人国家との国境線に沿ったアラブ自治地域の町や村の征服を企図していた。アラブ人が抵抗した場合、征服された村の住民は征服地の境界の外に追放する計画だった。抵抗しなければアラブ住民はとどまることができるというものであり、それは、イスラエルの「奴隷になれ」ということ以外ではない。そして支配地域を要塞化する・軍事的に統治するものだった。実際これらの計画は、すでに撤退していたイギリス軍の基地、警察署の占領をポイントにシオニストの支配を実現していったとされている。その場合、どのような作戦がとられたのか。

ウィキペディア「プラン・ダレット」の項目では次のようである。

ーーー――

「防衛システムと要塞の統合の下での計画セクション3(警察署の占拠や輸送動脈の保護など)」につづく「セクション4」では、今回のガザ虐殺戦争でイスラエル軍が実際に行っている行為が次のようにしるされている。

「わが国の防衛システムの内部または近くに位置する敵の人口密集地が、現役の軍隊によって基地として使用されるのを防ぐために、作戦を開始すること。これらの操作は、次のカテゴリーに分類できる」として、つぎのように作戦を書いている。

 「村落の破壊(瓦礫に火をつけたり、爆破したり、地雷を埋め込んだり)、特に人口密集地を破壊し、継続的に制御することが困難である。次のガイドラインに従って操作統制活動を開始する:村の包囲と内部での捜査の実施。抵抗した場合、軍隊は破壊されねばならず、住民は国家の国境の外に追放されなければならない」。そして、その地域の「要塞化」が明記されている。

 「抵抗がない場合、…部隊の指揮官は村内のすべての武器、無線機器、自動車を没収」する。また「政治的に疑わしい人物を全員拘束する」そしてこれらの地域の行政当局はユダヤ人が任命されるとしている。

 また「国境の内外での反撃」というところでは、――これは今回の「10・7アルアクサ洪水作戦」に対するイスラエルの作戦の考え方もそうだと考えるが――「平均して大隊規模の部隊が深く浸透し、人口密集地や敵基地に対して集中攻撃を開始し、そこに配置されている敵軍とともにそれらを破壊することを目的としている」としている。

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 まさに、イスラエル国家権力によるパレスチナ人に対する民族浄化の設計図である。

こうした計画を念頭に置きながら、イスラエル国家権力は戦後、持久的な戦争計画を展開してきた。それが、まさに「中東戦争」の歴史であり、パレスチナ住民に対するアパルトヘイトとジェノサイド、シナイ半島への追放計画などのルーツとしての位置を持つものに他ならない。

●イスラエル諜報省の機密文書とはなにかーーガザ住民のシナイ半島への強制移住のシナリオ

2023年10月30日、イスラエルのニュースサイト「シチャ・メコミット」が「政策文書:ガザの民間人口の政治的方針の選択肢」(2023年10月13日の日付と、イスラエル諜報省のロゴが付けられたヘブライ語の文書)とタイトルを付された文書を報じた。これは、政府の機密文書の流出であるという。その文書は数百ページあるが、その「要旨」の部分ということだ。

※ここでは、yahooニュース2023年11月1日、川上泰徳氏の記事「ガザ全住民をシナイ半島に移送:流出したイスラエル秘密政策文書の全貌。ネタニヤフ首相の『出口戦略』か」の記事から、当文書からの引用を引用・援用することにする。

文書はまず、「ハマスの打倒」を前提とし、ガザの住民をどのようにするかをabcの三つの案として示している。Aは、西岸の自治政府を引き入れる。Bは、ガザにハマスに替わる新たなパレスチナ人の統治を生み出す。Cは、ガザの住民をシナイ半島に避難させる、というものだ。

 AとBは、パレスチナ人の勢力を力学的に利する可能性があり、イスラエルにとってリスクがある。Cが、「イスラエルにとって前向きで、長期的に戦略的な利点を与え、実行可能な選択肢である」とする。ただし、「国際的な圧力に対して政治レベルの強い決意が求められ、特に実施の過程で米国や他の親イスラエルの国々の協力が重要となる」とする。

ここまでが、前提だ。そこで、次のような作戦が考案される。(ここでは矢印で、作戦過程を記する)

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「ハマスとの戦闘のために住民を戦闘地域から避難させる」→「イスラエルはガザの民間人をエジプト北部のシナイ半島に避難させるように動く」→「第一段階では、シナイ半島にテントの町(複数形)がつくられ」→「次の段階はガザからの住民を支援する人道地域が創設され、市内北部に再定住のための都市が建設される」→「エジプトにつくられる再定住地とガザの間に数キロの無人地帯が設けられる必要があり、ガザ住民がイスラエル国境の近くに戻って、活動したり、居住したりできないようにする」→「加えて、エジプトに近いイスラエル国境地帯に防衛のための堡塁をつくる必要がある」。

こうした作戦計画のため、次のような作戦手順を明記している。

「1・住民にハマスとの戦闘地からの避難を求める

 2・第一段階ではガザ北部に攻撃を集中させ、住民が避難して、住民のまきぞえがない地域への地上戦を可能にする。

 3・第二段階では、地上戦によって北部と周辺の境界から徐々に軍事的に制圧して、最後にはガザ地域全域を制圧し、ハマスが構築した地下トンネルも制圧する。

 4・集中的な地上作戦の期間はA案、B案よりも短くなる。そのため、イスラエル軍が北の戦線とガザの戦闘にさらされる期間も短くなる。

 5・ガザの住民が南部のラファに避難することができるように、北部から南部に浮かう道路を使用可能にしておくことが重要である」。

これがシナイ半島への強制移住の前提となるシナリオであり、現在(2024年2月12日)、ガザーラファで起こっている事態そのものだ。だがしかし、ラファは書かれているような「避難」場所ではない。★★★そもそも「避難」などという言説はイスラエル国家権力による≪詐欺師的言い繕い≫であり、避難場所ではないことは、イスラエルが一番よく知っている。パレスチナ人をパレスチナから「追放」することが目的の虐殺なのだ★★★。ラファでは、現在100万人を超える避難民が存在しているが、すでに、イスラエルの空爆などによって、この数日間だけで、数十人規模の死者がでている。今後、犠牲者・被虐殺者は、もっと増加するといわれている。

 そして機密文書では、ガザ住民がラファの境界からシナイ半島へと向かうために、「エジプトは国際法上の義務を負う」などと主張している。また「避難民」を「移民」として「受け入れに協力」する「国際社会」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアの名を挙げている。以上だ。

ーーーーーー

まさに、イスラエルのガザ地区強奪のための、ガザ虐殺戦争がおこなわれているのだ。「ハマスからの自衛権」とは、今や全くの口実であり、それは、イスラエルとパレスチナ解放運動との一つの戦闘局面(敵の攻勢局面)を切り取り、利用した、全面的な虐殺戦争が「ダレット計画」を土台として組み立てられた、それ、として、まさに発動したのである。そういう戦争国家として、イスラエルは、戦後一貫して存在してきたのだ。

●ガザ沖油田開発と暴力的「資本蓄積」――戦争と収奪反対、Free Palestine!

こうした、ガザ虐殺戦争において、資本主義的「価値」としてどのようなことが分析されるかが、次の課題となる。

 第一にガザ住民がいなくなった土地にイスラエルからの「入植」が表明されている。第二に、更地となったガザをイスラエルが統治することが表明されている(「パレスチナ国家」否定の言説として)。第三に、ガザ沖油田開発に、ネタニヤフは、ガザ攻撃の当初から積極的に動き出している。そして、この資本蓄積は、「資本の本源的蓄積」を内包するものだ。それは、近代資本主義発生のための一回限り(エンクロージャー囲い込みなど)のことではなく、資本主義の転換期(恐慌、戦争、植民地支配など)においては、何回も繰り返し、おこなわれるという、例証に他ならない出来事だ。まさにこの戦争が、イスラエルにとって、新たな強盗的資本蓄積の開始をしめすものとなっているのだ。

 その構図を見て行こう。(つづく)




2024年2月5日月曜日

【第4回】イスラエルの軍事外交路線における交易関係 ーー【連載】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

 【連載】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!

【第4回】【イスラエル資本主義の軍事外交路線における交易関係】渋谷要

★最終更新 2024年2月5日。22:55 


【はじめにーー予告変更について】前回第三回のおわりに、第4回は「イスラエルのダレット計画(パレスチナ人追放計画)と暴力的な資本蓄積」について取り上げると予告をさせていただきました。が、その後、そうしたダレット計画などパレスチナ住民の追放計画をとりあげるまえに、そもそもイスラエルは、どのような経済政策、とりわけ他国家との交易政策を展開しているのか、そのことをとり上げる必要があるのではないか。そのことと連接して、イスラエルのパレスチナ追放計画をみる必要があるのではないか。ということで、今回【第4回】は、「イスラエル資本主義の軍事外交路線における交易関係」を見て行くことにします。

●UNRWAへの援助停止をした国々とイスラエル

  2024年1月、イスラエルは、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員(1万3000人)の内、「12人」が、2023年10月の「アルアクサ洪水作戦」に参加したとして、UNRWA全体に対する支援打ち切りなどの要求を、UNRWA支援の各国に要求した。これは、南アフリカの「イスラエルのパレスチナ攻撃はジェノサイドだ」というICJへの提訴と、これに対する、ICJのイスラエルに対する「仮処分」(内容は本論・前回【第三回】に明記)に対する、イスラエルの反撃と考えられるものだ。

 このイスラエルの提起を受け、UNRWAに対する「(一時)援助停止」を発表したのが合衆国、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、オーストリア、スイス、オランダ、イタリア、フィンランド、フランス、日本の十二か国(2月05日現在)。このUNRWAへの最大の援助国は合衆国、ドイツは2位、日本は6位(2022年)だ。

●イスラエル諜報機関の「情報」と「作文」

 政治分析の一般的な方法からいうならば、多数の人員を要するUNRWAのような機関には、当然、イスラエルのスパイもいれば、反米諸勢力の関係者もいるはずだ。こうしたなかで、イスラエル諜報機関が展開していることは明らかだろう。

 イスラエルの諜報機関で、ガザにおける情報取集活動は「シンベト」が担っているが、ハマスなどの2023年10月の「アルアクサ洪水作戦」を摘発できなかった。そのことについて、今回の軍事作戦が終了時、シンベトに対する調査をイスラエル政府は、準備している。これに対し、「シンベト」は、10月の「洪水作戦」後、この作戦の首謀者と参加者をせん滅する「ニリ」という組織をつくった。これは情報収集を基本とする捜査チームだといわれている。そうした組織が、こうした「情報」と「作文」(「12人の参加者」とか、1月29日のロイターが発信した記事などでは、「イスラエル情報当局」の発表としてUNRWAには「190人のハマス、イスラミック・ジハードのメンバーがいる」などの「情報」を流している(「ガザ国連職員190人 ハマスなどと関連の疑い=イスラエル当局」1月30日午前7:47報道)。本当かどうかは、追跡できないものだ)をつくっているのだ。

 だが、こうしたイスラエルの宣伝戦に、対応している、あるいは、それを根拠とし、利用しているのが、「援助停止」を表明した諸国だということだ。こうしたイスラエルの戦法は、イスラエルが展開してきた国際的な交易関係での、イスラエルとその他の諸国との★★政治の打ち合い★★として、常態化しているものでもある。

●多彩な交易関係

 イスラエルは、OECD加盟国だ。OECDは先進国間の意見交換・情報交換をつうじて、主要には「経済成長、貿易自由化、途上国支援」の三つの課題のために連携する国際機関だ。このメンバーであるということは、国際社会において先進資本主義国であることを認定されている国家ということになる。

イスラエルのGDPについてみてみよう。212か国中、ランキングは、2017年(32位)、2018(34)、2019年(32)、2020年(29)、2021(29)となっている。貿易では、2022年(イスラエル通関統計)で、輸出相手国が第一位合衆国、第二位中国、第三位インド、第四位イギリス、第五位アイルランドなどとなっている。輸入相手国では第一位中国、 第二位合衆国、第三位ドイツ、第四位スイス、第五位トルコとなっている。

もちろん、合衆国をはじめとする欧米各国とは、イスラエルは軍事援助・協力の関係にあるのが多数を占めている。これはいわずと知れたことだろう。イスラエルは合衆国をはじめ欧米諸国との間で自由貿易協定(FTA)を締結し、イスラエルにとって最大の貿易関係を形成してきた。★★だが、本論で問題としたいのは★★、イスラエルの交易関係は、親米一辺倒にとどまるものではないという点である。かかる一般的な経済交易関係をもテコとしつつ、中国やロシアなど欧米と対立・競争する、あるいは、インドなど欧米に対して友好的だが、距離もとっている「中立」的立場の国とも関係を構築してきているという点である。ここでは、軍事的交易について見て行こう。

JETRO (アジア経済研究所)の「中東レビュー」VOL5(2017-2018、2018年3月発行)というところに掲載された清水学氏(有限会社ユーラシア・コンサルタント代表取締役)という方の論考(「イスラエル経済:グローバル化と『起業国家』」、第二部産業政策とイノベーション)では次のようなデータ分析がある。

インドとの関係では次のようである。

「インドは世界最大の武器輸入国の一つであるが、2015年の全世界の武器輸入総額のトップの座となっている。……過去20年間インドはイスラエル製兵器の主要輸入国となって」いる。「インドが輸入しているイスラエル製兵器は、ミサイル、UVAと兵器システムである。また2016年11月に訪印したイスラエルのリブリン大統領とモディ首相の間で両国が兵器の共同生産に進むことで合意されており、単なる貿易関係に限定されていない。さらに2004年にイスラエル・ロシア・インド三国間取引が合意されており、それによるとイスラエルはインド空軍に11億ドルのEL/Wー2090レーダーを供与するとともに、ロシアはイリュージョンⅡー76プラットフォームにセットすることをかのうにするものとされる」等々だ。例えばこうした、軍事交易関係が展開されているのである。

ロシアとの関係では次のようである。

2009年以降、イスラエルとロシアとの軍事交易が活性化してゆく。「ロシアが特に注目したのは、イスラエル製無人機(ドローン)である」。2009年にはじまったドローンの購入は、2010年には4億ドルのドローンを購入した。また「2012年にはロシアでイスラエルウ・ドローンのアセンブリー生産が始まっている。これはロシア軍の仕様に供するものである。……2010年9月6日、ロシア・イスラエルは5年間の軍事協定を結んでいるのも注目される。ロシアとイスラエルは対シリアでは異なった政策を追求しているが、兵器を巡る貿易・協力関係は急速に進展していると見られる。」

このデータ分析が、発表されたのは、2018年前後だが、ウクライナ戦争でイスラエルはロシアと急速に関係が良好なものではなくなったといわれている。だが、こういうやり取りが展開されていたのは、間違いないことだ。

中国との関係では次のようである。イスラエルと中国との軍事協力は、すでに、冷戦期の1980年代に開始されていた。

「中国は米国・ソ連(ロシア)から入手できない兵器と技術をイスラエルに求めていた。今までイスラエルは約40億ドルの武器を中国に売却していたという推計もある。イスラエルは1990年代にミサイル、レーザー、航空機技術を中国に移転しているとみられる。米国はイスラエルによる中国へのファルコン早期警戒システムの売却を停止させている。1999年以降中国軍高官のイスラエルへの公式訪問が行われて」いる。「イスラエルは台湾との協力関係も中国に配慮しつつ制限している。パレスチナ問題などに対する政策は異なるが、兵器とハイテク貿易、軍部の相互交流などは着実に進展しているとみられる」。

このように、イスラエルは、アラブ反米勢力でなければ、こう言ってよければ全部と交易し可能な交易関係をむすぶことで、いろいろな対立を内包した諸国と重層的な関係を構築し、また、場合によっては、そういう対立をも利用しながら、イスラエル独自の国益を形成するという政策をとっていることがわかるだろう。その場合、交易関係をむすぶA国とB国が、対立をしていても、イスラエルとしては、関係ないものとして対応するということだ。

★★★イスラエルのUNRWAに対する「非難」(上述したように、それがどのようなものか検証は今もって不可能だが)に対して、上記の欧米諸国が、「一時援助停止」を、ほとんど即座に声明したことでも、わかるように、それは、欧米にとって、イスラエルを自分たちの仲間だと確信させることが必要だったのだ。

●UNRWAに対するイスラエルの攻撃はダレット計画(パレスチナ人追放計画)の一部だ

イスラエルのUNRWAに対する攻撃は、パレスチナ住民がパレスチナに生存するための救援物資を、停止させる・なくすための政策である。そして、パレスチナ住民を、シナイ半島へと追放する端的な第一歩をつくるものだ。まさに「ダレット計画」とイスラエル諜報省の「追放計画」の初期の方針といっていい。そしてイスラエルの右派は、ガザ地区に対するイスラエルの「入植」を表明しはじめている。断じてゆるすな!

次回【第5回】は、「パレスチナ人追放のダレット計画と暴力的資本蓄積」。