2024年2月5日月曜日

【第4回】イスラエルの軍事外交路線における交易関係 ーー【連載】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

 【連載】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!

【第4回】【イスラエル資本主義の軍事外交路線における交易関係】渋谷要

★最終更新 2024年2月5日。22:55 


【はじめにーー予告変更について】前回第三回のおわりに、第4回は「イスラエルのダレット計画(パレスチナ人追放計画)と暴力的な資本蓄積」について取り上げると予告をさせていただきました。が、その後、そうしたダレット計画などパレスチナ住民の追放計画をとりあげるまえに、そもそもイスラエルは、どのような経済政策、とりわけ他国家との交易政策を展開しているのか、そのことをとり上げる必要があるのではないか。そのことと連接して、イスラエルのパレスチナ追放計画をみる必要があるのではないか。ということで、今回【第4回】は、「イスラエル資本主義の軍事外交路線における交易関係」を見て行くことにします。

●UNRWAへの援助停止をした国々とイスラエル

  2024年1月、イスラエルは、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員(1万3000人)の内、「12人」が、2023年10月の「アルアクサ洪水作戦」に参加したとして、UNRWA全体に対する支援打ち切りなどの要求を、UNRWA支援の各国に要求した。これは、南アフリカの「イスラエルのパレスチナ攻撃はジェノサイドだ」というICJへの提訴と、これに対する、ICJのイスラエルに対する「仮処分」(内容は本論・前回【第三回】に明記)に対する、イスラエルの反撃と考えられるものだ。

 このイスラエルの提起を受け、UNRWAに対する「(一時)援助停止」を発表したのが合衆国、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、オーストリア、スイス、オランダ、イタリア、フィンランド、フランス、日本の十二か国(2月05日現在)。このUNRWAへの最大の援助国は合衆国、ドイツは2位、日本は6位(2022年)だ。

●イスラエル諜報機関の「情報」と「作文」

 政治分析の一般的な方法からいうならば、多数の人員を要するUNRWAのような機関には、当然、イスラエルのスパイもいれば、反米諸勢力の関係者もいるはずだ。こうしたなかで、イスラエル諜報機関が展開していることは明らかだろう。

 イスラエルの諜報機関で、ガザにおける情報取集活動は「シンベト」が担っているが、ハマスなどの2023年10月の「アルアクサ洪水作戦」を摘発できなかった。そのことについて、今回の軍事作戦が終了時、シンベトに対する調査をイスラエル政府は、準備している。これに対し、「シンベト」は、10月の「洪水作戦」後、この作戦の首謀者と参加者をせん滅する「ニリ」という組織をつくった。これは情報収集を基本とする捜査チームだといわれている。そうした組織が、こうした「情報」と「作文」(「12人の参加者」とか、1月29日のロイターが発信した記事などでは、「イスラエル情報当局」の発表としてUNRWAには「190人のハマス、イスラミック・ジハードのメンバーがいる」などの「情報」を流している(「ガザ国連職員190人 ハマスなどと関連の疑い=イスラエル当局」1月30日午前7:47報道)。本当かどうかは、追跡できないものだ)をつくっているのだ。

 だが、こうしたイスラエルの宣伝戦に、対応している、あるいは、それを根拠とし、利用しているのが、「援助停止」を表明した諸国だということだ。こうしたイスラエルの戦法は、イスラエルが展開してきた国際的な交易関係での、イスラエルとその他の諸国との★★政治の打ち合い★★として、常態化しているものでもある。

●多彩な交易関係

 イスラエルは、OECD加盟国だ。OECDは先進国間の意見交換・情報交換をつうじて、主要には「経済成長、貿易自由化、途上国支援」の三つの課題のために連携する国際機関だ。このメンバーであるということは、国際社会において先進資本主義国であることを認定されている国家ということになる。

イスラエルのGDPについてみてみよう。212か国中、ランキングは、2017年(32位)、2018(34)、2019年(32)、2020年(29)、2021(29)となっている。貿易では、2022年(イスラエル通関統計)で、輸出相手国が第一位合衆国、第二位中国、第三位インド、第四位イギリス、第五位アイルランドなどとなっている。輸入相手国では第一位中国、 第二位合衆国、第三位ドイツ、第四位スイス、第五位トルコとなっている。

もちろん、合衆国をはじめとする欧米各国とは、イスラエルは軍事援助・協力の関係にあるのが多数を占めている。これはいわずと知れたことだろう。イスラエルは合衆国をはじめ欧米諸国との間で自由貿易協定(FTA)を締結し、イスラエルにとって最大の貿易関係を形成してきた。★★だが、本論で問題としたいのは★★、イスラエルの交易関係は、親米一辺倒にとどまるものではないという点である。かかる一般的な経済交易関係をもテコとしつつ、中国やロシアなど欧米と対立・競争する、あるいは、インドなど欧米に対して友好的だが、距離もとっている「中立」的立場の国とも関係を構築してきているという点である。ここでは、軍事的交易について見て行こう。

JETRO (アジア経済研究所)の「中東レビュー」VOL5(2017-2018、2018年3月発行)というところに掲載された清水学氏(有限会社ユーラシア・コンサルタント代表取締役)という方の論考(「イスラエル経済:グローバル化と『起業国家』」、第二部産業政策とイノベーション)では次のようなデータ分析がある。

インドとの関係では次のようである。

「インドは世界最大の武器輸入国の一つであるが、2015年の全世界の武器輸入総額のトップの座となっている。……過去20年間インドはイスラエル製兵器の主要輸入国となって」いる。「インドが輸入しているイスラエル製兵器は、ミサイル、UVAと兵器システムである。また2016年11月に訪印したイスラエルのリブリン大統領とモディ首相の間で両国が兵器の共同生産に進むことで合意されており、単なる貿易関係に限定されていない。さらに2004年にイスラエル・ロシア・インド三国間取引が合意されており、それによるとイスラエルはインド空軍に11億ドルのEL/Wー2090レーダーを供与するとともに、ロシアはイリュージョンⅡー76プラットフォームにセットすることをかのうにするものとされる」等々だ。例えばこうした、軍事交易関係が展開されているのである。

ロシアとの関係では次のようである。

2009年以降、イスラエルとロシアとの軍事交易が活性化してゆく。「ロシアが特に注目したのは、イスラエル製無人機(ドローン)である」。2009年にはじまったドローンの購入は、2010年には4億ドルのドローンを購入した。また「2012年にはロシアでイスラエルウ・ドローンのアセンブリー生産が始まっている。これはロシア軍の仕様に供するものである。……2010年9月6日、ロシア・イスラエルは5年間の軍事協定を結んでいるのも注目される。ロシアとイスラエルは対シリアでは異なった政策を追求しているが、兵器を巡る貿易・協力関係は急速に進展していると見られる。」

このデータ分析が、発表されたのは、2018年前後だが、ウクライナ戦争でイスラエルはロシアと急速に関係が良好なものではなくなったといわれている。だが、こういうやり取りが展開されていたのは、間違いないことだ。

中国との関係では次のようである。イスラエルと中国との軍事協力は、すでに、冷戦期の1980年代に開始されていた。

「中国は米国・ソ連(ロシア)から入手できない兵器と技術をイスラエルに求めていた。今までイスラエルは約40億ドルの武器を中国に売却していたという推計もある。イスラエルは1990年代にミサイル、レーザー、航空機技術を中国に移転しているとみられる。米国はイスラエルによる中国へのファルコン早期警戒システムの売却を停止させている。1999年以降中国軍高官のイスラエルへの公式訪問が行われて」いる。「イスラエルは台湾との協力関係も中国に配慮しつつ制限している。パレスチナ問題などに対する政策は異なるが、兵器とハイテク貿易、軍部の相互交流などは着実に進展しているとみられる」。

このように、イスラエルは、アラブ反米勢力でなければ、こう言ってよければ全部と交易し可能な交易関係をむすぶことで、いろいろな対立を内包した諸国と重層的な関係を構築し、また、場合によっては、そういう対立をも利用しながら、イスラエル独自の国益を形成するという政策をとっていることがわかるだろう。その場合、交易関係をむすぶA国とB国が、対立をしていても、イスラエルとしては、関係ないものとして対応するということだ。

★★★イスラエルのUNRWAに対する「非難」(上述したように、それがどのようなものか検証は今もって不可能だが)に対して、上記の欧米諸国が、「一時援助停止」を、ほとんど即座に声明したことでも、わかるように、それは、欧米にとって、イスラエルを自分たちの仲間だと確信させることが必要だったのだ。

●UNRWAに対するイスラエルの攻撃はダレット計画(パレスチナ人追放計画)の一部だ

イスラエルのUNRWAに対する攻撃は、パレスチナ住民がパレスチナに生存するための救援物資を、停止させる・なくすための政策である。そして、パレスチナ住民を、シナイ半島へと追放する端的な第一歩をつくるものだ。まさに「ダレット計画」とイスラエル諜報省の「追放計画」の初期の方針といっていい。そしてイスラエルの右派は、ガザ地区に対するイスラエルの「入植」を表明しはじめている。断じてゆるすな!

次回【第5回】は、「パレスチナ人追放のダレット計画と暴力的資本蓄積」。