2019年8月22日木曜日

実録物語・リーマンショック(サブプライム恐慌)10~11周年 渋谷要



実話物語・リーマンショック(サブプライム恐慌)10~11周年
渋谷


★これは、半分以上未発表のもので、
当時、ノートとしてつくったものです。
このノートから、二つぐらいの既出論文を書いています。

★既出論文では、資本の動向の分析(経済評論家の方々などが、各誌で、論じられている対象となるもの)は、ほとんど、省略していますが,
このノートでは、そうした前提となるものも、論じており、また、リーマンの破産のプロセスも、描写、しています。

★★数字は、すべて、当時のものです。


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サブプライム問題の展開図

アメリカの大不況は09年も深刻化さをましてゆきつつある。130日、ニューヨーク市のブルームバーグ市長は、08年のウォール街の大手金融機関による損失額が472億ドル(42500億円)との推計を発表し、07年半ばからみて106月までにウォール街金融機関で働く約46000人の労働者が失業し、08年半ばとの比較で10年までに市全体で約30万人が失業するおそれがあると表明した(時事通信社1・31電子版)。



日本でも厚生労働省が130日、093月までの半年間に失職を余儀なくされたか、される派遣・非正規雇用労働者が12万4802人に上るとの調査結果を発表した。仕事を奪われた人は0811月から3ヶ月で4倍にふくれあがったとしている。中途解除、解雇5万人、雇い止め6万人。住居をなくした人は、2675人になる。

自動車産業、その関連産業をはじめ、大手メーカーはのきなみ業績不振を理由に労働者への解雇攻撃をつづけている。

ソニー16000人、トヨタ自動車7000人、日産2000人、ホンダ1200人、マツダ1200人などをはじめとする大量解雇などといったようにだ。





089月のリーマンブラザース経営破たんから始まったとされる今回の大不況は、米のダウ平均株価がリーマン破綻時で1万900円台が一ヵ月後には8千ドル台に急落。日本でもリーマンショック時では、日経平均株価12千円台が、現在では7千円台に下落している。新車販売台数では47万台が、38万台になり、鉱工業生産指数(05年=100)では、105.6が、75・8に落ち込んでいる。



まさにアメリカの金融危機からはじまった大不況は、グローバル化した日本の自動車産業や電気産業などをまきこみ、一挙に日本に飛び火した。例えば自動車の生産・販売台数の減少は、自動車部品では、鉄工業の鋼材生産の減少、石油化学製品や電気電子機器、ガラス・紙・パルプ部門に波及し、中小下請けの部品工業・機械工業への受注の縮小、車を海外に運ぶ海運業の減などとして影響してゆく。さらに自動車の販売では、リース・広告、運輸・倉庫関連、金融・保健、機械修理などの部門、燃料部門、不動産部門などに波及してゆく。このように産業は複合的に関連しているので、全社会的に銀行の貸し渋りなどがつよまり、給料の減少、解雇、倒産などをまねき、消費行動が抑制され、日用品などの売り上げが落ち込む。こういう連鎖をつうじて、売れない、買わない、作らないという循環ができあがってしまうのだ。



GMを例にとると、0812月の決算での売上高は約146千億円で純損失約3兆円、全世界の販売台数は前年比11%の減益とGMは発表している。またトヨタは、09年度3月期の業績予想では、営業損益の赤字が4500億円に拡大すると表明している。欧米での販売台数の落ち込みと、アメリカでの自動車ローン貸し倒れなどでの損失が最大の要因だ。トヨタの売り上げ一兆円減は日本経済全体で3兆円強の売り上げ減につながるといわれている。



★サブプライム・ローン問題をつうじた信用収縮は、金融機関の貸し渋りを構造化させ市場に打撃を与えた。銀行は国際的な公式の基準で、貸し出しの上限を自己資本(株式発行などで調達した資金と積立金・準備金の合計)の12・5倍までとされている。100億円の自己資本を持つ会社では1250億円まで貸し出せる。だが、貸出金の内50億円が焦げ付いき、その処理で50億円自己資本を使えば自己資本は半分の50億円になる。これは貸し出し額がこれまでの半分の625億円に減少することになる。だから銀行は、焦げ付き・貸し倒れ、不良債権化などを予測し、融資基準を見直し貸し出しを制限するようになる。



例えば受注の大幅な減少で資金繰りに困った企業は、預金を取り崩す。給与準備などでの借り入れが続出するが不良債権化が予想される。こうして銀行は貸し渋りを強めるのである。こうして信用収縮は経済の社会的再生産に打撃をあたえてゆくのである。



このようなアメリカ発経済危機といわれるこのたびの事態とは何か、なぜ、いかにどのように生み出され、どのような危機として進行しているのかが、とわれなければならない。



サブプライム・ローン問題とは何か



まず確認しなければならないことは、今次金融危機が、何かの自然現象ではなく、アメリカ資本主義権力者たちがこの間展開してきた政治経済政策の帰結としてあるということを見ておかなければならない、ということである。



アメリカ・ブッシュ政権は、住宅バブルを軸としてアメリカの経済成長をすすめようとした、これが始まりだ。ブッシュ政権は経済成長の主要な割合を住宅市場に依存しており、これから見るように、その大部分は住宅金融に依存していた。



それは同時に政治的にはアメリカの「対テロ戦争国家」化を経済的に支えるものとして、また経済主義的な国民統合としての意味を持っていた。しかし2006年秋以降、住宅の過剰生産に対し住宅の購入が限度に達し反転下落しはじめ、またアメリカのインフレ傾向に対するFRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め政策の発動をつうじて、利上げによりローン金利も上昇した結果、債務不履行としてサブプライム・ローンの焦げ付きが激化し、住宅バブルは崩壊した。



最初、住宅バブルはフロリダなどのリゾート物件を購入していた富裕層によって推進されていた。だがプライム・ローンで上向いた住宅ブームを通じ、過剰生産傾向を示した住宅建設ラッシュに対応すべく、クレジットスコア(アメリカでおこなわれている消費者の過去の借入と返済の履歴。スコアが低い借り手は信用力が低い)の低い人々に対してサブプライム・ローンを販売することで、住宅ブームを下支えさせようとするようになっていった。

サブプライム・ローン資格とは「過去5年以内に破産宣告を受けている」とか「返済負担額が収入の50%以上」などであった。このようなサブプライム・ローンにより、850万世帯のサブプライム層が購入したのである。



このようなことが可能となったのはノンリコース(非遡及貸出債権)制度、つまり借金している人は担保を差し出せば借金は免除されるという、アメリカの制度に根拠をもっていた。



経済学者の分析――サブプライム層の動員と過剰生産



伊藤誠((『情況』09、12月号、伊藤誠「サブプライムから世界金融恐慌へ――マルクスの逆襲」))はつぎのように分析している。



資本主義的金融セクターの中枢部をなす大手銀行が、住宅金融などの消費者金融の拡大に積極的に進出し、広く労働者階級を重要な貸付対象としてとりいれる傾向を強めてきている。その結果」「労働力の代価としての賃金所得にかなりの元利払いの負担をおわせ、搾取・収奪を重ねる社会経済機構が、資本主義の中枢に広く形成されたのである」。



「いわば労働力の商品化による剰余労働の搾取に、労働力の金融化による重層的搾取が現代的に組織される傾向がみとめられる」。



2001年からの景気回復に向けての低金利を利用したアメリカの国内金融の拡張は、さらに大規模に労働者階級への住宅金融を中心とする消費者金融に注力する特徴をもっていた」。



つまりここで伊藤氏がいっていることのポイントは、「労働力の金融化」ということだ。



労働者は資本家に「労働力」という「商品」を売り、それを買い取った資本家は、その労働力を「資本家の生産力」として工場・職場生産点で使用する。そこで資本家は生産設備や労働力の購買にかかった資金の回収以上の富、収益をあげるための生産として、労働者に利益還元されない資本家だけが所有する、いわゆる剰余価値の産出のための商品の生産を組織する。この剰余価値が搾取されることと引き換えに、労働市場で得る賃金をば、住宅ローンの支払いというかたちで、資本が収奪するということが広汎におこなわれるようになったということだ。



「そのさいサブプライム層(信用力があるプライムローン対象者でない人びと)への住宅ローンが、新たな市場として開拓され積極的に拡大されて、のちにサブプライム問題を生ずることになった」のであった。



全米規模の住宅ローン販売



ここでサブプライム層のローン利用の規模を確認しておこう。



「サブプライムローンは2001年以降に急増し、2008年には実行ベースで住宅金融の20%、総残高の13%(実額で1・7兆ドル)を占めるにいたる。サブプライムローンの標準モデルは20万ドルとされているから、残高からみれば、850万世帯(アメリカにおける一世帯平均ほぼ3人をこれに乗ずれば約2550万人)のサブプライム層が、住宅ローンを負っていたことになる。住宅ローンの総額13兆ドルの全体をとり、平均かりに40万ドルのローンが組まれているとすれば、3250万世帯(三倍すれば)アメリカの全人口約3億人のほぼ三分の一が住宅ローンによって新居をえたものと思われる。」(伊藤、前掲、この節の引用はすべて伊藤論文からのもの)



ものすごい規模だということがわかるだろう。ピーク時では住宅着工件数は、年間200万戸にたっしているのである。こうした住宅ローンの展開は、それじたいが、「アメリカンドリーム」の夢を売るというような内容での、全国民的な経済主義的国民統合の意味をもつものに他ならない。



だが、「2006年秋以降、10年にわたる住宅価格の上昇が、停滞的な大衆の所得との比較で限度に達し、反転下落しはじめたときに、一転してグローバルな金融危機を生ずるにいたる。それは、アメリカの住宅金融が、各種の抵当担保証券(MBS)に組成されて(後述する――引用者)、グローバルに転売され、世界中の金融機関に大量に保有されていたからである」。



そうして住宅バブルは破綻したのである。



つまり「世界的な規模で各国の金融諸機関、年金基金、保険基金、投資信託基金、ヘッジファンド、さらには政府・自治体の投資運用基金などにまで売り込まれ」たが、「住宅市場の価格の反転下落とともに、2007年以降あいついで債務不履行におちいる構成部分を増していった」のである。



住宅ローン購入者は「期待していた担保住宅の値上がりも所得の上昇も実現しない場合」、例えば「ローン20万ドルへの月々の返済額がたとえば1-2年目の1531ドルから5年目には2370ドルへ大きく増大し」それによって「返済不能となり、期待していた住宅価格の上昇による借り換えもまったく望めなくなり、住宅の差し押さえにあって追い立てられる人びとの数が優に100万人をこえて増大し続け、社会問題となって」いった。



一言でいうなら住宅建設にも「労働力の金融化」にも限界があったということである。



これらがサブプライム問題それ自体の顛末である(この損害の度合いは後述する)。



その場合、問題を深刻化したのは、住宅ローン債権を証券化し販売したことである。つまり住宅金融会社は、サブプライム層の動員としてあるサブプライム・ローンは、債務不履行(デフォルト)リスクが高い、ハイリスクであるということはわかっていた。だからリスクを分散させるべく、さまざまの証券化商品に加工し転売したのだ。



錬金術的手法としてのRMBS・ABSCDOの発行



サブプライム・ローンを組み込んだ証券化商品、まさに債務担保証券(CDO、コラテライズド・デット・オブリゲーション)などの証券化商品は、すこし言い方は悪いかもしれないが、サブプライム・ローンという鳥インフルエンザにかかった肉を他のローン、債権などと組み合わせ、混ぜ合わせて売り出したミンチ肉商品に他ならない。



その生成のプロセスは次のようである。



「銀行や住宅金融会社は、プライム・ローンからサブプライム・ローンまでのさまざまなローンを束ねて住宅ローン担保債権を証券化するこれを投資銀行に販売する。これにより、ローン回収権利は投資銀行に移転する。

 

投資銀行は住宅ローン担保証券に他の債権(自動車ローン債権や一般企業への貸出金など)を加えて、新たな証券化商品(再証券化商品)(これがCDOなどの証券化商品である――引用者)を作り、これを保険会社やヘッジファンド、投資信託や年金基金などの投資家に販売する。



これにより、住宅ローンのデフォルト・リスク(債務不履行リスク)は最終的に投資家に移転、投資銀行はローンのデフォルト・リスクを回避することが可能となる」(新保恵志『金融商品とどうつき合うか――仕組みとリスク』岩波新書)という仕組みだ。



もう少しくわしく見ていこう。



住宅を購入する消費者は資金をうるため、金融機関から融資をうけて住宅ローンを組む。住宅ローンは貸し手からさらに大手の貸し手へと売却される。貸し手はローンを売却した資金によって他の融資に資金を回すことができる。売却された住宅ローンは投資銀行が集約し住宅ローン担保証券」(MBS=モーゲージ・バックト・セキュリティ)」として販売される。



 こうして証券化商品、RMBS(レジデンシャル・モーゲージ・バックド・セキュリティー、不動産を担保としたローンであるモーゲージ証券の一つで、不動産担保融資の債券を裏づけにつくられた証券)や、ABS=アセットバック証券(アセット・バック・セキュリティーズ)などとして資産担保証券化されるのである。



こうした住宅ローン担保証券は格付けされる。



〈 住宅ローン証券化商品のうち原債権が「プライム」であるため、優良部分とされるものでできたものがシニア債。これがAAA(トリプルA)である。これに対し、プライムにサブプライムを含んだ証券化商品はメザニン債でAA、BBB。サブプライムを原債権とするものはエクイティで、BB以下のジャンク(がらくた)債である。



またRMBS、ABSを集約した投資銀行・金融機関はさらに次のように加工した。



かかる証券化商品のなかの、リスクがかなり高い部分を、細かく切り分け、他の債権、例えばクレジットカード債権、商業用不動産、企業向け貸出、破綻する可能性の高い会社の社債(ジャンク債)や、自動車ローン債券などがくみあわさった各種の証券化商品CDO(債務担保証券コラテライズド・デット・オブリゲーション)を作成したのである。



この証券も格付けされる 〉(以上の証券化プロセスについては中空麻奈『早わかりサブプライム不況』朝日新書、水野和夫『金融大崩壊』NHK出版生活人新書、堀紘一『世界連鎖恐慌の犯人』PHP、新保恵志『金融商品とどうつき合うか』岩波新書などを参照せよ)。



この混合の意味だが。



「それぞれ異なったリスクを持つデリバティブなど各種証券類が、数多くあつめられているところがミソになっている。これらすべてが同時に悪い方向に動くことはない。少なくとも理論上はない。すると、CDOは全体としてボラティリティ(上下の変動幅――引用者)が、抑えられ、金融商品としてのリスクが低減するわけである」(堀紘一前掲)ということになるわけである。



「CDOを格付け会社に持ち込めば、見事にボラティリティが抑えられているため、AAAなどの高い格付けを与えてもらえる。CDOの中身のサブプライム・ローンがいくらハイリスクで、いくら低い格付けのものであっても、そんなことはまったく関係ない。CDOそれ自体は、AAAの評価を与えるにふさわしい金融商品なのだ。高い格付けをもらってしまえば、あとは、売り歩くだけである」。格付けがよいわりに利回りもよい設計なので、「CDOは世界各国で売られたが、日本では地銀などがよく買っていたようだ」(堀紘一前掲)ということになったのである。

金融機関・投資会社はこうして保有したCDOを販売した。



さまざまの債務者から回収された資金は集約されたのち、そこから証券化商品の債権保持者に配分される。だが債権をローンプールにあつめ、証券化商品に加工してゆくやり方は、投資家にとっても重大な問題があった。



「証券化証券に投資する投資家にとって、対象証券のリスクが見えにくい点も、大きな問題といわなければなりません。株式、社債、国債などの投資物件は背景にある企業、国の姿を具体的に観察することができますが、様々な住宅ローンがプール化された債務全体を厳密に査定するのは不可能に近いといえます。債権のプール化を通じてリスクを薄めますが、同時にリスクを曖昧にしている点に注意しなければなりません」(証券アナリスト・大田登茂久『手にとるように証券化がわかる本』かんき出版)ということだ。



CDOは「請求書」の福袋



この債権とはいわば、「請求書」のことである。このようなCDO(コラテライズド・デット・オブリゲーション)などの債権の証券化商品とはいろいろな「請求書」を細かくわけて、セットにしたものにほかならない。



次のような比喩による説明を紹介しよう。



「証券化を活用する金融機関は、ツケで飲む客が多い飲み屋のようなものである。なじみの客が増えるのは結構だ。だが、ツケはあくまでツケである。請求書を現金代わりにして仕入れの代金を払うわけにはいかない。店を拡張するための設備投資にも使えない。しかも、請求書の山には必ず貸し倒れの危険がつきまとう。

 そこで、飲み屋は一計を案ずる。たまった請求書を切り分けたり束ねたりして、たくさんの福袋をつくるのである。その福袋を町中の人びとを相手に売りまくれば、飲み屋の手元には福袋代という形の現金収入が入ってくる。同時に貸し倒れリスクも福袋の買い手に転化することが出来る。請求書の山が突如として現金に化けるは、リスクは人に押しつけられるは、これぞまさしく、金融錬金術だ。

このツケの福袋が、要するに債権の証券化商品である。飲み屋の福袋作戦は、要するに手元にたくさん溜まった一対一の個別債権の金額を合算し、その総額を担保に不特定多数を相手とする証券を発行するというやり方なのである」。

このような形で発行される福袋に、「例えば「債務担保証券」(CDO)があった。「債務弁済準位の高い債権を担保に発行される「シニア債」から、弁済準位が劣後する債権が裏打ちの「劣後債」まで、リスクの度合いに応じて福袋が用意される方式だ」

だが、ここからが問題だ。

「福袋を買った町中の投資家たちが、中身の焦げつきで、次々に大損を蒙っていけばどうなるか。福袋の買い手に対して、その購入資金を用立てた人々がいるかもしれない」。その人も損をする。さらに、福袋を売り出した飲み屋が一軒でなく、たくさんな場合、このような福袋がどれだけ出回っていて、そのうちどれだけが実際の危険を含むのかわからなくなってしまう。



こうなってくると、福袋の損失をうめようとしてカネを借りる人に、カネを貸す人はいなくなる。だれとも取引をしない方が安全だとなる。この町の経済は完全に行き詰ってしまう。(浜矩子『グローバル恐慌――金融暴走時代の果てに』岩波新書)

こうして危険な「請求書」の切り売りをあつめた福袋たる債権化商品は一挙に価値を喪失してしまったのである。



まさにムーディーズなどの格付会社をして、「トリプルA」などの格付けをもたされた証券化商品を、国際的にさまざまな金融・証券機関が買いあさったのだ。



このCDOには、その債務不履行(デフォルト)に対する保険商品として、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が対応していた。



CDSの負の連鎖――AIGの場合



CDSとは次のようなシステムだ。

「銀行AがB社への一億円の貸出金(債権)を保有していたとしましょう。銀行Aは、B社の決算の分析などをしているうちにB社が本当に貸出金を返済してくれるかどうか心配になってきたとします。そんな場合に、銀行Aの心配を取り除いてくれるのがCDSです。いわば『倒産保険』みたいなものです。仕組みはこうです。CDS契約を結ぶのは銀行Aと金融機関Cです。仮に契約期間を5年とすると、銀行Aは金融機関Cに毎年、貸出金の1%に当たる100万円を『保険料』として払います。B社が倒産しないまま生き残れば、保険料は金融機関Cの利益になります。銀行AにとってCDSの効果が発揮されるのは、B社が倒産した場合です。仮に契約最終年の五年目にB社が倒産し、銀行Aが一銭も貸出金を回収できなかったとすると、金融機関Cは「保険金」として元本の一億円を銀行Aに支払うのです」(中空麻奈、前掲)。

この保証によって銀行Aは、貸し渋りなどをすることなくリスクから逃れられる。CDSの利用者は07年には62兆ドル(約6200兆円)にまで拡大した。



だが、こうしたCDSをあつかう、アメリカ最大の保険会社AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)はこのCDSの支払い不能によって経営破綻に直面したのであった。



この顛末は次のようである。

「AIGはCDS契約を引き受けることで保険料の受け取りが積み上がり、利益が伸びます。「保険料」を支払う必要がないからです。

ところがサブプライム危機が起こると事態は一変しました。まず、ハプニングが発生します。米住宅金融公社(GSE)が20089月に政府管理下に置かれることになりましたが、そのさい国債スワップ・デリバティブス協会(ISDA)が何とそのことを「倒産」に該当する事象が起こったと認定したのです。ISDAは、CDS契約で何が倒産事由に当たるかを中立の立場で決める公的な機関です。倒産事由に当たると認定すれば、CDS取引で支払うべき「保険金」の金額のもとになる清算価格も決定します」。

こうして「GSE債に「保険」をかける意味でCDS契約を結んでいたプロテクション(保護――引用者)の買い手に、AIGは保険を支払わなければならなくなったそこへリーマンの破産がおきます。もはやこれは、AIGにとっては非常事態以外の何者でもありませんでした。AIGはリーマンを対象にしたCDS契約を多く引き受けていて、保険金の支払いが急膨張することが確実になってしまったからです。」「AIGが破綻に追い込まれたら、どうなるでしょう。AIGとCDS契約を結んでいた相手方は、それまで信用リスクをAIGに移転していたと信じていたのに、それが移転できていなかったことになります。つまり、リスクは相手方にあり、その相手方の信用リスクが増してしまうことになります。仮に、相手方が別のCDS契約ではプロテクションの売り手になっていたとしたら、相手方の信用リスクが増大することは、そのプロテクションの買い手にとっても信用リスクが上昇することになってしまいます」。

そこからくる信用リスクの増大により、「次から次へと続く信用リスクの悪循環が起こってしまいます。これは最悪の場合、AIGが破綻したら、他の金融機関も支払い不能になる連鎖倒産の可能性さえありました。こういうことが予測されたため、米当局は救済を決めたのです」(中空麻奈、前掲)と。



まさにかかるCDOの破綻は、CDSを発行した金融機関などにCDS契約による損失補償のための支払いのため、資金繰りを増大させたが、そうした支払いができなくなったCDS発行金融機関・保険会社などの破綻が展開されていくことになったのである。リスクを回避するために開発された金融商品であるデリバティブが、リスクのバネに転化したことになる。



こうしたサブプライム・ローン証券化商品の暴落は、他の自動車ローンなどの破綻――これらローン債券の不良債権化に展開し金融機関の経営危機を招来することとなった。例えば、そのことは自動車をローンで買うために住宅ローンを担保にするというようなケースが増大したためである。ホームエクイティローンという住宅の正味価値を担保にした使途自由のローンにより、住宅価格が上昇しているときには、そこから資金を借りることができ、その資金で自動車ローンをくむことができたのである。

こうしたことがマイナスに連鎖することによって、自動車バブルも崩壊したのである。



経営破綻の展開



まさにこのように、住宅バブルの崩壊で債務者の債務不履行の激発をつうじた、証券の不良債権化をつうじ、関連証券を扱っていた証券・金融会社は損失、倒産の危機にいたった。



20087月には、米国最大手の住宅金融会社、連邦住宅金融公庫(ファニイメイ)と連邦住宅貸付公社(フレディマック)が経営破たんした。そして大手証券会社リーマン・ブラザーズの倒産を通じ国際的に各国の株式市場に打撃をあたえ世界的な危機を醸成させているのだ。そして9月、連邦住宅金融公庫(ファニイメイ)と連邦住宅貸付公社(フレディマック)は事実上国有化した。

この9月、大量の不動産資産・資産担保証券(6300億ドル相当)を保有・運用していた大手証券会社(株式・債券のセールス、投資銀行業務など)リーマン・ブラザーズが倒産。同社の債券などを保有する銀行に大規模な損失が発生した。



破綻への展開ケーススタディ



リーマンは08年、6―8月期、不動産関連の評価損約6000億円(56億ドル)を出して約4200億円の赤字を計上した。このため資産売却の検討に入った。この年の7月MBSの格下げ(ムーディーズ)が大きく影響したのである。

7~8月、リーマンが住宅ローン関連で巨額の評価損を出した事に対し、ムーディーズは「リーマンの長期債務格付け(債務履行能力の度合い)の格下げ」を発表した。リーマンは「商業銀行の保有するトリプルAのMBS3800億ドルでうち1100億ドルに、また海外投資家の保有額4130億ドルの内1180億ドルにリスクがある」と表明。これらをつうじて9月にはリーマン株が急落。S&Pなど格付け会社がリーマンを格下げし、ムーディーズが「リーマンの格付け維持には過半数株売却や身売りが必要」と表明。こうしてリーマンは破産したのである。

このリーマンショックでのCDS保険の支払いの困難化問題などでAIGの経営が危機に陥り、AIGは政府管理下に入り、連邦準備銀行から5年間600億ドル融資、150億ドルの公的資金投入を受けることになったのである。

日本への影響も大きかった。日本の大手銀行は、リーマンへの融資で推計27億ドル2900億円の債券を保有していた。その一部のみの回収しか見込めなかった。また地銀への影響も大であった。



まさに世界には日本の国家予算をこえる100兆円のCDOが流出している。アメリカの住宅金融会社は100社以上が倒産、米最大の銀行シティ・グループは破綻の危機に直面し公的資金投与をうけた。メリルリンチなどは経営破たんしバンク・オブ・アメリカに吸収された。

また特別目的会社として親会社からの出資や、大量に保有したCDO、RMBSを担保にABCP(資産担保コマーシャルペーパー)を発行し短期資金を調達していたSIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル。銀行がリスク資産を消すために会社本体と分離させることを狙った事業体で、07年危機以降、自力での資金調達ができなくなったため銀行本体に解消した)にも経営破たんが続出した。



例えば日本でもみずほ銀行は20075月に保有していた500億のサブプライム保有額を9月には1000億に増加させた、こうして多額の損失を出している。野村證券もそうだ。日本全体では1兆3000億のサブプライム・ローンが保有されているといわれているが、6000億円からの損失(2008年次推計)が予測されてきたのである。



こうして起こった世界金融危機をつうじた大不況、グローバリズム的連鎖、日本も自動車業界や大手電気メーカーの不況と解雇攻撃にはじまる大不況の波にさらわれているのである。



ブッシュの戦争政策のための経済主義的国民統合の破産



同時にこのことは低所得者層に、むりやりの押し売りをも含んだサブプライム・ローンの強力な販売をつうじ、「労働力の金融化」をもって、労働者階級からの金融的収奪を土台に、住宅バブルをつづけ、対テロ戦争国家の経済成長をつづけ、また、住宅バブルをつうじた経済主義的国民統合を展開しようとした米帝国主義の経済的な失策にほかならない。

ブッシュ政権はまさに、このサブプライム危機によって陥没したのであった。



「カリフォルニア、フロリダ、ネバダはすごい状態です。30~50%の住宅ローンが担保価値割れした水没状態です。オバマに投票した激戦区のいくつかは水没状態。経済危機がいかに深刻か、個人に打撃を与えているかが見えます」(金子勝「金融資本主義の終焉」『情況』09・1-2月号)。



まさにオバマ政権による戦争政策・経済政策の一定の転換(イラク撤兵政策、排ガス規制などを先鞭としたグリーン・ニューディールなど)はそれをうけての、景気回復策にほかならない。



金融工学のこのような破産は、市場における貨幣供給量をより大量につくりだすことが、限られた富を、最大多数の人々に平等に分配することになるというマネタリズムの考え方にもとづき、その考えを金融取引において組織したものだということができる。



そして、まさにこのような金融工学の破産によって現出した金融危機の結果、生産は過剰生産となり、資本の過剰=商品の過剰という現象、大不況が現出してしまったのである。



アメリカの成長神話の破産



その破綻の問題の根幹には、資本主義の必然的な景気循環がはたらいている。



住宅バブルの前には、IT景気などにささえられたニューエコノミーブームがあった。そこでは、〈生産性の上昇によって米国経済からは景気循環が消失してしまい、インフレなき長期景気拡大が実現、情報技術の発展による在庫管理の効率化、規制緩和による企業間競争、労働市場の柔軟化などが理想的な経済構造をもたらした〉とされる、ニューエコノミー論が登場した。



(例えばこうした考え方は、金融工学の前提でもある。CDOなどの証券化商品の考案は景気の上向きがずっとつづくという設定でしかなされないものだった。景気下降のなったときの反転が考慮されないことになる)



住宅・不動産ブーム――サブプライム・ローン政策は、このような経済成長の心理にも支えられながら、市場原理主義をつうじ貨幣供給量の回転をあげる、収益の流動性、貨幣流通をアップさせてゆくという考え方にもとづき、証券化商品にみられるような投機資本主義を展開してきたのである。



しかし、こうした投機資本主義もまた、その実体の力量は、剰余価値の搾取による資本蓄積を土台とする以外ない。今回のサブプライム問題における「労働力の金融化」(の限界)とその破産という場面こそは、その実質的資本蓄積が資本主義の運動をあくまで、規定しているのだという、そのことを明確に示しだしたのである。



そしてこのような金融危機はアメリカが、日本や中国に国債をかわせるなどして世界から集めてきた資金を、アメリカの金融市場で増殖して、これを国外に流出させ、投資を誘導してゆくというサイクルを機軸として、ドルの基軸通貨性を確保してきた、そのサイクルの破綻の危機が現出してしまっていることを意味する。



過剰生産力の形成(過剰資本)を根幹とした景気循環の必然性



そもそも資本主義は、好況期の生産力の過剰にもとづく景気循環をのがれることはできない。



そこでマルクスがつぎのようにのべていることは、確認しておこう。

「信用の発達につれて生産過程をその資本主義的制限を乗り越えて推進することの必然性、過剰取引や過剰生産や過剰信用が発達せざるをえないのである。それと同時に、これはまた、つねに、ある反動を呼び起こすような形で起こらざるをえないのである」(『資本論』第三巻、マルクス・エンゲルス全集25b)。

つまり資本主義の過剰生産とそこからくる反動としての、歴史的にいろいろな状態を示しだす恐慌や不況は、それこそが資本の運動なのである。そのようなものの一つとして住宅バブルの崩壊から大不況への展開ということが現象してきた。その様相は、以上にわれわれが見てきたとおりである。



ここでマルクス経済学の経済学原理論でいわれている景気循環の代表的なシナリオを書いてみる(拙著では社会評論社刊『アウトノミーのマルクス主義へ』「第二部1.「資本の専制賃金奴隷制と資本の労働処分権」参照)



好況期における過剰生産の展開によって、設備費や賃金の上昇によって、資本家の利潤になる部分の割合(利潤率)が相対的に低下することに対応することからも、利潤部分を引き上げようとする資本は、銀行からの借り入れをもって過剰生産を続けようとする。だが過剰生産には限界がある。販売は頭打ちとなる。結果、銀行は産業資本家への資金の貸し出しを抑制(利子率の上昇という形で)する。商品交換はすべて産業間でいろいろ連関しているから、全社会的な商品の過剰、資本の過剰などを現象し、投売りがはじまり、最後は経済は麻痺、恐慌が起こる。



このように資本は何らかの理由で過剰な資本投下による過剰生産をつづけることになるのである。



これにつづく不況期には合理化と労働賃金の低下を根拠に、資本は生産設備などを刷新し、過剰生産力を消化する市場をつくり、新たな資本蓄積を開始しようとする。不況期から好況期への過程では不況期に排除された労働力を雇い入れ好況期を準備する。それは、資本が利潤をよりおおく生産するためになされるが、ふたたび過剰生産問題が襲ってくるということだ。以上がシナリオのあらましである。



結局、労働者は資本主義のこの循環においては、労働力商品として、資本にとって必要な生産力として存在するにすぎない、ということだ。そもそも労働者階級は、資本主義がつづくかぎり、こうした景気循環に左右された人生をおくりつづけることになる。



今日の「恐慌」、大不況もまた、こうした過剰生産力の形成を軸としてあらわれているものだ。



次に過剰生産を資本の無政府性から説明したものを例にとろう。



「『過剰生産に基づく資本主義固有の矛盾』とは何か。ごく簡単にいえば、それは要するにひたすら利益最大化を求めて生産を拡大する供給側と、そうして造りだされたモノを吸収する能力におのずと限界がある需要側との間に生じるミスマッチである。このミスマッチが耐えがたいところまで来て「爆発」し、価格や雇用という経済活動の基盤部分に破壊的な力が襲いかかり、『最悪の経済状態』が現出するというわけである。」(浜矩子『グローバル恐慌』岩波新書)

まさに住宅バブル・建設ラッシュもそういうことだ。この過剰生産と相互作用する過剰投資・証券化商品の多様な販売が過熱したわけである。



「金融証券化が生み出す合成の誤謬の中で、市場参加者たちがお互いにリスクを押しつけあった、我勝ちに危ない橋を渡る金融機関たちは、そうすることで、結局のところ、危ない金融商品のいわば「生産過剰」を促していた。過剰生産化した金融商品に買い手がつかなくなり、それらが値崩れを起こし、市場が崩落した、この流れは古典的恐慌のそれに合致している」(浜矩子、前掲)ということだ。

だが、その背後には、商品の過剰のみならず、「資本設備の過剰」という問題があるだろう。

つまりここでの「古典的恐慌」という意味は、マルクス・エンゲルスなどが生き、それを分析したころの――そして、経済学原理論などでの「恐慌」の概念に含まれるところの、過剰資本を軸とした恐慌の概念に投影される事態だということだろう。