2026年3月14日土曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第2回】欧州右派=欧米右派のディスクールで書かれたNSS2025   渋谷要

 

【連載】 イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025

【第2回】 欧州右派=欧米右派のディスクールで書かれたNSS2025

  渋谷要

※本論での、「米・国家安全保障戦略2026」の訳は、「niming538の日記」2025-12-12,「米国国家安全保障戦略2025全文+翻訳(トランプによる前文付き)NSS2025」に依ります。

※ディスクール……特定の立場から組織化された言語

NSS(国家安全保障戦略)2025目次————

Ⅰ、序論―アメリカ戦略とは何か

1アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか

2,トランプ大統領による、必要で歓迎される是正

Ⅱ、アメリカ合衆国は何を望むべきか

1,   我々は全体として何を望むのか

2,   世界において、そして世界から、我々は何を望むのか

Ⅲ、我々が望むものを得るために、アメリカが利用可能な手段とは何か

IV. 戦略

1.   原則 「国家利益の集中的定義」「力による平和(Peace Through Strength)」「非干渉主義への基本的傾向」「柔軟な現実主義」「国家の優位性(国家中心主義)」「主権と尊重」「勢力均衡」「アメリカ労働者重視」「公正性」「能力と実力主義」

2.   優先事項 「大量移民の時代は終わった」「中核的権利および自由の保護」「負担分担と負担移転」「平和を通じた再整列「経済的安全保障――『均衡ある貿易』『重要な供給網および重要物資へのアクセス確保』『再工業化』『防衛産業基盤の再生』『エネルギ―覇権』『アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大』」

【★★今回第2回は、ここまで★★】

3.   地域

A、「西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(――「参加させる」「拡大」)

B、アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」(――「力の立場から主導する」「経済:究極的な利害」「軍事的脅威の抑止」)//「C、ヨーロッパの偉大さを促進すること」//「D、中東 負担を移し、平和を築く」//「E、アフリカ」。

――――――

 

 

【Ⅰ】「エリート」批判の意味——欧米右派のディスクール「腐敗したエリート―対―純粋な民衆」

 

この文書では「序論」で、この文書が右派ポピュリズムの文書であることが、宣言されている。まずもって、このことが確認されるのでなければならない。

それは典型的には「エリート批判」に象徴されている。

例えば「序論」で、次のように書かれている。

  冷戦終結後、エリート層は、アメリカ国民が国益との結びつきを見いだせない恒久的な世界的負担を、アメリカが永遠に背負う意思があるかどうかを、著しく見誤った。

彼らは、巨大な福祉・規制・行政国家を維持しつつ、同時に巨大な軍事・外交・情報・対外援助複合体を資金面で支えるアメリカの能力を過大評価した。
 彼らは、グローバリズムや、いわゆる「自由貿易」に対し、非常に誤った破壊的な賭けを行い、それによって、アメリカの経済的・軍事的優位性の基盤である中間層と産業基盤そのものを空洞化させた。
 彼らは、同盟国やパートナー諸国が防衛費用をアメリカ国民に押し付けることを許し、ときには、我々を彼ら自身の利益にとっては中核的であったが、我々自身にとっては周辺的、あるいは無関係な論争や紛争へと引きずり込むことすら許した。
 そして彼らは、アメリカの政策を国際機関のネットワークに結びつけた。その中には、露骨な反米主義に動かされているものもあり、多くは、個々の国家主権を解体することを明示的に目指す超国家主義に基づいていた。
 要するに、我々のエリートは、根本的に望ましくもなく、かつ不可能な目標を追求しただけでなく、その過程で、その目標を達成するために不可欠であった手段そのもの--すなわち、国家の力、富、そして品位が築かれてきた基盤である国家の性格--を損なったのである」。

 

これはまさに、欧州右派とトランプ一派との意思統一をしめすものだ。

 

「序論」のところで「エリートたち」という言葉が数回でてくるが、エリートと人民の対立という図式を作り上げ、そういう旗印を掲げるのが、「欧州右派」だ。

 

【フランス国民連合の「反エリート」】

まさにポピュリズムということになるが、フランスの「国民戦線(FN)」(現在の名称は「国民連合(RN)」)で言うと次のようになる。

朝日新聞デジタル(2017/2/6、リヨン=青田秀樹 名)の記事ではこうだ。

「自国第一を憲法に 仏右翼―国民戦線が大統領選公約」というタイトルだ。そこで、フランス「国民戦線」のルペン党首は、リヨンで開かれた決起集会(2/05)で「右か左かではない。グローバリズムに立ち向かう愛国主義者の力を結集しよう」と訴えたという。

 

そこで記事には、「FNは『民衆の名のもとに』をスローガンに反エリートを旗印としている」と書かかれている。

 

グローバリズムは、民衆を苦しめる「エリート」の圧政だというわけだ。このグローバリズム批判を基軸とする「大統領選挙公約」は、「EUからの主権の奪還」をかかげ、「自由貿易協定の破棄」「フランス人雇用の優先」「国境管理」などの諸政策、「自国第一」の憲法明記のための「国民投票」などの★欧州右派の主要政策★を、表明したものとなっている。

【ポピュリズムのディスクールとしての「エリート」】 

 もう一つ、研究者の論文から、まとまったものを引用しよう。

 森野咲「なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える第一回

「われわれは極右をどう定義するべきなのか」」(集英社新書プラス 2025.10.29。プロフィールでは、著者は早大政経卒後、現在、パリ第8大学の哲学科修士課程に在籍とある)、(以後「森野論文」と略す)がそれだ。

この森野論文は、欧州右派のイデオロギー的立脚点について、渋谷が読んだものとしては、いちばん大きな、ウインドを展開しつつ、要点を整理していると思うものだ。

ここで、森野氏は、極右のイデオロギーを、「三つの柱」 として、「ネイティヴィズム(排外主義)+権威主義+ポピュリズム」との指摘を行っている。

 その「ポピュリズム」の定義には次のように書いている。

「③ポピュリズム」
「イデオロギーとしてのポピュリズムとは、社会は究極的には「純粋な人民」と「腐敗したエリート」という二つの均質で敵対的な集団に分けられると考え、政治は人民の一般意志(volonté générale)の表現であるべきだとする思想である」とのべている。

 さらに森野論文は、こうも言っている。現代の極右は、「移民だけでなく、安全保障、腐敗、外交政策を重要争点として掲げ、具体的には以下のような傾向に収束する」として、そこで「腐敗」に関して「エリート」が次の様に批判されていると述べている。

「腐敗は主に「エリート」の問題とされ、進歩派・知識人・ジャーナリストなどが「国を堕落させる」と批判される。しばしば「文化マルクス主義」などの用語が使われ、リベラルで進歩的な運動を陰謀視すると同時に、その起源をユダヤ系知識人に結びつけることで反ユダヤ主義的含意を帯びる。さらに、選挙不正も語られる」ということだ。

まさに 「エリート」は、人民を抑圧し社会的・政治的腐敗を生み出す悪者の価値観で動いているというわけだ。

 

 まさにトランプ一派が、NSS2025の初めに、なぜ「エリートたちは…」と批判しているのか、その意味がこれでわかるだろう。欧米右派として、この戦略文書を表明しますよという筋書きのアナウンスなのだ。

 

(※ 森野論文での、上記「三つの軸」における「ネイティヴィズム(排外主義)」「権威主義」について。「ネイティヴィズム」は、「国家は「ネイティブ集団(=国民)」の構成員のみによって占められるべきであり、非ネイティブな要素(人や思想)は均質な国民国家にとって、根本的に脅威であるとするイデオロギーである」。ポイントは、何がネイティブかというところにある。「例えばアメリカではWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントー引用者・渋谷)が先住民に対して「真のネイティブ」を主張していたり、イスラエルではユダヤ人がパレスチナ人に対し「先住民族」を自称することがあるように、どの基準を「ネイティブ」として採用するかは主観的」なものだと、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』の事例を上げつつ論じられている。

「権威主義」とは、「社会秩序の維持や強い国家、厳罰主義を重視し、権威に従わない者は処罰されるべきであるとする価値観である」。アドルノ(フランクフルト学派)の『権威主義的パーソナリティ』の事例を上げつつポイントは「内集団においては権威的人物を賞賛し従属する一方で、外集団に対しては「道徳的権威」の名の下に制裁を加える態度に結びつく」と論じられている。)

 

【2】「エリートたち」の誤りとはどういうものか

 

 ここからは、一つ一つ、エリートたちの誤りと、トランプ一派が指摘しているものを見て行こう。

ここでのトランプたちが考える基本は「序論」で指摘しているように、「外交政策の目的は、中核的な国益の保護である--それが本戦略の唯一の焦点である」。ということだが、これから見るように、欧米右派の考える国益とは、排外主義にもとづく「自国ファースト主義」だということを、念頭に置いて考えないといけないだろう。

 ★★ここから文字校正★★違う訳からの引用が、のこっている★★

引用個所に番号を振っていこう。

 

a)「冷戦終結後、アメリカの外交政策エリートたちは、世界全体に対する恒久的なアメリカ支配こそが、国益にかなうと自らを説得した」「エリート層は、アメリカ国民が国益との結びつきを見いだせない恒久的な世界的負担を、アメリカが永遠に背負う意思があるかどうかを、著しく見誤った」。

(b)「彼らは、巨大な福祉・規制・行政国家を維持しつつ、同時に巨大な軍事・外交・情報・対外援助複合体を資金面で支えるアメリカの能力を過大評価した」。

→これに対して、【トランプ一派から見て】平板なグローバリズム、合衆国に偏った軍事費などの拠出、過剰に不利益がある対外援助の廃止を意味する。


(c)「彼らは、グローバリズムや、いわゆる「自由貿易」に対し、非常に誤った破壊的な賭けを行い、それによって、アメリカの経済的・軍事的優位性の基盤である中間層と産業基盤そのものを空洞化させた」。

 →これに対して【トランプ一派から見た】移民問題と自国労働者保護・優先政策の放棄に対する修正。


(d)「彼らは、同盟国やパートナー諸国が防衛費用をアメリカ国民に押し付けることを許し、ときには、我々を彼ら自身の利益にとっては中核的であったが、我々自身にとっては周辺的、あるいは無関係な論争や紛争へと引きずり込むことすら許した」。

→【トランプ一派の言う】NATO軍事費分担問題。また欧州では、欧州右派の「ウクライナ支援反対」という主張とも直通している。

 

(e)「そして彼らは、アメリカの政策を国際機関のネットワークに結びつけた。その中には、露骨な反米主義に動かされているものもあり、多くは、個々の国家主権を解体することを明示的に目指す超国家主義に基づいていた」。
→グローバリズム批判、(b)のポイントとむすびつくもの。

 

「要するに、我々のエリートは、根本的に望ましくもなく、かつ不可能な目標を追求しただけでなく、その過程で、その目標を達成するために不可欠であった手段そのもの--すなわち、国家の力、富、そして品位が築かれてきた基盤である国家の性格--を損なったのである」と結論づけている。

 

つまり以上のことを一言で言うと、「エリートたち」は「自国ファーストを破壊」してきたということだ。

 

これらの「エリート」たちの誤りに対する修正をはじめとした諸課題が、「Ⅳ戦略―原則」で論じられている事だ。

 

【3】「Ⅳ―1戦略―原則」で、提起している事

 

「Ⅳ―1戦略―原則」はまず、諸初の基調を明らかにしている(以下の文では、()付きのアルファベットを付しているが、引用者・渋谷が付けたものだ)。

 

(a)【国家利益の集中的定義】最初の「国家利益の集中的定義」で、冷戦以降、合衆国の各政権は、「国益」の概念を拡張し、合衆国にとって「中核的な利益」でない領域にもかかわろうとしてきた。だが、国益の概念は、国家の中核的な利益に関わるものだけにしなければならないと規定している。

 

(b)【力による平和】そして次にこの国益を創出し防衛するものとして、「力による平和」を、宣揚している。「力は最良の抑止力である」とし、他国が合衆国の国益を脅かさなくなるだけでなく、「平和を達成する」ことに貢献する。「なぜなら、我々の力を尊重する当事者は、しばしば我々の助力を求め、紛争解決や平和維持に向けた取り組みに対して受容的になるからである。したがって、アメリカ合衆国は最も強力な経済を維持し、最先端の技術を開発し、社会の文化的健全性を強化し、世界で最も有能な軍を整備しなければならない」ということだ。→これは(d)「柔軟な現実主義」と連結している。

では、力を行使するという時の原則は何か?

 

(c)【非介入主義への基本的傾向】では、我が国は他国の内政に対する「非介入主義」の伝統がある。それは、すべての国は「分離されつつ平等な地位」を有するという権利を持つという考え方であるとされる。そして、「この基本的傾向は、何が正当な介入に当たるのかについて、高い基準を設定するものでなければならない」として、介入主義の位置づけをも担保するものでもあるという。そこで、もう一つ、具体的な基準が示される。

 

(d)【柔軟な現実主義】★★ここは「専制主義(クレムリンなど)―対―民主主義」として、ウクライナ支援を表明していたバイデン政権―NATO/西側帝国主義主流派とは、180度決定的に違う考え方が、表明されているポイントだ★★。

 

これは、ウクライナ問題におけるトランプ一派のクレムリンとの「協商」交渉に関しての基本の考え方(祖型)としてあるものだ。

 

「我々は、各国の伝統や歴史と大きく異なる民主主義やその他の社会変革を押し付けることなく、世界の諸国と良好な関係と平和的な通商関係を求める」として、統治形態や社会のあり様が違う国々を認めたうえで、「良好な通商関係」を求めると述べている。

 

これが、この間、問題になってきた「ディール(取引)」という協商関係の基本的な考え方になっているものだ。

 

また、これは、多国間の枠組みでは、ホワイトハウス、クレムリン、北京中南海など★★大国指導部間のボス交外交★★にも、直結する考え方に他ならない。

まさに、ウクライナ侵略戦争で、クレムリンと「ディール」(協商)をやろうという事になっているのである。

 

 さらに、例えばベネズエラ、コロンビアなどに対するトランプの対処に見られるように、国家体制がもとのままでも、ディールができる体制・政権なら、仲良くやろうとなる。

 2026年1月、米帝トランプ一派は、ベネズエラに対する侵略奇襲戦争に突入し、反米のマドゥロ大統領を逮捕、合衆国に連行・拘束。麻薬密輸などでの刑事裁判を強要している。そして、マドゥロ政権内から、トランプ政権とディールができ、外交ができる新指導部がトランプ一派と政権を運営することで合意した(詳しくは、本連載【第一回】参照)。

 これを見た、コロンビアのペトロ大統領は、2月3日(2026)、ホワイトハウスで、トランプ氏と会談した。BBC NEWS JAPANによれば、次のようなことが話し合われたという、記事タイトルは「トランプ氏、ののしり合ってきたコロンビアの大統領を「素晴らしい」と ホワイトハウスで会談」。この会談ではトランプ氏の話として、「ガス輸出」「麻薬対策」「コロンビア民族解放軍(ELN)との闘いで合意」などの話をしたという。

トランプによる、コロンビアへの侵攻は無くなった。コロンビアの国家体制はそのままだ。こうして、ディール、取引ができる相手とは、政治的なもめごとは起こさないし、その必要はないという「柔軟な現実主義」を実践しているという事だ。

 

さらに「同時に、志を同じくする友好国には、共有された規範を守るよう促し、その過程で我々の国益も推進する」としている。これも「相互関税」などでの、協商の利害の掛け合いという場面を想起すれば、どういうことかわかるだろう。

 

そこで、どのような交渉とディールになるかで「仲間か、敵か」「どこまで仲間か」が、わかるだろう。こうして、まさに「柔軟な現実主義」をベースにして、同盟関係も天秤にかけるということだ。

 

(e)【国家の優位性】そこで、前提となる考え方が、共有されなければならないとなる。それが「国家の優位性(国家中心主義)」という事項である。これは「自国ファースト主義」の確認だ。「世界の基本的な政治単位は、そして今後も、国民国家である」。とし、「すべての国家が自国の利益を最優先し、主権を守ることは、自然であり正当である。国家が自国の利益を優先する時、世界は最もうまく機能する」という。

 これは一般的な意味で、例えば先進国の保守政治家などが、多国間主義を踏まえながら「国益を守る交渉を」とか、「ウインウインで行こう」などと言っているようなニュアンスとは違うものだ。★★極右の言う「国益」には、極右にとっての独特の意味がある★★。 

例えばだから、国家主権を守り、「最も侵入的な超国家組織による」主権の侵害に反対するとしている。まさにグローバリズムに対するアンチの表明だ。そしてNSSのこの節では、これら超国家組織に対するアメリカの国益を促進するベクトルでの「制度改革」を支持するとしているのだ。

 

(f)【主権と尊重】そしてもっと具体的に、「主権と尊重」という項目では、「外国勢力や外国主体が我々の言論を検閲したり、市民の表現の自由を制限したりしようとする試みを阻止すること、我々の政策を誘導したり外国紛争に巻き込んだりすることを目的とするロビー活動や影響工作を防ぐこと、さらには国内において外国の利益に忠誠を誓う投票集団を形成するために移民制度を冷笑的に操作する行為を阻止することが含まれる」としている。これは、移民問題からインテリジェンス体制を含んだ、「国防問題」ということになるだろう。

 

(g)【勢力均衡】さらに対外的・世界的な合衆国の立ち位置が、確認される。

「勢力均衡」では、「我々は、同盟国およびパートナーと協力し、支配的な敵対勢力の出現を防ぐため、世界的・地域的な勢力均衡を維持する。アメリカ合衆国は、自国による世界支配という不幸な概念を退ける一方で、他国による世界的、場合によっては地域的な支配を防がなければならない」。これは、【後述するような】、トランプ一派の「西半球」覇権戦略に直結した考え方、価値の置き方をしめしているということができる。

 

(h)【アメリカ労働者重視】そこで、国内的には、「自国民優遇政策」が示されることになる。

「アメリカ労働者重視」という項目では、「アメリカの政策は、単なる成長重視ではなく、労働者重視であり、自国の労働者を最優先する」。

 

(i)【公正性】つぎの「公正性」という項目では、トランプ一派にとって、マイナス出費の項目一覧が示されねばならなくなる。

「我々は、ただ乗り、貿易不均衡、略奪的な経済慣行、その他、アメリカの国益を不利にするような、歴史的な善意につけ込む行為を、もはや容認せず、容認する余裕もない」。これは、アメリカがこの間、国連機関などかから撤退した事態をみてもあきらかだ。どういうことなのか、鮮明である。

 

以上の内容は次の様なことだ。(以下、引用は、JETRO日本貿易振興機構「ビジネス短信」2026年01月09日。 「トランプ米政府、66の国際機関からの脱退を表明 WTOは対象に含まれず」 (赤平大寿)(米国)より)。


「米国のドナルド・トランプ大統領は17日、66の国際機関からの脱退または資金拠出の停止を指示する大統領覚書を発表した。

トランプ氏は202524日、国務長官に対して、米国の利益に反する組織・条約・協定を特定するよう指示する大統領令を発表しており(2025年2月6日記事参照)、今回の決定は同大統領令に基づいている。具体的には、米国の国益・安全保障・経済的繁栄・主権に反するとして、35の非国連機関と31の国連機関からの脱退や資金拠出停止を命じた。非国連機関は、気候変動対策や自然保護のほか、テロ対策、サイバーセキュリティー、芸術・文化などに関する広範な機関が対象となった。国連機関は、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国際貿易センター(ITC)、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)などが対象となった。同日発表したファクトシートでは、「米国の優先事項よりもグローバリズムの議題を推進する機関、あるいは重要な課題を非効率的・非効果的に扱う機関への米国納税者の資金提供と関与が終了する」として、「米国納税者の資金は他の方法でより適切に配分される」とその意義を強調した」。

以上、これらの事態についてだが、ジェンダー平等・気候変動枠組み・グローバリズム(自国ファーストにとって敵を意味する)・非効果的な機関への税金投入とされるもの等々、このNSSでの、いくつかの事項で取り上げられる課題での、自国ファーストに対する阻害物と規定された機関からの「脱退」(これらの機関に対する援助停止という攻撃を意味するだろう)ということを、確認するのでなければならない。

また、同盟国間の軍事費の分担については、こうだ。 

「特に、同盟国には、自国防衛のために国内総生産(GDP)のはるかに大きな割合を支出することを求める」。これは、NATOや日本に対し、最高5%のGDP比を要求するという事に表れた問題である。合衆国が「何十年にもわたりはるかに多額の支出をしてきた結果として生じた巨大な不均衡を」是正すると宣言している。

 

(j)【能力と実力主義】そして「戦略―原則」の最後の項目「能力と実力主義」では「アメリカの繁栄と安全は、能力の育成とその昇進に依存している」とし、「「世界的人材(global talent)」を見つけるという名目でアメリカ人労働者の立場を弱めるような形で、実力主義を利用してアメリカの労働市場世界に開放することも許してはならない」。アメリカとアメリカ人が常に最優先されなければならない」と表明している。

 

まさに「自国ファースト」の欧米右派の綱領が展開されている。

 

【4】 欧米右派の綱領的立脚点で敷き詰められている

 

【Ⅳ.戦略―2.優先事項】


a)【大量移民の時代は終わった】

「歴史を通じて、主権国家は無制限の移民を禁止し、外国人に市民権を与えること は極めて限定的であり、かつ厳しい基準を満たすことを求めてきた。

過去数十年における西側諸国の経験は、この永続的な知恵の正しさを裏付けている。

世界各国において、大量移民は国内資源を圧迫し、暴力やその他の犯罪を増加させ、社会的結束を弱体化させ、労働市場を歪め、国家安全保障を損なってきた。
大量移民の時代は終わらせなければならない」。
 「国境の安全は、国家安全保障の中核である。
我々は、無秩序な移民だけでなく、テロ、麻薬、諜報活動、人身売買といった国境を越える脅威からも、国家を守らなければならない」。
———

これが、欧米右派(欧州右派)の「ネイティヴィズム(排外主義)」に基づく、自民族中心主義(エスノセントリズム)=「自国ファースト主義」の政治内容に他ならない、

 

(b)【中核的権利および自由の保護】

「アメリカ政府の目的は、アメリカ国民に神から与えられた自然権を保障することである」。「特に、言論の自由、信教および良心の自由、そして我々の共通の政府を選び、方向づける権利は、決して侵害されてはならない中核的権利である。
これらの原則を共有している、あるいは共有していると主張する国々に対して、アメリカ合衆国は、それらが文言においても精神においても遵守されるよう、強く主張する」。

 

核心はここから先だ。「我々は、ヨーロッパ、英語圏、そして民主主義世界の他の地域、とりわけ同盟国において、エリート主導の反民主的な中核的自由への制限に反対する」。「エリート主導の反民主的な」とは、例えば、中国の権威主義的な中南海指導部が、香港やウイグルなどで人権侵害の政治をおこなってきたことなどがあげられるだろう。これに対して反対する事には、本論著者(渋谷)も賛成する。

だが、こうした「正義」を口実化して、他面で、自国ファーストの極右の排外主義的な主張や行動(「~人は出ていけ!」「移民保護政策を撤廃しろ!」など)に対する弾圧に反対するということだろう。また他方で、イスラム過激派などの全体主義運動に対する、先進国自国ファースト主義の連帯を目標としたものだと考えられる。

 

(c)【負担分担と負担移転】

「アトラス(ギリシャ神話に登場する神。「支えるもの」「耐えるもの」などの意味がある――引用者・渋谷)のように、アメリカ合衆国が世界秩序全体を支え続ける時代は終わった」として、NATO諸国に「防衛費をGDP比5%に引き上げる」ことを約束させた。「NATO同盟国はこれを支持しており、今や履行しなければならない」としている。
 「同盟国が自らの地域に対して第一次的責任を負うべきだと求める、トランプ大統領の方針を継続しつつ、アメリカ合衆国は、政府が主催者・支援者となる負担分担ネットワークを構築する」とする。

これは、例えば、日米安保といった場合、日米両軍の一体化——装備・兵器などにとどまらず、指揮系統・情報系統の一体化——つまり、自衛隊を米軍の、こう言って良ければ日本方面軍とすることなどに関係した内容に発展する可能性のあることがらである。

まさに「アメリカ合衆国は、自らの地域の安全保障により大きな責任を進んで負い、輸出管理を我々のものと整合させる国々に対して、通商面でのより有利な扱い、技術共有、防衛調達などを通じて、支援を惜しまない」ということだ。

 

(d)【平和を通じた再整列】 --
「大統領の指示の下で和平合意を追求することは、たとえ当面の中核的国益から見て周辺的な地域や国々であっても、安定を高め、アメリカの世界的影響力を強化し、★★国や地域を我々の利益に沿って再配置し、新たな市場を開くための有効な手段である」★★。

 

<和平合意=新たな市場>という事が、ここでのポイントだ。ここでは、クレムリンによるウクライナ侵略戦争での、トランプがウクライナに提起した「和平案」と、「鉱物資源協定」の位置づけなどが想起されるだろう。

 

(e)【経済安全保障】
「最後に、経済安全保障は国家安全保障の基盤であるがゆえに、我々はアメリカ経済のさらなる強化に取り組む。その重点は次のとおりである」。

 

a.《均衡ある貿易》互恵的な貿易でもアメリカ・ファーストでの取引が第一だということだ。次の様である。

「我々は、相互利益と相互尊重を基盤として我々と取引したいと望む国々と、公正で互恵的な貿易協定を追求する。しかし、我々の優先事項は、そして今後も、アメリカの労働者、アメリカの産業、そしてアメリカの国家安全保障である」。

 

b.《重要供給網および重要物資へのアクセス確保》

「アメリカ合衆国は、防衛や経済に不可欠な中核的構成要素--原材料から部品、完成品に至るまで--について、いかなる外部勢力にも依存してはならない」。

 

 まさにこれが「西半球」覇権戦略の前提にある考え方だ。ここにあるように、サプライ・チェーンのアメリカ・ファーストなヘゲモニーの構築が課題となっている。

 

この場合、「外部勢力」とは、中南米・南米の場合、「中国」ということになるだろう。★★本連載第三回(次回)では、この「米中争闘戦としての米『西半球』覇権戦略」について言及する★★。

 

「そのためには、略奪的な経済慣行に対抗しつつ、重要鉱物および重要素材へのアメリカへのアクセスを拡大する必要がある」。 これらは、例えば、ベネズエラ侵略戦争などの課題があったのである(詳しくは本連載の第一回参照)。

 

 

c.《再工業化》

「未来は「つくる者」のものである。アメリカ合衆国は経済を再工業化し、産業生産を「国内回帰(リショア)」させ、重要技術および将来を規定する部門である新興技術に焦点を当てつつ、経済および労働力への投資を奨励し、誘致する。

我々は、関税の戦略的活用および新技術の導入を通じてこれを実行する」。

 →グローバリズムで海外に出て行った産業生産を国内に呼び戻すことを、産業政策における「アメリカ・ファースト」のポイントとしていることがわかる。この「再工業化」については、後述する「eエネルギー覇権」のところで、あわせて分析する。「再工業化」とは、欧州右派がよく使うフレーズだが、中身が問題だということだ。

 

d.《防衛産業基盤の再生》
「強力で有能な軍隊は、強力で有能な防衛産業基盤なしには存在し得ない。
近年の紛争で明らかになった、低コストのドローンやミサイルと、それらに対抗するために必要な高価な防衛システムとの間の巨大なギャップは、我々が変革と適応を迫られていることを白日の下にさらした」。「力による平和というトランプ大統領の構想を実現するためには、迅速にこれを行わなければならない」。
 軍産技術の刷新などが課題であり、それなくして「力による平和」は実現できないとしている。また、「集団防衛を強化するため、すべての同盟国およびパートナーの産業基盤の活性化を促す」としている。これも、例えば、日米安保軍での軍の一体化などとの関係で、おさえておくべき箇所だ。

 

e.《エネルギー覇権》NSSは次の様に言う。

国内的には「アメリカのエネルギー覇権(石油、天然ガス、石炭、原子力)を回復し、必要な主要エネルギー部品を★★国内回帰させる★★ことは、最優先の戦略課題である。安価で豊富なエネルギーは、アメリカ国内に高賃金の雇用を生み、消費者と企業のコストを下げ、★再工業化★を支え、AIのような最先端技術における優位性の維持に寄与する」。

対外的には「純エネルギー輸出の拡大は、同盟国との関係を深化させる一方で、敵対勢力の影響力を弱め、国土防衛能力を守り、必要な場合には--時と場所を選んで--戦力投射を可能にする」。

我々は、ヨーロッパに甚大な害を与え、アメリカを脅かし、敵対勢力を補助してきた、破滅的な「気候変動」および「ネット・ゼロ」イデオロギーを拒否する」。

 

これは、トランプが「気候変動」の運動を批判してきたことでよく知られていることだ。地球温暖化―気候変動に対するカーボンニュートラルや、ネット・ゼロなど、温室効果ガスなどの削減目標達成を目的とした取り組み(ここでは★それらの取り組みの違いについては、本論の論脈としては、取り扱わない★ものとする)は、トランプ一派にとっては、「再工業化」を阻害し、工業化を遅らせる、そこでの雇用を創造することもできない(総じて「国民的生産力」の鈍化をまねく)、エリートたちの悪行だという事になるだろう。

—————— 

【「経済愛国主義」と「再工業化」をめぐって】

ここで、森野論文で、欧州右派の「経済愛国主義」について関係した部分を読むことにしよう。

「極右の経済プログラムの軸」という節だ。四個の特徴があげられている。「企業や富裕層の待遇の恒常化への傾向」「経済愛国主義」「国民優先の制度」「公共部門のイデオロギー的な再編」(統制強化と民営化という両義的な政策転換。例えば教育=国家統制、公共放送=民営化など)。この「愛国経済主義」のところだ。

次の様である。 

「第二の特徴は、「経済愛国主義」という看板と実態との乖離である。★ 極右はしばしば「再工業化」を訴える★が、その内容は減税や補助金、「産業特区」の設置などの優遇措置の列挙にとどまり、どの産業をどのような目的で育成するのかという明確な戦略を欠いている」。

つまり、トランプ一派が上記のように、「気候変動」対策―「ネット・ゼロ」を「拒否」した文脈——それは「どのような産業を育成し」そこでどのような雇用を生み出すかということの、環境保護に通底した政策転換を「拒否」するという事を意味している――が、対象化されるべきだ。

「さらに、「大衆に寄り添う」イメージとは裏腹に、こうした産業重視の姿勢は住宅などの社会的ニーズを後景化させている。2024年の国民連合のプログラムでは★原子力の推進を「再工業化」の軸としている★が、税負担の軽減や規制緩和を通じて企業競争力を高めようとする基本方針は連続している」。

つまり、このように20世紀で見られたような、環境問題など関係なしの、産業エネルギー神話が、欧米右派の価値観には存在するという事である。

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そしてこの価値観と、トランプ一派の「力による平和」とは、米軍産複合体の利益として、一体のものなのだ。

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f.アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大》合衆国金融資本の世界的覇権の維持が、「力による平和」の心臓部をつくっているという事が言われている。

 

「アメリカ合衆国は、世界を主導する金融および資本市場であり、それらはアメリカの影響力の柱であって、政策決定者に対し、国家安全保障上の優先課題を推進するための大きな影響力と手段を与える。
しかし、我々の指導的地位は当然視されてはならない。
覇権を維持し、拡大するためには、活力ある自由市場体制と、デジタル金融および技術革新における指導力を活用し、市場が今後も世界で最も活発で、流動性が高く、安全であり続け、世界の羨望の的であり続けることを確保しなければならない」。

 

(次回予告、【第三回】「米中争闘戦としての米「西半球」覇権戦略」)