2026年3月25日水曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第三回】米中争闘戦とドンロー主義=米「西半球」覇権戦略≪1≫≪2≫≪3≫ 渋谷要

 

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025

【第三回】「米中争闘戦とドンロー主義=米「西半球」覇権戦略」≪1≫≪2≫、≪3≫の冒頭部分)

                              渋谷要

最終更新2026・03・25 23:05

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※本論での、「米・国家安全保障戦略2026」の訳は、「niming538の日記」2025-12-12,「米国国家安全保障戦略2025全文+翻訳(トランプによる前文付き)NSS2025」に依ります。

 

NSS(国家安全保障戦略)2025目次————

Ⅰ、序論―アメリカ戦略とは何か

1アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか

2,トランプ大統領による、必要で歓迎される是正

Ⅱ、アメリカ合衆国は何を望むべきか

1,   我々は全体として何を望むのか

2,   世界において、そして世界から、我々は何を望むのか

Ⅲ、我々が望むものを得るために、アメリカが利用可能な手段とは何か

IV. 戦略

1.   原則 「国家利益の集中的定義」「力による平和(Peace Through Strength)」「非干渉主義への基本的傾向」「柔軟な現実主義」「国家の優位性(国家中心主義)」「主権と尊重」「勢力均衡」「アメリカ労働者重視」「公正性」「能力と実力主義」

2.   優先事項 「大量移民の時代は終わった」「中核的権利および自由の保護」「負担分担と負担移転」「平和を通じた再整列「経済的安全保障――『均衡ある貿易』『重要な供給網および重要物資へのアクセス確保』『再工業化』『防衛産業基盤の再生』『エネルギ―覇権』『アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大』」

【★★前回第2回は、ここまで★★】

 

3.   地域

A、「西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(――「参加させる」「拡大」)

【★★★今回第三回は、ここまで★★★。次回第4回も、この部分を扱います】

 

B、アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」(――「力の立場から主導する」「経済:究極的な利害」「軍事的脅威の抑止」)//「C、ヨーロッパの偉大さを促進すること」//「D、中東 負担を移し、平和を築く」//「E、アフリカ」。

 

 

≪1≫【ドンロー主義の定義と「西半球」覇権戦略】

 

今回は、NSS2025の「Ⅳ戦略―3地域」という節の、第一節である「A、西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(「参加させる」「拡大」)」というところを読むことにしよう。

 

●【そもそも「西半球」とは、どこのことか?】

 ここで、本題に入ってゆく前に、「西半球」という事の定義について、確認をしておこう。西半球とは「西経0度~西経180度」の地球の範囲のことである。ウィキペディアでは「アメリカ大陸、ユーラシア大陸の西端と東端、アフリカ大陸の一部西部地域、南極大陸西南極、大西洋の大部分西部地域、太平洋の東部」とある。

 NSS2025では、基本的に南北アメリカ大陸とその周辺の海域が対象となっている。

 

●【「モンロー主義に対するトランプ・コロラリー」について】

 

NSSは次に様にのべている。

 

「長年の放置を経て、アメリカ合衆国は、西半球におけるアメリカの卓越した地位を回復し、本土と地域全体にわたる重要地理へのアクセスを守るため、モンロー主義を再主張し、これを厳格に執行する。

 我々は、西半球外の競争勢力が、この半球において、兵力やその他の脅威となる能力を配備したり、戦略的に重要な資産を所有・支配したりすることを認めない。
 このモンロー主義に対する「トランプ・コロラリー」は、アメリカの安全保障上の利益と整合する、常識的かつ強力なアメリカの力と優先順位の回復である」。

 

このコロラリーとは、「ある事柄から論理的に導き出される必然的な結果や帰結」を意味するとされる。だからモンロー主義のトランプ的「帰結」などということになるだろう。だから、モンロー主義の内容の確認が必要だ。

 

●【モンロー主義の解説】 

 

 ここでは本論に必要と思われる内容のみを確認する。1823年12月、当時の合衆国大統領ジェームズ・モンローは、合衆国議会において「モンロー教書」といわれるものを表明した。これがモンロー主義といわれるものの、誕生だ。

 モンロー主義は、南北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸諸国の、【相互不干渉】を主張たしものだ。例えば、合衆国は、欧州での諸国間の争いに関与しない。欧州の諸国は、南北アメリカ大陸の独立国家に対してどのような干渉もするべきではなく、また、南北アメリカ大陸に対し、欧州諸国が植民地を新設することを禁止する。こうした、ヨーロッパなどの外部勢力による【干渉や植民地化は、すべて★★合衆国に対する敵対行為★★とみなす】、などというものである。それは、南北アメリカ大陸における、合衆国の覇権―絶対的な支配権を意味する宣言だった。

 

【これに対して】、現在の南北アメリカ大陸に対する干渉と植民地化を仕掛けてきている外部勢力は、ヨーロッパではないだろう。【後述するように】「中国」である。

 

●【トランプ大統領の目的=米中争闘戦に勝利すること】

 

  トランプ大統領の「西半球」ドンロー主義は、デンマーク領グリーンランドの領有の主張、パナマ運河の合衆国による領有権の主張、カナダを「51番目」の「州」とする主張、ベネズエラ反麻薬戦争(2026年1月)など、南北アメリカ大陸における合衆国の覇権を創造する政策を展開するものとなっている。

 だが、それは、パナマ運河問題一つとっても、中南米における米中の市場・資源争奪戦という、21世紀に入ってとくに画期されてきた、攻防を、舞台としているのだということを前提とするものにほかならない。

まさにNSSには、外部勢力の伸長をどのように阻止し、破壊するかという事が、書かれている。例えば「西半球外の競争勢力(「中国」のことだ――引用者・渋谷)は、現在においてアメリカを経済的に不利にするのみならず、将来的に戦略的害を与え得る形で、この半球への重大な進出を果たしてきた。これらの進出を、真剣な反撃なしに許してきたことは、近年におけるアメリカのもう一つの大きな戦略的過誤である」。として、【後述するように】外部勢力の伸長を阻止・粉砕する政策の考え方などが書かれている。

 

≪2≫【米中争闘戦(1)――パナマ・グリーンランド・カナダを巡る攻防】 

 

 NSS2025の当該箇所を読む前に、現実に展開してきた中南米における米中争闘戦=市場争奪戦を概観することから始めよう。というのも、NSS2025では、抽象的な文面しか書かれていない。だが、現実をまず見れば、どういうことかわかるということだ。この分析では、NSSが現実に対して対応し、それをどうしたいとかんがえているか、を見てゆくことにする。

 

●【パナマ運河問題】

 

 まず、米中対立を象徴してきた一つの事例から出発しよう。パナマ運河問題だ。

 

1903年、パナマ地峡はコロンビアから独立し「パナマ共和国」となった合衆国はパナマとパナマ運河条約を結び、運河の建設に着手。1914年8月運河は開通した。運河収入はパナマに属するが、運河地帯の施政権と運河の管理権は合衆国が把握することとなった。また、運河地帯両岸の合衆国の「永久租借地」には、軍事施設が設置された。

 1977年、合衆国大統領ジミー・カーターは、新パナマ条約を締結。中立無差別な通航が保証されるのと引き換えに、79年に主権をパナマに返還した。これで、ガッシュ国の領土ではなくなった。それを起点として20年間、運河管理を両国で行うことが契約された。そして、1999年12月、合衆国は全施設を変換し、米軍を撤収した。それ以降、パナマ運河はパナマ共和国の管轄により運営されている。

 これらが前提としてある話だ。問題はここからだ。

 2024年、合衆国大統領トランプは、パナマ運河に対して、通航料を引き下げるか、合衆国の管理下に戻すよう訴えた。とりわけトランプが問題としたのは、同運河にある二つの港、バルボア港、クリストバル港が、香港企業CKハチソン・ホールディングスの子会社 パナマ・ポーツ・カンパニー(PPC)の運営(1997年以降)である点だ。そのことに対しトランプは「パナマ運河は中国の支配下にある」と主張し、奪還を宣言したのである。ハチソンは、2025年3月、パナマ二港をはじめ、世界43の港湾の権益を合衆国の企業連合(ブラックロックを中心とする)に売却することで合意した。

 

だが、北京中南海が反対を表明。他方、パナマ会計監査院長が、ハチソンとの2021年から25年間の契約延長に不正があったとして、利権の無効化を求める裁判を提起そして、26年1月、パナマ最高裁は、「契約延長を憲法違反とする」判決を下した。これにより、バルボアとクリストバルの港の資産と運営権は、パナマ政府に接収となった。PPCは、これに対し、国際仲裁の手続きを開始しているという。

 

中国中南海は、このトランプ一派の動きに対し、中国国営企業のパナマに対する新規事業計画を停止するよう指示した。これによって、数十億ドル規模の投資が失われる可能性があると言われている。インフラ・技術・人材育成などに多額の投資を中国は行ってきた。それが消去されることになる。米・中の攻防はこれからもつづくだろう。

 

●【トランプによるグリーンランド併合政策】

 

 1979年以来(現在)、グリーンランドは、デンマークの自治領となっている。さらに、1985年、グリーンランド政府は、EUを脱退した。これらは、グリーンランドの独立運動=ナショナリズムの強固なことをうかがわせるものである。これらのことが前提になる話だ。このグリーンランドに対して、トランプは、合衆国が領有・併合するという考えを示している。

例えばトランプは2026年1月9日ホワイトハウスでの記者会見で、グリーンランドについて問われ、「穏便な方法でだめなら、強硬な方法をとるだろう」と発言(AFP BB News2026/1/10 7:53 発信地ワシントン 米国「トランプ氏 『ロシアや中国にグリーンランドを領有させるつもりはない』武力行使も排除せず」)。

 このグリーンランドを巡っては、中・ロの軍事活動の活発化の他、レアアースなど鉱物資源が埋蔵されており、安全保障上の重要さが増している地域というのがトランプの計算にある。

軍事的には、ロシアが「GIUK gap(ギャップ)」というグリーンランド(Greenland)、アイスランド(Iceland)、イギリス(United Kingdom)を結ぶ要衝に潜水艦などの活動を展開(※ここは、イギリスにとって特に重要な安全保障の空間をなしている)。また想定では、ロシア軍が米本土をミサイル攻撃してきたとき、グリーンランドの上空を飛行すると考えられ、グリーンランドにもミサイル迎撃システムを配備する必要があるということからだ。

これは、「ゴールデンドーム」という米本土を防衛する次期ミサイル迎撃システムの完成にとっても不可欠だとされている。グリーンランドには、1951年から米軍が、グリーンランド北西部に軍事施設を設置している、現在も米軍が駐屯している。規模は150名程度といわれるが、冷戦期には、数千人規模が駐留していといわれる。

 また、この領有をめぐっては、トランプ一派は、住民一人当たり10万ドル(1500万円)の一時金を配布するなどの「購入」構想(住民は約5万7000人、総額で60億ドル(約9400億円))も浮上している。

こうしたことに対し、2026年1月6日、英、仏、独、伊、ポルトガル、スペイン、デンマークの首脳が「グリーンランドは、その土地の人々のものであり、デンマークとグリーンランドだけが、両者の関係を決定する」「北極圏の安全保障はNATOが共同で達成する必要がある」という共同声明を発信している。

また、同日、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5か国の外相も、同様の共同声明を発表している。これらに、カナダやオランダ、スロバキア政府などから、支持が表明されている。トランプのグリーンランド収奪には、グリーンランド現地住民をはじめとして、欧州帝国主義主流派なども、反対を表明しているということだ。

 

●【カナダを51番目の州に】

 

2025年5月、カナダの首相に就任したマーク・カーニー首相と、ホワイトハウスで会談したトランプ氏は、カナダを「51番目の州」とよび、カーニー氏が「カナダは売り物ではない」と反論する場面があった(朝日新聞デジタル2025/5/7 5:30、ニューヨーク=杉山歩「カナダ首相『売り物ではない』 トランプ氏の「51番目の州」に反論)。

このトランプのカナダ併合論は、例えばトランプの自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、2024・12・18に投稿したものでは「多くのカナダ人は、カナダがアメリカの51番目の州になるのを望んでいる。そうなれば税金を大幅に節約できる、軍事的保護も得られる。素晴らしいアイデアだと思う。51番目の州だ」というものだ。

 こうした問題は、「相互関税」発動との関係で、提起されているだろう。カナダの輸出品の約75%は、対米輸出だ。こうしたことは、このトランプの関税政策に、中国が介入してくることで、合衆国にとって、安全保障上の重要な問題を画期することになっていく。

 それが、2026年1月16日に、北京において行われた、習近平国家主席とカーニー首相の関税に関する会談だった(「中国とカナダが首脳会談 関税引き下げで合意」(AFP BB News2026117日(ローラ・ビッカー(北京)、スランジャナ・テワリ(シンガポール)、コーユー(シンガポール)、ジェシカ・マーフィー(トロント) 以下引用は同記事から)。

 

そこでは、カナダと中国の冷え込んだ交易関係が改善される、数字がまとめられるものとなった。

 

●【カナダと中国の交易の活発化】

 

「中国はカナダ産キャノーラ油に課している関税を、31日までに現在の85%から15%へ引き下げる見通し。一方でカナダは、中国製電気自動車に対し、最恵国待遇の税率6.1%を適用することに合意したと、カーニー首相は記者団に説明した」。

 

これは、この間の、対中貿易とは、ベクトルが明らかに逆になったことを意味している。つまりこうだ。

 

2024年にカナダは、中国製電気自動車に100%の関税を課した。アメリカも先に、同様の措置を取っていた。これを受け、中国は昨年、キャノーラ種子や油など20億ドル超相当のカナダの農産物に報復関税を課した。その結果、2025年のカナダの対中輸出は10%減少した」ということだ。

 

だが、「16日の合意では、カナダは中国製電気自動車について、年間49000台まで、最恵国待遇の税率6.1%を適用することになる。

この台数の上限は、手ごろな価格の中国製電気自動車の流入を懸念するカナダの自動車メーカーに配慮したものだ。

キャノーラ生産者への救済措置に加え、カナダ産ロブスターやカニ、エンドウ豆に対する関税も引き下げられる。

中国はカナダにとってアメリカに次ぐ第2の貿易相手国だが、その取引量は対米取引には大きく及ばない」。

 

そこで、カナダと中国はいろいろな商談に乗りだしている。

 

14日に北京入りすると、カーニー氏は電気自動車用バッテリーメーカーやエネルギー大手など、中国の有名企業の幹部らと面会した。15日には、カナダと中国が、エネルギー・貿易協力に関する複数の協定に署名した」という。

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 こうして、中国中南海による、合衆国の世界戦略地図に対する阻害と破壊の政策、まさに、米中争闘戦・市場争奪戦は、まさにトランプ一派が、「西半球」とよび、ここでは、合衆国以外のいかなる覇権や、アメリカを無視した、例えばサプライチェーンの構築も許さないといっているその、ホワイトハウスの本来の領地に入り、それを、取り崩そうとしておこっていることなのである。だから、「合衆国の裏庭」といわれたその領地が、今やそうではなくなりつつある。

 

この危機に対する対策が、まさにNSS2025の「西半球」覇権戦略なのだ、ということだ。では次に、中国は、アメリカ大陸の市場に、どこまで入り込んでいるのか。そのことを見て行こう。

 

≪3≫【米中争闘戦(2)――中南米における「一帯一路」を巡る攻防】

 

●【中南米における現在の「一帯一路」参加政権】

 中国はアメリカ大陸の市場にどこまで入り込んでいるのか。もっとも、わかりやすいのは、中国の世界戦略地図「一帯一路」がこの地域で、どのような拡張を見せているかという事だ。

 

中南米域内の33か国中、20か国以上が「一帯一路」に参加している。

 

「中南米はリチウムや銅など中国にとって重要な天然資源の供給源であると同時に主要な輸出先ともなっている。中国と中南米諸国の24年の貿易総額は5184億ドル(約76兆円)で、過去10年間でほぼ倍増しており、なかでもブラジルやチリなど資源国との貿易額は飛躍的に増加している。
 中国は既に中南米最大の貿易相手国となっているばかりか、「一帯一路」構想の一環として、各国に対し港湾、鉄道、道路、通信網などのインフラプロジェクトに大規模な投資や融資を行っている。

 

域内33カ国中、20カ国以上(ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー、エクアドル、パナマ、コロンビア、ベネズエラ、エルサルバドル、コスタリカ、ウルグアイ、キューバ、ボリビア、ドミニカ共和国等)が一帯一路構想に参加している。

 

資源の確保と自国経済にとって重要な市場である中南米のインフラ開発にも積極的に協力しカネとモノの両面で相互依存関係を深めることで、中国は中南米で急速に存在感を増しているのだ」ということだ。

(引用は一般社団法人IPP 平和政策研究所のサイト。「国際情勢マンスリーレポート」。「中南米巡る米中の角逐——“米国の裏庭”への進出強める中国」(2025年12月26日 平和政策研究所 上席研究員 西川佳秀氏執筆のものから) 【この項つづく】

 

(次回第4回予告「米中争闘戦とドンロー主義=米『西半球』覇権戦略」の≪3≫のつづきから、です)

 

2026年3月14日土曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第二回】欧州右派=欧米右派のディスクールで書かれたNSS2025を解読する   渋谷要

 

【連載】 イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025

【第二回】 欧州右派=欧米右派のディスクールで書かれたNSS2025を解読する

  渋谷要

最終更新 2026・03・22 21:32

(2026・03・22 文末に【参考資料】を付け加えました)。

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※本論での、「米・国家安全保障戦略2026」の訳は、「niming538の日記」2025-12-12,「米国国家安全保障戦略2025全文+翻訳(トランプによる前文付き)NSS2025」に依ります。

※ディスクール……特定の立場から組織化された言語

NSS(国家安全保障戦略)2025目次————

Ⅰ、序論―アメリカ戦略とは何か

1アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか

2,トランプ大統領による、必要で歓迎される是正

Ⅱ、アメリカ合衆国は何を望むべきか

1,   我々は全体として何を望むのか

2,   世界において、そして世界から、我々は何を望むのか

Ⅲ、我々が望むものを得るために、アメリカが利用可能な手段とは何か

IV. 戦略

1.   原則 「国家利益の集中的定義」「力による平和(Peace Through Strength)」「非干渉主義への基本的傾向」「柔軟な現実主義」「国家の優位性(国家中心主義)」「主権と尊重」「勢力均衡」「アメリカ労働者重視」「公正性」「能力と実力主義」

2.   優先事項 「大量移民の時代は終わった」「中核的権利および自由の保護」「負担分担と負担移転」「平和を通じた再整列「経済的安全保障――『均衡ある貿易』『重要な供給網および重要物資へのアクセス確保』『再工業化』『防衛産業基盤の再生』『エネルギ―覇権』『アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大』」

【★★今回第2回は、ここまで★★】

3.   地域

A、「西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(――「参加させる」「拡大」)

B、アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」(――「力の立場から主導する」「経済:究極的な利害」「軍事的脅威の抑止」)//「C、ヨーロッパの偉大さを促進すること」//「D、中東 負担を移し、平和を築く」//「E、アフリカ」。

――――――

 

 

【Ⅰ】「エリート」批判の意味——欧米右派のディスクール「腐敗したエリート―対―純粋な民衆」

 

この文書では「序論」で、この文書が欧州右派=右翼ポピュリズムの文書であることが、宣言されている。まずもって、このことが確認されるのでなければならない。

それは典型的には「エリート批判」に象徴されている。

例えば「序論」で、次のように書かれている。

  冷戦終結後、エリート層は、アメリカ国民が国益との結びつきを見いだせない恒久的な世界的負担を、アメリカが永遠に背負う意思があるかどうかを、著しく見誤った。

彼らは、巨大な福祉・規制・行政国家を維持しつつ、同時に巨大な軍事・外交・情報・対外援助複合体を資金面で支えるアメリカの能力を過大評価した。
 彼らは、グローバリズムや、いわゆる「自由貿易」に対し、非常に誤った破壊的な賭けを行い、それによって、アメリカの経済的・軍事的優位性の基盤である中間層と産業基盤そのものを空洞化させた。
 彼らは、同盟国やパートナー諸国が防衛費用をアメリカ国民に押し付けることを許し、ときには、我々を彼ら自身の利益にとっては中核的であったが、我々自身にとっては周辺的、あるいは無関係な論争や紛争へと引きずり込むことすら許した。
 そして彼らは、アメリカの政策を国際機関のネットワークに結びつけた。その中には、露骨な反米主義に動かされているものもあり、多くは、個々の国家主権を解体することを明示的に目指す超国家主義に基づいていた。
 要するに、我々のエリートは、根本的に望ましくもなく、かつ不可能な目標を追求しただけでなく、その過程で、その目標を達成するために不可欠であった手段そのもの--すなわち、国家の力、富、そして品位が築かれてきた基盤である国家の性格--を損なったのである」。

 

これはまさに、欧州右派とトランプ一派との意思統一をしめすものだ。

 

「序論」のところで「エリートたち」という言葉が数回でてくるが、エリートと人民の対立という図式を作り上げ、そういう旗印を掲げるのが、「欧州右派」だ。


【フランス国民連合の「反エリート」】 

まさにポピュリズムということになるが、フランスの「国民戦線(FN)」(現在の名称は「国民連合(RN)」)で言うと次のようになる。

朝日新聞デジタル(2017/2/6、リヨン=青田秀樹 名)の記事ではこうだ。

「自国第一を憲法に 仏右翼―国民戦線が大統領選公約」というタイトルだ。そこで、フランス「国民戦線」のルペン党首は、リヨンで開かれた決起集会(2/05)で「右か左かではない。グローバリズムに立ち向かう愛国主義者の力を結集しよう」と訴えたという。

 

そこで記事には、「FNは『民衆の名のもとに』をスローガンに反エリートを旗印としている」と書かかれている。

 

グローバリズムは、民衆を苦しめる「エリート」の圧政だというわけだ。このグローバリズム批判を基軸とする「大統領選挙公約」は、「EUからの主権の奪還」をかかげ、「自由貿易協定の破棄」「フランス人雇用の優先」「国境管理」などの諸政策、「自国第一」の憲法明記のための「国民投票」などの★欧州右派の主要政策★を、表明したものとなっている。

【欧州右派のディスクールとしての「エリート」(ポピュリズム用語)】 

 もう一つ、研究者の論文から、まとまったものを引用しよう。

 森野咲「なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える第一回

「われわれは極右をどう定義するべきなのか」」(集英社新書プラス 2025.10.29。プロフィールでは、著者は早大政経卒後、現在、パリ第8大学の哲学科修士課程に在籍とある)、(以後「森野論文」と略す)がそれだ。

この森野論文は、欧州右派のイデオロギー的立脚点について、渋谷が読んだものとしては、いちばん大きな、ウインドを展開しつつ、要点を整理していると思うものだ。

ここで、森野氏は、極右のイデオロギーを、「三つの柱」 として、「ネイティヴィズム(排外主義)+権威主義+ポピュリズム」との指摘を行っている。

 その「ポピュリズム」の定義には次のように書いている。

「③ポピュリズム」
「イデオロギーとしてのポピュリズムとは、社会は究極的には「純粋な人民」と「腐敗したエリート」という二つの均質で敵対的な集団に分けられると考え、政治は人民の一般意志(volonté générale)の表現であるべきだとする思想である」とのべている。

 さらに森野論文は、別の文脈個所で、こうも言っている。現代の極右は、「移民だけでなく、安全保障、腐敗、外交政策を重要争点として掲げ、具体的には以下のような傾向に収束する」として、そこで「腐敗」に関して「エリート」が次の様に批判されていると述べている。

「腐敗は主に「エリート」の問題とされ、進歩派・知識人・ジャーナリストなどが「国を堕落させる」と批判される。しばしば「文化マルクス主義」などの用語が使われ、リベラルで進歩的な運動を陰謀視すると同時に、その起源をユダヤ系知識人に結びつけることで反ユダヤ主義的含意を帯びる。さらに、選挙不正も語られる」ということだ。

まさに 「エリート」は、人民を抑圧し社会的・政治的腐敗を生み出す悪者の価値観で動いているというわけだ。

 

 ★★★まさにトランプ一派が、NSS2025の初めに、なぜ「エリートたちは…」と批判しているのか、その意味がこれでわかるだろう★★★。欧米右派として、この戦略文書を表明しますよという筋書きのアナウンスなのだ。

 

(※ 森野論文での、上記「三つの軸」における「ネイティヴィズム(排外主義)」「権威主義」について。「ネイティヴィズム」は、「国家は「ネイティブ集団(=国民)」の構成員のみによって占められるべきであり、非ネイティブな要素(人や思想)は均質な国民国家にとって、根本的に脅威であるとするイデオロギーである」。ポイントは、何がネイティブかというところにある。「例えばアメリカではWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントー引用者・渋谷)が先住民に対して「真のネイティブ」を主張していたり、イスラエルではユダヤ人がパレスチナ人に対し「先住民族」を自称することがあるように、どの基準を「ネイティブ」として採用するかは主観的」なものだと、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』の事例を上げつつ論じている。

「権威主義」とは、「社会秩序の維持や強い国家、厳罰主義を重視し、権威に従わない者は処罰されるべきであるとする価値観である」。アドルノ(フランクフルト学派)の『権威主義的パーソナリティ』の事例を上げつつポイントは「内集団においては権威的人物を賞賛し従属する一方で、外集団に対しては「道徳的権威」の名の下に制裁を加える態度に結びつく」と論じている。)

 

【2】「エリートたち」の誤りとはどういうものか

 

 ここからは、一つ一つ、エリートたちの誤りと、トランプ一派が指摘しているものを見て行こう。そしてこの「エリートたち(彼ら)」が、多国間主義外交を組織していたグローバリスト・民主党を主要に、攻撃するものであることは、以下の内容から明らかだ。

ここでのトランプたちが考える基本は「序論」で指摘しているように、「外交政策の目的は、中核的な国益の保護である--それが本戦略の唯一の焦点である」。ということだが、これから見るように、欧米右派の考える国益とは、排外主義にもとづく「自国ファースト主義」だということを、念頭に置いて考えないといけないだろう。

 引用個所に番号を振っていこう。

 a)「冷戦終結後、アメリカの外交政策エリートたちは、世界全体に対する恒久的なアメリカ支配こそが、国益にかなうと自らを説得した」「エリート層は、アメリカ国民が国益との結びつきを見いだせない恒久的な世界的負担を、アメリカが永遠に背負う意思があるかどうかを、著しく見誤った」。

(b)「彼らは、巨大な福祉・規制・行政国家を維持しつつ、同時に巨大な軍事・外交・情報・対外援助複合体を資金面で支えるアメリカの能力を過大評価した」。

→これに対して、【トランプ一派から見て】平板なグローバリズム、合衆国に偏った軍事費などの拠出、過剰に不利益がある対外援助などを意味する。トランプ一派は、これらを是正、または廃止しようとする立場だ。


(c)「彼らは、グローバリズムや、いわゆる「自由貿易」に対し、非常に誤った破壊的な賭けを行い、それによって、アメリカの経済的・軍事的優位性の基盤である中間層と産業基盤そのものを空洞化させた」。

 →これに対して【トランプ一派から見た】移民問題と自国労働者保護・優先政策の放棄に対する修正。


(d)「彼らは、同盟国やパートナー諸国が防衛費用をアメリカ国民に押し付けることを許し、ときには、我々を彼ら自身の利益にとっては中核的であったが、我々自身にとっては周辺的、あるいは無関係な論争や紛争へと引きずり込むことすら許した」。

→【トランプ一派の言う】NATO軍事費分担問題。また欧州では、欧州右派の「ウクライナ支援反対」という主張とも直通している。

 

(e)「そして彼らは、アメリカの政策を国際機関のネットワークに結びつけた。その中には、露骨な反米主義に動かされているものもあり、多くは、個々の国家主権を解体することを明示的に目指す超国家主義に基づいていた」。
→グローバリズム批判、(b)のポイントとむすびつくもの。

 

「要するに、我々のエリートは、根本的に望ましくもなく、かつ不可能な目標を追求しただけでなく、その過程で、その目標を達成するために不可欠であった手段そのもの--すなわち、国家の力、富、そして品位が築かれてきた基盤である国家の性格--を損なったのである」と結論づけている。

 

つまり以上のことを一言で言うと、「エリートたち」は「自国ファーストを破壊」してきたということだ。

 

これらの「エリート」たちの誤りに対する修正をはじめとした諸課題が、「Ⅳ戦略―原則」で論じられている事だ。

 

【3】「Ⅳ―1戦略―原則」で、提起している事

 

「Ⅳ―1戦略―原則」はまず、諸初の基調を明らかにしている(以下の文では、()付きのアルファベットを付しているが、引用者・渋谷が付けたものだ)。

 

(a)【国家利益の集中的定義】最初の「国家利益の集中的定義」で、冷戦以降、合衆国の各政権は、「国益」の概念を拡張し、合衆国にとって「中核的な利益」でない領域にもかかわろうとしてきた。だが、国益の概念は、国家の中核的な利益に関わるものだけにしなければならないと規定している。

 

(b)【力による平和】そして次にこの国益を創出し防衛するものとして、「力による平和」を、宣揚している。「力は最良の抑止力である」とし、他国が合衆国の国益を脅かさなくなるだけでなく、「平和を達成する」ことに貢献する。「なぜなら、我々の力を尊重する当事者は、しばしば我々の助力を求め、紛争解決や平和維持に向けた取り組みに対して受容的になるからである。したがって、アメリカ合衆国は最も強力な経済を維持し、最先端の技術を開発し、社会の文化的健全性を強化し、世界で最も有能な軍を整備しなければならない」ということだ。→これは(d)「柔軟な現実主義」と連結している。

では、力を行使するという時の原則は何か?

 

(c)【非介入主義への基本的傾向】では、我が国は他国の内政に対する「非介入主義」の伝統がある。それは、すべての国は「分離されつつ平等な地位」を有するという権利を持つという考え方であるとされる。そして、「この基本的傾向は、何が正当な介入に当たるのかについて、高い基準を設定するものでなければならない」として、介入主義の位置づけをも担保するものでもあるという。そこで、もう一つ、具体的な基準が示される。

 

(d)【柔軟な現実主義】★★ここは「専制主義(クレムリンなど)―対―民主主義」として、ウクライナ支援を表明していたバイデン政権―NATO/西側帝国主義主流派とは、180度決定的に違う考え方が、表明されているポイントだ★★。

 

これは、ウクライナ問題におけるトランプ一派のクレムリンとの「協商」交渉に関しての基本の考え方(祖型)としてあるものだ。

 

「我々は、各国の伝統や歴史と大きく異なる民主主義やその他の社会変革を押し付けることなく、世界の諸国と良好な関係と平和的な通商関係を求める」として、統治形態や社会のあり様が違う国々を認めたうえで、「良好な通商関係」を求めると述べている。

 

これが、この間、問題になってきた「ディール(取引)」という協商関係の基本的な考え方になっているものだ。

 

また、これは、多国間の枠組みでは、ホワイトハウス、クレムリン、北京中南海など★★大国指導部間のボス交外交★★にも、直結する考え方に他ならない。

まさに、ウクライナ侵略戦争で、クレムリンと「ディール」(協商)をやろうという事になっているのである。

 

 さらに、例えばベネズエラ、コロンビアなどに対するトランプの対処に見られるように、国家体制がもとのままでも、ディールができる体制・政権なら、仲良くやろうとなる。

 2026年1月、米帝トランプ一派は、ベネズエラに対する侵略奇襲戦争に突入し、反米のマドゥロ大統領を逮捕、合衆国に連行・拘束。麻薬密輸などでの刑事裁判を強要している。そして、マドゥロ政権内から、トランプ政権とディールができ、外交ができる新指導部がトランプ一派と政権を運営することで合意した(詳しくは、本連載【第一回】参照)。

 これを見た、コロンビアのペトロ大統領は、2月3日(2026)、ホワイトハウスで、トランプ氏と会談した。BBC NEWS JAPAN (2026年2月4日付)によれば、次のようなことが話し合われたという、記事タイトルは「トランプ氏、ののしり合ってきたコロンビアの大統領を「素晴らしい」と ホワイトハウスで会談」。この会談ではトランプ氏の話として、「ガス輸出」「麻薬対策」「コロンビア民族解放軍(ELN)との闘いで合意」などの話をしたという。

トランプによる、コロンビアへの侵攻は無くなった。コロンビアの国家体制はそのままだ。こうして、ディール、取引ができる相手とは、政治的なもめごとは起こさないし、その必要はないという「柔軟な現実主義」を実践しているという事だ。

 

さらに「同時に、志を同じくする友好国には、共有された規範を守るよう促し、その過程で我々の国益も推進する」としている。これも「相互関税」などでの、協商の利害の掛け合いという場面を想起すれば、どういうことかわかるだろう。

 

そこで、どのような交渉とディールになるかで「仲間か、敵か」「どこまで仲間か」が、わかるだろう。こうして、まさに「柔軟な現実主義」をベースにして、同盟関係も天秤にかけるということだ。

 

(e)【国家の優位性】そこで、前提となる考え方が、共有されなければならないとなる。それが「国家の優位性(国家中心主義)」という事項である。これは「自国ファースト主義」の確認だ。「世界の基本的な政治単位は、そして今後も、国民国家である」。とし、「すべての国家が自国の利益を最優先し、主権を守ることは、自然であり正当である。国家が自国の利益を優先する時、世界は最もうまく機能する」という。

 これは一般的な意味で、例えば先進国の保守政治家などが、多国間主義を踏まえながら「国益を守る交渉を」とか、「ウインウインで行こう」などと言っているようなニュアンスとは違うものだ。★★極右の言う「国益」には、極右にとっての独特の意味がある★★。 

例えばだから、国家主権を守り、「最も侵入的な超国家組織による」主権の侵害に反対するとしている。まさにグローバリズムに対するアンチの表明だ。そしてNSSのこの節では、これら超国家組織に対するアメリカの国益を促進するベクトルでの「制度改革」を支持するとしているのだ。

 

(f)【主権と尊重】そしてもっと具体的に、「主権と尊重」という項目では、「外国勢力や外国主体が我々の言論を検閲したり、市民の表現の自由を制限したりしようとする試みを阻止すること、我々の政策を誘導したり外国紛争に巻き込んだりすることを目的とするロビー活動や影響工作を防ぐこと、さらには国内において外国の利益に忠誠を誓う投票集団を形成するために移民制度を冷笑的に操作する行為を阻止することが含まれる」としている。これは、移民問題からインテリジェンス体制を含んだ、「国防問題」ということになるだろう。

 

(g)【勢力均衡】さらに対外的・世界的な合衆国の立ち位置が、確認される。

「勢力均衡」では、「我々は、同盟国およびパートナーと協力し、支配的な敵対勢力の出現を防ぐため、世界的・地域的な勢力均衡を維持する。アメリカ合衆国は、自国による世界支配という不幸な概念を退ける一方で、他国による世界的、場合によっては地域的な支配を防がなければならない」。これは、【後述するような】、トランプ一派の「西半球」覇権戦略に直結した考え方、価値の置き方をしめしているということができる。

 

(h)【アメリカ労働者重視】そこで、国内的には、「自国民優遇政策」が示されることになる。

「アメリカ労働者重視」という項目では、「アメリカの政策は、単なる成長重視ではなく、労働者重視であり、自国の労働者を最優先する」。

 

(i)【公正性】つぎの「公正性」という項目では、トランプ一派にとって、マイナス出費の項目一覧が示されねばならなくなる。

「我々は、ただ乗り、貿易不均衡、略奪的な経済慣行、その他、アメリカの国益を不利にするような、歴史的な善意につけ込む行為を、もはや容認せず、容認する余裕もない」。これは、アメリカがこの間、国連機関などかから撤退した事態をみてもあきらかだ。どういうことなのか、鮮明である。

 

以上の内容は次の様なことだ。(以下、引用は、JETRO日本貿易振興機構「ビジネス短信」2026年01月09日。 「トランプ米政府、66の国際機関からの脱退を表明 WTOは対象に含まれず」 (赤平大寿)(米国)より)。


「米国のドナルド・トランプ大統領は17日、66の国際機関からの脱退または資金拠出の停止を指示する大統領覚書を発表した。

トランプ氏は202524日、国務長官に対して、米国の利益に反する組織・条約・協定を特定するよう指示する大統領令を発表しており(2025年2月6日記事参照)、今回の決定は同大統領令に基づいている。具体的には、米国の国益・安全保障・経済的繁栄・主権に反するとして、35の非国連機関と31の国連機関からの脱退や資金拠出停止を命じた。非国連機関は、気候変動対策や自然保護のほか、テロ対策、サイバーセキュリティー、芸術・文化などに関する広範な機関が対象となった。国連機関は、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国際貿易センター(ITC)、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)などが対象となった。同日発表したファクトシートでは、「米国の優先事項よりもグローバリズムの議題を推進する機関、あるいは重要な課題を非効率的・非効果的に扱う機関への米国納税者の資金提供と関与が終了する」として、「米国納税者の資金は他の方法でより適切に配分される」とその意義を強調した」。

以上、これらの事態についてだが、ジェンダー平等・気候変動枠組み・グローバリズム(自国ファーストにとって敵を意味する)・非効果的な機関への税金投入とされるもの等々、このNSSでの、いくつかの事項で取り上げられる課題での、自国ファーストに対する阻害物と規定された機関からの「脱退」(これらの機関に対する援助停止という攻撃を意味するだろう)ということを、確認するのでなければならない。

また、同盟国間の軍事費の分担については、こうだ。 

「特に、同盟国には、自国防衛のために国内総生産(GDP)のはるかに大きな割合を支出することを求める」。これは、NATOや日本に対し、最高5%のGDP比を要求するという事に表れた問題である。合衆国が「何十年にもわたりはるかに多額の支出をしてきた結果として生じた巨大な不均衡を」是正すると宣言している。

 

(j)【能力と実力主義】そして「戦略―原則」の最後の項目「能力と実力主義」では「アメリカの繁栄と安全は、能力の育成とその昇進に依存している」とし、「「世界的人材(global talent)」を見つけるという名目でアメリカ人労働者の立場を弱めるような形で、実力主義を利用してアメリカの労働市場世界に開放することも許してはならない」。アメリカとアメリカ人が常に最優先されなければならない」と表明している。

 

まさに「自国ファースト」の欧米右派の綱領が展開されている。

 

【4】 欧米右派の綱領的立脚点で敷き詰められている

 

【Ⅳ.戦略―2.優先事項】


a)【大量移民の時代は終わった】

「歴史を通じて、主権国家は無制限の移民を禁止し、外国人に市民権を与えること は極めて限定的であり、かつ厳しい基準を満たすことを求めてきた。

過去数十年における西側諸国の経験は、この永続的な知恵の正しさを裏付けている。

世界各国において、大量移民は国内資源を圧迫し、暴力やその他の犯罪を増加させ、社会的結束を弱体化させ、労働市場を歪め、国家安全保障を損なってきた。
大量移民の時代は終わらせなければならない」。
 「国境の安全は、国家安全保障の中核である。
我々は、無秩序な移民だけでなく、テロ、麻薬、諜報活動、人身売買といった国境を越える脅威からも、国家を守らなければならない」。
———

これが、欧米右派(欧州右派)の「ネイティヴィズム(排外主義)」に基づく、自民族中心主義(エスノセントリズム)=「自国ファースト主義」の政治内容に他ならない、

 

(b)【中核的権利および自由の保護】

「アメリカ政府の目的は、アメリカ国民に神から与えられた自然権を保障することである」。「特に、言論の自由、信教および良心の自由、そして我々の共通の政府を選び、方向づける権利は、決して侵害されてはならない中核的権利である。
これらの原則を共有している、あるいは共有していると主張する国々に対して、アメリカ合衆国は、それらが文言においても精神においても遵守されるよう、強く主張する」。

 

核心はここから先だ。「我々は、ヨーロッパ、英語圏、そして民主主義世界の他の地域、とりわけ同盟国において、エリート主導の反民主的な中核的自由への制限に反対する」。「エリート主導の反民主的な」とは、例えば、中国の権威主義的な中南海指導部が、香港やウイグルなどで人権侵害の政治をおこなってきたことなどがあげられるだろう。これに対して反対する事には、本論著者(渋谷)も賛成する。

だが、こうした「正義」を口実化して、他面で、自国ファーストの極右の排外主義的な主張や行動(「~人は出ていけ!」「移民保護政策を撤廃しろ!」など)に対する弾圧に反対するということだろう。また他方で、イスラム過激派などの全体主義運動に対する、先進国自国ファースト主義の連帯を目標としたものだと考えられる。

 

(c)【負担分担と負担移転】

「アトラス(ギリシャ神話に登場する神。「支えるもの」「耐えるもの」などの意味がある――引用者・渋谷)のように、アメリカ合衆国が世界秩序全体を支え続ける時代は終わった」として、NATO諸国に「防衛費をGDP比5%に引き上げる」ことを約束させた。「NATO同盟国はこれを支持しており、今や履行しなければならない」としている。
 「同盟国が自らの地域に対して第一次的責任を負うべきだと求める、トランプ大統領の方針を継続しつつ、アメリカ合衆国は、政府が主催者・支援者となる負担分担ネットワークを構築する」とする。

これは、例えば、日米安保といった場合、日米両軍の一体化——装備・兵器などにとどまらず、指揮系統・情報系統の一体化——つまり、自衛隊を米軍の、こう言って良ければ日本方面軍とすることなどに関係した内容に発展する可能性のあることがらである。

まさに「アメリカ合衆国は、自らの地域の安全保障により大きな責任を進んで負い、輸出管理を我々のものと整合させる国々に対して、通商面でのより有利な扱い、技術共有、防衛調達などを通じて、支援を惜しまない」ということだ。

 

(d)【平和を通じた再整列】 --
「大統領の指示の下で和平合意を追求することは、たとえ当面の中核的国益から見て周辺的な地域や国々であっても、安定を高め、アメリカの世界的影響力を強化し、★★国や地域を我々の利益に沿って再配置し、新たな市場を開くための有効な手段である」★★。

 

<和平合意=新たな市場>という事が、ここでのポイントだ。ここでは、クレムリンによるウクライナ侵略戦争での、トランプがウクライナに提起した「和平案」と、「鉱物資源協定」の位置づけなどが想起されるだろう。

 

(e)【経済安全保障】
「最後に、経済安全保障は国家安全保障の基盤であるがゆえに、我々はアメリカ経済のさらなる強化に取り組む。その重点は次のとおりである」。

 

a.《均衡ある貿易》互恵的な貿易でもアメリカ・ファーストでの取引が第一だということだ。次の様である。

「我々は、相互利益と相互尊重を基盤として我々と取引したいと望む国々と、公正で互恵的な貿易協定を追求する。しかし、我々の優先事項は、そして今後も、アメリカの労働者、アメリカの産業、そしてアメリカの国家安全保障である」。

 

b.《重要供給網および重要物資へのアクセス確保》

「アメリカ合衆国は、防衛や経済に不可欠な中核的構成要素--原材料から部品、完成品に至るまで--について、いかなる外部勢力にも依存してはならない」。

 

 まさにこれが「西半球」覇権戦略の前提にある考え方だ。ここにあるように、サプライ・チェーンのアメリカ・ファーストなヘゲモニーの構築が課題となっている。

 

この場合、「外部勢力」とは、中南米・南米の場合、「中国」ということになるだろう。★★本連載第三回(次回)では、この「米中争闘戦としての米『西半球』覇権戦略」について言及する★★。

 

「そのためには、略奪的な経済慣行に対抗しつつ、重要鉱物および重要素材へのアメリカへのアクセスを拡大する必要がある」。 これらは、例えば、ベネズエラ侵略戦争などの課題があったのである(詳しくは本連載の第一回参照)。

 

 

c.《再工業化》

「未来は「つくる者」のものである。アメリカ合衆国は経済を再工業化し、産業生産を「国内回帰(リショア)」させ、重要技術および将来を規定する部門である新興技術に焦点を当てつつ、経済および労働力への投資を奨励し、誘致する。

我々は、関税の戦略的活用および新技術の導入を通じてこれを実行する」。

 →グローバリズムで海外に出て行った産業生産を国内に呼び戻すことを、産業政策における「アメリカ・ファースト」のポイントとしていることがわかる。この「再工業化」については、後述する「eエネルギー覇権」のところで、あわせて分析する。「再工業化」とは、欧州右派がよく使うフレーズだが、中身が問題だということだ。

 

d.《防衛産業基盤の再生》
「強力で有能な軍隊は、強力で有能な防衛産業基盤なしには存在し得ない。
近年の紛争で明らかになった、低コストのドローンやミサイルと、それらに対抗するために必要な高価な防衛システムとの間の巨大なギャップは、我々が変革と適応を迫られていることを白日の下にさらした」。「力による平和というトランプ大統領の構想を実現するためには、迅速にこれを行わなければならない」。
 軍産技術の刷新などが課題であり、それなくして「力による平和」は実現できないとしている。また、「集団防衛を強化するため、すべての同盟国およびパートナーの産業基盤の活性化を促す」としている。これも、例えば、日米安保軍での軍の一体化などとの関係で、おさえておくべき箇所だ。

 

e.《エネルギー覇権》NSSは次の様に言う。

国内的には「アメリカのエネルギー覇権(石油、天然ガス、石炭、原子力)を回復し、必要な主要エネルギー部品を★★国内回帰させる★★ことは、最優先の戦略課題である。安価で豊富なエネルギーは、アメリカ国内に高賃金の雇用を生み、消費者と企業のコストを下げ、★再工業化★を支え、AIのような最先端技術における優位性の維持に寄与する」。

対外的には「純エネルギー輸出の拡大は、同盟国との関係を深化させる一方で、敵対勢力の影響力を弱め、国土防衛能力を守り、必要な場合には--時と場所を選んで--戦力投射を可能にする」。

我々は、ヨーロッパに甚大な害を与え、アメリカを脅かし、敵対勢力を補助してきた、破滅的な「気候変動」および「ネット・ゼロ」イデオロギーを拒否する」。

 

これは、トランプが「気候変動」の運動を批判してきたことでよく知られていることだ。地球温暖化―気候変動に対するカーボンニュートラルや、ネット・ゼロなど、温室効果ガスなどの削減目標達成を目的とした取り組み(ここでは★それらの取り組みの違いについては、本論の論脈としては、取り扱わない★ものとする)は、トランプ一派にとっては、「再工業化」を阻害し、工業化を遅らせる、そこでの雇用を創造することもできない(総じて「国民的生産力」の鈍化をまねく)、エリートたちの悪行だという事になるだろう。

—————— 

【「経済愛国主義」と「再工業化」をめぐって】

ここで、森野論文で、欧州右派の「経済愛国主義」について関係した部分を読むことにしよう。

「極右の経済プログラムの軸」という節だ。四個の特徴があげられている。「企業や富裕層の待遇の恒常化への傾向」「経済愛国主義」「国民優先の制度」「公共部門のイデオロギー的な再編」(統制強化と民営化という両義的な政策転換。例えば教育=国家統制、公共放送=民営化など)。この「経済愛国主義」のところだ。

次の様である。 

「第二の特徴は、「経済愛国主義」という看板と実態との乖離である。★ 極右はしばしば「再工業化」を訴える★が、その内容は減税や補助金、「産業特区」の設置などの優遇措置の列挙にとどまり、どの産業をどのような目的で育成するのかという明確な戦略を欠いている」。

つまり、トランプ一派が上記のように、「気候変動」対策―「ネット・ゼロ」を「拒否」した文脈——それは「どのような産業を育成し」そこでどのような雇用を生み出すかということの、環境保護に通底した政策転換を「拒否」するという事を意味している――が、対象化されるべきだ。

さらに、「「大衆に寄り添う」イメージとは裏腹に、こうした産業重視の姿勢は住宅などの社会的ニーズを後景化させている。2024年の国民連合のプログラムでは★原子力の推進を「再工業化」の軸としている★が、税負担の軽減や規制緩和を通じて企業競争力を高めようとする基本方針は連続している」。

つまり、このように20世紀で見られたような、環境問題など関係なしの、産業エネルギー神話が、欧米右派の価値観には存在するという事である。

———

そしてこの価値観と、トランプ一派の「力による平和」とは、米軍産複合体の利益として、一体のものなのだ。

 ———

f.アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大》合衆国金融資本の世界的覇権の維持が、「力による平和」の心臓部をつくっているという事が言われている。

 

「アメリカ合衆国は、世界を主導する金融および資本市場であり、それらはアメリカの影響力の柱であって、政策決定者に対し、国家安全保障上の優先課題を推進するための大きな影響力と手段を与える。
しかし、我々の指導的地位は当然視されてはならない。
覇権を維持し、拡大するためには、活力ある自由市場体制と、デジタル金融および技術革新における指導力を活用し、市場が今後も世界で最も活発で、流動性が高く、安全であり続け、世界の羨望の的であり続けることを確保しなければならない」。

(次回予告、【第三回】「米中争闘戦としての米「西半球」覇権戦略」) 

★★★【参考資料】★★★

 

本ブログの「トランプ一派=欧州(欧米)右派」という分析について―――トランプ一派が「欧州右派」の一員として「欧米右派」であるという、この「赤いエコロジスト」の分析は、今に言い出したことではない。それは、すでに、2025年3月段階で、このブログ「赤いエコロジスト」に、アップしているものだ。

 その時の主張は、「赤いエコロジスト」2025.3・05(最終更新)の「トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ」で論じているものだ。今、この【連載第二回】の文末に、その第二章を張り付けます。

――――2025.3.05(最終更新)「赤いエコロジスト」「トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換—―ウクライナは何処へ 渋谷要」の第二章

 

≪Ⅱ≫【トランプ「アメリカ・ファースト」の政治的立脚点】

● 【彼の仲間は誰か?】その政治的立脚点であるが。2025年1月20日、トランプの「大統領就任式」の様そうをみるのが、一番わかりやすいだろう。この「就任式」に呼ばれた「招待者リスト」の顔ぶれがポイントだ。この「就任式」には、大統領が一番話を聞きたい人々が集まるとされている。まさに、あつまったひとびとは、各国の右翼のリーダーたちだった。大統領就任式の慣例では、例えば欧米の首脳などは招かれないとされている。だが、この日は例外的に唯一、欧州の首脳ではイタリアのメローニ首相が招待されている。メローニ氏は、「イタリアの同胞」という右翼グループを率いている(欧州議会会派は「欧州保守改革グループ(ECR)」に属す)。このグループはイタリアのファシスト党のながれをくんでいるという(※なお、メローニ氏らは、イタリアの「ウクライナ支援」については「継続」を訴えている)。また様々な右派政治家が招待されているが、ここで名前を一つ上げるなら、「ドイツのための選択肢(AfD)」のクルパラ共同党首が、入っていることが重要だ。「クルパラ氏は声明で『(トランプ氏の)大統領就任で世界は一変する。われわれは欧州の強力なパートナーになる準備がある」と米新大統領との連携に意欲を見せた」(「各国右派指導者が参集 欧州主流派と距離――トランプ氏就任式」時事ドットコム・ニュース、時事通信外信部、2025/1/20配信)ということである。

●【ドイツAfDについて】AfD(ドイツのための選択肢)は、2025年2月ドイツ連邦議会総選挙で、第二党に躍進した。「国境閉鎖」「違法難民入国阻止」「犯罪を起こした移民・難民の強制送還」「ウクライナ軍事支援停止」「EU離脱」などを主張している。

 トランプは、ドイツ総選挙で「保守政党が大勝利した」と祝福。「アメリカにとってすばらしい一日」と2月23日、SNSに投稿した。例えば、イーロン・マスク氏が「AfDドイツのための選択肢」への投票を呼び掛けたり、バンス副大統領がAfDの党首と会談するなど、これに対しドイツ政府から批判があがっている。なお、AfDは24年9月、ドイツ州議会選挙においてチューリンゲンで第一党になるなど、地方議会でも躍進している。欧州議会では「主権国家の欧州(ESN)」に属する。

●【トランプ当選=停戦(実は「協商」だったが)】「朝日新聞デジタル」(2024.7.1)は、タイトル「ドイツのウクライナ支援の中止を要求 独右翼・共同党首が単独会見」という見出しで(2024年)「6月上旬の欧州議会で国内第2党に躍進したドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首」にインタビューとしたして記事を掲載している。★★そこではウクライナ支援は「真っ先にやめるべきだと要求」。「米大統領選でトランプ前大統領が勝利すれば、停戦が実現できるとし、『明らかによりよい大統領になる』、と期待を示した」★★と報道した。

●【フランス国民連合】フランスでは、RN(国民連合)が、2017年以降、諸所の選挙戦で躍進している。それは「移民排斥」「EU離脱」などの過激なスローガンを封印したからだという。だが、「出生地主義」(親の国籍を問わず、出生した場所がその国であれば、その国の国籍を自動的に取得できるというもの)廃止(移民排斥の徹底化)、「二重国籍者」の「政府要職」禁止を主張している。欧州議会では「欧州の愛国者」に属する。

(※この「出生地主義」の廃止だが、トランプも、この間大統領令を多発しているが、その中に「出生地主義」を制限する大統領令に署名した。現在この大統領令の無効を求める裁判が、いくつかの州でおこなわれている。この大統領令は「非正規移民(不法入国者)」「永住権を持たない外国籍者(就労ビザでの滞在者など)」を、この権利から排除しようとしている。これは「非正規移民の大量送還」というトランプの政策を徹底させようとするものだ。合衆国で生まれた子供は自動的に合衆国の国籍を取得できる「出生地主義」ではなく、国籍を持たない人々の子供を「非アメリカ人」として送還(非正規移民などとして)の対象にできる。こうして、「アメリカ人と非アメリカ人」との分断も助長されてゆくことになるだろう。出生地主義の他に血縁主義があるが、説明はここでは省略する)。

●【「欧州の愛国者」総決起集会ーートランプ旋風】25年2月、マドリードでヨーロッパ議会で同じ会派に属する欧州右派が、共同集会を開催した。この会派は「欧州の愛国者」。2000人があつまったという。集会タイトルは「ヨーロッパを再び偉大に」。フランス国民連合(RN)、スペイン「ボックス(VOX)」など極右派が集結。「欧州の愛国者」(2024年欧州議会選挙で84議席)のリーダーで、親ロシア派でウクライナへの軍事援助を拒否しているハンガリー首相のオルバン氏は、「トランプ旋風はわずか数週間で世界を変えた」我々もそれに続こうと発言したという。

 まさにトランプ勢力はこういう排外主義・自国ファースト主義者の一員なのである。そしてそれは、オルバン氏に見られるようにクレムリンと近しい距離をとる勢力が数多く参集しているのだ」。◆


2026年3月4日水曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第一回】米帝トランプ一派とイスラエルによるイラン侵略戦争を弾劾する! 渋谷要

 

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025

【第一回】米帝トランプ一派とイスラエルによるイラン侵略戦争を弾劾する!

                          渋谷要

 【最終更新】2026/3/06 23:23

●米帝トランプ一派による世界戦略地図の更新——二つの「反米親中」国家の壊滅

 

 トランプ一派の世界戦略は、【後述するように】、「NSS国家安全保障戦略2025」に明らかだが、まず、現在(2026・3.03)進行しているイラン侵略戦争事態を見て行こう。228日に始まった米帝トランプ一派とイスラエルによるイラン侵略戦争(「壮絶な怒り(エピック・ヒューリー作戦」と名付けられているもの)は、イランの報復反撃を結果し、イランは、中東全域に展開する米軍基地などに、報復攻撃を敢行している。まさに、中東全域を巻き込む地域戦争として拡大している。トランプは「目的を達成するまで攻撃を続ける」といっており、「体制転覆」を目指している。イランの市民に対し「われわれの攻撃が終わったら、君たちはイラン国家をとりもどせ」とアジテーションをしているのだ(3・02)。そうした中で、イラン市民の側で多くの死者がでてきている(数字は今後どれだけ変わるかわからないので表記しない)、また、米軍にも戦死者が出始めている。

 

この戦争では、合衆国トランプ一派は、その世界戦略においては、次のようなことが目標になっていると分析する以外ない。ひとつは、【後述する】NSS(国家安全保障)戦略2025での、「力による平和」の構築として、これまでの戦後世界の体制であった、国連の国連憲章・国際法体制のひとつの根幹をなす「先制攻撃の禁止」(国家自衛権の発動要件)を否定し、国家主権や国境・領土(の一体性)などに対する「力による現状変更の禁止」を、否定するものとして、軍事力がすべてを決するという「砲艦外交」を、日常化させてきている。こうした手段でもって、NSS2025に述べられているような「西半球」における「アメリカ・ファースト」の勢力圏の形成という世界戦略地図を強化しようとしているということだ。また、【そのために】する課題として、中国に対する経済的プレッシャーと中国と一体となった、中国「一帯一路」の「反米」拠点国家、まさにイランとベネズエラ指導部の粉砕を彼らトランプ一派は設定したのであった。

 

―——

※そして、イラン侵略戦争では、ここに、イスラエルが参戦しているのは、イランがイスラエルを攻撃していることに対する自衛権ということを基本としつつ、【後述するように】、反米国家イランや「抵抗の枢軸」(ヒズボラ、ハマース、イスラム聖戦、フーシ派など)をせん滅し、「大イスラエル構想」を実現することに関係した話だ。大イスラエル構想…ソロモン王時代イスラエル王国の領土に関する旧約聖書の解釈として、パレスチナ自治区ガザ地区とヨルダン西岸だけではなく、現在のヨルダン、レバノン、シリアの一部を含む地域を対象とする。(※「ネタニヤフ氏 『大イスラエル』構想を支持 アラブ諸国猛反発」2025【8月15日 AFP】参照】→それでか、どうか、2026/3/03,イスラエルはレバノンに地上侵攻を開始した。国防省は「支配地域拡大」を指示したということだ(日テレNEWS3/03 19:54配信))。

―——

【反米親中国家=イラン国家体制の壊滅】

ひとつはイランに対する攻撃。

2月にはじまったイラン侵略戦争では、空爆攻撃によってイランの最高指導者・ハメネイ師を殺害。同場所で同時に革命防衛隊総司令官のバクプール氏など数名の指導者が殺害された。それ以降、おおくのイランの指導者たちが殺害されている。そしてその爆撃は、市民生活を直撃している。イランは、「上海協力機構(SCO)」やBRICS加盟国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、イラン、エジプト、アラブ首長国連プ連邦、エチオピア、インドネシア10か国)として、親中派の外交を展開してきた。まさに中東における「一帯一路」の拠点国家として、中国への石油などの輸出でも大きく貢献してきた。

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※中国は「エネルギー分析企業「Kpler」の2025年のデータによると、中国はイランの原油輸出量の80%以上を購入している。中国は昨年、イラン産原油を1日平均138万バレル購入しており、これは中国が海上で輸入した原油総量1027万バレルの約13.4%に当たるとロイターが報じた。さらに、中国に輸入される原油の3分の1はホルムズ海峡を通過するとされ、今回の事態が中国のエネルギー需給に大きな影響を及ぼす可能性がある」(「中央日報」2026/3/02、6:46」「中国 原油需給に警戒つよまる」記事より)。

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【国際強盗会議でしかない「平和評議会」——イランの地域ヘゲモニーを破壊せよ、という事になった のだ】

このイラン侵略戦争は、ガザ虐殺戦争の第二章といえるものである。

2025年後半に「停戦」となったイスラエルのガザ虐殺戦争では、ガザのリゾート地化政策(パレスチナ人民の強制移住を前提としている)を突破口に、中東への支配を確立してゆくという事がトランプ一派の課題となっている。「平和評議会」なる、ガザ・パレスチナの当事者を除外した、主要に欧米の政治・経済の権力者たちとイスラエルがその強盗会議の構成者たちの権力がそれをしめしている。そして「治安部隊」も建設するという。

これは、20261月発足した。国連安保理で承認された(2025年1117日、安保理決議2803号)時限付き(2027年末まで)の機関であるが、この機関の憲章ではこの機関の対象範囲を「ガザ」に限定していないものとなっている。だから、例えば欧州諸国の中から、国連との二重性を懸念する声もあがっている。議長はトランプであり、彼はこの評議会の合衆国代表を兼任している。

活動の実態だが。2026/2/20BBC  NEWS(エイミー・ウエイカー記者、トム・べイトマン米国務省担当編集委員(米首都ワシントン)が、伝えた(「トランプ氏のガザ『平和協議会』が初会合……」)ところによると219日、「平和評議会」の初会合がおこなわれ、そこで、トランプ氏が「救済パッケージ」(なるもの)に、「カザフスタン、アゼルバイジャン、UAE(アラブ首長国連邦)、モロッコ、バーレーン、カタール、サウジアラビア、ウズベキスタン、クウェートが70億ドル超の拠出をした」と発表。また、FIFA(国際サッカー連盟)がガザでのサッカー事業として7500万ドルを調達すると発表したという。この評議会には今あげた諸国の他、トルコ、エジプト、パキスタン、ハンガリー、ベトナム等々が参加している。こうなってくると、この中東地域での、ヘゲモニーが問われてくることになるだろう。イラン・ヘゲモニーは、トランプ一派の目的を十分に阻害しているだろう。

【「ミッドナイト・ハンマー」作戦から「壮絶な怒り(エピック・ヒューリー)作戦」へ】

まさに、中東における反米親中派の拠点国家イランを粉砕することが、国際的なヘゲモニー掌握の問題として、課題となってきたのである。それはアメリカが有利なような、石油などの資源・開発投資に関する様々なディール市場、まさに広範囲な多義にわたる資本蓄積戦略を組織していこうという話にほかならない。だからここでもアメリカ・ファーストのサプライ・チェーンの構築が目指されることになるだろう。

「核開発」疑惑は、そのため(イラン・ヘゲモニーを粉砕するため)の、重要なカードになってきたのである。それが、20256月にトランプ一派が決行した、イラク核施設などに対する「ミッドナイト・ハンマー」作戦だったのだ。それ以降、対イラク攻撃の臨戦態勢の構築に入っていくことになったのだ。その結実が、2/28(2026)の「エピック・ヒューリー」作戦だったのである。

 

【ベネズエラ侵略戦争とトランプ一派の対中国包囲網】

2026年、一月には反米独立国家であり、「一帯一路」の南米における拠点国家であったベネズエラに対する侵略奇襲戦争で、マドゥロ大統領を拘束し、米国に移送し収監した。これは麻薬密輸に対する取締で、刑事裁判にかけるという治安目的での理由からだ。それ以降、ホワイトハウスと協調してゆける――ビジネスの話・デイ―ルができる――指導者体制が現れた。トランプはキューバに対しても、「友好的に支配する可能性」などと挑発的な発言をし始めている(「トランプ氏『キューバを“友好的に”支配する可能性』ベネズエラに続きキューバへの圧力強めるアメリカ」「TBS NEWS DIG」2026/2/28、15:26配信)。

だからこうした事態は、トランプ一派が、世界戦略地図を「アメリカ・ファースト」で塗り替え、同時にその一環として、中国に対して「一帯一路」などの親中国派国家づくりの戦略に壊滅的な打撃を与えるものにほかならない。

ベネズエラ(原油埋蔵量で世界トップクラス。ボーキサイト、鉄鋼、ニッケルなど鉱物資源の生産、工業製品の輸出品目でも、これらの資源からの製品からが、輸出項目の大部分を占めている)は、原油輸出量の大きな割合を中国に供給してきた。ベネズエラは原油出荷を担保に中国からこれまで約600億ドル(約9兆円)の融資をうけてきたとされる。その大部分はインフラ整備に使われたという。まさに、ベネズエラの石油輸出の80%は中国向けだった。これに対しベネズエラでは20261月、石油輸出を合衆国が管理することになったというわけだ。今後多くのベネズエラの資源が合衆国のコントロールによって支配されることになるだろう。ベネズエラ占領は、【後述するように】、米帝トランプ一派の「西半球」覇権戦略(「西半球」での他の大国の一切の政治経済・軍事のヘゲモニーを許さないというもの)の前提をなすものだ。

以上のような世界戦略地図の書き換えが、ベネズエラとイランに対する米帝トランプ一派の侵略戦争の政治目的だということだ。

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そして、イラン侵略戦争の攻防によってホルムズ海峡が封鎖されるなら、中東産油国諸国からのアジアへの原油輸送は危機に陥るだろう。中国にとって石油輸入量の約三分の一以上は、ホルムズ海峡を通過している。【つづく】


2025年4月23日水曜日

トランプ一派【による】米ロ・「帝国主義協商」にNOを!――現代政治条約における「同盟」と「協商」の概念的相違から見えてくるウクライナ「停戦」協議の構図  渋谷要

現代政治条約における「同盟」と「協商」の概念的相違から見えてくるウクライナ「停戦」協議の構図/トランプ一派(米帝一般じゃない)【による】★米ロ・「帝国主義協商」にNOを!

アップ/2025・04・23 00:01

最終更新/2025・04・24 22:16 

※「協商」とは、フランス語で「entente」のことです。国際社会で使われている位置づけの用語です。それ以外の使用・用法は、【3/01アップしたものと同様】、この本論には含みません。 

                             渋谷要

目次

【はじめに―米のウクライナ和平案をめぐって】

【1】【現代政治条約における「同盟」と「協商」の違い】

【①-a】【協商】

【①-b】【「同盟」と「協商」の違い】

【2】【まとめ】

【ノート:チェンバレンとトランプの決定的な違いについて】


【はじめに――米のウクライナ和平案をめぐって】2025・4・17(フランスでのウクライナ問題でのEU諸国との会合において)、合衆国政府は、ウクライナと欧州主要国に対し、「ウクライナ和平構想案」を、表明した。この案文は、①欧州最大級の発電力を持つザポリージャ原発(現在、クレムリンが占領している)の周辺地帯を中立地帯として合衆国の管理下におく。戦後、その原発の電力をウクライナ領と同時にロシアの支配地域の双方に提供する。

(分析⇒このことは現在クレムリンが支配する地域を事実上、既成事実として肯定し、そこにこの原発の電力をおくるという想定がなされていることを意味するだろう。そうなればこの対象が、クレムリンが占領している東部2州、南部2州(ウクライナ国土の約20%)のすべてを対象としたものになるだろう。トランプはすでに3月段階で、この原発の所有や運営を米国が行うことを提案している)。

 さらに、②停戦ライン⇒現在の戦線にそって、戦闘を凍結する。ロシアによるクリミア半島の占領統治を米国が承認する。また、ウクライナのNATO加盟は排除される、というものだ。こうした、トランプ一派の「和平案」と、そこに存在する、クレムリンとの「帝国主義協商」(これを★★「協商」とする意味を以下に展開する★★。★★以下に論じるように、現代ブルジョア政治学の概念に即した内容で言うと、「協商」が、この「停戦プロセス」と完全に、論理的に一致する概念★★である)をどのように見るかだ。

 さっそくこの和平案に対し、4月21日、ロシア大統領府のぺスコフ報道官は、この「和平案」でトランプ政権が、クリミアのロシアへの「併合」を容認していること、ウクライナのNATO加盟を否定していることなどをあげ、「我々と一致している」と評価した(NHK WEB「ロシア軍事侵攻(4/22(火)のうごき」。2025・4・22 18:59)。

 ※また、この4・17「和平案」の提案と同日のタイミングで、「欧州右派」のリーダーの一人であり、ウクライナ問題で摩擦を起こしている、欧州EU主流派とホワイトハウスとの架け橋として、イタリア首相・メローニ氏が、ホワイトハウスを訪問(関税問題での訪問とあるが、それだけではないだろう)、そして翌日には、イタリアでの、米・バンス副大統領らとの会談など、「欧州右派」(メローニ首相はイタリアの政治関係の中で「ウクライナ支援反対」を言っていないが、「欧州右派」の多くが「支援反対」を表明している)のウクライナ問題での「意思統一」を交換したと推測される。このことは、みておく必要がある(朝日新聞デジタル、4/19 06:44配信。「メローニ氏 試される『右翼』のつながり トランプ氏と欧州の仲介役」など参照)。

【1】【現代政治条約における「同盟」と「協商」の違い――「トランプ関税」を課さなかったクレムリンとの交渉、他方でトランプが「ウクライナはNATOに加盟できない」という意味】

 この場合「トランプによる『米ロ・帝国主義協商』」の【強調点】は、あくまでも「トランプによる」が★強調点だ★。とくに、トランプ一派のような「帝国主義反主流派」の分析には、「国家」ベクトル【だけ】ではなく、その「党派」的特質の分析が必要になってくる。それに焦点を当てたのが、このブログで、3・01にアップした先の論文である。

★★★そして、ここで、まずもって何よりも、とりあえず確認しておきたいのは、【ロシアはトランプ関税から除外されている】ということだ。ウクライナ問題の「解決」(?)のために、クレムリンと「ディール」をやりたい、トランプのこれが、政治の舞台設定だという事だ★★★。

 まさに今現に行われていることは、「米ロ『協商』の展開だ!」ということだ。これはこれから論述するように、何の【定説にも基づかず、わたし(渋谷)が勝手にいっていることではない】のである。それは端的にいって、【現代政治条約における〈「同盟」と「協商」の【違い】〉という問題】だ。そこで一番のポイントは、これから説明するように「援助義務規定」のある(同盟)、なし(協商)がポイントになってくる、ということなのである。

 ★★★「ウィキペディア」での「協商」の項目が、ベーシックな解説だと考えるが、インターネットで「同盟と協商」、等と書いて、【検索】をすると、【ダダっと、でてくる】。いろいろな論者・専門家や「問題事項」の「解説」がでてくるが、基本的にどれも同じだ★★★。


【「協商」を「同盟」と同じ内容だと言っている人はいない】。そこで、これらを、まとめるならば、以下の内容になる。これ(①ーb)は、国際法上の「定説」である。


 【①ーa】【まず「同盟」との違いを見る前に「協商」というものだけを見て行こう】「協商とは、「仲良く売り買いをする」ことでは【ない】。それは相互に利益を賭けあう事である。この「協商」が「成功するかどうか」、そもそも、どこまでの有効性をもつかなどという問いは愚問である。そういう「政治の打ち合い」ができるようになったのがトランプ一派であり、バイデン政権ではそういう打ち合いができなかった。そこが【路線転換】として対象化されるべきところだ。そもそも「協商」とは、単になかよくすることでは【ない】、【利害を賭けあうことだ】。その結果として互いが、目的としている利害の分配を結果する、かどうかだ。それは、互いの【取り分がどうなってゆくかを相互に監視し合う】ことでもある。それが、失敗すれば「ディール失敗」となり、協商などはなくなる。★★(※そもそもこうした政治学における「協商」という概念はあくまで、ブルジョア政治学(広義)の中でつかっているものであり、例えば、中国共産党の歴史で言う「協商」とは、意味が違うものだ)★★。

 まさにトランプは、【プーチンとゼレンスキーの★中間に立ち★両者を天秤にかけて】、自分の目的とするディールに勝利しようと考えている。★つまり、クレムリンとの「協商」は、ウクライナとの「協商」と同時に進める必要がある、これが、トランプの作戦だ★。それが、ウクライナの鉱物資源収奪をはじめとするウクライナ植民地化だ。そこでは、クレムリンの権益も、確保させるつもりだ。さて、「同盟」と「協商」の違いを見て行こう。★★このポイントは先述したように、「援助義務規定」というものが、その契約に入っているか否かが、重要だ★★。


【①ーb】【★★★「同盟」と「協商」との違いについて★★★】「協商」とは、「公式文書がない非公式の合意」のことであり、「同盟」とは違う。「ある問題に対する調整をもとに、協調や協力」を取り決めることだ。そこで形成された「合意」をいう。また【これは決定的なことだが】、「援助義務規定」が★ない★ものだ。「協商」によって「公式の条約文書」が交わされる場合でも、★★「援助義務規定」がないもの★★をいい、【これは、第三国の脅威とならない性格に配慮したもの】にほかならない。「援助義務」には「軍事的援助義務」があり、いわゆる「安全保障」の確認の問題となる。

 これを【ウクライナ和平交渉に適用する】と、次のようになるだろう。トランプはプーチンと【対等のディール】をのぞんでいる。それは「同盟」の締結などとはならず、「協商」の位置づけでの問題となる。だからウクライナとの★★関係も★★「協商」の水準を★★位置づけ★★にする必要がある。そこで、★★★第一に、合衆国とウクライナの間で締結される「鉱物資源協定」に、ウクライナの要求した「安全保障」の文言は★記入しない★となる。第二に、4月中旬に発表したトランプ政権の「ウクライナ和平案」では、「ウクライナはNATOに入らない(★つまり「同盟」ではない★)」★★★となっているのである。【こうしてみてくれば、「同盟」と「協商」という二つの概念から、ウクライナ「停戦」協定を巡る【攻防の位相】が、鮮明に見えてくるだろう。どうだろうか】。

※また、左翼用語との関係で言うなら、「同盟」は「戦略」、「協商」は「戦術」の概念に、大きく【包括される】と考える。どうだろうか。

【2】【まとめ――つまりザックリいってこういうことだ】①バイデンはウクライナとの関係を★★「同盟」★★とし、侵略者クレムリンとの闘いを「専制主義——対――民主主義」の闘いと規定した。これに対し、トランプは明確に【方向転換】した。②トランプは、「この戦争は、プーチンとゼレンスキーとバイデンの三人が悪い。初めに戦争を始めたのはプーチンだが、バイデンとゼレンスキーはそれを防ぐことができた」とし、バイデンにかわったトランプが、この「戦争を終わらせる」とした(4/14、ホワイトハウス、記者団からの質問に――NHKニュースデジタル2025/4/15、13:57)。これは明らかに、クレムリンによる「侵略」—「領土の暴力的変更」という犯罪の後景化だ。また、「ロシアをG8から排除し、G7としたのは、間違いだった。G8から排除されていなければ、ウクライナ戦争はおきなかったはずだ」というホワイトハウスでの記者団に対する発言(2/13)も報道されてきた(日テレニュース・デジタル、2/14、10:20)。こうして、「喧嘩両成敗」であり、【トランプが仲介に入った、同等のディールとして、決着をつけようじゃないか】といっているのである。これは明らかに★★「協商」★★の位置づけだ。(了)

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 【ノート:チェンバレンとトランプの決定的な違いについて】

 以上のことがらに関連して、ある歴史的事実との応接が、一つの話題になっている。

※【ノートの趣旨】「朝日新聞」記事の「ミュンヘン会談」との同一性論――形態論的には完全にかぶっている。だがチェンバレンとトランプのやっていることは逆ではないのか。だから「融和政策」という同一の言葉で規定するのは一般的すぎる。

 【1】【朝日新聞は、2月24日(2025)付けで、「ウクライナ侵攻3年 歴史の教訓踏まえた交渉を」と題する「社説」を掲載した】この社説の意図は、クレムリンとトランプが、ウクライナの頭越しに交渉を始めたこと、そして、「プーチン大統領の言い分を丸のみするかのようなトランプ米大統領の姿勢は、極めて危ういというほかない」という立場から書かれたものである。それは、ロシアによるウクライナに対する「侵略の責任を問うことなく、ウクライナを丸腰で放り出すのに等しい『停戦』となれば、解決どころか、世界の将来に大きな禍根をのこす」、日本は欧州と協力して、「ウクライナの意向を踏まえるよう」、トランプ政権に働きかけろといういうものだ。

 そこで、ケーススタディとして、出しているのが、1938年のミュンヘン会談である。

「ゼレンスキー氏や日米欧の高官が今月中旬(2月中旬――引用者)、安保問題の国際会議で集まったドイツのミュンヘンは、歴史に重い教訓を刻んだ土地だ。1938年9月のミュンヘン会談で、英仏はヒトラーの要求を受け入れ、当時のチェコスロバキア西部にあってドイツ系の人々が多く住んでいたズデーテン地方のナチス・ドイツへの併合を認めた。合意の際の「これ以上の領土拡大は認めない」という条件を、ヒトラーは翌年に踏みにじり、ソ連と密約を結んでポーランドに攻め入り、第二次世界大戦が始まった。侵略に手を染めた独裁者の危険性を過小評価した帰結だ。ミュンヘン会談でも独ソの密約でも、チェコスロバキアやポーランドなどの当事国は、自身が不在の場でその運命を決められてしまった。ウクライナの将来を大国の思惑だけで決めることは許されない。……ウクライナ危機と距離を置く新興国の多くも、大国の思惑だけで決めることは許されないという考えでは一致できるはずだ。そうした共通認識を世界に広げる努力が必要だ」と表明している。

このミュンヘン会談のことを、もう少し、見て行こう。

 チェコスロバキアのズデーテン地方の領土交渉は、イギリス・チェンバレンとヒトラーの間でおこなわれていた→だが、チェコの抵抗という事があり、交渉ははかばかしくなかった→だがイタリアのムッソリーニの仲介で→英仏と独伊の4者で、ミュンヘン会談を開催→成立したミュンヘン協定はズデーテン地方のドイツへの割譲での合意だった→チェコは会議に招集されず、チェコ大統領のベネシュはロンドンに亡命した。「このミュンヘン協定はドイツとの戦争を恐れるイギリス・フランス側の妥協的な宥和政策(アピーズメント=ポリシー)といわれ、ナチス=ドイツの侵略をその後も容認したものといわれる」。これには次のような説明もある「当時のイギリスの世論は平和主義が強く」、イギリスの下院をはじめ、チェンバレンを支持する空気が蔓延した。その翌年の「ノーベル平和賞」は「チェンバレンに与えられた」ということだ。しかし、翌年(1939年)からヒトラーはチェコスロバキアの全面的な解体に乗り出した(木下康彦 他編『詳説 世界史研究』山川出版社、474~475頁)ということだ。

 まさに、形態的には、ウクライナ戦争と、今後をめぐる心配に大きく類似する。この朝日新聞の社説の通り、私も、不安である。

★★だが、ウクライナ人民の徹底抗戦は継続しており、「欧州民主主義」のウクライナ軍事支援も、トランプが支援を後退させている中で、強化してきている。こうした、反クレムリン統一戦線の継続と拡大が、まず圧倒的に、ミュンヘン会談時のチェコスロバキア状勢とは、違うところだと考える★★。このポイントを、見逃すなといいたい。

【2】【チェンバレンとトランプの決定的な違い――「宥和政策」でこの二つを結びつけるのは一般的すぎる 】 ★★★だが、このミュンヘン会談と、ウクライナ停戦協議の【これまでの―あくまでも、これまでの】政治過程では、決定的に相違することがあるのではないか?【とも】考える。それは、チェンバレンとトランプがやっていることに、真逆のポイントがあるということだ。

 ①チェンバレンは、平和交渉をやっただけであり、イギリスがチェコスロバキアにおける権益を、その交渉の中で得ようとか、ナチスと、チェコを巡って経済権益を共同事業で作り出そうとか、★★そういうことは、一切しなかった。し、また、できなかった★★。

② トランプは、これまで先の本ブログ「3・01」アップの拙論や、本論の上記にのべてきたように、ウクライナを〈ひとつの市場として〉、ウクライナとクレムリンに、等価ディールをかけている。そこで、あらたな権益の枠組みをつくり、ウクライナには「鉱物資源協定」を媒介とした新植民主義的侵攻(これが成立すると、この協定に「安全保障」の文言がなくとも、ロシアは今の戦線を凍結することを余儀なくされるはずだ)を、クレムリンとはウクライナの20%の領土の割譲【など】と、エネルギー資源の共有など、新しい共同事業をプロジェクトしていくことで合意できる。例えば4月11日に行われた(サンクトペテルブルグ)、対クレムリンの米特使・ウィトコフ氏(トランプのゴルフ友達で不動産王)とプーチン大統領の会談では、これに、ロシア政府ファンド「ロシア直接投資基金」トップで、大統領府高官のキリル・ドミトリエフ氏(対外投資・経済協力担当)が出席している。

だから、トランプ「停戦」政策は、「宥和政策」という、チェンバレンたちと同一の用語を使うと、そのトランプのやっていることの「特異性」を表現できないことにならないか? どうだろうか?

【3】【どのような「帝国主義」なのか――イギリスの古典的帝国主義と現代帝国主義ではタイプが全く違うという問題】この【相違】は、同じ「帝国主義」といっても、①は、当時(第一次世界戦争~第二次大戦前)、「金利生活者国家」「高利貸資本主義」などといわれていた時代のイギリス・フランス帝国主義である。これに対し②は、第一次世界大戦期から形成された、ドイツ(・アメリカ)型の株式会社形式の独占体として、産業と銀行が融合した(ドイツ鉄工業と銀行の融合など)独占資本主義を【歴史的出発点】とした帝国主義であり、とりわけ第二次大戦後「新植民地主義」の植民地タイプを創造して、世界市場を再編したアメリカ帝国主義の経済活動が基本だ、この違いは歴然としている。そういうことが、この「相違」の土台としてあると考える。

 ※この「タイプ論」については、宇野弘蔵が「帝国主義論の方法について」(『「資本論」と社会主義』所収)で、レーニンが「帝国主義論」で上げた「帝国主義の五つの指標」という方法論は「資本論の原理論」と同じ論法であり、帝国主義段階における解き方としてのタイプ論を、レーニンはわかっていない、という批判をしたことがある。「帝国主義論」は「資本論」(原理論)と同じように――「商品ー貨幣―資本」の循環・回転や「三位一体的範式」などとして、どの資本主義にも普遍的に同じように解けるものではなく、各国資本主義の作り出した資本蓄積様式の特異性を問題にしなければならないというのが趣旨だ。【ここからは渋谷の私見】だが、だが、それは宇野の言うようにレーニン『帝国主義論』には、当てはまる批判かもしれないが、レーニンの帝国主義分析総体には、【当てはまらない】ことは指摘しておきたい。レーニンは1917年5月、ロシアにもどってからおこなった講演で次の様に述べている。これは第一次世界戦争(1914年勃発)の分析だ。「他方では、イギリスとフランスを主とするこのグループに対抗して、資本家のもう一つのグループ、いっそう強奪的なグループが進出してきた。これは、席がすっかりふさがった後で資本主義的獲物の食卓についた資本家たち、だが★★★資本主義的生産の新しいやり方、よりすぐれた技術を闘いにもちこみ、また、古い資本主義、自由競争の時代の資本主義を巨大なトラスト、シンジゲート、カルテルの資本主義に転化させる比較にならない組織を★★★闘いにもちこんだ資本家たちのグループ(直接的にはドイツだが、この資本の形にはイギリス(連合国)側の米国(参戦は1917年)も含まれるーー引用者・渋谷)である。このグループは、資本主義的生産の国家化の原理、すなわち、資本主義の巨大な力と国家の巨大な力とを単一の機構に――幾千万の人々を国家資本主義の単一の機構に——結合するという原理をもたらした」(1917年5月講演「戦争と革命」、「レーニン全集」第24巻所収)ということだ。

 ※拙著・拙論では「戦争と帝国主義に関する考察――戦争問題の〈古典〉としてのレーニン「戦争と革命」を読む」、『資本主義批判の政治経済学――グローバリズムと帝国主義に関するノート』所収(社会評論社、2019年刊)参照。★★『赤いエコロジスト』「2019/8・9」アップ★★。

【4】【米反トランプデモと政治危機の拡大】すでに全米では「反トランプデモ」が巻き起こっている。トランプはこれに対し「報復」(弾圧)を検討し始めているという。合衆国でも、ウクライナでも、ロシアでも、そして日本でも、「プロレタリア左派」(広義)が、伸長すべき転機がここにある。

★★★以上、さあ、どうなるかだが。★★以上の内容に関するご批判を期待します★★。