2026年4月15日水曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第5回】米中争闘戦のアジアーインド・太平洋における戦略地図と日米右派・高市一派≪はじめに≫≪1≫≪2≫≪3≫≪4≫ 渋谷要

 

 

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第5回】米中争闘戦のアジアーインド・太平洋地域における戦略地図と日米右派・高市一派≪はじめに≫≪1≫≪2≫≪3≫≪4≫

渋谷要 

 

最終更新2026・04・15 21:40

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本論での、「米・国家安全保障戦略2025」の訳は、「niming538の日記」2025-12-12,「米国国家安全保障戦略2025全文+翻訳(トランプによる前文付き)NSS2025」に依ります。

 

NSS(国家安全保障戦略)2025目次————

、序論アメリカ戦略とは何か

1アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか

2,トランプ大統領による、必要で歓迎される是正

、アメリカ合衆国は何を望むべきか

1,   我々は全体として何を望むのか

2,   世界において、そして世界から、我々は何を望むのか

、我々が望むものを得るために、アメリカが利用可能な手段とは何か

IV. 戦略

1.   原則 「国家利益の集中的定義」「力による平和(Peace Through Strength)」「非干渉主義への基本的傾向」「柔軟な現実主義」「国家の優位性(国家中心主義)」「主権と尊重」「勢力均衡」「アメリカ労働者重視」「公正性」「能力と実力主義」

2.   優先事項 「大量移民の時代は終わった」「中核的権利および自由の保護」「負担分担と負担移転」「平和を通じた再整列「経済的安全保障――『均衡ある貿易』『重要な供給網および重要物資へのアクセス確保』『再工業化』『防衛産業基盤の再生』『エネルギ覇権』『アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大』」

★★以上、第2回★★

 

3.   地域

A、「西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(――「参加させる」「拡大」)

★★★以上、第3回、第4回★★★】

 

B、アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」(――「力の立場から主導する」「経済:究極的な利害」「軍事的脅威の抑止」)(★★★【今回】第5回、【次回】第6回★★★)

 

//「C、ヨーロッパの偉大さを促進すること」//「D、中東 負担を移し、平和を築く」//「E、アフリカ」。

 

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 ≪はじめに≫ イラン侵略戦争の戦況について/ホルムズ海峡封鎖作戦(中国に対するエネルギー封鎖であり、米中争闘戦の直接対決の意味を持つ)

 

 米とイランの停戦協議(日本時間2026/04/12)だが、トランプ大統領は4月12日、自身のSNSに、「協議は順調に進み大半の論点については合意に至った」。だが、「核問題については合意が得られなかった」と投稿した。

そして「アメリカ海軍がホルムズ海峡への出入りを試みるあらゆる船舶に対する封鎖措置を開始する」と表明、「この封鎖には他の国々も参加することになるだろう」と主張している。

その理由として「私は海軍に対して、イランに通航料を支払ったすべての船舶を捜索し拿捕するよう命じた。違法な通航料を支払う者に公海上での安全な航行など決して許されない」ということだ。 同時にトランプ大統領は、「ホルムズ海峡でイランが敷設した機雷の破壊を始める」として、これに対してもしイラン側が攻撃を行えば徹底的に反撃すると警告している。

このことは、一つのことを意味している。中国への船舶・タンカーの輸送を止めろという事だ。米中争闘戦の現実だ。この「米中争闘戦」の現実から、以下の分析は、出発する。

(※ ここで、断り書きを言っておく必要がありそうだ。「赤いエコロジスト」は、中国共産党を、全体主義スターリニスト、広義には全体主義ファシストと規定してきた。一言で言うと、「赤いエコロジスト」にとって中国共産党・中南海指導部は、絶対的に非妥協な批判の対象だ)

 

≪1≫対中ディールの戦略的位置づけ――「アメリカ・ファースト」の経済戦略の考え方

 

●【30年以上にわたる「対中政策」の陥穽と、貿易不均衡の相互主義的再調整】

 

NSSのタイトル見出し「B.アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」の冒頭、「力の立場から主導する」と言う節では、次の様である。

 

「トランプ大統領は、中国に関する、30年以上にわたる誤ったアメリカの前提認識を、単独で覆した。すなわち、市場を中国に開放し、アメリカ企業の対中投資を奨励し、製造業を中国に外注すれば、中国をいわゆる「ルールに基づく国際秩序」に組み込める、という考えである。これは実現しなかった」。

「中国は富み、強大となり、その富と力を自らの大きな利益のために利用した。アメリカのエリート層は、共和・民主両党にまたがる4代の政権にわたって、中国の戦略を進める意図的協力者であったか、あるいは現実を直視しない状態にあった」。こうしたことが「前提」となっている。

 

つづく「経済:究極的な利益」の項目では、「1979年に中国経済が世界に再開放されて以降、米中両国の商業関係は、根本的に不均衡な状態にあり、現在もそのままである」とされ、まさに、「成熟し裕福な経済と、世界で最も貧しい国の一つとの関係として始まったものは、ほぼ対等な関係へと変質した。にもかかわらず、ごく最近まで、アメリカの姿勢はそうした過去の前提認識に依拠したままであった」。

 

その結果、

 

「中国は、2017年に始まったアメリカの関税政策の転換に適応した。その一環として、中国は供給網に対する支配を強化し、特に世界の低・中所得国(すなわち、一人当たりGDP13,800ドル以下)において支配力を高めた。
これらの国々は、今後数十年にわたる最大級の経済的主戦場の一部である」。

 つまり、これらの国々においては、中国の価値増殖(広義)が、アメリカを圧倒している。

 

「今後、我々は米中間の経済関係を再調整し、相互主義と公正性を優先して、アメリカの経済的自立を回復する。対中貿易は、均衡あるものとし……北京との間で真に相互に有利な経済関係を持続できれば、2025年時点で30兆ドル規模の経済は、2030年代には40兆ドルへと向かうはずであり、世界有数の経済大国としての地位を維持する上で、羨望すべき立場を確保できる」。

そこで重要なのは安全保障だ。

 

「重要なのは、これがインド太平洋における戦争を防ぐための、強力かつ継続的な抑止への注力と並行して進められなければならないという点である。
この二つを組み合わせたアプローチは、好循環を生み出し得る」。

 

さらに「アメリカ合衆国は、条約同盟国およびパートナー諸国と協力しなければならない」とされる。

 

「これらの国々は、アメリカの30兆ドル規模の国家経済に、さらに35兆ドルの経済力を加える存在であり、合計すれば世界経済の半分以上を構成する。……我々は、インドとの商業関係(およびその他の関係)を引き続き改善し、オーストラリア、日本、アメリカ合衆国との継続的な四か国協力(いわゆる「クアッド」)を通じて、ニューデリーがインド太平洋の安全保障に貢献するよう促す必要がある。
 さらに、いかなる単一の競争国家による支配も防ぐという我々の共通利益に沿うよう、同盟国およびパートナー諸国の行動を整合させるための取り組みも行う」という。

 

●【「柔軟な現実主義」とディール(協商・取引)が「対中政策」の基本だ――2026NDSでの主張と方針】

 

さらに、「NSS2025」につづき、2026年1月に発表された、「国家防衛戦略(2026NDS)」では次のようである

(※ 国家防衛戦略2026年4月12日2026NDS」 ——U.S.Department of War 2026/1).(訳は「「milterm(安全保障、軍事及び軍事技術動向)」2026年1月26日、最終更新日時2026年1月27日 軍治」より) 。

  2026NDSは、最初に「国防総省上級幹部、戦闘軍指揮官、防衛機関及び国防総省現地活動責任者宛の覚書 件名 2026年国家防衛戦略」 署名「米国防長官 ピーター・ブライアン・へグセス」と明記されたものだ。

 

その「中華人民共和国(PRC)」に関する項目では、次のように述べられている。

 

「あらゆる指標で、中国はすでに米国に次ぐ世界第二位の強国であり、19世紀以来、米国にとって最も強力な国家である。そして、中国が非常に重大な国内の経済的・人口統計的・社会的課題に直面しているとはいえ、その実力は増大しているという事実がある。

北京は近年、国内の優先事項を犠牲にして、すでに人民解放軍に莫大な資金を投じてきた。それでも中国は、もしそう選択すれば、さらに軍事費を増やす余裕がある-そして効果的にそうできることを示してきた。実際、西太平洋での作戦を想定した部隊から、はるかに遠方の目標を攻撃可能な部隊に至るまで、中国の歴史的な軍事増強の速度、規模、質はそれ自体が物語っている。

これは米国の国益にとって重要である。国家安全保障戦略(NSS)が認めるように、インド太平洋地域はまもなく世界経済の半分以上を占めるようになるからだ」。  

 

※「インド太平洋地域は、購買力平価(PPP)ベースで世界GDPのほぼ半分を、名目GDPベースでも約3分の1をすでに生み出している。
その比重は、21世紀を通じて確実に拡大する。これは、インド太平洋がすでに、そして今後も、次の世紀における主要な経済・地政学的な主戦場の一つであり続けることを意味する」(NSS2025、「3.地域」「B、アジア」の「力の立場から主導する」の項目から)。

 

「したがって、米国国民の安全保障、自由、繁栄は、インド太平洋地域において強固な立場から貿易・関与を行う能力に直接結びついている。……だからこそ、国家安全保障戦略(NSS)は国防総省に対し、インド太平洋地域において軍事力の優位な均衡を維持するよう指示している。★★★中国を支配し、屈辱を与え、締め上げる目的のためではない。むしろ、我々の到達目標はそれよりもはるかに限定的で合理的なものだ。単に、中国も他のいかなる国も、我々や同盟国を支配できないようにすることである★★★。これには政権交代やその他の存亡をかけた闘争は必要ない。

むしろ、★★★アメリカにとって有利でありながら中国も受け入れ、その下で共存できる条件による、まともな平和は実現可能である★★★」。

まさに「柔軟な現実主義」とディール(取引=協商)が、対中政策の基本という事になる。だからかどうか。この「防衛戦略」には、台湾有事の記述が皆無となっている。そこで、台湾有事などのインド・太平洋での問題が、書かれているNSSに戻ろう。

 

≪2≫米中争闘戦の前提図――アジア太平洋を巡る「戦略ライン」

 

NSSの「3.地域」「B、アジア」での「軍事的脅威の抑止」の項目は次の様に展開している。

「長期的には、アメリカの経済的および技術的卓越性を維持することが、大規模な軍事衝突を抑止し、防止するための、最も確実な手段である」。

 

●【作戦地図と「列島線」など――中国人民解放軍における作戦地図】

 

NSS2025は言う。

「有利な通常戦力バランスの維持は、戦略的競争の不可欠な構成要素である。
台湾には、当然ながら多くの注目が集まっている。
 それは一部には、台湾が半導体生産で支配的地位を占めていることによるが、主として、台湾が★★第二列島線(伊豆諸島―小笠原諸島―グアム・サイパンーパプアニューギニア ーー引用者・渋谷)★★への直接的アクセスを提供し、北東アジアと東南アジアを二つの異なる戦域に分断する位置にあるからである」。

 

ここで「第二列島線」という言葉が出てくる。これは次に出てくる「第一列島線」とともに、アジアにおける米中争闘戦の重要な用語であり、この「列島線」のもとに、いろいろな戦略的な軍事体系や作戦目標が設定されている。中国の「九段(十段)線」という作戦地図とあわせて、まず、こうした戦略地図に関する用語を、整理しておこう。

この「列島線」概念は、本来、合衆国が「中国封じ込め」のために設定した戦略ラインのことだったが、現在は、中国中南海も、使用している戦略ラインであり、対米防衛ラインといっていいだろう。つまり米中の以下の★「列島線」をめぐる攻防★が問題の軸になっているという事だ。

 

■【第一列島線】は、九州⇒沖縄⇒台湾⇒フィリピン⇒ボルネオ島にいたる戦略ラインだ。この領域は、まさに「台湾有事」の海域である。それは南シナ海・東シナ海・日本海ということになるが、「台湾有事」の際には、中国としては、この海域に米軍の艦船―空母や潜水艦を、侵入させないという事が課題となる。したがって、「制海権」の掌握と恒久的保持ということが、課題となっているところだ。

 ひとつの問題は、中国人民解放軍は、そのため、この海域の防衛を、「島嶼線」を軸に設定している。が、これが、日本―台湾―フィリピンーインドネシアの領海―領土に抵触している。そして、スプラトリー諸島(南沙諸島)の各島の領有・実効支配に関する衝突、尖閣諸島問題、東シナ海ガス田開発問題などを起こす問題となっている。

なお、中国は、このラインを「中国近海」と規定している。「近海」防衛の目的は、それらの「海域に存在する中国固有の領土及び海洋権益の保全」だ。また、この「近海」防衛のため、第二列島線では、軍事作戦をおこなえるものとしている。(※文末注①「琉球は中国領か」があります)

 

■【第二列島線】は、伊豆諸島⇒小笠原諸島⇒グアム・サイパン⇒パプアニューギニアに至る戦略ラインだ。第二列島線は「台湾有事」との関係では、中国軍が米海軍の増援を阻止・妨害する海域と設定されている。これと連動するものとして、インド洋における中国海軍基地が、例えばミャンマー国軍との軍事協力により、ミャンマーの港湾(大ココ島)を使っている。こうした、海軍基地の拡張も注視する必要があるだろう。

※【第三列島線】としてハワイ⇒南太平洋の島嶼国サモア⇒ニュージーランドという戦略ラインがあるが、この解説については、本論では割愛する。

 

■【「九(十)段線」問題――国際法上の根拠はない】

 

これらと合わせて、「九段(十段)線」問題を見て行こう。

20238月中国は「23年標準国土地図」を発表した。ここでは南シナ海のほぼ全域の領有を主張するものとなっている「九段線」をさらに、「十段線」に拡張している。

つまり、従来の「九段線」(ベトナムーマレーシアーフィリピンと、南シナ海をグルッと回るように戦略ラインを設定しているもの、これは中国の領海を主張するものだが、2016年、ハーグの常設仲裁裁判所(国際司法裁判所とは別)は国際法上、法的根拠がないとの判断を示している/フィリピンの申し立てによるー※参照)。

この線をさらに拡張し、台湾の東部海域を囲った線を足して「十段線」として示している。「台湾有事」との関係で、台湾の領有権を主張するものにほかならないだろう。

※「南沙諸島などで中国が人工島などを造成している場所についても判断を下した。スカボロー、クアテロン、ファイアリークロスなどの各礁を「島」ではなく「岩」と認定。排他的経済水域(EEZ)は設けられないとした。さらにスービ、ミスチーフ、セカンドトーマスなどの各礁は、満潮時に水没する「低潮高地」(岩礁)だとして、EEZだけでなく、領海も設定できないとした」(日本経済新聞「南シナ海 中国の『九段線』に法的根拠なし 初の国際司法判断」2016/7/12 18:13より)。

 

≪3≫「台湾有事」——合衆国の戦略は「戦略的あいまいさ」政策

 

●【中国の台湾侵略の現実性について】

 

中国中南海は、「台湾の平和統一」をあくまで基本としつつ(対話での親中政党による政権交代・掌握などを媒介に)、米軍の「軍事演習」や、台湾への武器支援などに対処・対抗するために、対米戦略を強めている。

 中国は、「台湾による正式な政府による独立の表明」、「台湾で内乱状態が起こったとき」「台湾が核兵器を保有したとき」、「台湾の内政に関する外国軍の介入」などで、台湾への人民解放軍の軍事侵攻を仮定の話として、表明してきている。例えば米軍を公然と台湾に配備すれば、中南海に対する挑発行為になるということだ。

 こうした中で、この地域の安定をまずは、図るという事が、合衆国の権力者たちにおいても、前提となってきた。例えば、NSS2025では次のようである。 

 

 ●【NSSでの「台湾有事」の想定——「あいまいさ」を外交の基本とした、米軍の布陣の考え方】


NSS
2025は、次の様に展開している。

「世界の海上輸送量の3分の1が南シナ海を年間通過していることを考えれば、これはアメリカ経済にとって重大な意味を持つ。
 したがって、理想的には軍事的優越を維持することによって、台湾をめぐる紛争を抑止することは最優先事項である。我々はまた、台湾に関する長年の宣言的政策を維持する。すなわち、アメリカ合衆国は、台湾海峡における現状を一方的に変更するいかなる行為も支持しない、という立場である」というのが、基本的な立場とされる。

この場合ポイントとしておさえておくべきは、合衆国は「戦略的あいまいさ」と呼ばれる外交方針を崩してはいないということだ。ホワイトハウスは、中国中南海政府を「一つの中国」政府とみとめており、台湾とは「断交」している。そして、「台湾有事」の際にも、米軍を派兵するかどうかという点も、「あいまい」にしている。だが、現在の台湾海峡の状態を★一方的に変更することに反対★だとの立場から、いろいろな外交を繰り広げているというわけだ。

例えば、「あいまいさ」ではなく、「台湾独立支持—援軍OK(これはアメリカ側からする「一方的な現状変更」と中共中南海に受け取られるメッセージだろう)」などということを鮮明化すれば、トランプは習近平たちと、大国間のボス交政治をおこなえなくなるだろう。それは、トランプ一派にとって、避けるべきリスクとなる。

 

●【第一列島線をめぐる問題】

そう言うことを踏まえつつ、戦略配置が問題となる。

NSS2025は言う。

「我々は、第一列島線のいかなる場所においても侵略を拒止できる軍事力を構築する。しかし、アメリカ軍がこれを単独で行うことはできないし、また行うべきでもない。

同盟国は、集団防衛のために、支出を増やし--そしてそれ以上に、実際の行動を--大幅に強化しなければならない。

アメリカの外交努力は、第一列島線の同盟国およびパートナーに対し、アメリカ軍が港湾その他の施設により広範にアクセスできるよう求め、自国防衛への支出を増やさせ、そして最も重要な点として、侵略抑止を目的とする能力への投資を迫ることに集中すべきである。
 これにより、第一列島線沿いの海上安全保障問題が相互に連結されると同時に、台湾を奪取しようとするいかなる試み、あるいは当該島の防衛を不可能にするほど我々に不利な戦力均衡を実現しようとする試みを阻止する、米国および同盟国の能力が強化される」。

これが布陣の基本となる。

 

●【同盟国への軍事費分担責任要求】

 NSS2025では。

「トランプ大統領が日本および韓国に対し負担分担の増大を強く求めてきたことを踏まえ、我々は両国に対し、防衛費の増額を促さなければならない。
 その際の焦点は、敵対勢力を抑止し、第一列島線を防衛するために必要な能力--新たな能力を含む--に置かれる。

我々はまた、西太平洋における軍事プレゼンスを強化・堅固化する。
一方で、台湾およびオーストラリアとの関係においては、防衛支出の増加を求める断固たる言辞を維持する」。

 

「紛争を防止するためには、インド太平洋における警戒的態勢、防衛産業基盤の再生、我々自身ならびに同盟国・パートナーによる軍事投資の拡大、そして長期的な経済・技術競争に勝利することが必要である」。

このように、親米のインド・太平洋諸国の連携をアピールしている。

 そして、こうしたNSSでの対アジア諸国に対する、「ステップ・アップ」(2026・3、ホワイトハウスでの日米首脳会談で、トランプ大統領が高市首相に述べた言葉)を提起しているのである。

 

●【米中争闘戦の今日的・帝国主義的特徴と高市一派】

 

★★こうして見てくると、米中争闘戦は★★、現在、中国の世界戦略地図を、米帝が解体しようと、ベネズエラ強襲・強奪戦争など南米、グリーンランド強奪政策、イラン侵略戦争、パレスチナ虐殺戦争の中東などで、主要には「一帯一路」の拠点国家や「反米国家」の解体を主目的に展開しているという事ができる。

そして、中国の存在するアジアでは、できるだけ、★ドンパチを避け、プレッシャーの体系のみを形成★するということに集中しているという作戦地図が見えてくるだろう。

 

こうした戦略は、かつて、「米ソ冷戦」時代においては、米ソの「相互依存・相互反発」の関係といわれたものに相即する。合衆国の権力者たちは、ソ連の「平和共存」政策を利用しながら、新植民地主義で、ソ連東欧圏を包囲し、ソ連東欧圏の経済的危機を増幅していった。

 

一方、ウクライナ戦線は、トランプとしては、着地点の設定に時間をかけているというところだ。はやく、ウクライナ当局、クレムリンなどと、いろいろな協商がしたいのである。トランプにとって、「ウクライナの領土交渉」は計算外だと考えた方がいいだろう。どういうことか。ウクライナは、クレムリンが侵略戦争を起こすまで、「一帯一路」の拠点国家だったのだ(※渋谷要ブログ「赤いエコロジスト」2022年3月11日、「『一帯一路』の帝国主義――米中冷戦の『初期』の分析として」参照)。それをクレムリンが、破壊した。それには中南海とクレムリンの何らかの契約があって可能となったと推測する余地がある話だ。そして、トランプは、バイデンがウクライナを支援したことを前提条件として、ウクライナに「和平案」提案と「鉱物資源協定」の締結を実施。これはウクライナという「一帯一路」の拠点国家を、中国から奪い、アメリカ寄りにしたという成果を形成した。そして、次の局面として、クレムリンとボス交をやり、ウクライナ支援は欧州のNATOが中心にやれという政策を形成しつつあるのだ。もちろん、ウクライナにおける「鉱物資源協定」で、クレムリンと山分けの話は、死んではいない。推測だが、クレムリンは、この協商計算に同意していると思われる。クレムリンは領土問題にトランプは関心がないという事はわかっている。少なくとも、トランプはクレムリンの同意を望んでいる。だから、ウクライナ問題のベクトルは、トランプにとって、「一帯一路」の拠点国家を破壊した、ということで、中国包囲網形成に、資する成功を収めているのである。だが、着地点は、まだ、未定だ。

以上の過程の中で、ウクライナの対露徹底抗戦は、困難を強いられているといえる。

そういう帝国主義ブルジョアジーの政策の作戦地図がトランプ一派の世界戦略地図なのだ。そして、この戦略地図の一端をアジアで積極的に担おうとしてきたのが、日米右派=高市一派だ。

 

≪4≫日米右派・高市一派の軍拡路線

 

●【「台湾有事」のシミュレーション】

 

ひとつのシミュレーションから始めよう。

 

「台湾支援のために、アメリカ軍を派遣するとしても、ウクライナ戦争と同様に、台湾への支援を武器供与、情報提供、訓練支援にとどめるケースはありえるだろうか。情報提供と訓練支援は可能であるが、問題は武器供与である。ウクライナの場合は、ポーランドと国境を接していたために、ポーランドに兵站拠点を置いて、陸路でウクライナに武器を供与できた。

しかし、台湾は島国なので、陸路での武器供与は不可能である。海上輸送か空輸になるが、台湾東部・北部周辺の航空優勢を確保しないと、空輸は困難である。海上輸送になると、先島諸島か沖縄本島に兵站拠点を置くことになる。そこからアメリカ軍の補給艦で台湾の港に武器、弾薬、燃料、食糧等を輸送しようとした場合、台湾東岸周辺海域で、中国海軍の艦船が待ち受けている。中国空軍の戦闘機部隊が展開している可能性もある。中国軍を撃破しないかぎり、台湾に武器、弾薬、燃料、食糧等を輸送することはできない。つまり、ウクライナ戦争のように、台湾への支援を武器供与にとどめることは不可能ということだ」(201~202頁)。

 (福好昌治(軍事ジャーナリスト)「クアッドとオーカスは台湾有事に役立つのか?」『軍事研究』2023年7月号)

 

 そこで、こういう想定でこうなった場合においては、日本の「存立危機事態」か、否か、が問題となるだろう。ここで、想起するべきは、NSS2025が、次のようにのべていたことと直結する話だ。

 

「その際(防衛費増額――引用者・渋谷)の焦点は、敵対勢力を抑止し、第一列島線を防衛するために必要な能力--新たな能力を含む--に置かれる」。

 

このことは、「防衛費」に限らず、「同盟国の責任」という概念におおきく包摂されたものだと考える必要があるだろう。

2025年11月07日、衆議院予算委員会で、高市首相は、有事問題に関する野党の★次の様な★質問に対して、「台湾有事=存立危機事態」との認識を示す、★★次のような★★発言をおこなった。まさに「日米右派・高市一派」のポイントをなすものだ。【この項つづく】

 

(※文末注①……【琉球は中国領か】 これは「釣魚島・尖閣列島」問題に端的だが。中国中南海の全体主義スターリニストの中には、現在の沖縄である、かつての「琉球王朝」が、中国が明―清朝の時代、清朝に貢納していた国家であったことから、沖縄は中国領だとする見解がある(インターネットで検索をかければ、ザーと出てくることだ)。ポイントは、これは、★清朝を宗主国★とする「冊封国」という従属国の規定である。つまり資本主義以前の古典的な、植民地主義の一形態なのだ。そして、琉球王国自体は、独立の国家を形成していた。つまり、宗主国の支配の下に、貢納制を前提に、いろいろな独立の共同体国家が存在するのが「アジア的国家」の特徴である(※マルクス「資本主義的生産に先行する諸形態」=通称・「グルントリッセ」(「経済学批判要綱」)中の、「フォルメン」と言われる論考、を参照せよ)。この貢納国家での琉球と清朝のやり取りは、1609年の薩摩藩による琉球侵攻(「掟十五条」により、琉球には外交権、貿易権に制限が加えられた)が起こり「日清両属」となっても消えず、さらに1873年、「琉球藩」となり、清への貢納が、1875年、明治政府によって禁止されても、琉球支配層の抵抗と清朝の抗議がつづくものとなっていた。そして1879年、沖縄県が設置され(琉球処分)、貢納関係は最終的に廃止された。なお、琉球全域が日本の領土になるのは、日清戦争での日本の戦勝によってである。

【ポイントはこの国家間の「貢納」制度は、宗主国への貢納である】という点である。これは、支配―被支配の関係としての植民地的従属を意味する、ということだ。★★「そういう形で植民地主義的支配の対象となった国・領域を、自国領土として主張するのか?」★★ということだ――※私自身は、「マルクス主義の綱領問題」という位置づけで言うならば、「日本国の一部としての琉球・沖縄自治政府樹立」という考えだ。)

 ※文末注②……【「アジア的国家」概念をめぐって】拙著・拙論では、この文脈に直接関係するものとしては、●「共同体論とスターリン主義 単線的発展史観とアジア的問題」(『ロシア・マルクス主義と自由』所収 2007年、社会評論社)がある。節を紹介する。「『資本主義的生産に先行する諸形態』のとらえ方」「『アジア的』問題――スターリンによる『アジア的形態』の否定」「ロシアの土地共有制を評価したマルクスーー『発展段階』以外のモチーフ」。ここでは、サイードの「オリエンタリズム批判」との関係での「東洋的専制」「東洋的生産様式」(サイードによって、オリエンタリズムのディスクールとされる)のとらえ方の問題にも言及している。●近代資本主義が農耕共同体を必然的に解体するというカウツキー主義を批判したものに「ロシア農耕共同体と世界資本主義」(『世界資本主義と共同体』所収   2014年、社会評論社)がある。

この(2)の方は、この「赤いエコロジスト」(2022・4・09アップ)に収録されています。

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★★★(次回連載・第6回予告 「米中争闘戦のアジアーインド・太平洋地域における戦略地図と日米右派・高市一派」≪4≫のつづきから)★★★

2026年4月2日木曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第4回】≪続≫・米中争闘戦とドンロー主義=米「西半球」覇権戦略≪3≫≪4≫≪5≫   渋谷要

 

 

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第4回】≪続≫・米中争闘戦とドンロー主義=米「西半球」覇権戦略≪3≫≪4≫≪5≫

渋谷要

 

※前回第三回の、本節≪3≫のつづき。

 

 

最終更新2026・04・03 21:04

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本論での、「米・国家安全保障戦略2025」の訳は、「niming538の日記」2025-12-12,「米国国家安全保障戦略2025全文+翻訳(トランプによる前文付き)NSS2025」に依ります。

 

NSS(国家安全保障戦略)2025目次————

、序論アメリカ戦略とは何か

1アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか

2,トランプ大統領による、必要で歓迎される是正

、アメリカ合衆国は何を望むべきか

1,   我々は全体として何を望むのか

2,   世界において、そして世界から、我々は何を望むのか

、我々が望むものを得るために、アメリカが利用可能な手段とは何か

IV. 戦略

1.   原則 「国家利益の集中的定義」「力による平和(Peace Through Strength)」「非干渉主義への基本的傾向」「柔軟な現実主義」「国家の優位性(国家中心主義)」「主権と尊重」「勢力均衡」「アメリカ労働者重視」「公正性」「能力と実力主義」

2.   優先事項 「大量移民の時代は終わった」「中核的権利および自由の保護」「負担分担と負担移転」「平和を通じた再整列「経済的安全保障――『均衡ある貿易』『重要な供給網および重要物資へのアクセス確保』『再工業化』『防衛産業基盤の再生』『エネルギ覇権』『アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大』」

★★第2回は、ここまで★★

 

3.   地域

A、「西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(――「参加させる」「拡大」)

★★★前回第三回は、ここまで★★★。今回第4回も、この部分を扱います】

 

B、アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」(――「力の立場から主導する」「経済:究極的な利害」「軍事的脅威の抑止」)//「C、ヨーロッパの偉大さを促進すること」//「D、中東 負担を移し、平和を築く」//「E、アフリカ」。

 

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≪3≫【米中争闘戦(2)――中南米における「一帯一路」を巡る攻防★★(のつづき)★★】

 

●【台湾との断交=工業化・開発支援】

 

こうした、中国中南海の中南米に対するアプローチは、21世紀に入ってから激化してきたものだ。それは、一般的なグローバリズムによる市場進出以外に、台湾と国交を結んできた中南米諸国に対し、工業化・開発支援の見返りとして「台湾との断交」をオルグしてゆくものとしてあった。

これが、中南海にとって、もっとも、中南米地域に浸透していこうとするエネルギー、バネとして作用してきたものと考えられる。

 

とりわけ、中南海が「台湾独立勢力」と規定する民主進歩党・蔡英文政権が、2016年に発足するや, 中国の動きが活性化。

パナマ、ドミニカ共和国、エルサルバドルに巨額の支援を約束し、これらの国々の台湾との外交を断絶することに成功した。さらに、21年、ニカラグアも中国との国交樹立と台湾との断交を宣言した。

 

「さらに2112月に実施されたホンジュラスの大統領選挙で、中国との関係を重視する左派野党連合のシオマラ・カストロ氏が当選を決めた。……カストロ氏は大統領就任後の233月台湾との断交を宣言し、中国との国交樹立に転じた。ホンジュラス政府はこれにより中国から巨額の投資、インフラ整備、経済協力がもたらされることに期待感を示した」(引用は一般社団法人IPP 平和政策研究所のサイト。「国際情勢マンスリーレポート」。「中南米巡る米中の角逐——“米国の裏庭”への進出強める中国」(2025年12月26日 平和総合研究所 上席研究員 西川佳秀)氏執筆のもの。以下、「西川氏レポート」) という。

 

こうして中南米での台湾との国交を保っている国々は、減少してきたのである。これは、反米ないしは親中国政権が、中南米で拡大することを、中国中南海指導部が、積極的に行ってきたことをしめすものであり、米帝トランプ一派にとっては、「外部勢力(たる中南海)の「西半球」侵出・秩序の破壊」以外のなにものでもないだろう。

 

●【中国の中南米開発プロジェクト】

こうした動きを、中南海は加速していく構えだ。

20255月に北京市で「中国・中南米カリブ諸国共同体(CELAC)フォーラム」 の第4回閣僚級会会合が開催された。CELACは、201112月にキューバを含む中南米・カリブ33カ国の全てが参加する対話のメカニズムとして設立された。今回の閣僚級会合には、ブラジルのルラ大統領やコロンビアのペトロ大統領など一部加盟国の首脳も出席した。

演説に立った習近平国家主席は、「関税合戦に勝者はなく、いじめや覇権主義は孤立を招くだけだ」とトランプ米政権を牽制、「一国主義と保護主義の逆流に直面する中、中南米と手を携えて共に運命共同体を構築したい」と語り掛けた。対米依存の脱却を急ぐ中国は、ブラジルの大豆など農産物の輸入を増やしているほか、電気自動車(EV)など自国製品の販路拡大も目指している」(引用、同上、西川氏レポート)。

まさに、各国の経済政策に対し不安をあおる以外ない、トランプの「相互関税」政策を批判し、そうではなくて「運命共同体を」とよびかけ、以上に明記されているような、交易関係の拡大に取り組もうとアピールしている。

そして、こうしたプロジェクトは、2025年12月10日に発表された「ラテンアメリカ・カリブ諸国に対する政策文書」で、一層、系統だってうちだされている。

以下は、「ジェトロ(日本貿易振興機構)の海外ニュース  ビジネス短信」、「中国が新たな対中南米政策を公表」(調査部米州課 2025年12月12日。佐藤輝美 中国・中南米)による。

 

「中国政府は1210日、今後の中南米政策をまとめた「ラテンアメリカ・カリブ諸国に対する政策文書」を公開した」。

 

この文書では、第3部に「協力事項」というところがある。

 

「「連帯」「開発」「文明」「平和」「人的交流」の5つのプログラムに大別される。「連帯プログラム」では、政府高官同士の交流を維持し、両地域間の共通の関心事項に関するコミュニケーションを強化していきたい意向が示されている。また、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)・中国フォーラムの枠組みを活用してさまざまな分野での協力を積極的に推進し、条件が整い次第CELAC加盟国と中国の首脳会議を開催したいとも述べられている」。

 

「開発プログラム」の中では、中南米諸国の「一帯一路」へのさらなる参加を呼びかけた。

貿易・投資分野については、2国間貿易の潜在力をさらに掘り起こし、特産品、競争力のある商品、高付加価値や技術集約型製品の貿易を促進し、サービス貿易やデジタル貿易における協力を強化するとしている。自由貿易協定(FTA)やそのほかの貿易円滑化協定についても協議する。……エネルギー・資源分野としては、クリーンエネルギーや鉱物資源の環境負荷の少ない開発方法に関する協力の強化をはかり、農業協力分野では、共同で食糧安全保障を推進するとしている」。

 

「インフラについては、交通、貿易物流、貯蔵施設、情報通信技術、エネルギー・電力、水利プロジェクト、住宅・都市建設などの伝統的な分野に加え、再生可能エネルギー、スマート交通、デジタルインフラ、スマートシティなどの新興分野においても協力の意向だ」(引用終わり)というものだ。

 

これが、どれほど、米帝トランプ一派の怒りをかっているか? これら外部勢力=中国の動きに対する、トランプ一派の争闘戦テーゼ、としてのNSS2025での、基本的な指針となる文書を読んでいこう。

 

≪4≫【米中争闘戦(3)——NSS2025での、「西半球」覇権に関するテーゼ】

 

●【位置づけ】

 

まずこのNSSの、こ章のタイトルだが「A. 西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー」だ。

この「コロラリー」などの概念の整理については、本連載第三回の最初でやっている。

それを踏まえて、まずこの節の、位置づけを確認しよう。

 

「長年の放置を経てアメリカ合衆国は、西半球におけるアメリカの卓越した地位を回復し、本土と地域全体にわたる重要地理へのアクセスを守るため、モンロー主義を再主張し、これを厳格に執行する。
 我々は、西半球外の競争勢力が、この半球において、兵力やその他の脅威となる能力を配備したり、戦略的に重要な資産を所有・支配したりすることを認めない」。

 

完全に「西半球」におけるUSA独裁とでもいうべき基調が書かれている。

まさにトランプ一派のスローガンである「MAGA」(Make America Great Again……「アメリカ合衆国を再び偉大に」)と言うべきだ。

 

そこで、次に考え方が述べられる。

 

「西半球における我々の目標は、「★参加させ、拡大する★(Enlist and Expand)」という言葉に要約できる。我々は、西半球内の既存の友好国を参加させ、移民を管理し、麻薬の流通を止め、陸上および海上における安定と安全を強化する。★同時に、我々自身の国家の魅力を★、西半球における最優先の経済・安全保障パートナーとして★高めつつ★、新たなパートナーを育成・強化することで、★拡大★を図る」。

アメリカ・ファーストへの「参加」と「拡大」だ。

 

●【「参加させる」という文節を見よう――安全保障パートナーシップと西半球サプライチェーンの展開が「西半球外の外部勢力」を排除する】

 

(a)ここにはまず、USAが、西半球にある諸国と、どのように、付き合うのかという位置づけ・考え方になるものが書かれている。

 

「我々は、我々の原則および戦略と大枠で一致する地域の政府、政党、政治運動を称揚し、後押しする」。だがそれだけではない。「しかし同時に、見解は異なりながらも利害を共有し、我々と協力したい意思を持つ政府を見落としてはならない」。

つまり、これは前回第三回で読んだNSS2025中の「柔軟な現実主義」のポイントの一つに他ならない。

 

(b)そこで次に「アメリカ合衆国は、西半球における自国の軍事的プレゼンスを再検討しなければならない」として、「これは、明白に以下の四点を意味する」と提起している。

 

要点を明記するなら次の様になると思う。「近年または数十年にわたりアメリカの国家安全保障にとって相対的重要性が低下した戦域から重点を移」すこと。

 

「海上交通路を管理し、不法およびその他の望ましくない移民を阻止し、人身および麻薬売買を削減し、危機時における主要通過路を統制するため、沿岸警備隊および海軍の、より適切な配備を行うこと」

 

このため国境の確保などに必要な重点的配備を行い、「「法執行のみ」の戦略に代えて、必要な場合には致死的武力の行使も含めること」である。

 

(c)さらに経済安保についての考え方がのべられる。

 

そこでは、「この半球における重要な供給網を強化することは、依存関係を減らし、アメリカ経済の回復力を高める」とサプライチェーンの運営の重要性が言われる。そして「アメリカとパートナー諸国との間に構築される結びつきは、双方に利益をもたらすと同時に、西半球外の競争勢力が地域における影響力を拡大することを困難にする。そして、我々が商業外交を最優先とするなかにおいても、武器売却から情報共有、合同演習に至るまで、安全保障パートナーシップの強化に取り組む」。

つまり、「西半球外の競争勢力」が「影響力を拡大」することに対する、政治経済政策の考え方が述べられている。

総じて、「西半球外」の敵に対する闘い(争闘戦)を基軸とした組み立てとなっている。

 

●【拡大」という文節を見よう――外部勢力の影響力を「押し戻せ」】


(a)「現在すでに強固な関係を有する国々との連携を深めると同時に、我々は地域におけるネットワークの拡大を図らなければならない。
 我々は、他国がアメリカを「第一の選択肢となるパートナー」と見なすことを望み、また(さまざまな手段を通じて)他勢力との協力を抑制する」。

 

「アメリカと連携する他国」に対し「他国が、他勢力との協力を抑制する」というのがポイントだ。そこで、次のようなシステム、連携が必要になるという。

 

「西半球には、多くの戦略的資源が存在しており、アメリカは地域の同盟国と協力してこれらを開発し、周辺諸国と自国双方の繁栄を実現すべきである。国家安全保障会議(NSC)は直ちに、情報コミュニティの分析部門に支援された強固な省庁横断プロセスを開始し、西半球における戦略的要点および資源を特定し、その保護と地域パートナーとの共同開発を視野に入れる」。

 

(b)こうした戦略地図を作ってく上での、その前提として、次のことが、何度も強調されている。「西半球外の競争勢力」の悪質さを確認せよということだ。

 

「西半球外の競争勢力は、現在においてアメリカを経済的に不利にするのみならず、将来的に戦略的害を与え得る形で、この半球への重大な進出を果たしてきた。
これらの進出を、真剣な反撃なしに許してきたことは、近年におけるアメリカのもう一つの大きな戦略的過誤である」。

だから、その過誤を総括し、

「我々の同盟の条件、ならびにいかなる形態の支援を提供する際の条件も、軍事施設、港湾、重要インフラの支配から、広義の戦略資産の取得に至るまで、敵対的な外部勢力の影響力を縮小することを前提としなければならない」と強調している。

(c)ここで「敵対的な外部勢力」の弱点が示される。

 

「一部の外国の影響力は、特定の中南米諸国政府と特定の外国主体との政治的連携を考えれば、逆転が困難な場合もある」。

 

ここからが重要だ。

「しかし、多くの政府は、外国勢力とイデオロギー的に一致しているわけではなく、むしろ、低コストやより少ない規制上の障壁など他の理由から取引関係に引き寄せられているにすぎない。

アメリカ合衆国は、西半球において、外部勢力の影響力を★押し戻す★ことに成功してきた」。

 

では、どのように「押し戻した」のか。

 

「それは、いわゆる「低コスト」の外国援助の中に、諜報活動、サイバーセキュリティ上の脆弱性、債務の罠、その他さまざまな形で、いかに多くの隠れたコストが埋め込まれているかを、具体的に示してきたからである。
 我々は、財務および技術分野におけるアメリカの影響力を活用し、各国がそのような援助を拒否するよう促すことを含め、これらの取り組みを加速させるべきである」としている。

 

★本連載では、この「押し戻し」の具体例について後述する。

 

(d)ここでこの「敵対的な外部勢力」のシルエットが文字化される

 

「西半球において--そして世界のあらゆる場所においてアメリカ合衆国はアメリカの製品、サービス、技術が、長期的に見てはるかに優れた選択肢であることを明確にすべきである。……すべての国が直面すべき選択は、主権国家と自由経済から成るアメリカ主導の世界で生きることを望むのか、それとも、地球の反対側にある国々から影響を受ける並行的(parallel)な世界で生きることを望むのか、という点である」と。

「地球の反対側にある国々」。これは日本などのことではないだろう。明確に「中国」のことを意味しており、「国々」とは中ロのことを意味している。ここで言う「並行的な」とは、西半球に居ながら、西半球とは違う・対抗する別の世界で生きることを望むのか、という意味だろう。

 

そのため、「当該地域で、またはその地域に関わって働くすべてのアメリカ政府関係者は、外部からの有害な影響の全体像を把握すると同時に、パートナー諸国が我々の半球を守るため、圧力を加え、かつインセンティブ(行動を促す動機――引用者・渋谷)を提供することを並行して行わなければならない」と提起している。

「外部勢力有害な影響の全体像の把握」、まさに、諜報・分析などの情報分野をはじめとした機能(広義)の活性化が問われているというわけだ。

 

「アメリカ合衆国はまた、アメリカ企業に不利益をもたらす、標的型課税、不公正な規制、没収といった措置に抵抗し、これを撤回しなければならない」。

つまり、特定の組織、企業、地域を狙った攻撃的課税などに対する防衛が必要だと言っている。さらに、「我々の協定の条件は、とりわけアメリカへの依存度が高く、それゆえ我々が最大の影響力を有する国々との協定においては、アメリカ企業に対する単独供給契約(ソールソース契約)でなければならない。同時に、地域においてインフラ建設を行う外国企業を排除するため、あらゆる努力を尽くすべきである」。

つまり、トランプ一派としては中国の侵出を阻止し、アメリカ・ファーストでの契約をおこない、中国の「一帯一路」などでのインフラ建設を阻止・排除せよと提起しているのである。

 

では次に以上のような、中国「一帯一路」の拡張に対する――NSSが以上、提起しているような合衆国による外国勢力に対する「押し戻し」「排除」の実例を概観しよう。

 

≪5≫【米中争闘戦(4)―― 「一帯一路」—対―「主権国家と自由貿易」

 

●「一帯一路」の策略――「債務の罠」

本稿では、中国「一帯一路」が、「債務の罠」といわれる、略奪の政策を持って、中南米諸国に入り込んでいる問題をみていこう。

 

「中国の一帯一路構想に参加しても、想定していたような経済発展が達成できないばかりか、対中債務が増大し自国の社会インフラが中国に奪われてしまうケースや、貿易の不均衡から中国側だけが一方的に利益を得るケースが中南米諸国の不満を募らせている」……「アルゼンチンのブエノスアイレス港では、中国の融資を受け中国企業によって最新のターミナルが建設されたが、開業以来寄港する船舶がほとんどなく遊休状態に陥っている。港湾当局は融資を返済することが出来ず、中国がターミナルの経営権を握ることをアルゼンチン側は懸念している」(一般社団法人IPP 平和政策研究所のサイト。「国際情勢マンスリーレポート」。「中南米巡る米中の角逐——“米国の裏庭”への進出強める中国」(2025年12月26日 平和総合研究所 上席研究員 西川佳秀)氏執筆のもの――以下、「西川氏レポート」とする)。

 

こうした「債務の罠」は、中国が、99年間、その債務対象の経営権を握るなどの手法で、世界的に行われている。例えば、スリランカだ。ハンバントタ港という港が、債務返済不履行により、中国に99年の長期運用がみとめられた。現在、中国招南局港口(香港)が70%の株式を所有し、後の株式はスリランカ港湾局で所有する、合弁会社HIPG(ハンバントタ・インターナショナル・ポート・グループ)の運営に依っている。こうした、「債務の罠」は、中国の融資条件(高金利)やインフラ利用の利益薄などの要因によるといわれている。もともと、こうなるということが、分かったうえで、話を持ち込かけるのが「債務の罠」だ。

だが、スリランカ政府は、さらに、スリランカの中心的な大都市であるコロンボの都市開発を、中国によって、推し進めている。「成長」をアピールしたいためといわれているが、この事業によって、さらに、債務危機が加速してゆくことが懸念される。

 

※拙著では、渋谷要ブログ「赤いエコロジスト」2022・3・11。「『一帯一路』の帝国主義――米中冷戦の「初期」の分析として」「第三節 『一帯一路』の開発帝国主義―「債務の罠」=「租借地」政策など」を参照してほしい。

 

ホンジュラスでも親中路線の見直しが起きている。2023年、ホンジュラスのカストロ大統領は台湾との断交を宣言。中国と国交を樹立した。この見返りとしては、大規模投資、インフラ事業関連などの事業が行われるはずだった。だが、その後2年間、ホンジュラスに中国からの大規模投資はなかった。むしろ中国の貿易ダンピングの被害国になってしまった。

 

どういうことか。

 

 「ホンジュラス経済開発省の統計によると、中国のホンジュラスへの年間輸出額は20億ドル(約650億台湾ドル)に達する一方、ホンジュラスの中国への輸出額はわずか4000万ドル(約13億台湾ドル)に過ぎず、この国は世界で対中貿易赤字が最も深刻な国の一つとなってしまった」(西川氏レポート)というわけだ。

 

こうしたことが、中南米諸国の中国に対する評価をおとしはじめている。そこで、合衆国側としては、そうした「債務の罠」などに、隠された、莫大なコスト危機に対し、中南米諸国に対し、親米政権を復活・強化することに舵を切らせる動きを組織しようとしているということだ。

 

●【エクアドルなどでの「保守回帰」という「押し戻し」】

 

 

上記したホンジュラスでは、2026年1月の大統領選挙で、トランプ氏が支持する右派「国民党」のナスリ・アスフラ氏が当選。アスフラ氏は、23年以降断交していた、台湾との外交関係復活を公約に掲げている。

 

また、例えばこうだ。

 

エクアドルでは、21世紀に入り、反米色を鮮明にしたコレア政権が誕生し(2007年から17年まで続いた)中国からの多額の財政融資・資源開発協力を受けるようになった。そして原油の9割近くを中国に輸出するようになる。だがその後、175月、大統領に就任したモレノ氏は、親米路線に転換。さらに、右派・親米で、エクアドルへの米軍の駐留を主張するノボア氏が2023大統領に就任、さらに2025年11月、再選された。親米の一つのポイントだが、ノボア氏は、同国で2024年、犯罪組織の指導者が脱獄後、展開され始めた刑務所内騒乱、警官銃撃、テレビ局占拠などに対して、「国家非常事態」を宣言している。この要因に、米軍のエクアドルからの撤収(2008年)があるというのが、米軍駐留要請の政策となったものである(2025年11月、この外国軍の駐留のための憲法改正の国民投票を行ったが、それは否決となっている)。まさに、アルゼンチンのミレイ大統領(2023年)やエルサルバドルのブケレ大統領(2024年)につぐノボア氏の再選は、合衆国による外部勢力(中国)に対する「押し戻し」の流れを加速するものに他ならない。

 

こうした「押し戻し」が、展開しているのも事実である。

 

●【アメリカの「麻薬撲滅戦略」と「力による平和」】

 

さらに、トランプ一派は、中南米の拠点固めとして、反麻薬での連携を強化する政策を始めている。Reuters(2026/3/9AM7:32)「トランプ氏が中南米右派系首脳と会合 麻薬組織対策で新たに連携」([マイアミ(米フロリダ州) 7日 ロイター])では次のようである。

 

「トランプ米大統領は7日、南部フロリダ州に中南米諸国の保守・右派系首脳を招いた「米州の盾(シールド・オブ・ジ・アメリカズ)」サミットを開催し、麻薬組織への対応や治安強化などで協力する新たな枠組みを立ち上げた」。

 

アルゼンチンのミレイ大統領、チリのカスト次期大統領、エルサルバドルのブケレ大統領、ホンジュラスのアスフラ大統領、エクアドルのノボア大統領などが参加したという。

 

「これらの首脳の多くは、犯罪や移民の問題を巡る強硬姿勢がトランプ氏と共通しており、より根深い社会問題の解決よりも取り締まりを、公的部門よりも民間企業を優先している。トランプ氏は「これまで米州の指導者たちは、国境を越える犯罪組織が西半球の広大な地域を直接支配するのを許容してきたし、犯罪組織はあなた方の国の一部を支配してきた。われわれはそれを絶対に許さない」と語った。

さらにトランプ氏は、メキシコを麻薬組織の活動の中心地と名指しした」。

 

これは、本連載第二回に読んだ、 森野咲「なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える第一回「われわれは極右をどう定義するべきなのか」」(集英社新書プラス 2025.10.29)に基づけば、「極右のイデオロギー」の「三つの柱」(ネイティビズム(排外主義)+権威主義+ポピュリズム)の内の「権威主義」に対象化されるところになるのではないか、と私は考える。森野氏の、極右の「権威主義」の内容はこうだ。

 

森野氏は「権威主義」とは、「社会秩序の維持や強い国家、厳罰主義を重視し、権威に従わない者は処罰されるべきであるとする価値観である」と規定している。そしてアドルノ(フランクフルト学派)の『権威主義的パーソナリティ』の事例を上げつつポイントは「内集団においては権威的人物を賞賛し従属する一方で、外集団に対しては「道徳的権威」の名の下に制裁を加える態度に結びつく」と論じている。

 

まさに強いアメリカ=トランプ大統領という権威を称賛し、「道徳的権威」によって、反秩序=麻薬組織に制裁・厳罰を加えるということだと、考える。

まさに、「力による平和」の実戦だ。◆

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これら、米中争闘戦の中南米における展開は、「一帯一路」の拠点国家・イラン侵略戦争とともに、中国に対する――中国中南海の「拠点国家」に対する経済と政治秩序の破壊を意味し、それは「中国包囲網」形成の一環としてある。アジアと欧州では、どうか? 次回はこの点を考えて行こう。

 

【次回「連載第5回」「「西半球」以外、とりわけアジアとNATOについて――日米右派=高市一派とNSS2025」】

2026年3月25日水曜日

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025【第三回】米中争闘戦とドンロー主義=米「西半球」覇権戦略≪1≫≪2≫≪3≫ 渋谷要

 

【連載】イラン侵略戦争とNSS(米・国家安全保障戦略)2025

【第三回】「米中争闘戦とドンロー主義=米「西半球」覇権戦略」≪1≫≪2≫、≪3≫の冒頭部分)

                              渋谷要

最終更新2026・03・26 20:20

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※本論での、「米・国家安全保障戦略2025」の訳は、「niming538の日記」2025-12-12,「米国国家安全保障戦略2025全文+翻訳(トランプによる前文付き)NSS2025」に依ります。

 

NSS(国家安全保障戦略)2025目次————

Ⅰ、序論―アメリカ戦略とは何か

1アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか

2,トランプ大統領による、必要で歓迎される是正

Ⅱ、アメリカ合衆国は何を望むべきか

1,   我々は全体として何を望むのか

2,   世界において、そして世界から、我々は何を望むのか

Ⅲ、我々が望むものを得るために、アメリカが利用可能な手段とは何か

IV. 戦略

1.   原則 「国家利益の集中的定義」「力による平和(Peace Through Strength)」「非干渉主義への基本的傾向」「柔軟な現実主義」「国家の優位性(国家中心主義)」「主権と尊重」「勢力均衡」「アメリカ労働者重視」「公正性」「能力と実力主義」

2.   優先事項 「大量移民の時代は終わった」「中核的権利および自由の保護」「負担分担と負担移転」「平和を通じた再整列「経済的安全保障――『均衡ある貿易』『重要な供給網および重要物資へのアクセス確保』『再工業化』『防衛産業基盤の再生』『エネルギ―覇権』『アメリカ金融部門の覇権の維持・拡大』」

【★★前回第2回は、ここまで★★】

 

3.   地域

A、「西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(――「参加させる」「拡大」)

【★★★今回第三回は、ここまで★★★。次回第4回も、この部分を扱います】

 

B、アジア:経済の未来を勝ち取り、軍事的対立を防ぐ」(――「力の立場から主導する」「経済:究極的な利害」「軍事的脅威の抑止」)//「C、ヨーロッパの偉大さを促進すること」//「D、中東 負担を移し、平和を築く」//「E、アフリカ」。

 

 

≪1≫【ドンロー主義の定義と「西半球」覇権戦略】

 

今回は、NSS2025の「Ⅳ戦略―3地域」という節の、第一節である「A、西半球:モンロー主義に対するトランプ・コロラリー(「参加させる」「拡大」)」というところを読むことにしよう。

 

●【そもそも「西半球」とは、どこのことか?】

 ここで、本題に入ってゆく前に、「西半球」という事の定義について、確認をしておこう。西半球とは「西経0度~西経180度」の地球の範囲のことである。ウィキペディアでは「アメリカ大陸、ユーラシア大陸の西端と東端、アフリカ大陸の一部西部地域、南極大陸西南極、大西洋の大部分西部地域、太平洋の東部」とある。

 NSS2025では、基本的に南北アメリカ大陸とその周辺の海域が対象となっている。

 

●【「モンロー主義に対するトランプ・コロラリー」について】

 

NSSは次の様にのべている。

 

「長年の放置を経て、アメリカ合衆国は、西半球におけるアメリカの卓越した地位を回復し、本土と地域全体にわたる重要地理へのアクセスを守るため、モンロー主義を再主張し、これを厳格に執行する。

 我々は、西半球外の競争勢力が、この半球において、兵力やその他の脅威となる能力を配備したり、戦略的に重要な資産を所有・支配したりすることを認めない。
 このモンロー主義に対する「トランプ・コロラリー」は、アメリカの安全保障上の利益と整合する、常識的かつ強力なアメリカの力と優先順位の回復である」。

 

このコロラリーとは、「ある事柄から論理的に導き出される必然的な結果や帰結」を意味するとされる。だからモンロー主義のトランプ的「帰結」などということになるだろう。だから、モンロー主義の内容の確認が必要だ。

 

●【モンロー主義の解説】 

 

 ここでは本論に必要と思われる内容のみを確認する。1823年12月、当時の合衆国大統領ジェームズ・モンローは、合衆国議会において「モンロー教書」といわれるものを表明した。これがモンロー主義といわれるものの、誕生だ。

 モンロー主義は、南北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸諸国の、【相互不干渉】を主張たしものだ。例えば、合衆国は、欧州での諸国間の争いに関与しない。欧州の諸国は、南北アメリカ大陸の独立国家に対してどのような干渉もするべきではなく、また、南北アメリカ大陸に対し、欧州諸国が植民地を新設することを禁止する。こうした、ヨーロッパなどの外部勢力による【干渉や植民地化は、すべて★★合衆国に対する敵対行為★★とみなす】、などというものである。それは、南北アメリカ大陸における、合衆国の覇権―絶対的な支配権を意味する宣言だった。

 

【これに対して】、現在の南北アメリカ大陸に対する干渉と植民地化を仕掛けてきている外部勢力は、ヨーロッパではないだろう。【後述するように】「中国」である。

 

●【トランプ大統領の目的=米中争闘戦に勝利すること】

 

  トランプ大統領の「西半球」ドンロー主義は、デンマーク領グリーンランドの領有の主張、パナマ運河の合衆国による領有権の主張、カナダを「51番目」の「州」とする主張、ベネズエラ反麻薬戦争(2026年1月)など、南北アメリカ大陸における合衆国の覇権を創造する政策を展開するものとなっている。

 だが、それは、パナマ運河問題一つとっても、中南米における米中の市場・資源争奪戦という、21世紀に入ってとくに画期されてきた、攻防を、舞台としているのだということを前提とするものにほかならない。

まさにNSSには、外部勢力の伸長をどのように阻止し、破壊するかという事が、書かれている。例えば「西半球外の競争勢力(「中国」のことだ――引用者・渋谷)は、現在においてアメリカを経済的に不利にするのみならず、将来的に戦略的害を与え得る形で、この半球への重大な進出を果たしてきた。これらの進出を、真剣な反撃なしに許してきたことは、近年におけるアメリカのもう一つの大きな戦略的過誤である」。として、【後述するように】外部勢力の伸長を阻止・粉砕する政策の考え方などが書かれている。

 

≪2≫【米中争闘戦(1)――パナマ・グリーンランド・カナダを巡る攻防】 

 

 NSS2025の当該箇所を読む前に、現実に展開してきた中南米における米中争闘戦=市場争奪戦を概観することから始めよう。というのも、NSS2025では、抽象的な文面しか書かれていない。だが、現実をまず見れば、どういうことかわかるということだ。この分析では、NSSが現実に対して対応し、それをどうしたいとかんがえているか、を見てゆくことにする。

 

●【パナマ運河問題】

 

 まず、米中対立を象徴してきた一つの事例から出発しよう。パナマ運河問題だ。

 

1903年、パナマ地峡はコロンビアから独立し「パナマ共和国」となった。合衆国はパナマとパナマ運河条約を結び、運河の建設に着手。1914年8月運河は開通した。運河収入はパナマに属するが、運河地帯の施政権と運河の管理権は合衆国が把握することとなった。また、運河地帯両岸の合衆国の「永久租借地」には、軍事施設が設置された。

 1977年、合衆国大統領ジミー・カーターは、新パナマ条約を締結。中立無差別な通航が保証されるのと引き換えに、79年に主権をパナマに返還した。これで、合衆国の領土ではなくなった。それを起点として20年間、運河管理を両国で行うことが契約された。そして、1999年12月、合衆国は全施設を変換し、米軍を撤収した。それ以降、パナマ運河はパナマ共和国の管轄により運営されている。

 これらが前提としてある話だ。問題はここからだ。

 2024年、合衆国大統領トランプは、パナマ運河に対して、通航料を引き下げるか、合衆国の管理下に戻すよう訴えた。とりわけトランプが問題としたのは、同運河にある二つの港、バルボア港、クリストバル港が、香港企業CKハチソン・ホールディングスの子会社 パナマ・ポーツ・カンパニー(PPC)の運営(1997年以降)である点だ。そのことに対しトランプは「パナマ運河は中国の支配下にある」と主張し、奪還を宣言したのである。ハチソンは、2025年3月、パナマ2港をはじめ、世界43の港湾の権益を合衆国の企業連合(ブラックロックを中心とする)に売却することで合意した。

 

だが、北京中南海が反対を表明。他方、パナマ会計監査院長が、ハチソンとの2021年から25年間の契約延長に不正があったとして、利権の無効化を求める裁判を提起そして、26年1月、パナマ最高裁は、「契約延長を憲法違反とする」判決を下した。これにより、バルボアとクリストバルの港の資産と運営権は、パナマ政府に接収となった。PPCは、これに対し、国際仲裁の手続きを開始しているという。

 

中国中南海は、このトランプ一派の動きに対し、中国国営企業のパナマに対する新規事業計画を停止するよう指示した。これによって、数十億ドル規模の投資が失われる可能性があると言われている。インフラ・技術・人材育成などに多額の投資を中国は行ってきた。それが消去されることになる。米・中の攻防はこれからもつづくだろう。

 

●【トランプによるグリーンランド併合政策】

 

 1979年以来(現在)、グリーンランドは、デンマークの自治領となっている。さらに、1985年、グリーンランド政府は、EUを脱退した。これらは、グリーンランドの独立運動=ナショナリズムの強固なことをうかがわせるものである。これらのことが前提になる話だ。このグリーンランドに対して、トランプは、合衆国が領有・併合するという考えを示している。

例えばトランプは2026年1月9日ホワイトハウスでの記者会見で、グリーンランドについて問われ、「穏便な方法でだめなら、強硬な方法をとるだろう」と発言(AFP BB News2026/1/10 7:53 発信地ワシントン 米国「トランプ氏 『ロシアや中国にグリーンランドを領有させるつもりはない』武力行使も排除せず」)。

 このグリーンランドを巡っては、中・ロの軍事活動の活発化の他、レアアースなど鉱物資源が埋蔵されており、安全保障上の重要さが増している地域というのがトランプの計算にある。

軍事的には、ロシアが「GIUK gap(ギャップ)」というグリーンランド(Greenland)、アイスランド(Iceland)、イギリス(United Kingdom)を結ぶ要衝に潜水艦などの活動を展開(※ここは、イギリスにとって特に重要な安全保障の空間をなしている)。また想定では、ロシア軍が米本土をミサイル攻撃してきたとき、グリーンランドの上空を飛行すると考えられ、グリーンランドにもミサイル迎撃システムを配備する必要があるということからだ。

これは、「ゴールデンドーム」という米本土を防衛する次期ミサイル迎撃システムの完成にとっても不可欠だとされている。グリーンランドには、1951年から米軍が、グリーンランド北西部に軍事施設を設置している、現在も米軍が駐屯している。規模は150名程度といわれるが、冷戦期には、数千人規模が駐留していといわれる。

 また、この領有をめぐっては、トランプ一派は、住民一人当たり10万ドル(1500万円)の一時金を配布するなどの「購入」構想(住民は約5万7000人、総額で60億ドル(約9400億円))も浮上している。

こうしたことに対し、2026年1月6日、英、仏、独、伊、ポルトガル、スペイン、デンマークの首脳が「グリーンランドは、その土地の人々のものであり、デンマークとグリーンランドだけが、両者の関係を決定する」「北極圏の安全保障はNATOが共同で達成する必要がある」という共同声明を発信している。

また、同日、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5か国の外相も、同様の共同声明を発表している。これらに、カナダやオランダ、スロバキア政府などから、支持が表明されている。トランプのグリーンランド収奪には、グリーンランド現地住民をはじめとして、欧州帝国主義主流派なども、反対を表明しているということだ。

 

●【カナダを51番目の州に】

 

2025年5月、カナダの首相に就任したマーク・カーニー首相と、ホワイトハウスで会談したトランプ氏は、カナダを「51番目の州」とよび、カーニー氏が「カナダは売り物ではない」と反論する場面があった(朝日新聞デジタル2025/5/7 5:30、ニューヨーク=杉山歩「カナダ首相『売り物ではない』 トランプ氏の「51番目の州」に反論)。

このトランプのカナダ併合論は、例えばトランプの自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、2024・12・18に投稿したものでは「多くのカナダ人は、カナダがアメリカの51番目の州になるのを望んでいる。そうなれば税金を大幅に節約できる、軍事的保護も得られる。素晴らしいアイデアだと思う。51番目の州だ」というものだ。

 こうした問題は、「相互関税」発動との関係で、提起されているだろう。カナダの輸出品の約75%は、対米輸出だ。こうしたことは、このトランプの関税政策に、中国が介入してくることで、合衆国にとって、安全保障上の重要な問題を画期することになっていく。

 それが、2026年1月16日に、北京において行われた、習近平国家主席とカーニー首相の関税に関する会談だった(「中国とカナダが首脳会談 関税引き下げで合意」(BBC  News  Japan2026117日(ローラ・ビッカー(北京)、スランジャナ・テワリ(シンガポール)、コーユー(シンガポール)、ジェシカ・マーフィー(トロント)。以下引用は、同記事から)

そこでは、カナダと中国の冷え込んだ交易関係が改善される、数字がまとめられるものとなった。

 

●【カナダと中国の交易の活発化】

 

「中国はカナダ産キャノーラ油に課している関税を、31日までに現在の85%から15%へ引き下げる見通し。一方でカナダは、中国製電気自動車に対し、最恵国待遇の税率6.1%を適用することに合意したと、カーニー首相は記者団に説明した」。

 

これは、この間の、対中貿易とは、ベクトルが明らかに逆になったことを意味している。つまりこうだ。

 

2024年にカナダは、中国製電気自動車に100%の関税を課した。アメリカも先に、同様の措置を取っていた。これを受け、中国は昨年、キャノーラ種子や油など20億ドル超相当のカナダの農産物に報復関税を課した。その結果、2025年のカナダの対中輸出は10%減少した」ということだ。

 

だが、「16日の合意では、カナダは中国製電気自動車について、年間49000台まで、最恵国待遇の税率6.1%を適用することになる。

この台数の上限は、手ごろな価格の中国製電気自動車の流入を懸念するカナダの自動車メーカーに配慮したものだ。

キャノーラ生産者への救済措置に加え、カナダ産ロブスターやカニ、エンドウ豆に対する関税も引き下げられる。

中国はカナダにとってアメリカに次ぐ第2の貿易相手国だが、その取引量は対米取引には大きく及ばない」。

 

そこで、カナダと中国はいろいろな商談に乗りだしている。

 

14日に北京入りすると、カーニー氏は電気自動車用バッテリーメーカーやエネルギー大手など、中国の有名企業の幹部らと面会した。15日には、カナダと中国が、エネルギー・貿易協力に関する複数の協定に署名した」という。

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 こうして、中国中南海による、合衆国の世界戦略地図に対する阻害と破壊の政策、まさに、米中争闘戦・市場争奪戦は、まさにトランプ一派が、「西半球」とよび、ここでは、合衆国以外のいかなる覇権や、アメリカを無視した、例えばサプライチェーンの構築も許さないといっているその、ホワイトハウスの本来の領地に入り、それを、取り崩そうとしておこっていることなのである。だから、「合衆国の裏庭」といわれたその領地が、今やそうではなくなりつつある。

 

この危機に対する対策が、まさにNSS2025の「西半球」覇権戦略なのだ、ということだ。では次に、中国は、アメリカ大陸の市場に、どこまで入り込んでいるのか。そのことを見て行こう。

 

≪3≫【米中争闘戦(2)――中南米における「一帯一路」を巡る攻防】

 

●【中南米における現在の「一帯一路」参加政権】

 中国はアメリカ大陸の市場にどこまで入り込んでいるのか。もっとも、わかりやすいのは、中国の世界戦略地図「一帯一路」がこの地域で、どのような拡張を見せているかという事だ。

 

中南米域内の33か国中、20か国以上が「一帯一路」に参加している。

  一般社団法人IPP 平和政策研究所のサイト――「国際情勢マンスリーレポート」。「中南米巡る米中の角逐——“米国の裏庭”への進出強める中国」(2025年12月26日 平和政策研究所 上席研究員 西川佳秀氏の記事によれば、次の様である。

「中南米はリチウムや銅など中国にとって重要な天然資源の供給源であると同時に主要な輸出先ともなっている。中国と中南米諸国の24年の貿易総額は5184億ドル(約76兆円)で、過去10年間でほぼ倍増しており、なかでもブラジルやチリなど資源国との貿易額は飛躍的に増加している。
 中国は既に中南米最大の貿易相手国となっているばかりか、「一帯一路」構想の一環として、各国に対し港湾、鉄道、道路、通信網などのインフラプロジェクトに大規模な投資や融資を行っている。

 

域内33カ国中、20カ国以上(ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー、エクアドル、パナマ、コロンビア、ベネズエラ、エルサルバドル、コスタリカ、ウルグアイ、キューバ、ボリビア、ドミニカ共和国等)が一帯一路構想に参加している。

 

資源の確保と自国経済にとって重要な市場である中南米のインフラ開発にも積極的に協力しカネとモノの両面で相互依存関係を深めることで、中国は中南米で急速に存在感を増しているのだ」ということだ。 【この項つづく】

 

(次回第4回予告「米中争闘戦とドンロー主義=米『西半球』覇権戦略」の≪3≫のつづきから、です)