2024年3月4日月曜日

イスラエル・ネタニヤフの「ハマス後の原則」はファシストの所業だ【連載第7回】 パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ!

イスラエル・ネタニヤフの「ハマス後の原則」はファシストの所業だ 【連載第7回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

最終更新 2024・3・04 11:04

●イスラエルによるガザ市での大虐殺(2・29)を許すな!

 パレスチナ・ガザ自治区の人口230万人の内、すでに3万人が戦闘でイスラエルに虐殺されている(2024・2・29、ガザ保健当局発表)。1月下旬にオランダ・ハーグのICJ(国際司法裁判所)は、イスラエル政府にジェノサイドの防止などを求める仮処分命令をだし、一か月間で「履行せよ」その、履行した内容を報告せよと、義務付けた。イスラエルは2月26日、ICJに命令に従っていると報告したという。だが、相変わらず、ガザ市やラファなどに対する戦闘や地上作戦準備などをつづけている。

 2月29日には、ガザ北部ガザ市で住民が人道支援物資の輸送トラックに押し寄せ、小麦粉袋に手を伸ばそうとしたすべての人々を標的に、イスラエル軍が銃撃。115人が虐殺され、760人が負傷した(2月29日、ガザ保健当局発表)。英・独などの政府当局者などもイスラエル政府に対し「説明を求める」と表明している。イスラエルは「死傷者はトラックにひかれた」とか、「暴徒化した群衆に発砲した」と、なんと、自分たちが攻撃したことではないと言い逃れをしようとしている。が、多数の死者・負傷者に銃撃痕があることは明らかだ。まさにファシスト・イスラエル国家権力の所業に他ならない。

 このガザ市での「2・29大虐殺」に対して、国連安保理で緊急非難決議をアルジェリアが準備を始めるや、合衆国が妨害したという。合衆国の権力者たちは、合衆国をはじめ欧米で拡大する「パレスチナ連帯」の民衆の運動が、自身の政権批判に転化しないように、「パレスチナへの支援の拡大」などを、表明してきたが、安保理では一貫して、イスラエルと共犯者だ。

●合衆国の立ち位置について 

 合衆国による米軍などによる空からの支援物資の投下と、安保理での停戦決議・非難決議に対するイスラエル擁護の立ち回り。こうして、合衆国のブルジョア帝国主義者は、「戦後」の政治的諸関係をさぐるような、立ち回りを演じているのだ。これは単に「中立を装う」ということではない。ポイントは、どちらかに傾倒的に立ち位置を決めれば、利害は一方向にしか組織されない、それは、損得勘定ではマイナスだということだ。だから、そうして合衆国帝国主義にとって、最も効果のある権益の創出を企図しているのである。一言で言って、イスラエルとの同盟関係は維持したい・イスラエルは今もって、合衆国のアラブ世界における「突撃隊」だ。ーーだがまた、アラブ諸国との関係では、交易上の利害が、合衆国の石油会社をはじめとして、欧米にはある。それをこの戦争を契機に、損なうベクトルは、つくれないということだ。イエメン「アンサール・アッラー」(蔑称「フーシ」派)などとの攻防に関する米軍の攻撃について、合衆国政府がその攻撃の「限定性」を強調するのも、それは、アラブの主導国との対立に転じさせたくないという外交的アピールに他ならない。

  他方、この【連載】でこれまで分析してきたように、イスラエル国家権力のファシストたちは、ガザを強奪したいのである。そして、パレスチナの住民を、シナイ半島に追放したいのだ。まさに、「集団殺戮」であり、「集団的懲罰」「強制移住」などというとんでもないジェノサイド、虐殺戦争を展開しているのである。

 そこでネタニヤフ政府は、最近「ハマス後の原則」という、ガザ虐殺戦争での、少なくともイスラエル支配階層に向けた「意思統一」を出した。それを、ここでは見て行こう。

●イスラエル国家権力の「ハマス後の原則」とは何か?

 イスラエル国家権力のネタニヤフ首相は、2月22日、次のような通達を公表した。それが「ハマス後の原則」だ。朝日新聞デジタル(2024・02・24 5時00分)では、次のように報道されている。これらは、パレスチナとの「二国家共存」の否定、「パレスチナ国家」の否定にもとづくものだ。

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■ネタニヤフ首相が示したガザの戦後統治の原則

◆イスラエルは、テロの復活を防ぐための作戦を自由に実施(これを(1)とする――引用者。以下、カッコ内数字は引用者による)

◆エジプトからの密輸を防ぐため、境界付近を閉鎖(2)

◆ガザでは治安維持に必要な範囲を超える軍事力を禁止(3)

◆可能な限り、経験のアル地元の専門家が行政と治安維持を担う(4)

◆パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の閉鎖を求める(5)

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というものだ。この五点について、現在分析できるポイントを押さえて行こう。

(1)ガザ内でイスラエル軍の「自由な作戦」。これは、ガザを軍事独裁の下におこうとする計画であることが、示されているだろう。

(2)エジプトとの間での「境界封鎖」。これは、「イスラエル諜報省」の追放計画が、ガザとエジプトの間に、パレスチナ人の立ち入り禁止の緩衝地帯などをつくる。国境付近でのパレスチナ人の活動ができないようにするなどの追放計画に合致し、シナイ半島への強制移住に関わる政策の一環をなすものといえる。【詳しくは、本連載・第五回を参照してください】

(3)「治安維持」以上の軍事力の禁止。これは、(1)との関係で、イスラエル軍の軍事警察独裁の一部として、警察治安機関を作るということである。

(4)「経験のある地元の専門家が行政」と「治安維持」を担う。これは、イスラエルに従属した地元の隷属行政を組織したいのだろう。この「地元の専門家」をめぐる解釈では、西岸の「自治政府」の関与の可能性が一部の新聞報道などでは書かれているが、これも、現在は未知数だ。パレスチナ自治政府はこの「ハマス後の原則」に、反対を表明している。イスラエル国家権力は「パレスチナ国家」を否定しているのであり、「パレスチナ国家建設」の方向にベクトルが進むことについては100%妥協しないということを「意思統一」している。そのことからいって、イスラエル国家権力に従属するものでなければ、彼らにとって、許容できないはずだ。このガザの「行政」機関は、結局、(1)(3)を前提とし、それに基づくものとなるはずだ。

(5)UNRWAの「閉鎖」については、職員にハマスの「10・7アルアクサ洪水作戦」の関係者(12人という)がいたということで(これとて、その詳しい内容については、いまだに検証できないのであるが)、イスラエルにとって政敵となっている。「政敵抹殺」の政策だが、★★ポイントは★★、この「10・7アルアクサ洪水作戦」問題で、合衆国、日本などがUNRWAへの「資金援助を一時停止」していることだ。イスラエルとしては、パレスチナに公的支援を行ってきた組織であるUNRWAを排除することを突破口に、パレスチナに対する国際社会の支援態勢それ自体を閉鎖・破壊したいのである。それは、パレスチナの「飢餓」などを結果し、パレスチナ人をシナイ半島へと追放する動力となる。

 そしてこれらのこと、すべてから、出てくるイスラエルの今日的・実戦的作戦は、「ラファに対する地上作戦を実行し、パレスチナ人をガザから追放する」ということでしかない。まさにファシストの所業である。

●エジプトが国境付近につくっている広大な「整地と壁」が意味するものはなにか「BBC NEWS IAPAN」(2024・02・24配信)「ジェイク・ホートン、ダニエル・パルンポ、BBCヴェリファイ(検証チーム)「エジプトがガザ境界近くで広大な土地を整備、周辺には壁 その目的は」によれば、ラファ検問所の近く、ガザ地区とエジプトの国境沿いに、最近、エジプトは、16平方キロメートルの土地の整備を行い、この整地に準じた「壁」を、建設しているという。

 同記事は、一部報道で「パレスチナ難民を収容するためのものだ」との報道があるが、エジプトは政府は否定している。エジプトは政府は「難民のための国境開放はない」と言明しているという。これは「こうした姿勢には理由がある。パレスチナ人の大規模移住に加担しているように見えるのを避けるためだ。さらには、経済と安全保障上の懸念もある」と同記事では分析している。ではどういう目的で。同記事では、エジプト政府によればエジプト軍がガザへの支援物資を受け入れる流通エリアの建設ということらしい。だが、支援物資をとりあつかう団体に取材しても、そういう計画を聞いたことがないという。このBBC「検証チーム」の記事は、エジプトは「最悪のシナリオ」に備えているのではないかという、「英キングス・コレッジ・ロンドン」の専門家の談を伝えている。これは、本【連載】第5回の「ダレット計画」「イスラエル諜報省の追放計画」から考えて、イスラエルのガザ住民追放に備え、エジプト国内の混乱を生じさせないための、安全保障上の政策だということができるだろう。そのいろいろな意図については、分析を開始しなければならないということだ。(つづく)


2024年2月21日水曜日

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積 【連載第六回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積【連載第六回】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

2024・02・23 最終更新 22:42

【はじめに】ガザ虐殺戦争弾劾! イスラエルで起こる「停戦と総選挙」を要求するデモに連帯を!

ガザ地区の保健当局は2月18日、ガザ南部のハンユニスにあるナセル病院が機能停止したと発表した。イスラエル軍は病院職員70人を逮捕。この中には集中治療を担当する医師も含まれている。重篤者の治療が不可能になったということだ。その結果、医療従事者は25人に。電気も遮断され、酸素不足で患者8人が死亡したと発表した。患者は約200人いるとされるが、イスラエル軍は病院への立ち入りを認めておらず、救急移送は無理な状態が続いている。2月17日の時点で、パレスチナ側の戦闘による死者は、2万8858人にのぼっている。

 まさに、万死に値するイスラエルのファシストの蛮行を絶対に許すな!

 こうしたガザ虐殺戦争が続く中、イスラエル国内においても、「停戦」をもとめ、「総選挙」を要求するデモが、起きている。2月17日、イスラエル各地で「人質即時解放」「ハマスによる奇襲を防げなかったネタニヤフ退陣」、そのための「総選挙」を求める集会デモが行われた。「フリー(Free) イスラエル フローム(From) ネタニヤフ」などをスローガンに、数千人の人々が参加したとの報道だ。だがこの日、記者会見でネタニヤフは「総選挙」を否認。「選挙は国を分裂させる」として、選挙のない戦争の継続を表明した。まさに独裁者の手法だ。

 こうした中で合衆国は、国連安保理において、「即時停戦」などの「停戦」決議に次々と「拒否権」を行使している。そして、イスラエルに「兵器供与」を検討しているという報道がある。ウオール・ストリート・ジャーナルが、2月16日に報道したものだ(「ARAB NEWS Japan」2024年2月18日12:12:26の記事による)。

 バイデン政権は、武器供与案に金額で数千万ドルと推定される武器を供与をけんとうしているという。その武器の中には、MK-82爆弾、KMU-572統合直接攻撃弾、FMU-139爆弾信管がふくまれるという。例えば、統合直接攻撃弾(JDam)は、無誘導の自由落下爆弾の機能を向上させるための追加キットのことだ。このキットの開発のポイントは次の様である。従来の誘導爆弾は、レーザーや赤外線画像によって外部から誘導されたものだった。だが、これは、地上の気象条件によって運用に制約があった。これに対し、爆弾の投下後、外部からの誘導を必要としない技術開発が課題となった。それに応えたのが「INS」(慣性誘導システム)と「GPS」(グローバル・ポジショニング・システム)という誘導制御ユニットだけで目標地点に落下させるようにしたものだ。(※このキットは、2023年、ウクライナにも供与されたといわれている)。 そのような爆弾の目標投下の精度をあげる兵器を、ガザ虐殺戦争に供与しようと画策しているのである。

 こうして、「2国家共存」、カタールなどを仲介者とした「停戦交渉」を唱えつつ、一方で、イスラエルのガザ虐殺戦争に加担しているのが、合衆国の権力者たちにほかならない。そして、ここには、以下にみる、莫大な経済権益をめぐるパレスチナ側、イスラエル側の両勢力を取り巻く、経済的対立があり、合衆国がそれにどのようにかかわるか、切こめるかの、分析・見通しにおける、諸勢力の力学を見通した判断があり、どちらか一方に無制限に肩入れすることが許されない、帝国主義権力の思惑が潜んでいるのだ。

■虐殺戦争の裏側で――ガザ沖合ガス田開発のこれまでの経過

 イスラエル政府・ネタニヤフは、ガザ虐殺戦争の開始と同時に、ガザ沖合の天然ガス、石油を開発する許可を、英国のBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)など6企業に許可した。これが強奪・強盗行為なのは明らかだ。

 これは、「ガザ・マリン」といわれるところで、パレスチナ支配海域だ。1999年に探査を開始し2000年に発見された。「ガザマリン1」「ガザマリン2」と二度発見され、合わせて天然ガスの埋蔵量は推定360億立法メートルとされる(これらは、初期値だ)。これが開発されれば、数千億ドルの財源を確保することになるといわれている。だが、まだ、開発は手つかずのままだ。イスラエルの反対・妨害によるものだ。例えば1999年、ブリティッシュガスグループ(BGグループ)などの間でガス探査とガス田開発のための契約(25年間)が締結されたが、2016年、BGグループは撤退するなどとなっている。この当時の状況をもう少し見て行こう。

■イスラエルによるガザマリン封鎖と対パレスチナ政策

 1999年、パレスチナ自治政府は、BGグループとアラブのCCC(Consolidated Contractors Company)に、探査と採掘の権利を与え、2000年に天然ガスが埋蔵されている地層を発見した。これ以降、BGがガス田の開発に着手するが、イスラエルが介入し、海軍などを出動させて、BGの事業を妨害しはじめる。

 2007年、ハマスのガザ統治が確固となった時期、イスラエルは、ガザマリンを軍事封鎖する。2008年にはイスラエルは「ガザマリンはイスラエル領だ」と宣言(天然ガス田の合法的な管理は国家にのみ認められた権利で、パレスチナ自治政府は主権国家ではないというのが、イスラエルの一貫した論法だ。ここにも「二国家共存」というオスロ合意での規定の否定が表明されている)。これによってBGグループは、ガザマリンから撤退し、そのあとで事業を始めたシェルも、事業に失敗した。イスラエルはガザマリンの軍事封鎖を続け、天然ガス開発を凍結する。2008年12月~2009年1月にかけてイスラエルのパレスチナに対する軍事侵攻が展開し、ガザに対するアパルトヘイト政策を始めるが、それは、このガザ沖合開発と一体のものである。

 だが2021年には、パレスチナ当局者とエジプトとの間でガス田開発の覚書が交わされている。まさにこの海域は、パレスチナ自治区の海域であり、イスラエルにこの海域を差配する権限などない。にもかかわらず、イスラエルは、今回、BPなど国際企業6社に開発許可を交付するという強盗でしかありえない、所業に出ているのである。また、イスラエルは、スエズ運河に代わる運河をガザ地区経由で建設する計画も進めているという。

 イスラエルは2023年の6月の段階では、「安全保障の観点から、パレスチナの開発を容認する」(パレスチナが潤えば、イスラエルを攻撃しないなどという言い草だ)として、共同開発を提案していた。この事態は、ロシアのウクライナ侵略戦争で、ロシアに対する経済制裁をはじめとして、世界的にエネルギー供給の不足が生じてきたことに対するべく、カイロにおいて、イスラエル、合衆国、パレスチナ自治政府、エジプトや産油国による首脳会談がおこなわれたことに、象徴される事態がバックボーンとしてある。

 実際、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の両者の間で、協議がもたれていた。エジプト、ヨルダンがこの協議には参加している。収益は、パレスチナ投資基金(PIF)ーパレスチナ自治政府、パレスチナ人経営のCCC、エジプトの天然ガスホールディング株式会社(EGAS)などで分配される計画となっていた。だがもっと本質的なことは、この共同開発は、イスラエル政府自身の「タマル」「リヴァイアサン」といったガス田との連接・イスラエルによる「ガザマリン」の管理・運営などに関わる契約だったことだ(これは例えば、前出にある、かつて21世紀初頭に成立したBGとパレスチナ自治政府との契約に介入したとき以降のイスラエル政府の「権益」の主張にほかならない)。

 この場合、最終的な計画開始のポイントは、通常の了解事項として、ガザの政府権者であるハマスの承認を得ることが前提だとなっていた。これがイスラエル権力者たちにとって障害となっていたことは間違いない。パレスチナ海域の権益を専制的に強奪・支配しようとするイスラエル国家権力は、このハマスの権力を破壊する機会をねらっていたのだ。それが今回のガザ虐殺戦争で、明白になったということだ。 

 まさにイスラエルは、ガザからパレスチナ人を追放し、パレスチナの行政権を破壊して、ガザを手に入れることで、こうした天然ガス・石油資源の主権的権益を主張することが可能となることを画策しているのだ。

(※ この東地中海の地域は、イスラエル、エジプト、米石油会社など、いろいろな利害をもつ単位での駆け引きがあり、それを前提としたガスパイプラインが、地中海諸国に走っている。だがその分析は、本論では、行わないものとする。★★ただし、イスラエルが自身のパイプライン(例えば「タマル」「リヴァイアサン」などのガス田関係)にガザのガス田などを連接したい欲望をもってきたことは、前提だ)。

■「資本蓄積」とガザ虐殺戦争

    2024年1月29日、エルサレムでは、イスラエルの極右勢力やリクードなど与党が、集会を開催。「入植が安全をもたらす」と主張するものとなった。国家安全保障相のベングビールは「10・7を繰り返させないためにはガザを支配しないといけない」と発言。リクードの指導者も入植をアピールしたという。こうして、リクードが、2005年当時のイスラエル政権が、ガザから入植者を撤退させたことを批判したそのことが、現在、再度の入植侵略策動として、行われているのだ。

 こうして、ガザを侵略し、パレスチナ人をシナイ半島に追放して、ガザを支配することでイスラエルは、自己の直接保持する領地・領域と権益を拡大しようとしている。

★★ここで、「資本蓄積」の話を介入させよう★★。

資本蓄積とは、ザックリ言って、剰余価値の一部を資本に転化して生産規模を拡大することを意味する。だが、これは「商品生産を拡大する」ことにとどまらず、まず、そもそも商品と市場を拡大再生産する、資本設備そのものを形成・拡大することでなければならない。イスラエルからの「入植」やガス田開発・石油田開発は、この資本設備に属する概念だ。

 これとは区別されたもう一つの「蓄積」概念に、「本源的蓄積(原始的蓄積)」概念がある。これは、マルクスの「資本論」では次のようにいわれているものだ。

 「資本関係は、労働者と労働実現条件の所有との分離を前提する。……すなわち一方では社会の生活手段と生産資本を資本に転化させ他方では直接生産者を賃金労働者に転化させる過程以外のなにものでもありえないのである。つまり、いわゆる本源的蓄積は、生産者と生産手段との歴史的分離過程にほかならないのである」(『資本論』第一巻第24章「いわゆる本源的蓄積」、マルクス・エンゲルス全集23bより。翻訳者・岡崎次郎)。まさにこれが、ブルジョアジーとプロレタリアートの階級的産出についての根源的な事態である。

 だがこれは、近代資本主義の発生点だけではなく、恐慌・戦争・植民地支配などの度に、どこでも、起こってきたことなのだ。つまり★★この「本源的蓄積」を「人口移動」「人口構成の質的変化」という文脈で、翻訳した場合★★、それは、近代資本主義の発生点での出来事とは言えない問題となるということだ。

 前回【連載第五回】に論述したような、パレスチナ人がシナイ半島に追放され、そこで、イスラエルの諜報省の「追放計画」にあるようなパレスチナ人の町ができ、また「避難民」を「移民」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアなどが、迎え入れるなら、それは、間違いなく、あらたな「国際プロレタリアート」が、百万人規模で、産出されたことを、★★資本主義としては★★意味するものとなるだろう。

 こうして、ガザ虐殺戦争は、その裏側で、暴力的・強盗的「資本蓄積」と、それに内包された「本源的蓄積」をともなう、ものすごい戦争事態となっているのである。

 ★★そして、合衆国の権力者たちは、この「資本蓄積」のすべての過程に対して、もっとも、自分たち、合衆国ブルジョアジーの権益が生まれるベクトルを選択ないしは創造しようとしているのだ★★。

 2月20日、合衆国はまたしても、国連安保理での「人道停戦決議」に対し、「停戦交渉を阻害する」などという詭弁をもって、「拒否権」(常任理事国権限)を行使した。賛否については理事国15か国の内、日本、フランスなど13か国は賛成、常任理事国のイギリスは「棄権」(常任理事国での権限の行使は、その提案を完全に支持することはできないが、拒否権によって阻止することまではしないという場合の権限)、反対(拒否権)は合衆国ということだ。(つづく)

★次回 ネタニヤフ「ハマス後の原則」(2024・2・22発表)について

2024年2月13日火曜日

イスラエル・「ダレット計画」(パレスチナ人追放計画)と暴力的「資本蓄積」 ——【連載第五回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 


イスラエル・「ダレット計画」(パレスチナ人追放計画)と暴力的「資本蓄積」=イスラエルによるパレスチナ人追放・民族浄化計画を許すな!

ーー【連載第五回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

最終更新 2024・02・15 13:54

●ラファ攻撃は「パレスチナ民族浄化」の攻撃だーー絶対許すな!

イスラエル首相・ネタニヤフは、2月8日の閣議で、3月11日までに、ラファ(ラファハ)への攻撃を終わらせるように軍などに指示したと報道されている。ガザ地区最南端の都市・ラファにはガザ北部などからの避難民150万人がイスラエルの攻撃を逃れて、集結しているという。その人口密集地に、空爆や地上戦などの戦闘が開始されれば、大変な大惨事がもたれされることは必至だ。今まで「イスラエルの自衛権」を擁護してきた合衆国政府でさえ、止めるように言っているのが、現実だ。しかし、イスラエル国家権力は、ラファを攻撃し「ハマスをせん滅する」としている。だが、現実に虐殺されているのは、子供を大量に含んだ一般市民だ。このファシズム戦争を絶対にゆるすな。

 しかし、こうした軍事作戦は、イスラエルが中東で戦後一貫して画策し、また実行してきた、軍事作戦の思想に淵源している。それが、ダレット計画だ。それは「パレスチナ人に対する民族浄化」の軍事計画であり、パレスチナ人のシナイ半島への追放計画だ(この計画の最近のものとしてはイスラエル諜報省の機密文書がある)。

 実際、避難民はラファからどこへ、「人道回路」(なるもの)をもって逃げろとイスラエル国家権力はいうのか。もはや、ガザ内には、安全な場所はおろか、安全かどうかはわからないが150万人もの避難民が「逃げる場所」がガザの中のどこにあるというのだろうか。

 こうして、パレスチナ人をガザから追放しようとしているのだ。「第二のナチスはネタニヤフ国家体制だ」という以外ない。以上のガザ虐殺戦争の土台となっているダレット計画をみることにしよう。

●ダレット計画

 「プラン・ダレット(ダレット計画)」は、1948年の第一次中東戦争(1948年2月~1949年3月)において、ユダヤ・シオニスト指導部と軍が1948年2月から5月の時期(つまり48年5・14イスラエル名「独立宣言」の前の時期)において、シオニスト指導部が展開した軍事作戦とその作戦計画を言う。国連による「パレスチナの2国家への分割」という決定に対し、シオニスト指導部は、「ユダヤ国家」とは別に、パレスチナ自治国家の領土を侵略し強奪する計画をつくった、それが「ダレット計画」だ。

 これは、イスラエルの初代の首相となるベングリオンによって想起され、軍事組織ハガナによって設計されたもので、48年3月に完成した作戦計画である。この作戦は上記の時期(48年2月~5月)において13作戦展開されたといわれている。その内、8作戦はアラブ国家に割り当てられた地域にアラブ正規軍が入る前に実行されたものとされている。

 この計画の基調は、国連分割計画で提案されたユダヤ人国家に割り当てられた地域の境界内と、その境界外のユダヤ人入植地、ユダヤ人国家との国境線に沿ったアラブ自治地域の町や村の征服を企図していた。アラブ人が抵抗した場合、征服された村の住民は征服地の境界の外に追放する計画だった。抵抗しなければアラブ住民はとどまることができるというものであり、それは、イスラエルの「奴隷になれ」ということ以外ではない。そして支配地域を要塞化する・軍事的に統治するものだった。実際これらの計画は、すでに撤退していたイギリス軍の基地、警察署の占領をポイントにシオニストの支配を実現していったとされている。その場合、どのような作戦がとられたのか。

ウィキペディア「プラン・ダレット」の項目では次のようである。

ーーー――

「防衛システムと要塞の統合の下での計画セクション3(警察署の占拠や輸送動脈の保護など)」につづく「セクション4」では、今回のガザ虐殺戦争でイスラエル軍が実際に行っている行為が次のようにしるされている。

「わが国の防衛システムの内部または近くに位置する敵の人口密集地が、現役の軍隊によって基地として使用されるのを防ぐために、作戦を開始すること。これらの操作は、次のカテゴリーに分類できる」として、つぎのように作戦を書いている。

 「村落の破壊(瓦礫に火をつけたり、爆破したり、地雷を埋め込んだり)、特に人口密集地を破壊し、継続的に制御することが困難である。次のガイドラインに従って操作統制活動を開始する:村の包囲と内部での捜査の実施。抵抗した場合、軍隊は破壊されねばならず、住民は国家の国境の外に追放されなければならない」。そして、その地域の「要塞化」が明記されている。

 「抵抗がない場合、…部隊の指揮官は村内のすべての武器、無線機器、自動車を没収」する。また「政治的に疑わしい人物を全員拘束する」そしてこれらの地域の行政当局はユダヤ人が任命されるとしている。

 また「国境の内外での反撃」というところでは、――これは今回の「10・7アルアクサ洪水作戦」に対するイスラエルの作戦の考え方もそうだと考えるが――「平均して大隊規模の部隊が深く浸透し、人口密集地や敵基地に対して集中攻撃を開始し、そこに配置されている敵軍とともにそれらを破壊することを目的としている」としている。

ーーーーー 

 まさに、イスラエル国家権力によるパレスチナ人に対する民族浄化の設計図である。

こうした計画を念頭に置きながら、イスラエル国家権力は戦後、持久的な戦争計画を展開してきた。それが、まさに「中東戦争」の歴史であり、パレスチナ住民に対するアパルトヘイトとジェノサイド、シナイ半島への追放計画などのルーツとしての位置を持つものに他ならない。

●イスラエル諜報省の機密文書とはなにかーーガザ住民のシナイ半島への強制移住のシナリオ

2023年10月30日、イスラエルのニュースサイト「シチャ・メコミット」が「政策文書:ガザの民間人口の政治的方針の選択肢」(2023年10月13日の日付と、イスラエル諜報省のロゴが付けられたヘブライ語の文書)とタイトルを付された文書を報じた。これは、政府の機密文書の流出であるという。その文書は数百ページあるが、その「要旨」の部分ということだ。

※ここでは、yahooニュース2023年11月1日、川上泰徳氏の記事「ガザ全住民をシナイ半島に移送:流出したイスラエル秘密政策文書の全貌。ネタニヤフ首相の『出口戦略』か」の記事から、当文書からの引用を引用・援用することにする。

文書はまず、「ハマスの打倒」を前提とし、ガザの住民をどのようにするかをabcの三つの案として示している。Aは、西岸の自治政府を引き入れる。Bは、ガザにハマスに替わる新たなパレスチナ人の統治を生み出す。Cは、ガザの住民をシナイ半島に避難させる、というものだ。

 AとBは、パレスチナ人の勢力を力学的に利する可能性があり、イスラエルにとってリスクがある。Cが、「イスラエルにとって前向きで、長期的に戦略的な利点を与え、実行可能な選択肢である」とする。ただし、「国際的な圧力に対して政治レベルの強い決意が求められ、特に実施の過程で米国や他の親イスラエルの国々の協力が重要となる」とする。

ここまでが、前提だ。そこで、次のような作戦が考案される。(ここでは矢印で、作戦過程を記する)

ーーーーー

「ハマスとの戦闘のために住民を戦闘地域から避難させる」→「イスラエルはガザの民間人をエジプト北部のシナイ半島に避難させるように動く」→「第一段階では、シナイ半島にテントの町(複数形)がつくられ」→「次の段階はガザからの住民を支援する人道地域が創設され、市内北部に再定住のための都市が建設される」→「エジプトにつくられる再定住地とガザの間に数キロの無人地帯が設けられる必要があり、ガザ住民がイスラエル国境の近くに戻って、活動したり、居住したりできないようにする」→「加えて、エジプトに近いイスラエル国境地帯に防衛のための堡塁をつくる必要がある」。

こうした作戦計画のため、次のような作戦手順を明記している。

「1・住民にハマスとの戦闘地からの避難を求める

 2・第一段階ではガザ北部に攻撃を集中させ、住民が避難して、住民のまきぞえがない地域への地上戦を可能にする。

 3・第二段階では、地上戦によって北部と周辺の境界から徐々に軍事的に制圧して、最後にはガザ地域全域を制圧し、ハマスが構築した地下トンネルも制圧する。

 4・集中的な地上作戦の期間はA案、B案よりも短くなる。そのため、イスラエル軍が北の戦線とガザの戦闘にさらされる期間も短くなる。

 5・ガザの住民が南部のラファに避難することができるように、北部から南部に浮かう道路を使用可能にしておくことが重要である」。

これがシナイ半島への強制移住の前提となるシナリオであり、現在(2024年2月12日)、ガザーラファで起こっている事態そのものだ。だがしかし、ラファは書かれているような「避難」場所ではない。★★★そもそも「避難」などという言説はイスラエル国家権力による≪詐欺師的言い繕い≫であり、避難場所ではないことは、イスラエルが一番よく知っている。パレスチナ人をパレスチナから「追放」することが目的の虐殺なのだ★★★。ラファでは、現在100万人を超える避難民が存在しているが、すでに、イスラエルの空爆などによって、この数日間だけで、数十人規模の死者がでている。今後、犠牲者・被虐殺者は、もっと増加するといわれている。

 そして機密文書では、ガザ住民がラファの境界からシナイ半島へと向かうために、「エジプトは国際法上の義務を負う」などと主張している。また「避難民」を「移民」として「受け入れに協力」する「国際社会」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアの名を挙げている。以上だ。

ーーーーーー

まさに、イスラエルのガザ地区強奪のための、ガザ虐殺戦争がおこなわれているのだ。「ハマスからの自衛権」とは、今や全くの口実であり、それは、イスラエルとパレスチナ解放運動との一つの戦闘局面(敵の攻勢局面)を切り取り、利用した、全面的な虐殺戦争が「ダレット計画」を土台として組み立てられた、それ、として、まさに発動したのである。そういう戦争国家として、イスラエルは、戦後一貫して存在してきたのだ。

●ガザ沖油田開発と暴力的「資本蓄積」――戦争と収奪反対、Free Palestine!

こうした、ガザ虐殺戦争において、資本主義的「価値」としてどのようなことが分析されるかが、次の課題となる。

 第一にガザ住民がいなくなった土地にイスラエルからの「入植」が表明されている。第二に、更地となったガザをイスラエルが統治することが表明されている(「パレスチナ国家」否定の言説として)。第三に、ガザ沖油田開発に、ネタニヤフは、ガザ攻撃の当初から積極的に動き出している。そして、この資本蓄積は、「資本の本源的蓄積」を内包するものだ。それは、近代資本主義発生のための一回限り(エンクロージャー囲い込みなど)のことではなく、資本主義の転換期(恐慌、戦争、植民地支配など)においては、何回も繰り返し、おこなわれるという、例証に他ならない出来事だ。まさにこの戦争が、イスラエルにとって、新たな強盗的資本蓄積の開始をしめすものとなっているのだ。

 その構図を見て行こう。(つづく)




2024年2月5日月曜日

【第4回】イスラエルの軍事外交路線における交易関係 ーー【連載】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

 【連載】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!

【第4回】【イスラエル資本主義の軍事外交路線における交易関係】渋谷要

★最終更新 2024年2月5日。22:55 


【はじめにーー予告変更について】前回第三回のおわりに、第4回は「イスラエルのダレット計画(パレスチナ人追放計画)と暴力的な資本蓄積」について取り上げると予告をさせていただきました。が、その後、そうしたダレット計画などパレスチナ住民の追放計画をとりあげるまえに、そもそもイスラエルは、どのような経済政策、とりわけ他国家との交易政策を展開しているのか、そのことをとり上げる必要があるのではないか。そのことと連接して、イスラエルのパレスチナ追放計画をみる必要があるのではないか。ということで、今回【第4回】は、「イスラエル資本主義の軍事外交路線における交易関係」を見て行くことにします。

●UNRWAへの援助停止をした国々とイスラエル

  2024年1月、イスラエルは、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員(1万3000人)の内、「12人」が、2023年10月の「アルアクサ洪水作戦」に参加したとして、UNRWA全体に対する支援打ち切りなどの要求を、UNRWA支援の各国に要求した。これは、南アフリカの「イスラエルのパレスチナ攻撃はジェノサイドだ」というICJへの提訴と、これに対する、ICJのイスラエルに対する「仮処分」(内容は本論・前回【第三回】に明記)に対する、イスラエルの反撃と考えられるものだ。

 このイスラエルの提起を受け、UNRWAに対する「(一時)援助停止」を発表したのが合衆国、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、オーストリア、スイス、オランダ、イタリア、フィンランド、フランス、日本の十二か国(2月05日現在)。このUNRWAへの最大の援助国は合衆国、ドイツは2位、日本は6位(2022年)だ。

●イスラエル諜報機関の「情報」と「作文」

 政治分析の一般的な方法からいうならば、多数の人員を要するUNRWAのような機関には、当然、イスラエルのスパイもいれば、反米諸勢力の関係者もいるはずだ。こうしたなかで、イスラエル諜報機関が展開していることは明らかだろう。

 イスラエルの諜報機関で、ガザにおける情報取集活動は「シンベト」が担っているが、ハマスなどの2023年10月の「アルアクサ洪水作戦」を摘発できなかった。そのことについて、今回の軍事作戦が終了時、シンベトに対する調査をイスラエル政府は、準備している。これに対し、「シンベト」は、10月の「洪水作戦」後、この作戦の首謀者と参加者をせん滅する「ニリ」という組織をつくった。これは情報収集を基本とする捜査チームだといわれている。そうした組織が、こうした「情報」と「作文」(「12人の参加者」とか、1月29日のロイターが発信した記事などでは、「イスラエル情報当局」の発表としてUNRWAには「190人のハマス、イスラミック・ジハードのメンバーがいる」などの「情報」を流している(「ガザ国連職員190人 ハマスなどと関連の疑い=イスラエル当局」1月30日午前7:47報道)。本当かどうかは、追跡できないものだ)をつくっているのだ。

 だが、こうしたイスラエルの宣伝戦に、対応している、あるいは、それを根拠とし、利用しているのが、「援助停止」を表明した諸国だということだ。こうしたイスラエルの戦法は、イスラエルが展開してきた国際的な交易関係での、イスラエルとその他の諸国との★★政治の打ち合い★★として、常態化しているものでもある。

●多彩な交易関係

 イスラエルは、OECD加盟国だ。OECDは先進国間の意見交換・情報交換をつうじて、主要には「経済成長、貿易自由化、途上国支援」の三つの課題のために連携する国際機関だ。このメンバーであるということは、国際社会において先進資本主義国であることを認定されている国家ということになる。

イスラエルのGDPについてみてみよう。212か国中、ランキングは、2017年(32位)、2018(34)、2019年(32)、2020年(29)、2021(29)となっている。貿易では、2022年(イスラエル通関統計)で、輸出相手国が第一位合衆国、第二位中国、第三位インド、第四位イギリス、第五位アイルランドなどとなっている。輸入相手国では第一位中国、 第二位合衆国、第三位ドイツ、第四位スイス、第五位トルコとなっている。

もちろん、合衆国をはじめとする欧米各国とは、イスラエルは軍事援助・協力の関係にあるのが多数を占めている。これはいわずと知れたことだろう。イスラエルは合衆国をはじめ欧米諸国との間で自由貿易協定(FTA)を締結し、イスラエルにとって最大の貿易関係を形成してきた。★★だが、本論で問題としたいのは★★、イスラエルの交易関係は、親米一辺倒にとどまるものではないという点である。かかる一般的な経済交易関係をもテコとしつつ、中国やロシアなど欧米と対立・競争する、あるいは、インドなど欧米に対して友好的だが、距離もとっている「中立」的立場の国とも関係を構築してきているという点である。ここでは、軍事的交易について見て行こう。

JETRO (アジア経済研究所)の「中東レビュー」VOL5(2017-2018、2018年3月発行)というところに掲載された清水学氏(有限会社ユーラシア・コンサルタント代表取締役)という方の論考(「イスラエル経済:グローバル化と『起業国家』」、第二部産業政策とイノベーション)では次のようなデータ分析がある。

インドとの関係では次のようである。

「インドは世界最大の武器輸入国の一つであるが、2015年の全世界の武器輸入総額のトップの座となっている。……過去20年間インドはイスラエル製兵器の主要輸入国となって」いる。「インドが輸入しているイスラエル製兵器は、ミサイル、UVAと兵器システムである。また2016年11月に訪印したイスラエルのリブリン大統領とモディ首相の間で両国が兵器の共同生産に進むことで合意されており、単なる貿易関係に限定されていない。さらに2004年にイスラエル・ロシア・インド三国間取引が合意されており、それによるとイスラエルはインド空軍に11億ドルのEL/Wー2090レーダーを供与するとともに、ロシアはイリュージョンⅡー76プラットフォームにセットすることをかのうにするものとされる」等々だ。例えばこうした、軍事交易関係が展開されているのである。

ロシアとの関係では次のようである。

2009年以降、イスラエルとロシアとの軍事交易が活性化してゆく。「ロシアが特に注目したのは、イスラエル製無人機(ドローン)である」。2009年にはじまったドローンの購入は、2010年には4億ドルのドローンを購入した。また「2012年にはロシアでイスラエルウ・ドローンのアセンブリー生産が始まっている。これはロシア軍の仕様に供するものである。……2010年9月6日、ロシア・イスラエルは5年間の軍事協定を結んでいるのも注目される。ロシアとイスラエルは対シリアでは異なった政策を追求しているが、兵器を巡る貿易・協力関係は急速に進展していると見られる。」

このデータ分析が、発表されたのは、2018年前後だが、ウクライナ戦争でイスラエルはロシアと急速に関係が良好なものではなくなったといわれている。だが、こういうやり取りが展開されていたのは、間違いないことだ。

中国との関係では次のようである。イスラエルと中国との軍事協力は、すでに、冷戦期の1980年代に開始されていた。

「中国は米国・ソ連(ロシア)から入手できない兵器と技術をイスラエルに求めていた。今までイスラエルは約40億ドルの武器を中国に売却していたという推計もある。イスラエルは1990年代にミサイル、レーザー、航空機技術を中国に移転しているとみられる。米国はイスラエルによる中国へのファルコン早期警戒システムの売却を停止させている。1999年以降中国軍高官のイスラエルへの公式訪問が行われて」いる。「イスラエルは台湾との協力関係も中国に配慮しつつ制限している。パレスチナ問題などに対する政策は異なるが、兵器とハイテク貿易、軍部の相互交流などは着実に進展しているとみられる」。

このように、イスラエルは、アラブ反米勢力でなければ、こう言ってよければ全部と交易し可能な交易関係をむすぶことで、いろいろな対立を内包した諸国と重層的な関係を構築し、また、場合によっては、そういう対立をも利用しながら、イスラエル独自の国益を形成するという政策をとっていることがわかるだろう。その場合、交易関係をむすぶA国とB国が、対立をしていても、イスラエルとしては、関係ないものとして対応するということだ。

★★★イスラエルのUNRWAに対する「非難」(上述したように、それがどのようなものか検証は今もって不可能だが)に対して、上記の欧米諸国が、「一時援助停止」を、ほとんど即座に声明したことでも、わかるように、それは、欧米にとって、イスラエルを自分たちの仲間だと確信させることが必要だったのだ。

●UNRWAに対するイスラエルの攻撃はダレット計画(パレスチナ人追放計画)の一部だ

イスラエルのUNRWAに対する攻撃は、パレスチナ住民がパレスチナに生存するための救援物資を、停止させる・なくすための政策である。そして、パレスチナ住民を、シナイ半島へと追放する端的な第一歩をつくるものだ。まさに「ダレット計画」とイスラエル諜報省の「追放計画」の初期の方針といっていい。そしてイスラエルの右派は、ガザ地区に対するイスラエルの「入植」を表明しはじめている。断じてゆるすな!

次回【第5回】は、「パレスチナ人追放のダレット計画と暴力的資本蓄積」。







2024年1月31日水曜日

パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 【第三回】コールバーグ「正義」論・「発達段階」パラダイムを批判する 渋谷要

 パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!——シオニスト入植植民地主義者・イスラエル国家権力を打倒せよ! 【第三回】渋谷要

(最終更新 2024・1・31 14:15)

【第三回】コールバーグ「正義」論・「発達段階」パラダイムを批判する

【はじめに】第三回は、戦後シオニストのパレスチナへの乗船・上陸活動に船の技師として参加し、そこから「道徳・正義」といったものを考えていった(詳しくは後述)ローレンス・コールバーグの「正義」論(発達段階論)をめぐる論の展開となる。以下の文章からわかるように、コールバーグ(1927~87。ハーバード大学教授)の発達段階論は、社会契約(改変・変革可能な法的正義)より、上に、「正義」があるというものであり、国際法無視・自己が価値とするものの絶対性を他者に強要する侵略者・イスラエルのパラダイムを象徴するものにほかならない。★★本論では、はじめにイスラエルの国際法無視の実態の一端を概観し、後半で、コールバーグの言説を見ていこう★★。

●ガザ虐殺戦争とイスラエルの攻撃性

今回のガザ戦争で ガザ保健省は、1月21日、パレスチナ人の死亡者が2万5千人を突破したと伝えている。また国際NGOの「セーブ・ザ・チルドレン」は、1月12日の時点で一万人以上の子供が犠牲になっていると伝えた。こうした、イスラエルのガザ虐殺戦争は、例えば1月29日放送のNHK・クローズアップ現代の「ガザと”ホロコースト生存者(サバイバー)” 殺戮はなぜ止まないのか」では、次のように報じている。

 これは私(渋谷)の「番組感想文」ということだが、イスラエルは「ハマスの攻撃は第二のホロコースト(ナチスが行ったユダヤ人に対する絶滅政策・大量虐殺のこと)だ」とし、「二度とホロコーストをおこさせないためには、攻撃すべきだ」と、攻撃を正当化する論理をイスラエルはつくっている。それはポグロム(19世紀、ロシアでユダヤ人に対して行われた暴力による排除行為が元になった言葉だ)であり、絶対に許すなと、教育でもそれを教えている。それがガザ虐殺戦争のもとになっている考え方に他ならない。このイスラエルの攻撃性は、ホロコーストの「歴史的トラウマ」がもとになっていると、この番組にでた解説者が言っていた。つまり、自分たちは「被害者」であり、「自衛」の攻撃は善であるということだ。

 これに対して、パレスチナの学生は、ナチスがやったユダヤ人に対するホロコーストは許してはならないが、「パレスチナをナチスに当てはめることは言語道断だ」。彼らは、「1948年から、われわれに、戦争を仕掛けている」ということだ。まさにその通りだと本論論者も考える。ここまでが「番組感想文」だ。

 ここではこのイスラエルの「攻撃=正義」の独自の論理回路を、もう少し、追ってゆこうと考える。

 ●国際法の無視抹殺とイスラエル的「正義」

 前回・第二回の最後に表示した「イスラエル的主体形成」。それは、国際法という社会契約とは関係なく、自分たちの「正義」だとする目的を達するために自分たちの必要とすることすべてを、例えば「国際社会」の賛否善悪の判断とは関係なく振る舞うということを特徴としている。

 例えば「入植地」問題ではICJ(国際司法裁判所)は2004年に国際法違反認定をしており、2016年国連安保理決議で「入植地の建設を停止せよ」との決議を議決――オバマ政権は拒否権を発動していない。また例えば「分離壁」の建設では2002年から、イスラエルが「西岸」で建設し始めたことに対し、ICJ(国際司法裁判所)は、2004年、違法判定を決定している。ここでは「勧告」として、分離壁の建設で、パレスチナ住民の通行権が侵害され、家屋破壊などが起きているとして、没収された財産・土地の返還と損失補償の義務が明記されている。
  さらにこの間、南アフリカがガザ虐殺戦争を、「ジェノサイド」(民族消滅のための虐殺)だとして提訴した。これに対しICJは、ジェノサイドかどうかの判断はしなかったが、ジェノサイドを防ぐ「あらゆる手段」をとるように命じた仮処分をイスラエルに対して出した。そして、一か月以内に、この仮処分をうけてとった措置をICJに報告するように命令した(2024年1月)。

 これらの法(社会契約)におけるイスラエルに対する決定に対して、イスラエル国家権力は一貫して、「自衛権」の行使だと、これらのイスラエルの行為を全面的に正当化しているのだ。

 このように、イスラエルは、ジュネーブ第4条約(戦時・占領下の文民保護を規定したもの)などの国際人道法規(社会契約)を無視抹殺し、「自衛権」のもとに、こういってよければ宗派主義的な対外政策をとり、それを「正義」としてきた。

それは、どのようなパラダイムをもっているのか。その理論形式が解明されるべきだ。

まさに、その理論形式を象徴するものが、戦後ユダヤ人難民のパレスチナへの乗船・上陸活動に船の「技師」として参加した(詳しくは後述)、心理学者のローレンス・コールバーグ(1927~1987年。シカゴ大学出身。ハーバード大学教授)の「発達段階論」にほかならない。

 そこでコールバーグは、「法(社会契約)的正義――これは改変し変更できるものとされている」という「段階」の上に立つ「正義」の「段階」がある、と述べている。

●コールバーグと第一次中東戦争(イスラエル名「独立戦争」) 

まずコールバーグが、どういう人生の経験のなかで、過ごしてきたか、コールバーグ自身が自分の立ち位置をのべているものを確認することから始めよう。コールバーグには『道徳性の発達と道徳教育』(ローレンス・コールバーグ著、岩佐道信 訳。以下『道徳性』と略す)という麗澤大学出版会から出版された1987年第一刷の出版物がある。、

 その初めの章は「普遍的道徳を求めてーー私の個人的体験」というタイトルのものだ。1985年来日したときに行った講演だ。

「私は、高校でユダヤ系アメリカ人として軽い人種的偏見すなわちユダヤ人排斥を経験しました。…1945年の秋、私は合衆国商船隊員としてヨーロッパに到着しました。私が衝撃を受けたのは、戦争による建物と生活の破壊ばかりでなく、ナチによるユダヤ人やジプシーや他の非アーリヤ人の大虐殺を生き延びた人たちの苦境でした。……ともあれ、私はアメリカの商船隊員としての任期を早々に終えました。そしてユダヤ人難民を満載した船を、非合法ながらイギリスの封鎖をくぐり抜け、当時イギリスの統治下にあったパレスチナに上陸させるため無報酬の技師として志願しました。

 大虐殺を生き延びたものの、帰るべき故国もなく、追放難民キャンプに移されたユダヤ人たちにとってきわめて不当と感じられたイギリスの法律を破ることについては、私はなんら道徳的葛藤を覚えませんでした。……私たちの船もイギリス軍艦に拿捕されました。……私と仲間の船員と難民は、キプロスにあるイギリスの強制収容所に連れて行かれました。……ハガナ(ユダヤ人の自警軍事組織で、イスラエル国防軍の基礎になったーー引用者・渋谷)は、私たちがキプロスからパレスチナへ逃亡するのを助けてくれ、私の身分証明者を用意してくれました。……戦争が終わると、私は学部の学生としてシカゴ大学に入りました。それまでは、大学に入りたいとは思っていませんでした。しかし、私は道徳の問題、つまり正義の問題に取り組んでいる自分に気づいたのです」(7頁~8頁)。

この場合、ハガナに救助されたコールバーグは、拿捕された船とは違う船をアメリカからパレスチナへと運ぶことになっていたが、共同社会のキブツにとどまっていた。「その船は、1948年のアラブ諸国に対するイスラエルの独立戦争で、イスラエル海軍の軍艦となりました」(8頁)という叙述があるが、このことが、コールバーグのシオニストとしての、そして、対アラブ排外主義者としての思想性を鮮明に表している。そして、この価値観を土台として「道徳」と「正義」を考えようということに他ならないのである。

※ 1969年、コールバーグはイスラエルを訪問した。それを機に自身の理論に「ジャスト・コミュニティ」という新しい概念を付け加えている、という。

※※【アレントとコールバーグの違い】

 ここでもう一つ、※として書いておきたいことがある。【それは一つには】、ハンナ・アレントのことだ。アレントは、第二次世界戦争当時、ドイツからのがれ、亡命していたが(最終的には合衆国に向かった)、連合国軍の一翼を担う「ユダヤ軍」の結成を主張している。これは、シオニズム(パレスチナ復帰運動)の範囲をこえた、ディアスポラ(離散者)になったすべてのユダヤ人の団結を実現するためであり、また、そこでは今住んでいる国を捨てパレスチナへ、とは言っていない。そこにはユダヤ民族を「能動的に」再生させる意図があった。だが他方で、シオニズム運動を支援する活動はしている。また、戦後は、国連を舞台とするイスラエル建国問題の中で、「分割」ではなく、「国連によるパレスチナ信託統治」など、ユダヤ人とアラブ人の共存を模索する政策提言などを表したが、1948年第一次中東戦争(イスラエル名「独立戦争」)が勃発した後は、政治的発言の舞台から撤収した。こうしたことが、何を意味するかは多説あるだろう。それがアレントが『全体主義の起源』などを表す序曲となったことだ。私はその全体主義批判を支持し、「階級解体と全体主義」というアレント論を書いた(拙著『資本主義批判の政治経済学』、社会評論社、2019年、所収)。

 そして、コールバーグも、実践の中で、自分の思想的立ち位置を形成していった。その内容はわたしにとっては、後述するように拒否するものだったが、それはしようがない話だ。

 ここで触れておきたい【もう一つのこと】は、アレント、コールバーグとも、彼らの学術理論領域では、ほとんど、彼らに対する実践の経緯の論述が消滅していることだ。これは、実践・イデオロギーで、彼らの学術研究を判断する余地を残すことを、しないことが、彼らの学術研究を正当に評価することになるとの判断からだと思う。その判断には、わたしは異議を唱えるものではない。が、こうした方法があると私が考えていることについては、わたしの考えでしかないが、一言、言っておきたいと思う。

●「発達段階」論と第六(最高)段階=「正義」とは何か

 コールバーグ『道徳性』で、もっとも特徴的な個所をまず読んでみよう。「道徳教育の基礎としての道徳性の発達段階」という『道徳性』所収論文(この論文は、『道徳教育ーー学際的アプローチ』ペック、クリテンドン、サリバン編、トロント大学出版局、1971年。の第一章として書かれているとの解説がある)の中の一節だ。

「道徳原理とは、全ての人があらゆる場合に採用することが期待される選択の普遍的な様式であり、選択の規則です。『原理』という言葉は、通常の規則よりも抽象的なものを意味しています。」しかし「ある種の行為の禁止や命令が普遍的に適用さえないことは理解できます。人間の生きる権利は、他人の財産権に優先しますから、人の命を救うために嘘をついたり盗みをすることは構わないことを私たちは知っています。人を殺すことは、時にそれが公平なことであるがゆえに正しい場合もあることを私たちは知っています。

 ヒットラーを殺そうと計画したドイツ人の人々は正しかったのです(ここでは、端的に1944年の「7月20日事件」を指すものだろうーー引用者・渋谷)。なぜなら、人間が等しく持っている生命の価値を尊重するには、人の命を救うために殺人者を殺さなければならないからです。各種の行為関する規則には、常に例外があります」(106頁)。

 まさにこれが、コールバーグの典型的な論点なのである。この考えは、「ハマスは現代のナチスだ」とする、イスラエル国家権力とそれを支持するイスラエル市民(部分)に共通するパラダイム(社会運営の考え方の基礎になっているもの)そのものであり、だから「ハマスせん滅まで戦争はつづけられる」という「絶対戦争(敵の完全せん滅)」の論理が常識化されているのである。

 この文章に「付随」したものとして(『道徳性』186頁に解説がある)、「発達段階」をまとめた文章が、『道徳性』では「付録」として提示されている。それが、もっともわかりやすいと考えるので、その文章で、コールバーグの論理を追っていこう。

「付録1 道徳性の段階の定義」だ。「Ⅰ習慣以前のレベル」では、「第一段階」と「第二段階」がある。「第一段階」は「罪と服従志向」であり、「行為の結果が、人間にとってどのような意味や価値をもとうとも、その行為がもたらす物理的結果によって、行為の善悪が決まる」。この「物理的結果」ということのポイントは「罰の回避と力への絶対的服従」であり「ただそれだけで価値あることと考えられる」というのが、第一段階だ。

「第二段階」は、「道具主義的相対主義者志向」だ。これは、「人間関係は、市場の取引関係に似たものと考えられる」。とされ、公正、相互性、分配などの要素は、「物理的な有用性」の面から考えられる。つまり同等のとりひきが問題であり、「忠誠や感謝や正義の問題ではない」となる。

 「Ⅱ慣習的レベル」。「このレベルでは、個人の属する家族、集団、あるいは国の期待に添うことが、それだけで価値があると認識され、それがどのような明白な直接的結果をもたらすかわ問われない」。秩序維持派にありがちな「志向」、現在ある社会の秩序に対する忠誠、集団との一体感などが、価値となるということだ。これに二つの段階がある。

 「第三段階――対人関係の調和あるいは『良い子』志向」。たとえば「多数意見や『自然な』行動についての紋切り型のイメージに従う」。行動はその動機によって判断されるため、「善意でやっているということが「初めて重要になる」。それは「『良い子』であることによって承認をかちとる」ことが目標になっているものだ。

「第四段階——『法と秩序』志向」であり、「正しい行動とは、自分の義務を果たし、権威を尊重し、既存の社会秩序を、秩序そのもののために維持することにある」。


●「第六段階」の「正義」は、「第五段階」の「意見の相対性」の一部・・・「合意」前の「個人的価値」に過ぎないものだーー「正義」は社会契約(とその変革)にある 

「Ⅲ慣習以後の自律的、原理的レベル」。このレベルでは、これまでの段階の「道徳的価値や道徳原理」を、それを「唱えている人間の権威から区別し」「個人が抱く集団との一体感からも区別して、なお妥当性をもち、適用されるようなものとして規定しようとする明確が努力が見られる」段階である。

 これは我田引水であるが、廣松渉的に言えば、「通用的正義から妥当的正義へ」ということだろう。形式論理的には別に異論はない。では、第五、第六段階を見ていこう。ここからが、ポイントだ。

「第五段階――社会契約的遵法主義志向」。「個人的価値や意見の相対性が明確に認識され、それに呼応して、合意に至るための手続き上の規則が重視される。正しさは、憲法に基づいて民主的に合意されたもの以外は、個人的な『価値』や『意見』の問題とされる」。

「その結果、『法の観点』が重視されるが、(第四段階の『法と秩序』によって、法を固定的に考えるのでなく)社会的効用を合理的に勘案することによって、法を変更する可能性が重視される」。そして法の範囲外では、「合意と契約」が義務の要素となるという。これは「アメリカ合衆国政府と憲法のよって立つ『公的』道徳である」と規定されている。

 この第五段階は、社会契約とその改変・変革にによる社会の改良という、普遍的な社会運営のルールを論理化したものである。そして、私見を言うなら、この社会契約のルールが国家権力により破壊されたとき、革命が正当なものとなる、というのが、私の見解である。

 さて、「第六段階」だ。「普遍的な倫理的原理志向」とコールバーグがよんでいるものだ。

 「正しさは、論理的包括性、普遍性、一貫性に訴えて自ら選択した倫理的原則に一致する良心の決定によって規定される」。これらの原理は「人間の権利の相互性と平等性、一人ひとりの人間の尊厳性の尊重など、正義の普遍的諸原理である」としている(『道徳性』171~173頁)。まさにここに「正義」の段階が措定されている、というわけである。

 まさしく、この第6段階は、上述したように、コールバーグが、イスラエル建国運動で、ユダヤ系の人々を、イギリスの法をくぐり抜けて、パレスチナに運んだという、彼にとっての「法」と「正義」の葛藤を、想起させるものだ。ユダヤ人が自分たちの「国」をつくることは「人間の尊厳」を実現することだ。それが、国連のブルジョア国際法的なイスラエルとパレスチナの「分割」政策(「二国家共存」)を、最初から超えて、パレスチナ全面侵略を当然の自分たちの権利として考える志向に展開していったのである。それが「正義」の実現だと。

 つまり、この第六段階が、一番高い「発達段階」とした場合、ある集団が、敵対するある集団に、攻撃をかけるのは「普遍的一貫性」であり、ある集団における「人間の尊厳性」を守るための行為となるだろう。「戦争」になる以外ない。それを、抑止するのが、国内の社会契約の、また、国際法のルールに従って、自分たちの要求を実現してゆくのが、「第五段階」の社会契約的遵法主義である。つまりこれをこそ、第六段階とする必要があるのだ。

 ★★★コールバーグが言う「第六段階」=「自ら選択した」「普遍的倫理」なるものは、「第五段階」の「個人的価値や意見の相対性」——国際社会的には一国家・国家間の相対性――の範囲における、一つ一つの価値、意見、立場に過ぎないものだ★★★。

それを、最高の段階としたのでは、「合意」などは横に置かれ、ただ自分たちの主張や利害を絶対的真理として、他者を服従させようとする態度が、常態化することになる。まさに、それが、イスラエルが、領土拡張戦争、アパルトヘイト、入植侵略、ガザ絶滅戦争のジェノサイドとしてパレスチナ侵略戦争でやってきたことではないか!

 イスラエル国家権力のガザ虐殺戦争のイスラエル的必然性が、かかるシオニストの論理と重なり合って形成されてきたことがわかるだろう。

 ★★コールバーグの話はここまでだ★★。

 ●【次回】の課題はイスラエルによるパレスチナ侵略戦争の青写真を分析する

 ガザ虐殺戦争弾劾! イスラエル国家権力を打倒せよ! パレスチナ解放! パレスチナに自由を! 次回は、このイスラエルの侵略戦争がもともと計画してきた青写真としての、パレスチナ住民のシナイ半島への追放計画、パレスチナ全土侵略支配計画としてのダレット計画、それを継承する、最近、流出したイスラエル諜報省の「シナイ半島への追放計画」(とりあえず【第一回】にも課題を設定している)を見ていこう。そして、そこから、イスラエル国家権力の暴力的資本蓄積戦略を分析してゆきたいと考える。

 ※ もちろん、このガザ虐殺戦争を糾弾することで、「反ユダヤ主義」までを良しとしてしまうのは、間違っている。むしろ革命的反戦闘争を闘う側は、イスラエル国家権力が、アラブ―パレスチナ人民に対し、反ユダヤ主義―民族排外主義と同じことを、第一次中東戦争以降、アラブ人民に対して展開してきたことを省察するべきだと、主張するのでなければならない。そして、「国際社会」は、そのイスラエルの犯罪行為を断罪すべきなのだ。

【次回予告】「ダレット計画」と資本蓄積戦略、など。


2024年1月25日木曜日

パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 【第二回】渋谷要

パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!——シオニスト入植植民地主義者・イスラエル国家権力を打倒せよ!【第二回】渋谷要

(最終更新 2024・01・29   13:52)  

【第二回】戦争国家イスラエルと「国際社会」

●パレスチナの完全支配を目指すイスラエル国家権力

 今は2024年1月下旬だ。ガザ虐殺戦争の中で、世界に広がる反戦デモが、合衆国政府の政策である「イスラエル自衛権擁護」に対する抗議・批判となってゆくことを恐れた合衆国バイデン大統領の「2国家共存」(オセロ合意で社会契約になっている)にもとづく、イスラエルへの働きかけ(端的には戦闘規模の縮小要請)と、「パレスチナの独立はあり得ない」と「二国共存」を否定し、ガザのパレスチナ人自治の否定を表明するネタニヤフ・イスラエル国家権力との齟齬が、報道されはじめている。そこから、何を読み解くべきか? そのイスラエル国家権力の価値観を批判的に分析した考察が求められていると考える。

  
●「分割」から「追放」へ
 
 イスラエルは、1947年国連によるパレスチナのユダヤ人とアラブ人の分割決議を出発点としつつ、分割(イスラエルの存在が「国際社会」に認められた、そこ)から、今度はパレスチナ人追放という計画として、1947年から、独自のパレスチナ人追放計画を立て(ダレット計画――最近、暴露されたイスラエル諜報省による「シナイ半島への追放計画」は、これを継承するものだ)、1948年イスラエル建国と第一次中東戦争(イスラエル名「独立戦争」)から、対パレスチナ・戦争政策を展開してきた。第一次中東戦争では、パレスチナに居住するアラブ系住民のうち70万人以上が、ガザ、ヨルダン川西岸ーヨルダン、レバノンなどに逃れた。これは「破局(ナクバ)」と言われている。今回のガザ虐殺戦争は、ナクバの再来というべきだ。
 とりわけ、1967年第三次中東戦争では、イスラエルは、ガザ(エジプトから)やヨルダン川西岸(ヨルダンから。イスラエル名「ユダヤ・サマリア」)など、多くの占領地を獲得している。パレスチナ人の自治区、自治政府は、その中にある自治区・自治政府だ。国際連合(「国際社会」)は、イスラエルの領有権を認めていない(国連安保理決議第242号)。また入植地についても「国際社会」は認めていない(戦時・占領地における文民保護を規定したジュネーブ第四条約に対する違反)。
 西岸地区は、ザックリとパレスチナ自治政府の区域と思われている印象があるが、パレスチナ政府が行政権・警察権を持つ地域、パレスチナ政府が行政権・イスラエル軍が警察権を持つ地域、イスラエル軍が行政権・軍事権を持つ地域と三つに分かれ、その内イスラエルの行政支配の領域は60%以上に及ぶ。
●そもそも「2国家共存」は、イスラエルのためにする国家共同幻想だ

1993年オセロ合意によって確認された「2国家共存」以降も、イスラエルの入植侵略はつづき、93年には入植者11万人だったものが、現在は、250以上の入植地に70万人以上が居住している。ヨルダン川西岸は国際連合の規定では「占領地」(国連安保理決議242号にもとづく)だが、イスラエルの「法解釈」では、ヨルダン川西岸は「係争地」とされている。だから、入植は違法ではなく、奪っていいということを、イスラエル「としては」主張するものとなっている。★★結局、「2国家共存」はイスラエルの入植に、歯止めをかけることはできず、イスラエルという存在をパレスチナに認めさせるものだった。それは「2国家共存」というある種の「国家共同幻想」の下で、イスラエルの活動を支えるものとして機能した★★。そして合衆国政府はトランプが大統領の時、入植は合法だ、国際法(ジュネーブ第四条約…戦時・占領地における文民保護を規定したもの)違反ではないと表明した(2019年)。 

★では、どうして、このようなイスラエルの無法がゆるされてきたのか★。イスラエルは冷戦期、中東における欧米の反共突撃隊であり、冷戦後は、反米イスラム勢力に対する西側世界の軍事防衛国家として存在してきたからだ。だから、今でも、合衆国は国連でイスラエルに不利な安保理決議に「拒否権」をこうししているのだ。これは、少なくともこれまでは、合衆国にとって何かの戦術ではなく、「戦略的な選択」としてのことなのである。

●イスラエル的主体形成論とでもいうべきものとは何か?
 そこでは、どのような、国家主義的な主体形成がなされているのか、こういってよければ、単なる「ブルジョア帝国主義」ではない、ものがそこにある。

 ★★★イスラエル国家権力は、以上みてきたように国際法という社会契約とは、関係なくふるまってきた、これがポイントだ★★★。

 そもそもネタニヤフのグループ(リクード)は、2005年におけるシャロン政権(当時)のガザ入植地などからのイスラエルの撤退決定――これ以降、イスラエルは、ガザを包囲し封鎖する「壁」を建設し(「西岸」では2002年から。2004年、ICJ国際司法裁判所は、国際法違反と認定している)ガザを封鎖・管理支配しはじめるのだが、ガザからの撤退は、それ自体「西岸」の入植地を拡大してゆく政策だったが――、ガザからの撤退そのものを批判した勢力だが、その根底にはどのような「価値」が保有されているのか。それは「シオニズム」という一般的な指標ともちがい、むしろ、そのシオニズム(ユダヤ民族のパレスチナへの祖国復帰運動・建国運動として表明されているもの)を確固としたものにしている主体形成論なのである。それはまた、イスラエルの国民皆兵制度をつくってきた正当性の根拠とも連接するものだ。そのイスラエル的主体形成論とでもよぶべきものを照射するのが、『赤いエコロジスト』「イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!」の次回の課題となる。(つづく)

2024年1月19日金曜日

パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!【連載第一回】 渋谷要

 

【連載第一回】 パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ!

 ーーーシオニスト入植植民地主義者・イスラエル戦争国家権力を打倒せよ!

(最終更新 2024・02・10 16:11)

【第一回 はじめに】

                               渋谷要

 第一回【はじめに】資本主義国の戦争政策は、資本蓄積戦略の青写真が土台となっている

 はじめに、本論論者の「イスラエルによるガザ虐殺戦争」と「ロシアのウクライナ侵略戦争」をめぐる諸問題に対する、基本的なスタンスを表明することからはじめたい。

 

 ●ダブルスタンダード

 今は2024年1月19日だ。アメリカ合衆国権力はこの間、中東反米勢力に対する軍事行動を活性化させている。端的には、イスラエルに関係するとみられる紅海の船舶などに対する、イエメン「アンサール・アッラー」(蔑称「フーシ派」。2015年イエメンの政権を奪権。同国の北部中部を実効支配している。イランが大後方となっている)による武装攻撃・ハマスに連帯する軍事行動に対し、アメリカ中央軍による「フーシ派」の軍事拠点などに対する軍事報復を激化させているということだ。同時に、国連ではガザ虐殺戦争におけるイスラエル自衛権擁護の立場(例えば「停戦」をもとめる国連安保理決議に対する「拒否権」の発動)を鮮明にしている。これはどういうことかというと、合衆国は中東情勢でのいわゆる「安全保障政策」を優先し、ウクライナ支援を少なくとも、第一級の安全保障の課題としなくなるということを表示するものだ。そして、イスラエルを擁護しつつ、反米勢力と闘うという態勢をとりつつある。この態勢は、合衆国の権力者たちにとって従来からの基本パターンだ。

 こうした合衆国の動きは、ウクライナ戦争での(「国際秩序」—平和を重視し、武力での国家主権と国境などの現状変更を批判し、これと闘う)、パレスチナガザ虐殺戦争の(「国際秩序」を破壊し、武力での現状変更をおしすすめる国家を擁護する)という意味で「ダブルスタンダード」といわれてきたが、それはその通りで、「ダブルスタンダード」との批判は、それ自体、そうだと考える以外ない。

 だがしかし、本論論者の立場は、「ではなぜ、そうなるのか」という根拠を求める必要があるという立場だ。

★★ポイントは、資本主義国の戦争政策は、その資本主義にとってどのような「資本蓄積」戦略が、妥当か、ということで、政策決定されるということだ。★★

 ●資本主義の戦争政策は「資本蓄積戦略」で決まる

 例えばウクライナ戦争では、いわゆる欧米など「国際社会」は今まで、こういってよければだが「反ファシズム統一戦線」できた。それは、欧米日ー対ー中ロという、帝国主義間争闘戦における、政策決定としてだ。そこでは、「民主主義―対ー専制主義(全体主義)の闘い」という表現が、合衆国大統領の発言として表明されるなど、ファシズムの打倒で、欧米日の資本家階級と労働者階級の(こう言ってよければ、だが)「反ファシズム統一戦線」が構築できてきた。そこでは「資本蓄積」戦略との関係では、端的に言って現状の欧米世界が主導している世界資本主義経済秩序を守ることであり、そのための国家システムである「ブルジョア民主主義法秩序」を防衛することである。これは例えば、ロシアに対する経済制裁で、欧米日が一致した対応をとってきたことに端的に示されている。まさに市民社会と市場経済の秩序を維持し、これまでの経済流通と国際交易を確保するということにある。最もウクライナ戦争での経済分析では、これまで以上に、米軍産複合体の権益ということ等も、特に分析することが必要となる。他方、労働者人民の側は、全体主義ファシズムと闘うことで、階級闘争の法制的根拠などとなる「民主主義法秩序」を防衛することができるという、ことである。これはウクライナ戦争においては、ウクライナ軍の「指揮権」の下で闘う、ウクライナ民衆のパルチザンの戦いが、示してきたことに象徴されることだろう。そうした、資本家階級の資本主義経済秩序の利害防衛との「共闘」が、反ファシズム闘争では、実現する状況ができ、選択肢が選択されることがあるということであり、それが、まさに、ウクライナ戦争においては、選択されてきたということだ。

 まさに武装し市民社会に襲いかかる全体主義ファシズムに対しては、市民社会の一致した抗戦が、必要だというのが、本論論者の立場だ。

 一方、合衆国はガザ虐殺戦争では、イスラエル寄りであるが、アラブ世界にも配慮している。
 これは、ガザ虐殺戦争の戦後以降の、後述するようなガザのパレスチナ住民のシナイ半島への強制移住計画(例えば、yahooニュース2023年11月1日、川上泰徳氏の記事「ガザ全住民をシナイ半島に移送:流出したイスラエル秘密政策文書の全貌。ネタニヤフ首相の『出口戦略』か」参照)やガザ更地化での開発利権、さらに後述するようなガザ沖合の油田開発などとの関係で、どのようなスタンスが、妥当かを探っているということに他ならない。

こういうわけで、合衆国の議会では戦争予算の構成の仕方で、端的にはウクライナ戦争予算について、もめに・もめているのだ。クレムリンの侵略の前までは、ウクライナは基本的に、経済的には、中国との貿易をトップクラスの貿易相手国として、まさに「一帯一路」でやっていた国家だ。だから「戦後は信用できない」ということが、合衆国議会のなかの勢力の中にあるのではないか? 

 そういう、錯綜した情勢を、帝国主義国の「資本蓄積」戦略の多極性から分析してゆくのが、資本主義批判の革命的左翼の理論的スタンスだと考えるものである。もちろん、この「資本蓄積」戦略の対極に存在するのが、全世界の被搾取階級・プロレタリアートであり、被抑圧民族だ。

 まずこの点、まず初めの論点提起として、確認しておくことにする。(つづく)