2025年4月23日水曜日

トランプ一派【による】米ロ・「帝国主義協商」にNOを!――現代政治条約における「同盟」と「協商」の概念的相違から見えてくるウクライナ「停戦」協議の構図  渋谷要

現代政治条約における「同盟」と「協商」の概念的相違から見えてくるウクライナ「停戦」協議の構図/トランプ一派(米帝一般じゃない)【による】★米ロ・「帝国主義協商」にNOを!

アップ/2025・04・23 00:01

最終更新/2025・04・24 22:16 

※「協商」とは、フランス語で「entente」のことです。国際社会で使われている位置づけの用語です。それ以外の使用・用法は、【3/01アップしたものと同様】、この本論には含みません。 

                             渋谷要

目次

【はじめに―米のウクライナ和平案をめぐって】

【1】【現代政治条約における「同盟」と「協商」の違い】

【①-a】【協商】

【①-b】【「同盟」と「協商」の違い】

【2】【まとめ】

【ノート:チェンバレンとトランプの決定的な違いについて】


【はじめに――米のウクライナ和平案をめぐって】2025・4・17(フランスでのウクライナ問題でのEU諸国との会合において)、合衆国政府は、ウクライナと欧州主要国に対し、「ウクライナ和平構想案」を、表明した。この案文は、①欧州最大級の発電力を持つザポリージャ原発(現在、クレムリンが占領している)の周辺地帯を中立地帯として合衆国の管理下におく。戦後、その原発の電力をウクライナ領と同時にロシアの支配地域の双方に提供する。

(分析⇒このことは現在クレムリンが支配する地域を事実上、既成事実として肯定し、そこにこの原発の電力をおくるという想定がなされていることを意味するだろう。そうなればこの対象が、クレムリンが占領している東部2州、南部2州(ウクライナ国土の約20%)のすべてを対象としたものになるだろう。トランプはすでに3月段階で、この原発の所有や運営を米国が行うことを提案している)。

 さらに、②停戦ライン⇒現在の戦線にそって、戦闘を凍結する。ロシアによるクリミア半島の占領統治を米国が承認する。また、ウクライナのNATO加盟は排除される、というものだ。こうした、トランプ一派の「和平案」と、そこに存在する、クレムリンとの「帝国主義協商」(これを★★「協商」とする意味を以下に展開する★★。★★以下に論じるように、現代ブルジョア政治学の概念に即した内容で言うと、「協商」が、この「停戦プロセス」と完全に、論理的に一致する概念★★である)をどのように見るかだ。

 さっそくこの和平案に対し、4月21日、ロシア大統領府のぺスコフ報道官は、この「和平案」でトランプ政権が、クリミアのロシアへの「併合」を容認していること、ウクライナのNATO加盟を否定していることなどをあげ、「我々と一致している」と評価した(NHK WEB「ロシア軍事侵攻(4/22(火)のうごき」。2025・4・22 18:59)。

 ※また、この4・17「和平案」の提案と同日のタイミングで、「欧州右派」のリーダーの一人であり、ウクライナ問題で摩擦を起こしている、欧州EU主流派とホワイトハウスとの架け橋として、イタリア首相・メローニ氏が、ホワイトハウスを訪問(関税問題での訪問とあるが、それだけではないだろう)、そして翌日には、イタリアでの、米・バンス副大統領らとの会談など、「欧州右派」(メローニ首相はイタリアの政治関係の中で「ウクライナ支援反対」を言っていないが、「欧州右派」の多くが「支援反対」を表明している)のウクライナ問題での「意思統一」を交換したと推測される。このことは、みておく必要がある(朝日新聞デジタル、4/19 06:44配信。「メローニ氏 試される『右翼』のつながり トランプ氏と欧州の仲介役」など参照)。

【1】【現代政治条約における「同盟」と「協商」の違い――「トランプ関税」を課さなかったクレムリンとの交渉、他方でトランプが「ウクライナはNATOに加盟できない」という意味】

 この場合「トランプによる『米ロ・帝国主義協商』」の【強調点】は、あくまでも「トランプによる」が★強調点だ★。とくに、トランプ一派のような「帝国主義反主流派」の分析には、「国家」ベクトル【だけ】ではなく、その「党派」的特質の分析が必要になってくる。それに焦点を当てたのが、このブログで、3・01にアップした先の論文である。

★★★そして、ここで、まずもって何よりも、とりあえず確認しておきたいのは、【ロシアはトランプ関税から除外されている】ということだ。ウクライナ問題の「解決」(?)のために、クレムリンと「ディール」をやりたい、トランプのこれが、政治の舞台設定だという事だ★★★。

 まさに今現に行われていることは、「米ロ『協商』の展開だ!」ということだ。これはこれから論述するように、何の【定説にも基づかず、わたし(渋谷)が勝手にいっていることではない】のである。それは端的にいって、【現代政治条約における〈「同盟」と「協商」の【違い】〉という問題】だ。そこで一番のポイントは、これから説明するように「援助義務規定」のある(同盟)、なし(協商)がポイントになってくる、ということなのである。

 ★★★「ウィキペディア」での「協商」の項目が、ベーシックな解説だと考えるが、インターネットで「同盟と協商」、等と書いて、【検索】をすると、【ダダっと、でてくる】。いろいろな論者・専門家や「問題事項」の「解説」がでてくるが、基本的にどれも同じだ★★★。


【「協商」を「同盟」と同じ内容だと言っている人はいない】。そこで、これらを、まとめるならば、以下の内容になる。これ(①ーb)は、国際法上の「定説」である。


 【①ーa】【まず「同盟」との違いを見る前に「協商」というものだけを見て行こう】「協商とは、「仲良く売り買いをする」ことでは【ない】。それは相互に利益を賭けあう事である。この「協商」が「成功するかどうか」、そもそも、どこまでの有効性をもつかなどという問いは愚問である。そういう「政治の打ち合い」ができるようになったのがトランプ一派であり、バイデン政権ではそういう打ち合いができなかった。そこが【路線転換】として対象化されるべきところだ。そもそも「協商」とは、単になかよくすることでは【ない】、【利害を賭けあうことだ】。その結果として互いが、目的としている利害の分配を結果する、かどうかだ。それは、互いの【取り分がどうなってゆくかを相互に監視し合う】ことでもある。それが、失敗すれば「ディール失敗」となり、協商などはなくなる。★★(※そもそもこうした政治学における「協商」という概念はあくまで、ブルジョア政治学(広義)の中でつかっているものであり、例えば、中国共産党の歴史で言う「協商」とは、意味が違うものだ)★★。

 まさにトランプは、【プーチンとゼレンスキーの★中間に立ち★両者を天秤にかけて】、自分の目的とするディールに勝利しようと考えている。★つまり、クレムリンとの「協商」は、ウクライナとの「協商」と同時に進める必要がある、これが、トランプの作戦だ★。それが、ウクライナの鉱物資源収奪をはじめとするウクライナ植民地化だ。そこでは、クレムリンの権益も、確保させるつもりだ。さて、「同盟」と「協商」の違いを見て行こう。★★このポイントは先述したように、「援助義務規定」というものが、その契約に入っているか否かが、重要だ★★。


【①ーb】【★★★「同盟」と「協商」との違いについて★★★】「協商」とは、「公式文書がない非公式の合意」のことであり、「同盟」とは違う。「ある問題に対する調整をもとに、協調や協力」を取り決めることだ。そこで形成された「合意」をいう。また【これは決定的なことだが】、「援助義務規定」が★ない★ものだ。「協商」によって「公式の条約文書」が交わされる場合でも、★★「援助義務規定」がないもの★★をいい、【これは、第三国の脅威とならない性格に配慮したもの】にほかならない。「援助義務」には「軍事的援助義務」があり、いわゆる「安全保障」の確認の問題となる。

 これを【ウクライナ和平交渉に適用する】と、次のようになるだろう。トランプはプーチンと【対等のディール】をのぞんでいる。それは「同盟」の締結などとはならず、「協商」の位置づけでの問題となる。だからウクライナとの★★関係も★★「協商」の水準を★★位置づけ★★にする必要がある。そこで、★★★第一に、合衆国とウクライナの間で締結される「鉱物資源協定」に、ウクライナの要求した「安全保障」の文言は★記入しない★となる。第二に、4月中旬に発表したトランプ政権の「ウクライナ和平案」では、「ウクライナはNATOに入らない(★つまり「同盟」ではない★)」★★★となっているのである。【こうしてみてくれば、「同盟」と「協商」という二つの概念から、ウクライナ「停戦」協定を巡る【攻防の位相】が、鮮明に見えてくるだろう。どうだろうか】。

※また、左翼用語との関係で言うなら、「同盟」は「戦略」、「協商」は「戦術」の概念に、大きく【包括される】と考える。どうだろうか。

【2】【まとめ――つまりザックリいってこういうことだ】①バイデンはウクライナとの関係を★★「同盟」★★とし、侵略者クレムリンとの闘いを「専制主義——対――民主主義」の闘いと規定した。これに対し、トランプは明確に【方向転換】した。②トランプは、「この戦争は、プーチンとゼレンスキーとバイデンの三人が悪い。初めに戦争を始めたのはプーチンだが、バイデンとゼレンスキーはそれを防ぐことができた」とし、バイデンにかわったトランプが、この「戦争を終わらせる」とした(4/14、ホワイトハウス、記者団からの質問に――NHKニュースデジタル2025/4/15、13:57)。これは明らかに、クレムリンによる「侵略」—「領土の暴力的変更」という犯罪の後景化だ。また、「ロシアをG8から排除し、G7としたのは、間違いだった。G8から排除されていなければ、ウクライナ戦争はおきなかったはずだ」というホワイトハウスでの記者団に対する発言(2/13)も報道されてきた(日テレニュース・デジタル、2/14、10:20)。こうして、「喧嘩両成敗」であり、【トランプが仲介に入った、同等のディールとして、決着をつけようじゃないか】といっているのである。これは明らかに★★「協商」★★の位置づけだ。(了)

―――★―――

 【ノート:チェンバレンとトランプの決定的な違いについて】

 以上のことがらに関連して、ある歴史的事実との応接が、一つの話題になっている。

※【ノートの趣旨】「朝日新聞」記事の「ミュンヘン会談」との同一性論――形態論的には完全にかぶっている。だがチェンバレンとトランプのやっていることは逆ではないのか。だから「融和政策」という同一の言葉で規定するのは一般的すぎる。

 【1】【朝日新聞は、2月24日(2025)付けで、「ウクライナ侵攻3年 歴史の教訓踏まえた交渉を」と題する「社説」を掲載した】この社説の意図は、クレムリンとトランプが、ウクライナの頭越しに交渉を始めたこと、そして、「プーチン大統領の言い分を丸のみするかのようなトランプ米大統領の姿勢は、極めて危ういというほかない」という立場から書かれたものである。それは、ロシアによるウクライナに対する「侵略の責任を問うことなく、ウクライナを丸腰で放り出すのに等しい『停戦』となれば、解決どころか、世界の将来に大きな禍根をのこす」、日本は欧州と協力して、「ウクライナの意向を踏まえるよう」、トランプ政権に働きかけろといういうものだ。

 そこで、ケーススタディとして、出しているのが、1938年のミュンヘン会談である。

「ゼレンスキー氏や日米欧の高官が今月中旬(2月中旬――引用者)、安保問題の国際会議で集まったドイツのミュンヘンは、歴史に重い教訓を刻んだ土地だ。1938年9月のミュンヘン会談で、英仏はヒトラーの要求を受け入れ、当時のチェコスロバキア西部にあってドイツ系の人々が多く住んでいたズデーテン地方のナチス・ドイツへの併合を認めた。合意の際の「これ以上の領土拡大は認めない」という条件を、ヒトラーは翌年に踏みにじり、ソ連と密約を結んでポーランドに攻め入り、第二次世界大戦が始まった。侵略に手を染めた独裁者の危険性を過小評価した帰結だ。ミュンヘン会談でも独ソの密約でも、チェコスロバキアやポーランドなどの当事国は、自身が不在の場でその運命を決められてしまった。ウクライナの将来を大国の思惑だけで決めることは許されない。……ウクライナ危機と距離を置く新興国の多くも、大国の思惑だけで決めることは許されないという考えでは一致できるはずだ。そうした共通認識を世界に広げる努力が必要だ」と表明している。

このミュンヘン会談のことを、もう少し、見て行こう。

 チェコスロバキアのズデーテン地方の領土交渉は、イギリス・チェンバレンとヒトラーの間でおこなわれていた→だが、チェコの抵抗という事があり、交渉ははかばかしくなかった→だがイタリアのムッソリーニの仲介で→英仏と独伊の4者で、ミュンヘン会談を開催→成立したミュンヘン協定はズデーテン地方のドイツへの割譲での合意だった→チェコは会議に招集されず、チェコ大統領のベネシュはロンドンに亡命した。「このミュンヘン協定はドイツとの戦争を恐れるイギリス・フランス側の妥協的な宥和政策(アピーズメント=ポリシー)といわれ、ナチス=ドイツの侵略をその後も容認したものといわれる」。これには次のような説明もある「当時のイギリスの世論は平和主義が強く」、イギリスの下院をはじめ、チェンバレンを支持する空気が蔓延した。その翌年の「ノーベル平和賞」は「チェンバレンに与えられた」ということだ。しかし、翌年(1939年)からヒトラーはチェコスロバキアの全面的な解体に乗り出した(木下康彦 他編『詳説 世界史研究』山川出版社、474~475頁)ということだ。

 まさに、形態的には、ウクライナ戦争と、今後をめぐる心配に大きく類似する。この朝日新聞の社説の通り、私も、不安である。

★★だが、ウクライナ人民の徹底抗戦は継続しており、「欧州民主主義」のウクライナ軍事支援も、トランプが支援を後退させている中で、強化してきている。こうした、反クレムリン統一戦線の継続と拡大が、まず圧倒的に、ミュンヘン会談時のチェコスロバキア状勢とは、違うところだと考える★★。このポイントを、見逃すなといいたい。

【2】【チェンバレンとトランプの決定的な違い――「宥和政策」でこの二つを結びつけるのは一般的すぎる 】 ★★★だが、このミュンヘン会談と、ウクライナ停戦協議の【これまでの―あくまでも、これまでの】政治過程では、決定的に相違することがあるのではないか?【とも】考える。それは、チェンバレンとトランプがやっていることに、真逆のポイントがあるということだ。

 ①チェンバレンは、平和交渉をやっただけであり、イギリスがチェコスロバキアにおける権益を、その交渉の中で得ようとか、ナチスと、チェコを巡って経済権益を共同事業で作り出そうとか、★★そういうことは、一切しなかった。し、また、できなかった★★。

② トランプは、これまで先の本ブログ「3・01」アップの拙論や、本論の上記にのべてきたように、ウクライナを〈ひとつの市場として〉、ウクライナとクレムリンに、等価ディールをかけている。そこで、あらたな権益の枠組みをつくり、ウクライナには「鉱物資源協定」を媒介とした新植民主義的侵攻(これが成立すると、この協定に「安全保障」の文言がなくとも、ロシアは今の戦線を凍結することを余儀なくされるはずだ)を、クレムリンとはウクライナの20%の領土の割譲【など】と、エネルギー資源の共有など、新しい共同事業をプロジェクトしていくことで合意できる。例えば4月11日に行われた(サンクトペテルブルグ)、対クレムリンの米特使・ウィトコフ氏(トランプのゴルフ友達で不動産王)とプーチン大統領の会談では、これに、ロシア政府ファンド「ロシア直接投資基金」トップで、大統領府高官のキリル・ドミトリエフ氏(対外投資・経済協力担当)が出席している。

だから、トランプ「停戦」政策は、「宥和政策」という、チェンバレンたちと同一の用語を使うと、そのトランプのやっていることの「特異性」を表現できないことにならないか? どうだろうか?

【3】【どのような「帝国主義」なのか――イギリスの古典的帝国主義と現代帝国主義ではタイプが全く違うという問題】この【相違】は、同じ「帝国主義」といっても、①は、当時(第一次世界戦争~第二次大戦前)、「金利生活者国家」「高利貸資本主義」などといわれていた時代のイギリス・フランス帝国主義である。これに対し②は、第一次世界大戦期から形成された、ドイツ(・アメリカ)型の株式会社形式の独占体として、産業と銀行が融合した(ドイツ鉄工業と銀行の融合など)独占資本主義を【歴史的出発点】とした帝国主義であり、とりわけ第二次大戦後「新植民地主義」の植民地タイプを創造して、世界市場を再編したアメリカ帝国主義の経済活動が基本だ、この違いは歴然としている。そういうことが、この「相違」の土台としてあると考える。

 ※この「タイプ論」については、宇野弘蔵が「帝国主義論の方法について」(『「資本論」と社会主義』所収)で、レーニンが「帝国主義論」で上げた「帝国主義の五つの指標」という方法論は「資本論の原理論」と同じ論法であり、帝国主義段階における解き方としてのタイプ論を、レーニンはわかっていない、という批判をしたことがある。「帝国主義論」は「資本論」(原理論)と同じように――「商品ー貨幣―資本」の循環・回転や「三位一体的範式」などとして、どの資本主義にも普遍的に同じように解けるものではなく、各国資本主義の作り出した資本蓄積様式の特異性を問題にしなければならないというのが趣旨だ。【ここからは渋谷の私見】だが、だが、それは宇野の言うようにレーニン『帝国主義論』には、当てはまる批判かもしれないが、レーニンの帝国主義分析総体には、【当てはまらない】ことは指摘しておきたい。レーニンは1917年5月、ロシアにもどってからおこなった講演で次の様に述べている。これは第一次世界戦争(1914年勃発)の分析だ。「他方では、イギリスとフランスを主とするこのグループに対抗して、資本家のもう一つのグループ、いっそう強奪的なグループが進出してきた。これは、席がすっかりふさがった後で資本主義的獲物の食卓についた資本家たち、だが★★★資本主義的生産の新しいやり方、よりすぐれた技術を闘いにもちこみ、また、古い資本主義、自由競争の時代の資本主義を巨大なトラスト、シンジゲート、カルテルの資本主義に転化させる比較にならない組織を★★★闘いにもちこんだ資本家たちのグループ(直接的にはドイツだが、この資本の形にはイギリス(連合国)側の米国(参戦は1917年)も含まれるーー引用者・渋谷)である。このグループは、資本主義的生産の国家化の原理、すなわち、資本主義の巨大な力と国家の巨大な力とを単一の機構に――幾千万の人々を国家資本主義の単一の機構に——結合するという原理をもたらした」(1917年5月講演「戦争と革命」、「レーニン全集」第24巻所収)ということだ。

 ※拙著・拙論では「戦争と帝国主義に関する考察――戦争問題の〈古典〉としてのレーニン「戦争と革命」を読む」、『資本主義批判の政治経済学――グローバリズムと帝国主義に関するノート』所収(社会評論社、2019年刊)参照。★★『赤いエコロジスト』「2019/8・9」アップ★★。

【4】【米反トランプデモと政治危機の拡大】すでに全米では「反トランプデモ」が巻き起こっている。トランプはこれに対し「報復」(弾圧)を検討し始めているという。合衆国でも、ウクライナでも、ロシアでも、そして日本でも、「プロレタリア左派」(広義)が、伸長すべき転機がここにある。

★★★以上、さあ、どうなるかだが。★★以上の内容に関するご批判を期待します★★。



2025年3月1日土曜日

トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ  渋谷要

トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ  渋谷要

最終更新/2025・3・05 02:46

≪はじめに≫【ウクライナ侵略戦争の現在】

●【執務室バトル】最初に。日本時間で3月1日(2025)、未明に50分間、ホワイトハウスの大統領執務室で行われた、ウクライナと合衆国の首脳会談が開かれた。会談は後半、バトルとなり、完全な失敗に終わった。本論で後述する鉱物資源開発の取引(「鉱物資源開発での米との共同事業」と、「ウクライナの『安全の保障』」との取引」)をめぐるウクライナと合衆国の契約合意文書への署名は見送られた。そして、トランプは、ゼレンスキー大統領に退去を命じた。このバトルの中で、トランプは次のように述べている(このバトルの具体的過程・経緯については本論では省略する)。

トランプ「あなたには交渉カード(クレムリンとの)がない。我々と一緒ならカードが手に入る」。

ゼレンスキー「わたしはカード遊びをしているわけではない」。

トランプ「あなたは数百万人の命でギャンブルをしている。あなたがやっているのは、第三次世界大戦をギャンブルにすることだ」。

 さらに激論がつづき会談は打ち切り。共同記者会見も中止となった。仮に今後、合衆国の支援がなくなった場合、これまでのような量での戦闘の継続は「今夏」までと言われている。また、プーチンとその側近たちは、「トランプは正しいことを言っている」との評価を 表明している(本論では、これ以上、この分析には踏み込まない)。

 この事態を受けて、EUでは、イギリスの提案で欧州首脳会合を3月2日に、EU理事会のこのウクライナ問題での特別会合を3月6日に、予定している。また、イタリアのメローニ首相が、「分裂はだれの利益にもならない」として、欧米諸政府が参集した緊急会合を呼び掛けている。メローニ首相は後述するように、イタリアの右派政党「イタリアの同胞」の指導者である(欧州議会では「欧州保守改革グループ」に属す)。1月のトランプの「大統領就任式」にも「招待者」の一人となっている。だが、イタリアの国家としての「ウクライナ軍事支援は継続する」という立場だ。トランプ―ゼレンスキーの中間地点にいる。こういう政治スタンスの実力者が今後、欧州におけるこのシナリオのヘゲモニーを持ってゆくのかもしれない。

 バトルの後日、フランス、ポーランドなど欧州諸国の首相が、ゼレンスキー大統領を応援している。「侵略者はロシアだ。侵略に対抗して闘ってきたウクライナ国民に敬意を」(フランス・マクロン大統領――訪問先のポルトガルでの発言)、「ウクライナの皆さん、あなた方は一人ではない」(ポーランド・トゥスク首相)とSNSに投稿、「ゼレンスキー氏、我々は良い時も試練の時もともにいる。侵略国と被害者を混同してはいけない」(ドイツキリスト教民主同盟・メレツ党首)とSNSに投稿等々だ。そして、ゼレンスキーは「アメリカは戦略的パートナーであり続ける」とSNSに投稿した。〈ウ・米バトル〉という事態。この事態は始まったばかりだ。こうした現実を前提として以下、これまでの政治過程を分析していこう。

●【ダブルスタンダードの消滅】ここで問題にすることは、クレムリンの侵攻以降、合衆国が取ってきた「ウクライナ徹底抗戦支持」の立場から、【トランプ政権になり】、「米ロ・和平交渉」へ転換している、これをどう考えるかということだ。

 バイデン政権時には、「パレスチナとウクライナとのダブルスタンダード」という表現で、合衆国政府が「パレスチナ」では、イスラエルのガザ虐殺戦争に軍事支援をしている―アラブ諸国とも折衝するなど中立的に振る舞ってはいたが――侵略戦争放火の加担者であった。「ウクライナ」では、「領土と主権の一体性を力で変更するな」として、「被侵略国」ウクライナに対する軍事支援、侵略戦争を展開するロシアに対する制裁発動などの第一人者である。これは、矛盾しているということが言われていた。だが、トランプ政権になって、この「ダブルスタンダード」は、これから述べるように、「悪い方向」で、消滅しつつある。いや、もうすでに消滅している。

●【「侵略」でなく「紛争」――交渉(取引)のための歪曲】そこで顕著なのは(後述するように)、トランプの立場は、ウクライナ人民の侵略者・クレムリンに対する徹底抗戦を支持・援助する立場から、侵略者・クレムリンを、「侵略者」とはいわず、ロシアとウクライナの「紛争」だ【という位置づけ】で、「和平交渉」を求めてゆく立場だということだ。その場合、合衆国は、ウクライナとウクライナを支援する欧州ブルジョア民主主義諸国に「席を置かない」頭ごなしに飛び越えた、米ロ「和平交渉」を展開し、さらに米ロ首脳会談を、展開しようとしている。まったくの、大国主義だ。【そういう合衆国の展開をどのように分析するか】が、ここでの課題となる。

まず、ウクライナ侵略戦争での、これまでの状況を次のように、整理しておこう。

●【経緯】 そもそもウクライナ侵略戦争は、ロシアのプーチン権力が1999年以降のイスラム派・対露独立勢力をせん滅する戦争(第二次チェチェン紛争)以降、戦争放火をやり始めたことに起因している。それが2003~2004年にかけての「バラ革命」(ジョージア)、「オレンジ革命」(ウクライナ)⇒「ユーロ・マイダン革命」(2014年)の民主化運動の進捗とそれにともなうNATOなどへの加盟の動き、これに対するクレムリンの対抗という構図となる。ウクライナにおいては、2014年以降のロシアによるクリミアに対する暴力的併合、およびウクライナの東部(ドネツク、ルガンスク両州)の実効支配、これらクレムリンの独裁者としての蛮行に対して脅威を覚えたウクライナ、スウェーデン、フィンランドなどがNATOへの加盟のベクトルをとってゆくことになるというのが、経緯である。この戦争は、直接的には、ロシアによるウクライナ侵攻があった2014年に勃発していることになる。(※この戦争のこれ以上の詳しい分析については拙著では「ウクライナ徹底抗戦支持――全体主義ファシスト・クレムリンを打倒せよ!」(『情況』2023冬号224~233頁。本ブログ「赤いエコロジスト」2023.3・31アップ)を参照してほしい)。

●【被害】これまでの3年間でウ軍死者4万6千人。負傷者38万人。/ロシア軍死者推定9万人。国内外に避難を余儀なくされたウクライナ市民1000万人(ウクライナ人口2024年、約3800万人)。国連はウクライナの民間人死者1万2600人と発表(2025・2・22)。2025年2月現在、露軍はウクライナ領土の20%を占領している。

●【復興予算】国連・世界銀行と、欧州委員会・ウクライナ政府の共同発表「第4次緊急再建被害と需要調査」(2025・2・25)では、再建復興に今後十年で5240億ドルが必要との報告が出ている。クレムリン侵攻の2022年2月24~2024年12月31日までのデータでの試算だ。また、これはウクライナGDP推定値で、2・8倍にのぼると試算されている。

●【停戦条件】両国の停戦条件に付いて、確認しておこう。ウクライナ⇒ウクライナのNATO加盟(トランプは否定的)。領土奪還。クレムリン⇒ウクライナのNATO非加盟。ウクライナ4州(ロシアの占領地)からのウクライナ軍の完全撤退。

●【欧米諸国のウクライナへの派兵判断】NATO諸国の「ウクライナ派兵」について。「戦後」、「平和維持軍」として英仏が派遣を表明(これに対し、ポーランド、バルト三国は派遣に慎重だ)。トランプも、フランスなどの提案に、欧州を主体にという前置きをつけて、賛成している。トランプは米軍をウクライナに派遣する方針はない。まくまでも「対中国正面」のシフトだと分析できる。だがまた、合衆国は「将来ロシアが停戦合意をした後に再び侵攻した場合は、ウクライナのNATOへの加盟を自動的に認める案」を検討中(米NBCテレビ20日。NHK MEWS2025/2/22 14:55配信)との情報がある。また、トランプはこの間(2025・2)、これまでNATO各加盟諸国に、国の国防費2%(対GDP国内総生産)を要請してきたが、それを5%までの引き上げを要請し始めた。これは、ウクライナ停戦交渉に、「欧州が呼ばれていない」「欧州の席がない」ことに関し、「席を確保するためにはそれだけの責任を」というディールにほかならないだろう。だが、【これから、述べるように】、現在の欧州主流派(英仏ドイツをはじめとするブルショア民主主義諸政府)を【できれば】、排除したいのがトランプなのだ。トランプはまた、プーチンとは(2/25記者団に)電話ではなした「誰もが受け入れる平和維持の形が必要だ」と話し合ったと、発言している。その真意はわからないが、そういう駆け引きが複雑に展開しているということだ。

●【ウクライナ支援額】国別でのウクライナ支援額(戦車などの軍事支援、資金援助などの合計)。「キール世界経済研究所」データ(2022年2月侵攻から2024年12月末までの期間)では、米国(1140億ユーロ)、ドイツ、イギリス、次いで日本などが、上位だが、欧州全体の支援額(1320億ユーロ)では米国を上回っている。

本題に入っていこう。

≪Ⅰ≫【トランプの排外主義・自国ファースト主義の主張】

●【排外主義潮流】まず「アメリカ・ファースト」のトランプの主張について概観しておこう。それはなぜ、「プーチン寄りの停戦協議」なのか、なぜ「対露協商」なのかという問いを解くうえでの、最も明瞭な入口になるだろう。それは★後述するように★次のような事情とセットだ。バイデン大統領が対クレムリン反ファシズム(反専制主義)統一戦線だったのに対して、トランプは欧米のウクライナ支援反対派勢力などと連携しているのだ。フランス国民連合(RN)、オーストリア自由党、ドイツAfDがそれだ。また、欧州議会では親ロシア派のハンガリー与党とフランス国民連合(RN)などが連携し、「欧州の愛国者」という会派を結成している、後述するようにトランプを熱烈に支持するグループだ。これらのグループは、移民排斥、保守主義の排外主義潮流(自国ファースト、帝国主義的エスノセントリズム)だ。もちろんトランプの移民排斥を支持している。

●【トランプの主張】米帝トランプは、ウクライナのクレムリンへの「領土割譲」を肯定するようなことをいっている(「ロシアの侵攻前にウクライナの領土を戻すのは無理だ」とかの言説だ)、それは例えば、トランプがデンマーク自治領グリーンランドを「安全保障」の必要から合衆国の所有にするとか、メキシコ湾を「アメリカ湾」と呼び変えるとか、パナマ運河のパナマからの返還(1914年開通したパナマ運河は、アメリカが管理してきたが、1977年米カーター大統領の時期にパナマへの返還が決まり、1999年返還された。そこで問題となったてきのが、パナマ運河の通行料の高さだ。トランプはそれを不平等だといい、合衆国への返還をもとめるというのがこの問題の筋書きだ)などを政策化しはじめたことと一体だ。また、イスラエルの「ダレット計画(パレスチナ人追放計画)」にもとづく「入植」活動を取り締まる、合衆国の「ヨルダン川西岸地区入植に関する制裁の大統領令」を取り消すとか、ガザのパレスチナ住民をガザではない場所に「一斉(強制)移住」させ、ガザをリゾート地にするとか、そういった、「主権と領土」の「力(国家権力の行使)による変更」を、次々と表明・実践している。

これは、クレムリンのウクライナなどに対する、「主権と領土」の国家暴力による変更と同じものだ。

●【プーチンの主張との共通性】 そういうことが、「アメリカ・ファースト」であり、こう言ってよければクレムリンの「ロシア・ファースト」との同一性を示している。プーチンの「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年)というウクライナ侵略の直前に発表し、国家権力で意思統一した文書の内容とどこが違うのか。そこでは、現在のウクライナ・ゼレンスキー政権が、その一体性を破壊してきたのはロシアにとって不当であり、脅威だという論調が意思統一の内容となっている。この意思統一をもって侵攻に住み込んだのだ。だからクレムリンがやっていることが、国際法の秩序に対する★★破壊行為だと★★分析する価値観が、トランプにはそもそも存在しないのである。では、かかる排外主義・自国ファースト主義は、どういう政治的立脚点をもつことによって、実践されているのか。このことがまず、問われる必要がある。

(※プーチンの「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」では、ロシアとウクライナは「数世紀にわたって単一のシステムとして発展してきました」。しかし「米国とEU諸国はウクライナとロシアの経済協力を縮小、制限するよう」計画的にしむけてきたとし、それはウクライナを「ロシアへの前進基地とすること」にあると述べ、それを推進する「ウクライナ政府」を批判。ウクライナのNATO化に対する強い批判が書かれているものだ。これはプーチンの独裁政治を棚に上げて、東欧の民主化革命にたいする反革命の立場から表明されているものに他ならない。ウクライナのロシアへの従属問題は、歴史的には、1920年代後期~30年代中期にかけてのホロドモールが顕著であるが、すでにレーニンが指摘している通りだ(レーニン「ウクライナ」――1917年6月28日『プラウダ』第82号。レーニン全集第25巻。ここでレーニンは「分離の自由」を「ふくむウクライナの権利を完全に承認」せよと述べている。拙論では『情況』2023年春号2023・5・20発売、「ウクライナ徹底抗戦の理論的裏付けについて―連邦離脱の自由と民族独立・解放闘争」参照)。

 まさにこのプーチンの「歴史的一体性」論文は、「自国(ロシア)ファースト」の筋書だ)。 

≪Ⅱ≫【トランプ「アメリカ・ファースト」の政治的立脚点】

● 【彼の仲間は誰か?】その政治的立脚点であるが。2025年1月20日、トランプの「大統領就任式」の様そうをみるのが、一番わかりやすいだろう。この「就任式」に呼ばれた「招待者リスト」の顔ぶれがポイントだ。この「就任式」には、大統領が一番話を聞きたい人々が集まるとされている。まさに、あつまったひとびとは、各国の右翼のリーダーたちだった。大統領就任式の慣例では、例えば欧米の首脳などは招かれないとされている。だが、この日は例外的に唯一、欧州の首脳ではイタリアのメローニ首相が招待されている。メローニ氏は、「イタリアの同胞」という右翼グループを率いている(欧州議会会派は「欧州保守改革グループ(ECR)」に属す)。このグループはイタリアのファシスト党のながれをくんでいるという(※なお、メローニ氏らは、イタリアの「ウクライナ支援」については「継続」を訴えている)。また様々な右派政治家が招待されているが、ここで名前を一つ上げるなら、「ドイツのための選択肢(AfD)」のクルパラ共同党首が、入っていることが重要だ。「クルパラ氏は声明で『(トランプ氏の)大統領就任で世界は一変する。われわれは欧州の強力なパートナーになる準備がある」と米新大統領との連携に意欲を見せた」(「各国右派指導者が参集 欧州主流派と距離――トランプ氏就任式」時事ドットコム・ニュース、時事通信外信部、2025/1/20配信)ということである。

●【ドイツAfDについて】AfD(ドイツのための選択肢)は、2025年2月ドイツ連邦議会総選挙で、第二党に躍進した。「国境閉鎖」「違法難民入国阻止」「犯罪を起こした移民・難民の強制送還」「ウクライナ軍事支援停止」「EU離脱」などを主張している。

 トランプは、ドイツ総選挙で「保守政党が大勝利した」と祝福。「アメリカにとってすばらしい一日」と2月23日、SNSに投稿した。例えば、イーロン・マスク氏が「AfDドイツのための選択肢」への投票を呼び掛けたり、バンス副大統領がAfDの党首と会談するなど、これに対しドイツ政府から批判があがっている。なお、AfDは24年9月、ドイツ州議会選挙においてチューリンゲンで第一党になるなど、地方議会でも躍進している。欧州議会では「主権国家の欧州(ESN)」に属する。

●【トランプ当選=停戦(実は「協商」だったが)】「朝日新聞デジタル」(2024.7.1)は、タイトル「ドイツのウクライナ支援の中止を要求 独右翼・共同党首が単独会見」という見出しで(2024年)「6月上旬の欧州議会で国内第2党に躍進したドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首」にインタビューとしたして記事を掲載している。★★そこではウクライナ支援は「真っ先にやめるべきだと要求」。「米大統領選でトランプ前大統領が勝利すれば、停戦が実現できるとし、『明らかによりよい大統領になる』、と期待を示した」★★と報道した。

●【フランス国民連合】フランスでは、RN(国民連合)が、2017年以降、諸所の選挙戦で躍進している。それは「移民排斥」「EU離脱」などの過激なスローガンを封印したからだという。だが、「出生地主義」(親の国籍を問わず、出生した場所がその国であれば、その国の国籍を自動的に取得できるというもの)廃止(移民排斥の徹底化)、「二重国籍者」の「政府要職」禁止を主張している。欧州議会では「欧州の愛国者」に属する。

(※この「出生地主義」の廃止だが、トランプも、この間大統領令を多発しているが、その中に「出生地主義」を制限する大統領令に署名した。現在この大統領令の無効を求める裁判が、いくつかの州でおこなわれている。この大統領令は「非正規移民(不法入国者)」「永住権を持たない外国籍者(就労ビザでの滞在者など)」を、この権利から排除しようとしている。これは「非正規移民の大量送還」というトランプの政策を徹底させようとするものだ。合衆国で生まれた子供は自動的に合衆国の国籍を取得できる「出生地主義」ではなく、国籍を持たない人々の子供を「非アメリカ人」として送還(非正規移民などとして)の対象にできる。こうして、「アメリカ人と非アメリカ人」との分断も助長されてゆくことになるだろう。出生地主義の他に血縁主義があるが、説明はここでは省略する)。

●【「欧州の愛国者」総決起集会ーートランプ旋風】25年2月、マドリードでヨーロッパ議会で同じ会派に属する欧州右派が、共同集会を開催した。この会派は「欧州の愛国者」。2000人があつまったという。集会タイトルは「ヨーロッパを再び偉大に」。フランス国民連合(RN)、スペイン「ボックス(VOX)」など極右派が集結。「欧州の愛国者」(2024年欧州議会選挙で84議席)のリーダーで、親ロシア派でウクライナへの軍事援助を拒否しているハンガリー首相のオルバン氏は、「トランプ旋風はわずか数週間で世界を変えた」我々もそれに続こうと発言したという。

 まさにトランプ勢力はこういう排外主義・自国ファースト主義者の一員なのである。そしてそれは、オルバン氏に見られるようにクレムリンと近しい距離をとる勢力が数多く参集しているのだ。

≪Ⅲ≫【国連ウクライナ決議をめぐる欧・米の対立】

●【国連総会での攻防】2025年2月の国連総会(193か国)では、欧州諸国などが提出した「ウクライナの領土保全」「早期終結」や「ロシア軍の即時撤退」を求める決議が採択された。日本を含む93か国が賛成した。米、ロはこの決議に反対した(※ここでの決議については、常任理事国の「拒否権」の対象とはならないが、法的拘束力はない)。これに対し、国連安保理(15か国)では、米が提案した「紛争終結」を求める決議が採択された。ロシア、中国など10か国が賛成(日本は2024年末で、この理事会を構成する非常任理事国の任期が終了している)(※ここでの決議には全加盟国に対し拘束力がある。「国連憲章第25条……国連加盟国は安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」)。

●【「侵略」ではない「紛争」とは何か】ここで特徴的なことは、欧州諸国などの提案した★★国連総会への「決議文」は、ロシアの「侵攻」と明記していたのに対し、米が理事会に提出した「決議文」には、ロシアの「侵攻」などの文言は無く、「紛争」となっており★★、ロシアのウクライナ侵略(とその国家責任)を無きものとしている点である。「紛争」というのは「喧嘩」の意味があり「喧嘩両成敗」のニュアンスが存在することはあきらかだ。「侵略」なら「侵略加害国」の側だけが罰せられるのであり、位置づけが全く違ってくるだろう。これはバイデン政権のウクライナ外交政策からの大転換である。まさに「転換」なのだ。これから先、「停戦交渉」はロシアに有利に進むことが考えられる。

 (※ こうした欧州と合衆国との関係は経済分野ではどうか。トランプの「関税外交」との関係では、2月26日、「欧州のすべての輸入品に25%の関税をかける」と発言しはじめている。こうした保守主義は、「対外援助契約」の大幅な解除結締としても表れている。USAID(米国際開発局)では、その90%を解除。これは、500以上の契約を維持して、5800件の契約を解除する。国務省は、約2700件を維持し、4100件を解除するなどとしている)。

≪Ⅳ≫【ウクライナに対する帝国主義的略奪の内容――鉱物資源取引】

●【当初のプランは植民地帝国主義型政策】トランプ政権になり、トランプたちはウクライナに「軍事支援の見返りに鉱物資源の分配」を求めるといういわゆる「ディール(取引)」を要求してきた。これは【当初のプラン】では「5000億ドル(約75兆円)基金設立」を要求された。基金はロシアの侵攻以来、戦争で疲弊するウクライナに提供された米国の支援に対する補償と規定されたものだ。このため「レアアースや石油など可能なものは何でも要求する」とトランプはことあるごとに語りだしたのである。それは、鉱物開発のためなどの「実物資産の所有権を取得するものではない」とされたが、ウクライナの鉱物資源などから「得られる収入の半分」を、アメリカが所有権を持つ基金に積み立て、ウクライナンは5000億ドルに積み立てられるまで、拠出し続けなければならないなどというものであった。

 そして、かかる「鉱物資源供与」という要求に応じなければ(合意しなければ)「ウクライナ軍が通信に使う米衛星インターネット接続サービス「スターリンク(Starlink)」を遮断する可能性がある」と警告したのだ(2月21日ロイター)。まさに脅迫である。植民地主義そのものであり、それを、「侵略被害国」に要求するものとなっていたのである。

●【ウクライナの鉱物資源】ここで、ウクライナの鉱物資源に関する基本的事項と考えられることを確認しておこう。ウクライナは世界の鉱物資源の約5%を保有している。例えば電気自動車(EV)の電池の材料であるリチウムの埋蔵量は約50万トンで、欧州全体の三分の一だ。他に、軽金属のチタンの主要供給国であり、世界の生産量の約7%。また、黒鉛では世界の五分の一の生産量をウクライナが占めている、等々だ。例えば試算ではロシアの占領地域には、3500億ドル(約52兆円)の資源が存在するということがイギリスのメディアなどで報道されている。(※合衆国権力者は、こうした重要資源で優位なシェアをほこる中国への依存から脱するために、中国とは別の供給地を探していた。ウクライナ危機とその課題とを結んだのがトランプということになるという分析が存在する。私もそうだと考える)。

●【トランプのいらだち「ゼレンスキー=選挙なき独裁者」】こうしたトランプの脅迫的なウクライナに対する恫喝は、当初、ゼレンスキー大統領がこの要求を拒否したことに対するトランプのいらだちをもって、ますます激化していった。

 トランプは「選挙なき独裁者(支持率4%)」(※本当の支持率は直近で57%)、「ゼレンスキーが戦争に突入させた」とか、「プーチンが望めばウクライナの全土を占領できるだろう」「ゼレンスキーが交渉を難しくしている」「和平交渉にゼレンスキーはそれほど重要ではない」(21日ワシントン共同など)と言い放ったのである。事実、トランプが言う「和平交渉」なるものは、ウクライナ(ゼレンスキー)と欧州の頭を飛び越えて(トランプの「欧州の席はない」との発言あり)、合衆国とロシアの二国間で進行している。

(※ ロシア国内ではこの二国間交渉を「ヤルタ2・0」という記号で肯定する言説があるようだ。「ヤルタ会談」は、1945年2月、クリミア半島のヤルタで、米・ルーズベルト、英・チャーチル、ソ連・スターリンの三人の権力者が集まり、それら三つの大国の指導者だけで、「ドイツの分割」など、第二次世界戦争の戦後の国際秩序について協議したものだ。同じく、ウクライナ戦争も米ロの大国の取引で「解決」をという手前勝手な考えである)。

●【決着は「5000億ドル要求」の撤回だったが】結局、この問題は、トランプが「5000億ドル」要求を撤回したことを、ゼレンスキーが受けて、「利益管理の共同基金の設立で枠組み」で合意することとなった。だが、①この合意は、基本的枠組みでの合意であり、実際の仕組みづくりはこれからだ。どういう利益配分になるのか、透明性は少なくとも現在的にはない。また、②ウクライナが要求している「安全の保障」の文言は、この合意文書には書かれていないということだ。それではディールにならないのではないか。

≪Ⅴ≫【米国・ウクライナ合意文書の中身――ウクライナの新植民地主義型の従属支配】

●【合意文書の中身はやはり「従属」的なものだったが軍事支援のためにOk】

 2月28日未明、ロイターが発信した情報などから、飛び込んできた「合意文書」(草案)の骨子は、以下のようなものだ。

①「ウクライナは全ての国有の天然資源とインフラの将来の現金化から得られる全収益の50%を拠出する」。②この収益は、米国とウクライナが共同管理する基金に入る。③既存の保証金、施設、ライセンス、および賃貸料は、この基金設立の際の議論の対象にはならないというものだ。

 そもそも、トランプが当初、設定したウクライナ支援の保証金(5000億ドル)と、これに対して、ゼレンスキーがしめした米の支援規模、約1000億ドルでは、違いがありすぎる。米が示したものでは、ウクライナ人民の10世代が返済義務を負うものだと、ウクライナの政権担当者たちには考えられた。★だから、その米からの提案は拒否するしかなかった。★

★だが、この提案なら★受け入れられるという判断だと考える。軍事支援を受けるのためには、一定の譲歩はやむをえないだろうということだ。

 また、「安全保障」の問題だが、この合意文書には明記されていない。だが、米当局者たちの話としては、「ウクライナが米国の経済に組み合わせる」(上記にあるように、天然資源【など】の50%の収益を共同の基金にいれるということ自体がそもそも、米帝への従属システムにはいるということだろう)ことで、実質的な安全保障が実現するとしているということらしい。

以上は、簡単に言ってしまえば、「新植民地主義」(型の従属支配)である。経済的に従属させ、そのもとでそれに見合った政治的な秩序をその国につくらせる、ということだ。ウクライナは、米帝の従属国となり、ロシアは米帝と平和共存する秩序共有国となる。

●【ロシアとの手打ちの範囲】他方でトランプは、「合意」が成立して以降、ロシアとの交渉で、「ウクライナの領土返還」について交渉するといい始めている。だが、これは、あくまで、ロシアとの二国家間交渉での「手打ち」の範囲を探るためであり、また、ウクライナに対する二国間の支配の「割譲」の範囲を確定するために必要なことでもある。この支配の様式は、ロシアは軍事的占領と実効支配、合衆国は経済構造を合衆国に組み入れてゆく新植民地主義的支配を、主な形とするということになる。

 まさにこれがトランプ勢力にとっての「アメリカ・ファースト」な「ウクライナ戦争解決策」だ。(※しかし、それは同時に、全体主義ファシスト・クレムリンのウクライナ侵略を容認し、さらに国力回復と拡大をもたらす条件をあたえるものにほかならない――この分析は省略する)。

≪Ⅵ≫【「自国(アメリカ)ファースト」と帝国主義協商】

●【クレムリンの野望と自国ファースト主義】まさに、こうした米帝トランプの施策に乗じて、プーチンはウクライナの占領地(東部・南部)を念頭に――プーチンはこれを「新たな歴史的領土」といっているが、その地域を念頭に――米国との「鉱物資源の共同開発」をアピールしている。そのことは、占領地の実効支配を国際的に認めさせるという目的と重なってゆくはずだ。米ロ共同でウクライナに対する経済侵略をやるのか?というのは、言い過ぎだろうか。

 結局は、米帝トランプ勢力の「自国第一主義=アメリカ・ファースト」という、排外主義的利害判断から見れば、ウクライナの国家主権や国益は、アメリカ合衆国に従属するものに他ならない。ウクライナは、アメリカ帝国主義の利害のカードの一つであり、直接、ロシア・クレムリンと国家利害のやりとりができる、強力な対象となっているのである。まさに「アメリカ・ファースト」は、グローバリズム(多国家―間―協調の「帝国」【としての】……この舞台設定がいかに虚偽であったかは、もうはっきりしているが)の前の時代、各国帝国主義の植民地争奪戦が展開されていた「古典的帝国主義」時代の「帝国主義—間―対立」「帝国主義間の植民地争奪と分割・割譲」といったものが【主流となるように】、復活しているような事態である。まさに「領土と主権の侵害」がそこでのかたちということになれば、「自国ファースト」は先に見た「新植民地主義(型支配)」よりも前代の「古典的な植民地主義型の支配を手法とする」ものと分析できる、と言っても過言ではないものであるだろう。いずれにせよ、★★いろいろな型の「植民地主義」を制度設計の「政策」として、必要とされる資本蓄積のいろいろな条件に応じて、適用してゆくということが、展開されているのだ★★。

●【米ロ・帝国主義協商とクレムリンの政治戦術】 まさに軍事強国である合衆国が、ウクライナに恫喝を繰り返し、一方ではクレムリンとボス交をくりかえし、ウクライナ侵略戦争での帝国主義的権益を創造していこうとしているのである。そして、こうした、合衆国のロシアに対する「免罪」政策につけいるように、クレムリンが合衆国・欧州などの西側世界に対し、どのような、帝国主義的な戦略を計画しているかを分析する必要があるだろう。「世界秩序―領土と主権に対する『力による現状変更』の禁止」は、ウクライナ侵略戦争における、米ロの帝国主義協商で、今や、危機に瀕している。今後、クレムリンによる欧州に対する西進が想定される。例えば2・18、米ロは高官協議をおこなった。そこで、ロシアは、「NATO軍の東欧からの撤退」をもとめたという。米はそれを拒否したそうだが、これも、トランプの「ディール」の対象になるのだろうか。全体主義ファシスト・クレムリンの政治戦術を甘く見ることは許されないだろう(このことは、別稿にゆずる)。

≪Ⅶ≫【欧州民主主義の抵抗――「侵略者は罰せられるべきで、報酬が与えられるべきではない」】

●【国連人権理事会――侵略糾弾の意思表示】こうした、事態を受けて、国連人権理事会では2月26日、ロシアの演説中(ロシアのベルシニン外務次官がウクライナに「基本的人権の露骨な侵害がある」などと発言した)に、フランス、ドイツ、イギリスの大使を含む数十人が退席した。ボナフォンフランス大使は、ロシアの侵攻を「放置すれば国連設立の基本原則の崩壊につながる」とし、ウクライナのベッツァ外務次官は「ロシアの国際法違反」を弾劾し「侵略者は罰されるべきで、侵略に報酬が与えられるべきではない」とした。またロイターに対し「ロシアとの二国間協議を否定し、EUと米国が出席すべき。ウクライナ抜きでウクライナについて語ることはできない」とのべた(引用は、「ジュネーブ26日ロイター」)。

 まさに、国連では、全体主義ファシストの侵略に対する抗議の行動が巻き起こっている。こうした抗議の行動に唾を吐きかけているのが米帝トランプだ。かれは、国連での「ロシアの侵攻弾劾」の決議に、ロシアとともに「反対」した、これは【決定的な転換点】だ。かれはロシア・クレムリンとの協商を深めようとしている。まさに、ポーランドのシコルスキ外相が、言っているように「ウクライナでの停戦を巡る米トランプ政権の姿勢が疲弊したロシアの『生命線』になっている」とトランプを批判している(2月27日、都内日本記者クラブ/時事通信2・27配信)ということが、確認されるのでなけれならない。

●【クレムリンはウクライナから出ていけ! ウクライナに栄光あれ!】 私(渋谷)は「プロレタリア左派」の陣営の一員として、欧州ブルジョア民主主義国家・諸勢力の「ウクライナ支援――侵略者・露軍のウクライナからの撤退を」の政治方針を断固として支持する。全体主義ファシズムは、民主主義法秩序とその下で運営されている市民社会と階級闘争そのものを破壊する。だから、労働者階級と民主主義的統治に賛成する資本家階級は、ファシストに対して、共同で闘争しなければならない。労働者階級と資本家階級がともに「市民」として同一の権利と義務の上に立って、それぞれの自己の利益を主張し合う、市民社会を守るために! 対クレムリン反ファシズム統一戦線に勝利を! ウクライナに栄光あれ!

(※1930年代の「反ファシズム統一戦線(人民戦線)」は、市民社会をナチなどのファシズムから守るために戦われた運動であった。しかし、コミンテルン第7回大会での「反ファシズム統一戦線テーゼ」の記憶が決定的に強いためか「スターリン主義の運動」と考えられている向きがあるようだが、それは違う。スターリンたちクレムリンは、統一戦線における「指揮権」の統一性を利用し、政敵に対して「指揮権の破壊者」などのレッテルを張って粛清・政敵抹殺の手段に悪用したのである。スペインではこの傾向は特に顕著であった。ケン・ローチ監督作品――映画「大地と自由」、ジョージ・オーエル「カタロニア讃歌」などを参照せよ)◆

2025年2月25日火曜日

【予告】 トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ(近日公表)

 【予告】トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ……

2025年2月6日木曜日

米帝トランプによるガザ「所有」発言を弾劾する――ガザ虐殺戦争をやめろ!【連載第8回(最終回)】

米帝トランプによる「米国によるガザ地区『所有』」発言を弾劾する! イスラエルによるパレスチナ人追放計画(ダレット計画)の完成を許すな!  ——パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ!【連載第8回(最終回)】

最終更新/2025・02・14 23:59

●【はじめに】ガザ虐殺戦争の現実

2025年1月末までに、イスラエル国家権力によってガザでは、ガザ当局の発表した数値(2月初旬)で、6万1709名の人民が殺害されている。この数値は、停戦前に発表されていた「約4万5000名」を超え、停戦後、がれきから発掘し、その中で身元確認されたご遺体を含めた、人数だということだ。しかし、それは、すべての生き埋めになっておられる人のすべてではないだろう。さらに、病院や学校、その他の建物、水道施設などに対する決定的な破壊がおこっている。また、国連推計で医療関係者が1000名単位で多数殺害されているという報道がある。全体としては現在は、調査中であり、今現在ここに、数値を明らかにすれば、低く見積もったと批判されかねない可能性がある、そういう状況である。
(一つの参照として:BBC NEWS JAPAN「一年3か月の壊滅的戦争 ガザ地区が受けた被害は」1/18(土)19:51配信。BBCヴェリファイ(検証チーム))。

 まさに2025年冒頭、1月19日からの、6週間の停戦が実現した。ハマスなどが23年10月「アルアクサ洪水作戦」によって、つくりだした「人質」と、イスラエルがこれまで不当に拘束していたパレスチナ人の被収監者との交換・釈放が始まっている。

  だが、例えば、米帝トランプは大統領就任以後、これまでバイデン政権が停止していた1トン爆弾(分厚いコンクリート壁などを破壊し、爆発も広範囲におよぶ)の輸送を再開している。このように、戦火が収束する見通しは不透明なままだ。

また、この「停戦」の条件をみてみよう。

この場合、ガザとエジプトの境界にある「フィラデルフィ回廊」から、イスラエル軍は撤退するとされている。ここがガザに物資を運び入れることの関係で重要なラインだ。ここで、イスラエルは、この物資輸送系統ハマスのルートになっているとして(ラファ検問所関係)、ここからの撤退に応じなかった、それで、「停戦交渉」が難航していたということがある。これについて、イスラエルが今回、「撤退」を表明したことなどを契機に、この「停戦」は信用できるとなっているのではないか(※他方で、実際は2月以降も、イスラエルによる停戦協定ラインから撤退していないなど、多数の情報が2月以降も、見られるようになっている。「停戦協定違反」の現実については、改めていくつかのメディアの情報を整理して、別にアップする予定)。しかし、それはイスラエルの「UNRWA」を非合法化する国内決議と相即している。これによって、パレスチナ人民への支援物資の搬入は、一層、困難なものとなる。まさに、イスラエルによる虐殺行為が行われているのだ。

●【停戦合意文書での注意点】とパレスチナ人民の闘い

 ここでイスラエルとハマスの「停戦合意文書」での、一つの注意点として、以下のポイントがある。ある「回廊を除いて」がポイントだと分析できる。

 この合意では「ガザ内の移動をイスラエルが管理するネツァリム回廊を除いて、人口密集地からガザ境界700mの地点までイスラエル軍は撤退する」ということが書かれている。この文書で表示されている、ところの、この回廊はイスラエル軍の軍用道路であり、「ルート749」とも呼ばれており、ガザの中部・南部と北部を分断する横断道路だ。ここにはイスラエル軍の兵舎などが建設されている。こうした回廊は、イスラエルがガザをいくつかの区画に分割して管理支配することを目的としていると考えられるだろう。また、ガザの南北にもこうした道路の構想があるといわれている。こうした回廊によるイスラエル軍の駐留がどのような結果を生むかがポイントになるだろう。

★★★★【追記2/09 23:55】新たな情報では「8日夜から、イスラエル軍がネツァリム回廊から撤退している」との報道がある。これは現実に起こっている、★★多数のパレスチナ民衆が大群をなして、北部に帰還する★★という事態に、【イスラエル軍が対抗しきれない状況が、作り出されている】ということを意味すると推察する。イスラエル政権内では、この撤退を、ハマスを利すると、批判する動きもあるようだ。(テレ朝ニュース 2/09 18:45配信)。イスラエルにとって、この戦争の獲得目標の「一つは」ガザ民衆を南部に密集させ、北部を無人地帯にするということにあった。それによって、パレスチナ人のシナイ半島への強制移住の前提を作るためだ。だから、南北の分断拠点(要衝)である、ネツァリム回廊は、イスラエル軍の死守するべき地点だったのだ。★★まさに「停戦合意文書」で、イスラエル軍の撤退は「ネツァリム回廊を除く」と記されていた、そのことを破って、南北を分断する【「ネツァリム回廊」からのイスラエル軍の撤退が行われている】。

 ※①この動きは「停戦合意に沿ったものだ」というメディアの記事がある。②また、このイスラエル軍にかわって、合衆国系の民間軍事会社が、検問所などの管理に当たっているという情報がある。【分析は様々だ】。そういう時はまず、民衆の行動をどのような価値認識においてみるかが問われていると考える。北部へ向かう民衆の行動――50万人が北へ向かっているといわれている。まさにこのことは、パレスチナ民衆の北部への帰還への行進は、★★イスラエル軍が押しとどめられないほどの民衆行動★★となっていると、考える必要がある。まずこれが、一番大切なことだ。★★★★

※イスラエル軍は、軍がつくった「緩衝地帯」に接近した者には容赦なく対応するとしている。この「緩衝地帯」とは、イスラエルがガザ地区との境界線上につくったものだ。

●西岸地域におけるイスラエル軍の軍事作戦と都市開発=パレスチナ住民に対する土地強奪

 他方、「停戦」後、西岸地域におけるイスラエル軍の攻撃が顕著になってきている。1月21日、イスラエル首相府は、西岸のジェニンで、大規模な軍事作戦を展開したと声明。アルジャジーラは、この戦闘で、難民キャンプが攻撃され、9名が殺害され、40名が負傷したと報道した。また、2月2日、イスラエル軍は、ジェニンでの2週間以上にわたる戦闘で、「武装勢力のメンバー、少なくとも50名を殺害した」と発表した(2月3日AFP)。西岸では2023年10月の戦闘以降、800名以上がイスラエルによって殺害されている。

 さらに、西岸では、「東エルサレム」という地域で、市当局が「キングズ・ガーデン」開発という観光地開発政策を実行し、「ダビデ王伝説」にもとづく三千年前の「王の庭」の開発と称して、都市開発を推し進め、パレスチナ人の土地・住居を破壊している。こうしたパレスチナ人に対する強奪・収奪は、この間、米帝トランプが「ヨルダン川西岸地区入植に関する制裁の大統領令」を【取り消した】ことで、さらに、加速されつつある。こうして、パレスチナ人追放計画(ダレット)は、米帝トランプ体制のもとで、加速してゆこうとしている。こうしたなか、問題の中心となって、きているのが、トランプの「ガザ『所有』」発言である。


●【トランプによる「ガザ『所有』」発言】 ——ガザ強奪を許すな!

 2025年2月、ホワイトハウスでイスラエル首相・ネタニヤフと首脳会談(2/04現地時間)の後、共同記者会見に臨んだトランプ大統領は、パレスチナのガザ地区について、「アメリカはガザ地区を引き継ぎ、われわれで仕事をする。ガザ地区を所有する」。「雇用、居住を無制限に供給する経済開発を行う」。「世界の人々がそこに住むことを思い描いている」。また、「治安維持」のため「米軍の派遣」を行うとのべた。

 さらに、パレスチナ人に対しては「別の場所への再定住」を主張し、必要な費用は近隣諸国が負担することに期待するなどとしている。まさに、この「連載」で、批判してきたイスラエルのパレスチナ人追放計画「ダレット計画」を完成する主張を、トランプはしているのだ。

 当然、アラブ諸国はこのトランプ発言を批判している。ガザは・パレスチナはパレスチナ人のものであるということだ。例えば、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、フランスなどがトランプ発言を非難。中国も「パレスチナ人によって統治されるべきだ」との声明を発している。それぞれの立場からの、批判の態度表明がおこってきているということだ。

 この場合、確認すべきは、このトランプの言っている「所有」とは、ガザというパレスチナ人の所有地を破壊し、帝国主義的に「強奪」すること以外ではない。

 このトランプの「ガザ所有」発言は、2025・1・25の、トランプとヨルダン国王との電話会談で、トランプが「ガザ住民一斉(強制)移住」を主張したこと(記者団の質問に答えた)を、踏まえてのものだ。

 トランプのこの「ガザ住民一斉(強制)移住」発言は、2023年10月に表に出たイスラエル諜報省の「機密文書」=「ガザの民間人口の政治的方針の選択肢」(2023・10・23付の文書で、イスラエルのニュースサイト「シチャ・メコミット」が23年10月30日に報道したもの)、また昨年来、イスラエル国家権力のネタニヤフたちが打ち出している「ハマス後の原則」などと同じものだ。このトランプの発言は、ネタニヤフ達にイスラエルの画策するパレスチナ人のシナイ半島への強制移住を容認する、さらに、積極的に後押しすることを表明するものに他ならない。断じて、許すことなど、できない。

 まさに、こうした経緯において、トランプの「ガザ『所有』」が表明されたのである。

※本ブログ「赤いエコロジスト」では、「ハマス後の原則」に対する批判は「2024・3・04」にアップの「ガザ虐殺戦争をやめろー第7回」、また、イスラエル諜報省の「機密文書」に対する分析は、2024年2・13「ガザ虐殺戦争をやめろー第5回」の記事の後半で、分析をしている。

●パレスチナに対する強奪・侵略をやめろ!

まさに、ガザの帝国主義資本による強奪(『資本論』に準じるなら「資本の本源的蓄積」という言葉が当てはまるだろう)が、目論まれている。これにパレスチナ人民をはじめとして、中東諸国・中東人民は、反対を表明している。歴史は帝国主義の新しい支配を許すのか、それとも、かかる帝国主義の支配を阻止し、そうした帝国主義の横暴をやめさせるのか、大きな転換点に入っている。

 ★★★この「連載」は終わりますが、ガザ虐殺戦争、パレスチナに対するイスラエル・米帝の侵略に対する論及は、今後も、【もちろん】継続してゆきます。★★★(了)


2024年3月4日月曜日

イスラエル・ネタニヤフの「ハマス後の原則」はファシストの所業だ【連載第7回】 パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ!

イスラエル・ネタニヤフの「ハマス後の原則」はファシストの所業だ 【連載第7回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

最終更新 2024・3・04 11:04

●イスラエルによるガザ市での大虐殺(2・29)を許すな!

 パレスチナ・ガザ自治区の人口230万人の内、すでに3万人が戦闘でイスラエルに虐殺されている(2024・2・29、ガザ保健当局発表)。1月下旬にオランダ・ハーグのICJ(国際司法裁判所)は、イスラエル政府にジェノサイドの防止などを求める仮処分命令をだし、一か月間で「履行せよ」その、履行した内容を報告せよと、義務付けた。イスラエルは2月26日、ICJに命令に従っていると報告したという。だが、相変わらず、ガザ市やラファなどに対する戦闘や地上作戦準備などをつづけている。

 2月29日には、ガザ北部ガザ市で住民が人道支援物資の輸送トラックに押し寄せ、小麦粉袋に手を伸ばそうとしたすべての人々を標的に、イスラエル軍が銃撃。115人が虐殺され、760人が負傷した(2月29日、ガザ保健当局発表)。英・独などの政府当局者などもイスラエル政府に対し「説明を求める」と表明している。イスラエルは「死傷者はトラックにひかれた」とか、「暴徒化した群衆に発砲した」と、なんと、自分たちが攻撃したことではないと言い逃れをしようとしている。が、多数の死者・負傷者に銃撃痕があることは明らかだ。まさにファシスト・イスラエル国家権力の所業に他ならない。

 このガザ市での「2・29大虐殺」に対して、国連安保理で緊急非難決議をアルジェリアが準備を始めるや、合衆国が妨害したという。合衆国の権力者たちは、合衆国をはじめ欧米で拡大する「パレスチナ連帯」の民衆の運動が、自身の政権批判に転化しないように、「パレスチナへの支援の拡大」などを、表明してきたが、安保理では一貫して、イスラエルと共犯者だ。

●合衆国の立ち位置について 

 合衆国による米軍などによる空からの支援物資の投下と、安保理での停戦決議・非難決議に対するイスラエル擁護の立ち回り。こうして、合衆国のブルジョア帝国主義者は、「戦後」の政治的諸関係をさぐるような、立ち回りを演じているのだ。これは単に「中立を装う」ということではない。ポイントは、どちらかに傾倒的に立ち位置を決めれば、利害は一方向にしか組織されない、それは、損得勘定ではマイナスだということだ。だから、そうして合衆国帝国主義にとって、最も効果のある権益の創出を企図しているのである。一言で言って、イスラエルとの同盟関係は維持したい・イスラエルは今もって、合衆国のアラブ世界における「突撃隊」だ。ーーだがまた、アラブ諸国との関係では、交易上の利害が、合衆国の石油会社をはじめとして、欧米にはある。それをこの戦争を契機に、損なうベクトルは、つくれないということだ。イエメン「アンサール・アッラー」(蔑称「フーシ」派)などとの攻防に関する米軍の攻撃について、合衆国政府がその攻撃の「限定性」を強調するのも、それは、アラブの主導国との対立に転じさせたくないという外交的アピールに他ならない。

  他方、この【連載】でこれまで分析してきたように、イスラエル国家権力のファシストたちは、ガザを強奪したいのである。そして、パレスチナの住民を、シナイ半島に追放したいのだ。まさに、「集団殺戮」であり、「集団的懲罰」「強制移住」などというとんでもないジェノサイド、虐殺戦争を展開しているのである。

 そこでネタニヤフ政府は、最近「ハマス後の原則」という、ガザ虐殺戦争での、少なくともイスラエル支配階層に向けた「意思統一」を出した。それを、ここでは見て行こう。

●イスラエル国家権力の「ハマス後の原則」とは何か?

 イスラエル国家権力のネタニヤフ首相は、2月22日、次のような通達を公表した。それが「ハマス後の原則」だ。朝日新聞デジタル(2024・02・24 5時00分)では、次のように報道されている。これらは、パレスチナとの「二国家共存」の否定、「パレスチナ国家」の否定にもとづくものだ。

ーーー―

■ネタニヤフ首相が示したガザの戦後統治の原則

◆イスラエルは、テロの復活を防ぐための作戦を自由に実施(これを(1)とする――引用者。以下、カッコ内数字は引用者による)

◆エジプトからの密輸を防ぐため、境界付近を閉鎖(2)

◆ガザでは治安維持に必要な範囲を超える軍事力を禁止(3)

◆可能な限り、経験のアル地元の専門家が行政と治安維持を担う(4)

◆パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の閉鎖を求める(5)

ーーーー

というものだ。この五点について、現在分析できるポイントを押さえて行こう。

(1)ガザ内でイスラエル軍の「自由な作戦」。これは、ガザを軍事独裁の下におこうとする計画であることが、示されているだろう。

(2)エジプトとの間での「境界封鎖」。これは、「イスラエル諜報省」の追放計画が、ガザとエジプトの間に、パレスチナ人の立ち入り禁止の緩衝地帯などをつくる。国境付近でのパレスチナ人の活動ができないようにするなどの追放計画に合致し、シナイ半島への強制移住に関わる政策の一環をなすものといえる。【詳しくは、本連載・第五回を参照してください】

(3)「治安維持」以上の軍事力の禁止。これは、(1)との関係で、イスラエル軍の軍事警察独裁の一部として、警察治安機関を作るということである。

(4)「経験のある地元の専門家が行政」と「治安維持」を担う。これは、イスラエルに従属した地元の隷属行政を組織したいのだろう。この「地元の専門家」をめぐる解釈では、西岸の「自治政府」の関与の可能性が一部の新聞報道などでは書かれているが、これも、現在は未知数だ。パレスチナ自治政府はこの「ハマス後の原則」に、反対を表明している。イスラエル国家権力は「パレスチナ国家」を否定しているのであり、「パレスチナ国家建設」の方向にベクトルが進むことについては100%妥協しないということを「意思統一」している。そのことからいって、イスラエル国家権力に従属するものでなければ、彼らにとって、許容できないはずだ。このガザの「行政」機関は、結局、(1)(3)を前提とし、それに基づくものとなるはずだ。

(5)UNRWAの「閉鎖」については、職員にハマスの「10・7アルアクサ洪水作戦」の関係者(12人という)がいたということで(これとて、その詳しい内容については、いまだに検証できないのであるが)、イスラエルにとって政敵となっている。「政敵抹殺」の政策だが、★★ポイントは★★、この「10・7アルアクサ洪水作戦」問題で、合衆国、日本などがUNRWAへの「資金援助を一時停止」していることだ。イスラエルとしては、パレスチナに公的支援を行ってきた組織であるUNRWAを排除することを突破口に、パレスチナに対する国際社会の支援態勢それ自体を閉鎖・破壊したいのである。それは、パレスチナの「飢餓」などを結果し、パレスチナ人をシナイ半島へと追放する動力となる。

 そしてこれらのこと、すべてから、出てくるイスラエルの今日的・実戦的作戦は、「ラファに対する地上作戦を実行し、パレスチナ人をガザから追放する」ということでしかない。まさにファシストの所業である。

●エジプトが国境付近につくっている広大な「整地と壁」が意味するものはなにか「BBC NEWS IAPAN」(2024・02・24配信)「ジェイク・ホートン、ダニエル・パルンポ、BBCヴェリファイ(検証チーム)「エジプトがガザ境界近くで広大な土地を整備、周辺には壁 その目的は」によれば、ラファ検問所の近く、ガザ地区とエジプトの国境沿いに、最近、エジプトは、16平方キロメートルの土地の整備を行い、この整地に準じた「壁」を、建設しているという。

 同記事は、一部報道で「パレスチナ難民を収容するためのものだ」との報道があるが、エジプトは政府は否定している。エジプトは政府は「難民のための国境開放はない」と言明しているという。これは「こうした姿勢には理由がある。パレスチナ人の大規模移住に加担しているように見えるのを避けるためだ。さらには、経済と安全保障上の懸念もある」と同記事では分析している。ではどういう目的で。同記事では、エジプト政府によればエジプト軍がガザへの支援物資を受け入れる流通エリアの建設ということらしい。だが、支援物資をとりあつかう団体に取材しても、そういう計画を聞いたことがないという。このBBC「検証チーム」の記事は、エジプトは「最悪のシナリオ」に備えているのではないかという、「英キングス・コレッジ・ロンドン」の専門家の談を伝えている。これは、本【連載】第5回の「ダレット計画」「イスラエル諜報省の追放計画」から考えて、イスラエルのガザ住民追放に備え、エジプト国内の混乱を生じさせないための、安全保障上の政策だということができるだろう。そのいろいろな意図については、分析を開始しなければならないということだ。(つづく)


2024年2月21日水曜日

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積 【連載第六回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 

ガザ侵略支配・強制移住とガス田開発――強盗的資本蓄積【連載第六回】パレスチナ連帯! イスラエルはガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

2024・02・23 最終更新 22:42

【はじめに】ガザ虐殺戦争弾劾! イスラエルで起こる「停戦と総選挙」を要求するデモに連帯を!

ガザ地区の保健当局は2月18日、ガザ南部のハンユニスにあるナセル病院が機能停止したと発表した。イスラエル軍は病院職員70人を逮捕。この中には集中治療を担当する医師も含まれている。重篤者の治療が不可能になったということだ。その結果、医療従事者は25人に。電気も遮断され、酸素不足で患者8人が死亡したと発表した。患者は約200人いるとされるが、イスラエル軍は病院への立ち入りを認めておらず、救急移送は無理な状態が続いている。2月17日の時点で、パレスチナ側の戦闘による死者は、2万8858人にのぼっている。

 まさに、万死に値するイスラエルのファシストの蛮行を絶対に許すな!

 こうしたガザ虐殺戦争が続く中、イスラエル国内においても、「停戦」をもとめ、「総選挙」を要求するデモが、起きている。2月17日、イスラエル各地で「人質即時解放」「ハマスによる奇襲を防げなかったネタニヤフ退陣」、そのための「総選挙」を求める集会デモが行われた。「フリー(Free) イスラエル フローム(From) ネタニヤフ」などをスローガンに、数千人の人々が参加したとの報道だ。だがこの日、記者会見でネタニヤフは「総選挙」を否認。「選挙は国を分裂させる」として、選挙のない戦争の継続を表明した。まさに独裁者の手法だ。

 こうした中で合衆国は、国連安保理において、「即時停戦」などの「停戦」決議に次々と「拒否権」を行使している。そして、イスラエルに「兵器供与」を検討しているという報道がある。ウオール・ストリート・ジャーナルが、2月16日に報道したものだ(「ARAB NEWS Japan」2024年2月18日12:12:26の記事による)。

 バイデン政権は、武器供与案に金額で数千万ドルと推定される武器を供与をけんとうしているという。その武器の中には、MK-82爆弾、KMU-572統合直接攻撃弾、FMU-139爆弾信管がふくまれるという。例えば、統合直接攻撃弾(JDam)は、無誘導の自由落下爆弾の機能を向上させるための追加キットのことだ。このキットの開発のポイントは次の様である。従来の誘導爆弾は、レーザーや赤外線画像によって外部から誘導されたものだった。だが、これは、地上の気象条件によって運用に制約があった。これに対し、爆弾の投下後、外部からの誘導を必要としない技術開発が課題となった。それに応えたのが「INS」(慣性誘導システム)と「GPS」(グローバル・ポジショニング・システム)という誘導制御ユニットだけで目標地点に落下させるようにしたものだ。(※このキットは、2023年、ウクライナにも供与されたといわれている)。 そのような爆弾の目標投下の精度をあげる兵器を、ガザ虐殺戦争に供与しようと画策しているのである。

 こうして、「2国家共存」、カタールなどを仲介者とした「停戦交渉」を唱えつつ、一方で、イスラエルのガザ虐殺戦争に加担しているのが、合衆国の権力者たちにほかならない。そして、ここには、以下にみる、莫大な経済権益をめぐるパレスチナ側、イスラエル側の両勢力を取り巻く、経済的対立があり、合衆国がそれにどのようにかかわるか、切こめるかの、分析・見通しにおける、諸勢力の力学を見通した判断があり、どちらか一方に無制限に肩入れすることが許されない、帝国主義権力の思惑が潜んでいるのだ。

■虐殺戦争の裏側で――ガザ沖合ガス田開発のこれまでの経過

 イスラエル政府・ネタニヤフは、ガザ虐殺戦争の開始と同時に、ガザ沖合の天然ガス、石油を開発する許可を、英国のBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)など6企業に許可した。これが強奪・強盗行為なのは明らかだ。

 これは、「ガザ・マリン」といわれるところで、パレスチナ支配海域だ。1999年に探査を開始し2000年に発見された。「ガザマリン1」「ガザマリン2」と二度発見され、合わせて天然ガスの埋蔵量は推定360億立法メートルとされる(これらは、初期値だ)。これが開発されれば、数千億ドルの財源を確保することになるといわれている。だが、まだ、開発は手つかずのままだ。イスラエルの反対・妨害によるものだ。例えば1999年、ブリティッシュガスグループ(BGグループ)などの間でガス探査とガス田開発のための契約(25年間)が締結されたが、2016年、BGグループは撤退するなどとなっている。この当時の状況をもう少し見て行こう。

■イスラエルによるガザマリン封鎖と対パレスチナ政策

 1999年、パレスチナ自治政府は、BGグループとアラブのCCC(Consolidated Contractors Company)に、探査と採掘の権利を与え、2000年に天然ガスが埋蔵されている地層を発見した。これ以降、BGがガス田の開発に着手するが、イスラエルが介入し、海軍などを出動させて、BGの事業を妨害しはじめる。

 2007年、ハマスのガザ統治が確固となった時期、イスラエルは、ガザマリンを軍事封鎖する。2008年にはイスラエルは「ガザマリンはイスラエル領だ」と宣言(天然ガス田の合法的な管理は国家にのみ認められた権利で、パレスチナ自治政府は主権国家ではないというのが、イスラエルの一貫した論法だ。ここにも「二国家共存」というオスロ合意での規定の否定が表明されている)。これによってBGグループは、ガザマリンから撤退し、そのあとで事業を始めたシェルも、事業に失敗した。イスラエルはガザマリンの軍事封鎖を続け、天然ガス開発を凍結する。2008年12月~2009年1月にかけてイスラエルのパレスチナに対する軍事侵攻が展開し、ガザに対するアパルトヘイト政策を始めるが、それは、このガザ沖合開発と一体のものである。

 だが2021年には、パレスチナ当局者とエジプトとの間でガス田開発の覚書が交わされている。まさにこの海域は、パレスチナ自治区の海域であり、イスラエルにこの海域を差配する権限などない。にもかかわらず、イスラエルは、今回、BPなど国際企業6社に開発許可を交付するという強盗でしかありえない、所業に出ているのである。また、イスラエルは、スエズ運河に代わる運河をガザ地区経由で建設する計画も進めているという。

 イスラエルは2023年の6月の段階では、「安全保障の観点から、パレスチナの開発を容認する」(パレスチナが潤えば、イスラエルを攻撃しないなどという言い草だ)として、共同開発を提案していた。この事態は、ロシアのウクライナ侵略戦争で、ロシアに対する経済制裁をはじめとして、世界的にエネルギー供給の不足が生じてきたことに対するべく、カイロにおいて、イスラエル、合衆国、パレスチナ自治政府、エジプトや産油国による首脳会談がおこなわれたことに、象徴される事態がバックボーンとしてある。

 実際、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の両者の間で、協議がもたれていた。エジプト、ヨルダンがこの協議には参加している。収益は、パレスチナ投資基金(PIF)ーパレスチナ自治政府、パレスチナ人経営のCCC、エジプトの天然ガスホールディング株式会社(EGAS)などで分配される計画となっていた。だがもっと本質的なことは、この共同開発は、イスラエル政府自身の「タマル」「リヴァイアサン」といったガス田との連接・イスラエルによる「ガザマリン」の管理・運営などに関わる契約だったことだ(これは例えば、前出にある、かつて21世紀初頭に成立したBGとパレスチナ自治政府との契約に介入したとき以降のイスラエル政府の「権益」の主張にほかならない)。

 この場合、最終的な計画開始のポイントは、通常の了解事項として、ガザの政府権者であるハマスの承認を得ることが前提だとなっていた。これがイスラエル権力者たちにとって障害となっていたことは間違いない。パレスチナ海域の権益を専制的に強奪・支配しようとするイスラエル国家権力は、このハマスの権力を破壊する機会をねらっていたのだ。それが今回のガザ虐殺戦争で、明白になったということだ。 

 まさにイスラエルは、ガザからパレスチナ人を追放し、パレスチナの行政権を破壊して、ガザを手に入れることで、こうした天然ガス・石油資源の主権的権益を主張することが可能となることを画策しているのだ。

(※ この東地中海の地域は、イスラエル、エジプト、米石油会社など、いろいろな利害をもつ単位での駆け引きがあり、それを前提としたガスパイプラインが、地中海諸国に走っている。だがその分析は、本論では、行わないものとする。★★ただし、イスラエルが自身のパイプライン(例えば「タマル」「リヴァイアサン」などのガス田関係)にガザのガス田などを連接したい欲望をもってきたことは、前提だ)。

■「資本蓄積」とガザ虐殺戦争

    2024年1月29日、エルサレムでは、イスラエルの極右勢力やリクードなど与党が、集会を開催。「入植が安全をもたらす」と主張するものとなった。国家安全保障相のベングビールは「10・7を繰り返させないためにはガザを支配しないといけない」と発言。リクードの指導者も入植をアピールしたという。こうして、リクードが、2005年当時のイスラエル政権が、ガザから入植者を撤退させたことを批判したそのことが、現在、再度の入植侵略策動として、行われているのだ。

 こうして、ガザを侵略し、パレスチナ人をシナイ半島に追放して、ガザを支配することでイスラエルは、自己の直接保持する領地・領域と権益を拡大しようとしている。

★★ここで、「資本蓄積」の話を介入させよう★★。

資本蓄積とは、ザックリ言って、剰余価値の一部を資本に転化して生産規模を拡大することを意味する。だが、これは「商品生産を拡大する」ことにとどまらず、まず、そもそも商品と市場を拡大再生産する、資本設備そのものを形成・拡大することでなければならない。イスラエルからの「入植」やガス田開発・石油田開発は、この資本設備に属する概念だ。

 これとは区別されたもう一つの「蓄積」概念に、「本源的蓄積(原始的蓄積)」概念がある。これは、マルクスの「資本論」では次のようにいわれているものだ。

 「資本関係は、労働者と労働実現条件の所有との分離を前提する。……すなわち一方では社会の生活手段と生産資本を資本に転化させ他方では直接生産者を賃金労働者に転化させる過程以外のなにものでもありえないのである。つまり、いわゆる本源的蓄積は、生産者と生産手段との歴史的分離過程にほかならないのである」(『資本論』第一巻第24章「いわゆる本源的蓄積」、マルクス・エンゲルス全集23bより。翻訳者・岡崎次郎)。まさにこれが、ブルジョアジーとプロレタリアートの階級的産出についての根源的な事態である。

 だがこれは、近代資本主義の発生点だけではなく、恐慌・戦争・植民地支配などの度に、どこでも、起こってきたことなのだ。つまり★★この「本源的蓄積」を「人口移動」「人口構成の質的変化」という文脈で、翻訳した場合★★、それは、近代資本主義の発生点での出来事とは言えない問題となるということだ。

 前回【連載第五回】に論述したような、パレスチナ人がシナイ半島に追放され、そこで、イスラエルの諜報省の「追放計画」にあるようなパレスチナ人の町ができ、また「避難民」を「移民」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアなどが、迎え入れるなら、それは、間違いなく、あらたな「国際プロレタリアート」が、百万人規模で、産出されたことを、★★資本主義としては★★意味するものとなるだろう。

 こうして、ガザ虐殺戦争は、その裏側で、暴力的・強盗的「資本蓄積」と、それに内包された「本源的蓄積」をともなう、ものすごい戦争事態となっているのである。

 ★★そして、合衆国の権力者たちは、この「資本蓄積」のすべての過程に対して、もっとも、自分たち、合衆国ブルジョアジーの権益が生まれるベクトルを選択ないしは創造しようとしているのだ★★。

 2月20日、合衆国はまたしても、国連安保理での「人道停戦決議」に対し、「停戦交渉を阻害する」などという詭弁をもって、「拒否権」(常任理事国権限)を行使した。賛否については理事国15か国の内、日本、フランスなど13か国は賛成、常任理事国のイギリスは「棄権」(常任理事国での権限の行使は、その提案を完全に支持することはできないが、拒否権によって阻止することまではしないという場合の権限)、反対(拒否権)は合衆国ということだ。(つづく)

★次回 ネタニヤフ「ハマス後の原則」(2024・2・22発表)について

2024年2月13日火曜日

イスラエル・「ダレット計画」(パレスチナ人追放計画)と暴力的「資本蓄積」 ——【連載第五回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 


イスラエル・「ダレット計画」(パレスチナ人追放計画)と暴力的「資本蓄積」=イスラエルによるパレスチナ人追放・民族浄化計画を許すな!

ーー【連載第五回】パレスチナ連帯! ガザ虐殺戦争をやめろ! 渋谷要

最終更新 2024・02・15 13:54

●ラファ攻撃は「パレスチナ民族浄化」の攻撃だーー絶対許すな!

イスラエル首相・ネタニヤフは、2月8日の閣議で、3月11日までに、ラファ(ラファハ)への攻撃を終わらせるように軍などに指示したと報道されている。ガザ地区最南端の都市・ラファにはガザ北部などからの避難民150万人がイスラエルの攻撃を逃れて、集結しているという。その人口密集地に、空爆や地上戦などの戦闘が開始されれば、大変な大惨事がもたれされることは必至だ。今まで「イスラエルの自衛権」を擁護してきた合衆国政府でさえ、止めるように言っているのが、現実だ。しかし、イスラエル国家権力は、ラファを攻撃し「ハマスをせん滅する」としている。だが、現実に虐殺されているのは、子供を大量に含んだ一般市民だ。このファシズム戦争を絶対にゆるすな。

 しかし、こうした軍事作戦は、イスラエルが中東で戦後一貫して画策し、また実行してきた、軍事作戦の思想に淵源している。それが、ダレット計画だ。それは「パレスチナ人に対する民族浄化」の軍事計画であり、パレスチナ人のシナイ半島への追放計画だ(この計画の最近のものとしてはイスラエル諜報省の機密文書がある)。

 実際、避難民はラファからどこへ、「人道回路」(なるもの)をもって逃げろとイスラエル国家権力はいうのか。もはや、ガザ内には、安全な場所はおろか、安全かどうかはわからないが150万人もの避難民が「逃げる場所」がガザの中のどこにあるというのだろうか。

 こうして、パレスチナ人をガザから追放しようとしているのだ。「第二のナチスはネタニヤフ国家体制だ」という以外ない。以上のガザ虐殺戦争の土台となっているダレット計画をみることにしよう。

●ダレット計画

 「プラン・ダレット(ダレット計画)」は、1948年の第一次中東戦争(1948年2月~1949年3月)において、ユダヤ・シオニスト指導部と軍が1948年2月から5月の時期(つまり48年5・14イスラエル名「独立宣言」の前の時期)において、シオニスト指導部が展開した軍事作戦とその作戦計画を言う。国連による「パレスチナの2国家への分割」という決定に対し、シオニスト指導部は、「ユダヤ国家」とは別に、パレスチナ自治国家の領土を侵略し強奪する計画をつくった、それが「ダレット計画」だ。

 これは、イスラエルの初代の首相となるベングリオンによって想起され、軍事組織ハガナによって設計されたもので、48年3月に完成した作戦計画である。この作戦は上記の時期(48年2月~5月)において13作戦展開されたといわれている。その内、8作戦はアラブ国家に割り当てられた地域にアラブ正規軍が入る前に実行されたものとされている。

 この計画の基調は、国連分割計画で提案されたユダヤ人国家に割り当てられた地域の境界内と、その境界外のユダヤ人入植地、ユダヤ人国家との国境線に沿ったアラブ自治地域の町や村の征服を企図していた。アラブ人が抵抗した場合、征服された村の住民は征服地の境界の外に追放する計画だった。抵抗しなければアラブ住民はとどまることができるというものであり、それは、イスラエルの「奴隷になれ」ということ以外ではない。そして支配地域を要塞化する・軍事的に統治するものだった。実際これらの計画は、すでに撤退していたイギリス軍の基地、警察署の占領をポイントにシオニストの支配を実現していったとされている。その場合、どのような作戦がとられたのか。

ウィキペディア「プラン・ダレット」の項目では次のようである。

ーーー――

「防衛システムと要塞の統合の下での計画セクション3(警察署の占拠や輸送動脈の保護など)」につづく「セクション4」では、今回のガザ虐殺戦争でイスラエル軍が実際に行っている行為が次のようにしるされている。

「わが国の防衛システムの内部または近くに位置する敵の人口密集地が、現役の軍隊によって基地として使用されるのを防ぐために、作戦を開始すること。これらの操作は、次のカテゴリーに分類できる」として、つぎのように作戦を書いている。

 「村落の破壊(瓦礫に火をつけたり、爆破したり、地雷を埋め込んだり)、特に人口密集地を破壊し、継続的に制御することが困難である。次のガイドラインに従って操作統制活動を開始する:村の包囲と内部での捜査の実施。抵抗した場合、軍隊は破壊されねばならず、住民は国家の国境の外に追放されなければならない」。そして、その地域の「要塞化」が明記されている。

 「抵抗がない場合、…部隊の指揮官は村内のすべての武器、無線機器、自動車を没収」する。また「政治的に疑わしい人物を全員拘束する」そしてこれらの地域の行政当局はユダヤ人が任命されるとしている。

 また「国境の内外での反撃」というところでは、――これは今回の「10・7アルアクサ洪水作戦」に対するイスラエルの作戦の考え方もそうだと考えるが――「平均して大隊規模の部隊が深く浸透し、人口密集地や敵基地に対して集中攻撃を開始し、そこに配置されている敵軍とともにそれらを破壊することを目的としている」としている。

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 まさに、イスラエル国家権力によるパレスチナ人に対する民族浄化の設計図である。

こうした計画を念頭に置きながら、イスラエル国家権力は戦後、持久的な戦争計画を展開してきた。それが、まさに「中東戦争」の歴史であり、パレスチナ住民に対するアパルトヘイトとジェノサイド、シナイ半島への追放計画などのルーツとしての位置を持つものに他ならない。

●イスラエル諜報省の機密文書とはなにかーーガザ住民のシナイ半島への強制移住のシナリオ

2023年10月30日、イスラエルのニュースサイト「シチャ・メコミット」が「政策文書:ガザの民間人口の政治的方針の選択肢」(2023年10月13日の日付と、イスラエル諜報省のロゴが付けられたヘブライ語の文書)とタイトルを付された文書を報じた。これは、政府の機密文書の流出であるという。その文書は数百ページあるが、その「要旨」の部分ということだ。

※ここでは、yahooニュース2023年11月1日、川上泰徳氏の記事「ガザ全住民をシナイ半島に移送:流出したイスラエル秘密政策文書の全貌。ネタニヤフ首相の『出口戦略』か」の記事から、当文書からの引用を引用・援用することにする。

文書はまず、「ハマスの打倒」を前提とし、ガザの住民をどのようにするかをabcの三つの案として示している。Aは、西岸の自治政府を引き入れる。Bは、ガザにハマスに替わる新たなパレスチナ人の統治を生み出す。Cは、ガザの住民をシナイ半島に避難させる、というものだ。

 AとBは、パレスチナ人の勢力を力学的に利する可能性があり、イスラエルにとってリスクがある。Cが、「イスラエルにとって前向きで、長期的に戦略的な利点を与え、実行可能な選択肢である」とする。ただし、「国際的な圧力に対して政治レベルの強い決意が求められ、特に実施の過程で米国や他の親イスラエルの国々の協力が重要となる」とする。

ここまでが、前提だ。そこで、次のような作戦が考案される。(ここでは矢印で、作戦過程を記する)

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「ハマスとの戦闘のために住民を戦闘地域から避難させる」→「イスラエルはガザの民間人をエジプト北部のシナイ半島に避難させるように動く」→「第一段階では、シナイ半島にテントの町(複数形)がつくられ」→「次の段階はガザからの住民を支援する人道地域が創設され、市内北部に再定住のための都市が建設される」→「エジプトにつくられる再定住地とガザの間に数キロの無人地帯が設けられる必要があり、ガザ住民がイスラエル国境の近くに戻って、活動したり、居住したりできないようにする」→「加えて、エジプトに近いイスラエル国境地帯に防衛のための堡塁をつくる必要がある」。

こうした作戦計画のため、次のような作戦手順を明記している。

「1・住民にハマスとの戦闘地からの避難を求める

 2・第一段階ではガザ北部に攻撃を集中させ、住民が避難して、住民のまきぞえがない地域への地上戦を可能にする。

 3・第二段階では、地上戦によって北部と周辺の境界から徐々に軍事的に制圧して、最後にはガザ地域全域を制圧し、ハマスが構築した地下トンネルも制圧する。

 4・集中的な地上作戦の期間はA案、B案よりも短くなる。そのため、イスラエル軍が北の戦線とガザの戦闘にさらされる期間も短くなる。

 5・ガザの住民が南部のラファに避難することができるように、北部から南部に浮かう道路を使用可能にしておくことが重要である」。

これがシナイ半島への強制移住の前提となるシナリオであり、現在(2024年2月12日)、ガザーラファで起こっている事態そのものだ。だがしかし、ラファは書かれているような「避難」場所ではない。★★★そもそも「避難」などという言説はイスラエル国家権力による≪詐欺師的言い繕い≫であり、避難場所ではないことは、イスラエルが一番よく知っている。パレスチナ人をパレスチナから「追放」することが目的の虐殺なのだ★★★。ラファでは、現在100万人を超える避難民が存在しているが、すでに、イスラエルの空爆などによって、この数日間だけで、数十人規模の死者がでている。今後、犠牲者・被虐殺者は、もっと増加するといわれている。

 そして機密文書では、ガザ住民がラファの境界からシナイ半島へと向かうために、「エジプトは国際法上の義務を負う」などと主張している。また「避難民」を「移民」として「受け入れに協力」する「国際社会」として、合衆国、エジプト、サウジアラビアの名を挙げている。以上だ。

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まさに、イスラエルのガザ地区強奪のための、ガザ虐殺戦争がおこなわれているのだ。「ハマスからの自衛権」とは、今や全くの口実であり、それは、イスラエルとパレスチナ解放運動との一つの戦闘局面(敵の攻勢局面)を切り取り、利用した、全面的な虐殺戦争が「ダレット計画」を土台として組み立てられた、それ、として、まさに発動したのである。そういう戦争国家として、イスラエルは、戦後一貫して存在してきたのだ。

●ガザ沖油田開発と暴力的「資本蓄積」――戦争と収奪反対、Free Palestine!

こうした、ガザ虐殺戦争において、資本主義的「価値」としてどのようなことが分析されるかが、次の課題となる。

 第一にガザ住民がいなくなった土地にイスラエルからの「入植」が表明されている。第二に、更地となったガザをイスラエルが統治することが表明されている(「パレスチナ国家」否定の言説として)。第三に、ガザ沖油田開発に、ネタニヤフは、ガザ攻撃の当初から積極的に動き出している。そして、この資本蓄積は、「資本の本源的蓄積」を内包するものだ。それは、近代資本主義発生のための一回限り(エンクロージャー囲い込みなど)のことではなく、資本主義の転換期(恐慌、戦争、植民地支配など)においては、何回も繰り返し、おこなわれるという、例証に他ならない出来事だ。まさにこの戦争が、イスラエルにとって、新たな強盗的資本蓄積の開始をしめすものとなっているのだ。

 その構図を見て行こう。(つづく)