2025年3月1日土曜日

トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ  渋谷要

トランプによる米ロ・帝国主義協商への転換――ウクライナは何処へ  渋谷要

最終更新/2025・3・05 02:46

≪はじめに≫【ウクライナ侵略戦争の現在】

●【執務室バトル】最初に。日本時間で3月1日(2025)、未明に50分間、ホワイトハウスの大統領執務室で行われた、ウクライナと合衆国の首脳会談が開かれた。会談は後半、バトルとなり、完全な失敗に終わった。本論で後述する鉱物資源開発の取引(「鉱物資源開発での米との共同事業」と、「ウクライナの『安全の保障』」との取引」)をめぐるウクライナと合衆国の契約合意文書への署名は見送られた。そして、トランプは、ゼレンスキー大統領に退去を命じた。このバトルの中で、トランプは次のように述べている(このバトルの具体的過程・経緯については本論では省略する)。

トランプ「あなたには交渉カード(クレムリンとの)がない。我々と一緒ならカードが手に入る」。

ゼレンスキー「わたしはカード遊びをしているわけではない」。

トランプ「あなたは数百万人の命でギャンブルをしている。あなたがやっているのは、第三次世界大戦をギャンブルにすることだ」。

 さらに激論がつづき会談は打ち切り。共同記者会見も中止となった。仮に今後、合衆国の支援がなくなった場合、これまでのような量での戦闘の継続は「今夏」までと言われている。また、プーチンとその側近たちは、「トランプは正しいことを言っている」との評価を 表明している(本論では、これ以上、この分析には踏み込まない)。

 この事態を受けて、EUでは、イギリスの提案で欧州首脳会合を3月2日に、EU理事会のこのウクライナ問題での特別会合を3月6日に、予定している。また、イタリアのメローニ首相が、「分裂はだれの利益にもならない」として、欧米諸政府が参集した緊急会合を呼び掛けている。メローニ首相は後述するように、イタリアの右派政党「イタリアの同胞」の指導者である(欧州議会では「欧州保守改革グループ」に属す)。1月のトランプの「大統領就任式」にも「招待者」の一人となっている。だが、イタリアの国家としての「ウクライナ軍事支援は継続する」という立場だ。トランプ―ゼレンスキーの中間地点にいる。こういう政治スタンスの実力者が今後、欧州におけるこのシナリオのヘゲモニーを持ってゆくのかもしれない。

 バトルの後日、フランス、ポーランドなど欧州諸国の首相が、ゼレンスキー大統領を応援している。「侵略者はロシアだ。侵略に対抗して闘ってきたウクライナ国民に敬意を」(フランス・マクロン大統領――訪問先のポルトガルでの発言)、「ウクライナの皆さん、あなた方は一人ではない」(ポーランド・トゥスク首相)とSNSに投稿、「ゼレンスキー氏、我々は良い時も試練の時もともにいる。侵略国と被害者を混同してはいけない」(ドイツキリスト教民主同盟・メレツ党首)とSNSに投稿等々だ。そして、ゼレンスキーは「アメリカは戦略的パートナーであり続ける」とSNSに投稿した。〈ウ・米バトル〉という事態。この事態は始まったばかりだ。こうした現実を前提として以下、これまでの政治過程を分析していこう。

●【ダブルスタンダードの消滅】ここで問題にすることは、クレムリンの侵攻以降、合衆国が取ってきた「ウクライナ徹底抗戦支持」の立場から、【トランプ政権になり】、「米ロ・和平交渉」へ転換している、これをどう考えるかということだ。

 バイデン政権時には、「パレスチナとウクライナとのダブルスタンダード」という表現で、合衆国政府が「パレスチナ」では、イスラエルのガザ虐殺戦争に軍事支援をしている―アラブ諸国とも折衝するなど中立的に振る舞ってはいたが――侵略戦争放火の加担者であった。「ウクライナ」では、「領土と主権の一体性を力で変更するな」として、「被侵略国」ウクライナに対する軍事支援、侵略戦争を展開するロシアに対する制裁発動などの第一人者である。これは、矛盾しているということが言われていた。だが、トランプ政権になって、この「ダブルスタンダード」は、これから述べるように、「悪い方向」で、消滅しつつある。いや、もうすでに消滅している。

●【「侵略」でなく「紛争」――交渉(取引)のための歪曲】そこで顕著なのは(後述するように)、トランプの立場は、ウクライナ人民の侵略者・クレムリンに対する徹底抗戦を支持・援助する立場から、侵略者・クレムリンを、「侵略者」とはいわず、ロシアとウクライナの「紛争」だ【という位置づけ】で、「和平交渉」を求めてゆく立場だということだ。その場合、合衆国は、ウクライナとウクライナを支援する欧州ブルジョア民主主義諸国に「席を置かない」頭ごなしに飛び越えた、米ロ「和平交渉」を展開し、さらに米ロ首脳会談を、展開しようとしている。まったくの、大国主義だ。【そういう合衆国の展開をどのように分析するか】が、ここでの課題となる。

まず、ウクライナ侵略戦争での、これまでの状況を次のように、整理しておこう。

●【経緯】 そもそもウクライナ侵略戦争は、ロシアのプーチン権力が1999年以降のイスラム派・対露独立勢力をせん滅する戦争(第二次チェチェン紛争)以降、戦争放火をやり始めたことに起因している。それが2003~2004年にかけての「バラ革命」(ジョージア)、「オレンジ革命」(ウクライナ)⇒「ユーロ・マイダン革命」(2014年)の民主化運動の進捗とそれにともなうNATOなどへの加盟の動き、これに対するクレムリンの対抗という構図となる。ウクライナにおいては、2014年以降のロシアによるクリミアに対する暴力的併合、およびウクライナの東部(ドネツク、ルガンスク両州)の実効支配、これらクレムリンの独裁者としての蛮行に対して脅威を覚えたウクライナ、スウェーデン、フィンランドなどがNATOへの加盟のベクトルをとってゆくことになるというのが、経緯である。この戦争は、直接的には、ロシアによるウクライナ侵攻があった2014年に勃発していることになる。(※この戦争のこれ以上の詳しい分析については拙著では「ウクライナ徹底抗戦支持――全体主義ファシスト・クレムリンを打倒せよ!」(『情況』2023冬号224~233頁。本ブログ「赤いエコロジスト」2023.3・31アップ)を参照してほしい)。

●【被害】これまでの3年間でウ軍死者4万6千人。負傷者38万人。/ロシア軍死者推定9万人。国内外に避難を余儀なくされたウクライナ市民1000万人(ウクライナ人口2024年、約3800万人)。国連はウクライナの民間人死者1万2600人と発表(2025・2・22)。2025年2月現在、露軍はウクライナ領土の20%を占領している。

●【復興予算】国連・世界銀行と、欧州委員会・ウクライナ政府の共同発表「第4次緊急再建被害と需要調査」(2025・2・25)では、再建復興に今後十年で5240億ドルが必要との報告が出ている。クレムリン侵攻の2022年2月24~2024年12月31日までのデータでの試算だ。また、これはウクライナGDP推定値で、2・8倍にのぼると試算されている。

●【停戦条件】両国の停戦条件に付いて、確認しておこう。ウクライナ⇒ウクライナのNATO加盟(トランプは否定的)。領土奪還。クレムリン⇒ウクライナのNATO非加盟。ウクライナ4州(ロシアの占領地)からのウクライナ軍の完全撤退。

●【欧米諸国のウクライナへの派兵判断】NATO諸国の「ウクライナ派兵」について。「戦後」、「平和維持軍」として英仏が派遣を表明(これに対し、ポーランド、バルト三国は派遣に慎重だ)。トランプも、フランスなどの提案に、欧州を主体にという前置きをつけて、賛成している。トランプは米軍をウクライナに派遣する方針はない。まくまでも「対中国正面」のシフトだと分析できる。だがまた、合衆国は「将来ロシアが停戦合意をした後に再び侵攻した場合は、ウクライナのNATOへの加盟を自動的に認める案」を検討中(米NBCテレビ20日。NHK MEWS2025/2/22 14:55配信)との情報がある。また、トランプはこの間(2025・2)、これまでNATO各加盟諸国に、国の国防費2%(対GDP国内総生産)を要請してきたが、それを5%までの引き上げを要請し始めた。これは、ウクライナ停戦交渉に、「欧州が呼ばれていない」「欧州の席がない」ことに関し、「席を確保するためにはそれだけの責任を」というディールにほかならないだろう。だが、【これから、述べるように】、現在の欧州主流派(英仏ドイツをはじめとするブルショア民主主義諸政府)を【できれば】、排除したいのがトランプなのだ。トランプはまた、プーチンとは(2/25記者団に)電話ではなした「誰もが受け入れる平和維持の形が必要だ」と話し合ったと、発言している。その真意はわからないが、そういう駆け引きが複雑に展開しているということだ。

●【ウクライナ支援額】国別でのウクライナ支援額(戦車などの軍事支援、資金援助などの合計)。「キール世界経済研究所」データ(2022年2月侵攻から2024年12月末までの期間)では、米国(1140億ユーロ)、ドイツ、イギリス、次いで日本などが、上位だが、欧州全体の支援額(1320億ユーロ)では米国を上回っている。

本題に入っていこう。

≪Ⅰ≫【トランプの排外主義・自国ファースト主義の主張】

●【排外主義潮流】まず「アメリカ・ファースト」のトランプの主張について概観しておこう。それはなぜ、「プーチン寄りの停戦協議」なのか、なぜ「対露協商」なのかという問いを解くうえでの、最も明瞭な入口になるだろう。それは★後述するように★次のような事情とセットだ。バイデン首相が対クレムリン反ファシズム(反専制主義)統一戦線だったのに対して、トランプは欧米のウクライナ支援反対派勢力などと連携しているのだ。フランス国民連合(RN)、オーストリア自由党、ドイツAfDがそれだ。また、欧州議会では親ロシア派のハンガリー与党とフランス国民連合(RN)などが連携し、「欧州の愛国者」という会派を結成している、後述するようにトランプを熱烈に支持するグループだ。これらのグループは、移民排斥、保守主義の排外主義潮流(自国ファースト、帝国主義的エスノセントリズム)だ。もちろんトランプの移民排斥を支持している。

●【トランプの主張】米帝トランプは、ウクライナのクレムリンへの「領土割譲」を肯定するようなことをいっている(「ロシアの侵攻前にウクライナの領土を戻すのは無理だ」とかの言説だ)、それは例えば、トランプがデンマーク自治領グリーンランドを「安全保障」の必要から合衆国の所有にするとか、メキシコ湾を「アメリカ湾」と呼び変えるとか、パナマ運河のパナマからの返還(1914年開通したパナマ運河は、アメリカが管理してきたが、1977年米カーター大統領の時期にパナマへの返還が決まり、1999年返還された。そこで問題となったてきのが、パナマ運河の通行料の高さだ。トランプはそれを不平等だといい、合衆国への返還をもとめるというのがこの問題の筋書きだ)などを政策化しはじめたことと一体だ。また、イスラエルの「ダレット計画(パレスチナ人追放計画)」にもとづく「入植」活動を取り締まる、合衆国の「ヨルダン川西岸地区入植に関する制裁の大統領令」を取り消すとか、ガザのパレスチナ住民をガザではない場所に「一斉(強制)移住」させ、ガザをリゾート地にするとか、そういった、「主権と領土」の「力(国家権力の行使)による変更」を、次々と表明・実践している。

これは、クレムリンのウクライナなどに対する、「主権と領土」の国家暴力による変更と同じものだ。

●【プーチンの主張との共通性】 そういうことが、「アメリカ・ファースト」であり、こう言ってよければクレムリンの「ロシア・ファースト」との同一性を示している。プーチンの「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年)というウクライナ侵略の直前に発表し、国家権力で意思統一した文書の内容とどこが違うのか。そこでは、現在のウクライナ・ゼレンスキー政権が、その一体性を破壊してきたのはロシアにとって不当であり、脅威だという論調が意思統一の内容となっている。この意思統一をもって侵攻に住み込んだのだ。だからクレムリンがやっていることが、国際法の秩序に対する★★破壊行為だと★★分析する価値観が、トランプにはそもそも存在しないのである。では、かかる排外主義・自国ファースト主義は、どういう政治的立脚点をもつことによって、実践されているのか。このことがまず、問われる必要がある。

(※プーチンの「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」では、ロシアとウクライナは「数世紀にわたって単一のシステムとして発展してきました」。しかし「米国とEU諸国はウクライナとロシアの経済協力を縮小、制限するよう」計画的にしむけてきたとし、それはウクライナを「ロシアへの前進基地とすること」にあると述べ、それを推進する「ウクライナ政府」を批判。ウクライナのNATO化に対する強い批判が書かれているものだ。これはプーチンの独裁政治を棚に上げて、東欧の民主化革命にたいする反革命の立場から表明されているものに他ならない。ウクライナのロシアへの従属問題は、歴史的には、1920年代後期~30年代中期にかけてのホロドモールが顕著であるが、すでにレーニンが指摘している通りだ(レーニン「ウクライナ」――1917年6月28日『プラウダ』第82号。レーニン全集第25巻。ここでレーニンはウクライナが「分離の自由」を「ふくむウクライナの権利を完全に承認」せよと述べている。拙論では『情況』2023年春号2023・5・20発売、「ウクライナ徹底抗戦の理論的裏付けについて―連邦離脱の自由と民族独立・解放闘争」参照)。

 まさにこのプーチンの「歴史的一体性」論文は、「自国(ロシア)ファースト」の筋書だ)。 

≪Ⅱ≫【トランプ「アメリカ・ファースト」の政治的立脚点】

● 【彼の仲間は誰か?】その政治的立脚点であるが。2025年1月20日、トランプの「大統領就任式」の様そうをみるのが、一番わかりやすいだろう。この「就任式」に呼ばれた「招待者リスト」の顔ぶれがポイントだ。この「就任式」には、大統領が一番話を聞きたい人々が集まるとされている。まさに、あつまったひとびとは、各国の右翼のリーダーたちだった。大統領就任式の慣例では、例えば欧米の首脳などは招かれないとされている。だが、この日は例外的に唯一、欧州の首脳ではイタリアのメローニ首相が招待されている。メローニ氏は、「イタリアの同胞」という右翼グループを率いている(欧州議会会派は「欧州保守改革グループ(ECR)」に属す)。このグループはイタリアのファシスト党のながれをくんでいるという(※なお、メローニ氏らは、イタリアの「ウクライナ支援」については「継続」を訴えている)。また様々な右派政治家が招待されているが、ここで名前を一つ上げるなら、「ドイツのための選択肢(AfD)」のクルパラ共同党首が、入っていることが重要だ。「クルパラ氏は声明で『(トランプ氏の)大統領就任で世界は一変する。われわれは欧州の強力なパートナーになる準備がある」と米新大統領との連携に意欲を見せた」(「各国右派指導者が参集 欧州主流派と距離――トランプ氏就任式」時事ドットコム・ニュース、時事通信外信部、2025/1/20配信)ということである。

●【ドイツAfDについて】AfD(ドイツのための選択肢)は、2025年2月ドイツ連邦議会総選挙で、第二党に躍進した。「国境閉鎖」「違法難民入国阻止」「犯罪を起こした移民・難民の強制送還」「ウクライナ軍事支援停止」「EU離脱」などを主張している。

 トランプは、ドイツ総選挙で「保守政党が大勝利した」と祝福。「アメリカにとってすばらしい一日」と2月23日、SNSに投稿した。例えば、イーロン・マスク氏が「AfDドイツのための選択肢」への投票を呼び掛けたり、バンス副大統領がAfDの党首と会談するなど、これに対しドイツ政府から批判があがっている。なお、AfDは24年9月、ドイツ州議会選挙においてチューリンゲンで第一党になるなど、地方議会でも躍進している。欧州議会では「主権国家の欧州(ESN)」に属する。

●【トランプ当選=停戦(実は「協商」だったが)】「朝日新聞デジタル」(2024.7.1)は、タイトル「ドイツのウクライナ支援の中止を要求 独右翼・共同党首が単独会見」という見出しで(2024年)「6月上旬の欧州議会で国内第2党に躍進したドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首」にインタビューとしたして記事を掲載している。★★そこではウクライナ支援は「真っ先にやめるべきだと要求」。「米大統領選でトランプ前大統領が勝利すれば、停戦が実現できるとし、『明らかによりよい大統領になる』、と期待を示した」★★と報道した。

●【フランス国民連合】フランスでは、RN(国民連合)が、2017年以降、諸所の選挙戦で躍進している。それは「移民排斥」「EU離脱」などの過激なスローガンを封印したからだという。だが、「出生地主義」(親の国籍を問わず、出生した場所がその国であれば、その国の国籍を自動的に取得できるというもの)廃止(移民排斥の徹底化)、「二重国籍者」の「政府要職」禁止を主張している。欧州議会では「欧州の愛国者」に属する。

(※この「出生地主義」の廃止だが、トランプも、この間大統領令を多発しているが、その中に「出生地主義」を制限する大統領令に署名した。現在この大統領令の無効を求める裁判が、いくつかの州でおこなわれている。この大統領令は「非正規移民(不法入国者)」「永住権を持たない外国籍者(就労ビザでの滞在者など)」を、この権利から排除しようとしている。これは「非正規移民の大量送還」というトランプの政策を徹底させようとするものだ。合衆国で生まれた子供は自動的に合衆国の国籍を取得できる「出生地主義」ではなく、国籍を持たない人々の子供を「非アメリカ人」として送還(非正規移民などとして)の対象にできる。こうして、「アメリカ人と非アメリカ人」との分断も助長されてゆくことになるだろう。出生地主義の他に血縁主義があるが、説明はここでは省略する)。

●【「欧州の愛国者」総決起集会ーートランプ旋風】25年2月、マドリードでヨーロッパ議会で同じ会派に属する欧州右派が、共同集会を開催した。この会派は「欧州の愛国者」。2000人があつまったという。集会タイトルは「ヨーロッパを再び偉大に」。フランス国民連合(RN)、スペイン「ボックス(VOX)」など極右派が集結。「欧州の愛国者」(2024年欧州議会選挙で84議席)のリーダーで、親ロシア派でウクライナへの軍事援助を拒否しているハンガリー首相のオルバン氏は、「トランプ旋風はわずか数週間で世界を変えた」我々もそれに続こうと発言したという。

 まさにトランプ勢力はこういう排外主義・自国ファースト主義者の一員なのである。そしてそれは、オルバン氏に見られるようにクレムリンと近しい距離をとる勢力が数多く参集しているのだ。

≪Ⅲ≫【国連ウクライナ決議をめぐる欧・米の対立】

●【国連総会での攻防】2025年2月の国連総会(193か国)では、欧州諸国などが提出した「ウクライナの領土保全」「早期終結」や「ロシア軍の即時撤退」を求める決議が採択された。日本を含む93か国が賛成した。米、ロはこの決議に反対した(※ここでの決議については、常任理事国の「拒否権」の対象とはならないが、法的拘束力はない)。これに対し、国連安保理(15か国)では、米が提案した「紛争終結」を求める決議が採択された。ロシア、中国など10か国が賛成(日本は2024年末で、この理事会を構成する非常任理事国の任期が終了している)(※ここでの決議には全加盟国に対し拘束力がある。「国連憲章第25条……国連加盟国は安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」)。

●【「侵略」ではない「紛争」とは何か】ここで特徴的なことは、欧州諸国などの提案した★★国連総会への「決議文」は、ロシアの「侵攻」と明記していたのに対し、米が理事会に提出した「決議文」には、ロシアの「侵攻」などの文言は無く、「紛争」となっており★★、ロシアのウクライナ侵略(とその国家責任)を無きものとしている点である。「紛争」というのは「喧嘩」の意味があり「喧嘩両成敗」のニュアンスが存在することはあきらかだ。「侵略」なら「侵略加害国」の側だけが罰せられるのであり、位置づけが全く違ってくるだろう。これはバイデン政権のウクライナ外交政策からの大転換である。まさに「転換」なのだ。これから先、「停戦交渉」はロシアに有利に進むことが考えられる。

 (※ こうした欧州と合衆国との関係は経済分野ではどうか。トランプの「関税外交」との関係では、2月26日、「欧州のすべての輸入品に25%の関税をかける」と発言しはじめている。こうした保守主義は、「対外援助契約」の大幅な解除結締としても表れている。USAID(米国際開発局)では、その90%を解除。これは、500以上の契約を維持して、5800件の契約を解除する。国務省は、約2700件を維持し、4100件を解除するなどとしている)。

≪Ⅳ≫【ウクライナに対する帝国主義的略奪の内容――鉱物資源取引】

●【当初のプランは植民地帝国主義型政策】トランプ政権になり、トランプたちはウクライナに「軍事支援の見返りに鉱物資源の分配」を求めるといういわゆる「ディール(取引)」を要求してきた。これは【当初のプラン】では「5000億ドル(約75兆円)基金設立」を要求された。基金はロシアの侵攻以来、戦争で疲弊するウクライナに提供された米国の支援に対する補償と規定されたものだ。このため「レアアースや石油など可能なものは何でも要求する」とトランプはことあるごとに語りだしたのである。それは、鉱物開発のためなどの「実物資産の所有権を取得するものではない」とされたが、ウクライナの鉱物資源などから「得られる収入の半分」を、アメリカが所有権を持つ基金に積み立て、ウクライナンは5000億ドルに積み立てられるまで、拠出し続けなければならないなどというものであった。

 そして、かかる「鉱物資源供与」という要求に応じなければ(合意しなければ)「ウクライナ軍が通信に使う米衛星インターネット接続サービス「スターリンク(Starlink)」を遮断する可能性がある」と警告したのだ(2月21日ロイター)。まさに脅迫である。植民地主義そのものであり、それを、「侵略被害国」に要求するものとなっていたのである。

●【ウクライナの鉱物資源】ここで、ウクライナの鉱物資源に関する基本的事項と考えられることを確認しておこう。ウクライナは世界の鉱物資源の約5%を保有している。例えば電気自動車(EV)の電池の材料であるリチウムの埋蔵量は約50万トンで、欧州全体の三分の一だ。他に、軽金属のチタンの主要供給国であり、世界の生産量の約7%。また、黒鉛では世界の五分の一の生産量をウクライナが占めている、等々だ。例えば試算ではロシアの占領地域には、3500億ドル(約52兆円)の資源が存在するということがイギリスのメディアなどで報道されている。(※合衆国権力者は、こうした重要資源で優位なシェアをほこる中国への依存から脱するために、中国とは別の供給地を探していた。ウクライナ危機とその課題とを結んだのがトランプということになるという分析が存在する。私もそうだと考える)。

●【トランプのいらだち「ゼレンスキー=選挙なき独裁者」】こうしたトランプの脅迫的なウクライナに対する恫喝は、当初、ゼレンスキー大統領がこの要求を拒否したことに対するトランプのいらだちをもって、ますます激化していった。

 トランプは「選挙なき独裁者(支持率4%)」(※本当の支持率は直近で57%)、「ゼレンスキーが戦争に突入させた」とか、「プーチンが望めばウクライナの全土を占領できるだろう」「ゼレンスキーが交渉を難しくしている」「和平交渉にゼレンスキーはそれほど重要ではない」(21日ワシントン共同など)と言い放ったのである。事実、トランプが言う「和平交渉」なるものは、ウクライナ(ゼレンスキー)と欧州の頭を飛び越えて(トランプの「欧州の席はない」との発言あり)、合衆国とロシアの二国間で進行している。

(※ ロシア国内ではこの二国間交渉を「ヤルタ2・0」という記号で肯定する言説があるようだ。「ヤルタ会談」は、1945年2月、クリミア半島のヤルタで、米・ルーズベルト、英・チャーチル、ソ連・スターリンの三人の権力者が集まり、それら三つの大国の指導者だけで、「ドイツの分割」など、第二次世界戦争の戦後の国際秩序について協議したものだ。同じく、ウクライナ戦争も米ロの大国の取引で「解決」をという手前勝手な考えである)。

●【決着は「5000億ドル要求」の撤回だったが】結局、この問題は、トランプが「5000億ドル」要求を撤回したことを、ゼレンスキーが受けて、「利益管理の共同基金の設立で枠組み」で合意することとなった。だが、①この合意は、基本的枠組みでの合意であり、実際の仕組みづくりはこれからだ。どういう利益配分になるのか、透明性は少なくとも現在的にはない。また、②ウクライナが要求している「安全の保障」の文言は、この合意文書には書かれていないということだ。それではディールにならないのではないか。

≪Ⅴ≫【米国・ウクライナ合意文書の中身――ウクライナの新植民地主義型の従属支配】

●【合意文書の中身はやはり「従属」的なものだったが軍事支援のためにOk】

 2月28日未明、ロイターが発信した情報などから、飛び込んできた「合意文書」(草案)の骨子は、以下のようなものだ。

①「ウクライナは全ての国有の天然資源とインフラの将来の現金化から得られる全収益の50%を拠出する」。②この収益は、米国とウクライナが共同管理する基金に入る。③既存の保証金、施設、ライセンス、および賃貸料は、この基金設立の際の議論の対象にはならないというものだ。

 そもそも、トランプが当初、設定したウクライナ支援の保証金(5000億ドル)と、これに対して、ゼレンスキーがしめした米の支援規模、約1000億ドルでは、違いがありすぎる。米が示したものでは、ウクライナ人民の10世代が返済義務を負うものだと、ウクライナの政権担当者たちには考えられた。★だから、その米からの提案は拒否するしかなかった。★

★だが、この提案なら★受け入れられるという判断だと考える。軍事支援を受けるのためには、一定の譲歩はやむをえないだろうということだ。

 また、「安全保障」の問題だが、この合意文書には明記されていない。だが、米当局者たちの話としては、「ウクライナが米国の経済に組み合わせる」(上記にあるように、天然資源【など】の50%の収益を共同の基金にいれるということ自体がそもそも、米帝への従属システムにはいるということだろう)ことで、実質的な安全保障が実現するとしているということらしい。

以上は、簡単に言ってしまえば、「新植民地主義」(型の従属支配)である。経済的に従属させ、そのもとでそれに見合った政治的な秩序をその国につくらせる、ということだ。ウクライナは、米帝の従属国となり、ロシアは米帝と平和共存する秩序共有国となる。

●【ロシアとの手打ちの範囲】他方でトランプは、「合意」が成立して以降、ロシアとの交渉で、「ウクライナの領土返還」について交渉するといい始めている。だが、これは、あくまで、ロシアとの二国家間交渉での「手打ち」の範囲を探るためであり、また、ウクライナに対する二国間の支配の「割譲」の範囲を確定するために必要なことでもある。この支配の様式は、ロシアは軍事的占領と実効支配、合衆国は経済構造を合衆国に組み入れてゆく新植民地主義的支配を、主な形とするということになる。

 まさにこれがトランプ勢力にとっての「アメリカ・ファースト」な「ウクライナ戦争解決策」だ。(※しかし、それは同時に、全体主義ファシスト・クレムリンのウクライナ侵略を容認し、さらに国力回復と拡大をもたらす条件をあたえるものにほかならない――この分析は省略する)。

≪Ⅵ≫【「自国(アメリカ)ファースト」と帝国主義協商】

●【クレムリンの野望と自国ファースト主義】まさに、こうした米帝トランプの施策に乗じて、プーチンはウクライナの占領地(東部・南部)を念頭に――プーチンはこれを「新たな歴史的領土」といっているが、その地域を念頭に――米国との「鉱物資源の共同開発」をアピールしている。そのことは、占領地の実効支配を国際的に認めさせるという目的と重なってゆくはずだ。米ロ共同でウクライナに対する経済侵略をやるのか?というのは、言い過ぎだろうか。

 結局は、米帝トランプ勢力の「自国第一主義=アメリカ・ファースト」という、排外主義的利害判断から見れば、ウクライナの国家主権や国益は、アメリカ合衆国に従属するものに他ならない。ウクライナは、アメリカ帝国主義の利害のカードの一つであり、直接、ロシア・クレムリンと国家利害のやりとりができる、強力な対象となっているのである。まさに「アメリカ・ファースト」は、グローバリズム(多国家―間―協調の「帝国」【としての】……この舞台設定がいかに虚偽であったかは、もうはっきりしているが)の前の時代、各国帝国主義の植民地争奪戦が展開されていた「古典的帝国主義」時代の「帝国主義—間―対立」「帝国主義間の植民地争奪と分割・割譲」といったものが【主流となるように】、復活しているような事態である。まさに「領土と主権の侵害」がそこでのかたちということになれば、「自国ファースト」は先に見た「新植民地主義(型支配)」よりも前代の「古典的な植民地主義型の支配を手法とする」ものと分析できる、と言っても過言ではないものであるだろう。いずれにせよ、★★いろいろな型の「植民地主義」を制度設計の「政策」として、必要とされる資本蓄積のいろいろな条件に応じて、適用してゆくということが、展開されているのだ★★。

●【米ロ・帝国主義協商とクレムリンの政治戦術】 まさに軍事強国である合衆国が、ウクライナに恫喝を繰り返し、一方ではクレムリンとボス交をくりかえし、ウクライナ侵略戦争での帝国主義的権益を創造していこうとしているのである。そして、こうした、合衆国のロシアに対する「免罪」政策につけいるように、クレムリンが合衆国・欧州などの西側世界に対し、どのような、帝国主義的な戦略を計画しているかを分析する必要があるだろう。「世界秩序―領土と主権に対する『力による現状変更』の禁止」は、ウクライナ侵略戦争における、米ロの帝国主義協商で、今や、危機に瀕している。今後、クレムリンによる欧州に対する西進が想定される。例えば2・18、米ロは高官協議をおこなった。そこで、ロシアは、「NATO軍の東欧からの撤退」をもとめたという。米はそれを拒否したそうだが、これも、トランプの「ディール」の対象になるのだろうか。全体主義ファシスト・クレムリンの政治戦術を甘く見ることは許されないだろう(このことは、別稿にゆずる)。

≪Ⅶ≫【欧州民主主義の抵抗――「侵略者は罰せられるべきで、報酬が与えられるべきではない」】

●【国連人権理事会――侵略糾弾の意思表示】こうした、事態を受けて、国連人権理事会では2月26日、ロシアの演説中(ロシアのベルシニン外務次官がウクライナに「基本的人権の露骨な侵害がある」などと発言した)に、フランス、ドイツ、イギリスの大使を含む数十人が退席した。ボナフォンフランス大使は、ロシアの侵攻を「放置すれば国連設立の基本原則の崩壊につながる」とし、ウクライナのベッツァ外務次官は「ロシアの国際法違反」を弾劾し「侵略者は罰されるべきで、侵略に報酬が与えられるべきではない」とした。またロイターに対し「ロシアとの二国間協議を否定し、EUと米国が出席すべき。ウクライナ抜きでウクライナについて語ることはできない」とのべた(引用は、「ジュネーブ26日ロイター」)。

 まさに、国連では、全体主義ファシストの侵略に対する抗議の行動が巻き起こっている。こうした抗議の行動に唾を吐きかけているのが米帝トランプだ。かれは、国連での「ロシアの侵攻弾劾」の決議に、ロシアとともに「反対」した、これは【決定的な転換点】だ。かれはロシア・クレムリンとの協商を深めようとしている。まさに、ポーランドのシコルスキ外相が、言っているように「ウクライナでの停戦を巡る米トランプ政権の姿勢が疲弊したロシアの『生命線』になっている」とトランプを批判している(2月27日、都内日本記者クラブ/時事通信2・27配信)ということが、確認されるのでなけれならない。

●【クレムリンはウクライナから出ていけ! ウクライナに栄光あれ!】 私(渋谷)は「プロレタリア左派」の陣営の一員として、欧州ブルジョア民主主義国家・諸勢力の「ウクライナ支援――侵略者・露軍のウクライナからの撤退を」の政治方針を断固として支持する。全体主義ファシズムは、民主主義法秩序とその下で運営されている市民社会と階級闘争そのものを破壊する。だから、労働者階級と民主主義的統治に賛成する資本家階級は、ファシストに対して、共同で闘争しなければならない。労働者階級と資本家階級がともに「市民」として同一の権利と義務の上に立って、それぞれの自己の利益を主張し合う、市民社会を守るために! 対クレムリン反ファシズム統一戦線に勝利を! ウクライナに栄光あれ!

(※1930年代の「反ファシズム統一戦線(人民戦線)」は、市民社会をナチなどのファシズムから守るために戦われた運動であった。しかし、コミンテルン第7回大会での「反ファシズム統一戦線テーゼ」の記憶が決定的に強いためか「スターリン主義の運動」と考えられている向きがあるようだが、それは違う。スターリンたちクレムリンは、統一戦線における「指揮権」の統一性を利用し、政敵に対して「指揮権の破壊者」などのレッテルを張って粛清・政敵抹殺の手段に悪用したのである。スペインではこの傾向は特に顕著であった。ケン・ローチ監督作品――映画「大地と自由」、ジョージ・オーエル「カタロニア讃歌」などを参照せよ)◆